ディルハードと一緒
ディルハードは、背が高い。
女性としては長身の方であるセリフィスの視線は、ちょうど彼の鎖骨の辺りを見る事になる。
ぽかんと彼を見上げていたセリフィスは、我に返るとまず一歩下がって臣下の礼をとろうとした。
お辞儀しようと下ろした視線は、ディルハードの右手が持つ物に気づく。
自分の身の回り品を詰めたバッグ。
「にゃああああっ!?」
王子殿下ともあろう方にそんな物を持たせている事に気づいたセリフィスの唇から、珍妙な悲鳴が漏れた。
慌ててバッグを奪取しようとするが、それは貴い身分の方に貧乏騎士の娘が触れる事を意味する。
まだ侍女として正式に任命されていない自分がディルハードに触れる事は、あまりにも不遜すぎた。
「あっ、あぅ、あああ……!」
一体どうすればいいのかと変な声を上げながらディルハードの顔と自分のバッグを交互に見遣るセリフィスの頭に、何かが触れた。
それがディルハードの左手だと気づくのに、少し時間がかかる。
そのままぽんぽんと、頭を撫でられた。
「少し落ち着くといい。君はまだ侍女として正式に着任しておらず、私の方が力持ち。客人に、しかもたおやかな女性に荷物を持たせるなど、男としてあるまじき振る舞いだ」
低い声が、優しくセリフィスをなだめた。
「いいね?」
「……はひ……」
恐れ多すぎて思考の停止したセリフィスは、頷いておとなしくなる。
彼女が頷いたのを確認したディルハードは、その唇を笑みの形に吊り上げた。
「聞き分けのいい子は好ましいな。では、行こうか……私の部屋を見て回った後、君の部屋に案内しよう」