対決・2
執務室の机に、ディルハードが陣取っていた。
入ってきた二人を見ると、音を立てて立ち上がる。
「やあ」
牽制のためか、ガイザーヴが剣を鞘付きのまま持ち上げる。
「……で」
苦渋に満ちた声を、王子が発した。
「二人で、話をさせてもらえないだろうか?」
「それでまたセリフィスを襲うの?」
辛辣な声に、ディルハードは顔を歪める。
「……殿下」
ガイザーヴの後ろから、セリフィスが声をかける。
「どうして、あのような事を?」
「……弁解、させてくれるのか」
ほっとした顔をして、ディルハードは近づいてきた。
そしてガイザーヴの剣が届かないぎりぎりの距離で、体を屈める。
ディルハードが、ひざまづいた。
「殿下!?」
「言い訳のしようがない。私はあなたに、酷い事をした……だが、信じて欲しい」
深い蒼が、セリフィスを射抜く。
「決して、邪な気持ちではない。それだけは……信じて、もらえないだろうか?」
これほどの貴人が膝を折り、自分に許しを乞うている。
セリフィスは下唇を噛み、ガイザーヴの肩に手をかけた。
「殿下とお話させていただいても、よろしいでしょうか?」
近づきたいとほのめかされ、彼は渋面になる。
怒りではなく、心配で。
「……君がいいなら」
ややあってからガイザーヴはそう言って、一歩脇にどく。
「殿下」
人一人分のスペースを空けて、セリフィスはディルハードの前に立つ。
「私こそ、酷い事をして申し訳ありませんでした」
屈み込み、王子と目を合わせる。
彼の左頬には、うっすらと赤い跡が残っていた。
「殿下に手を上げてしまった時点で、私は断首に処されても文句は言えないでしょう。ですから」
セリフィスの言葉は途切れた。
ディルハードが彼女の手を取り、手の平に唇を押し付けたのだ。
彼女の許しを、懇願するキス。
「ででででで殿下!?」
手入れはしているが、家事で隠し切れない荒れのある手だ。
その手に、王子ともあろう方の唇が触れている。
セリフィスのパニックは最もで、許しを乞うサファイアの眼差しが彼女の翠玉を捉えると、彼女はへたり込んでしまった。
「ゆ……」
ディルハードの息が手の平を掠めるのすら、ものすごく恥ずかしい。
その恥ずかしさに耐えかねて、セリフィスは叫んだ。
「許します!許しますから離して……っ!」
その声を聞いて、王子が唇を離して微笑んだ。
「ありがとう」
間近に見る月の美貌は、あまりにも美しすぎた。
「……あ」
ふわ、と頭の芯が軽くなる。
「……セリフィス!?」
二人が、同時に叫ぶ。
彼女はそのまま、意識を手放した。