対決
ガイザーヴは、いつも丸腰だ。
それは彼が、徒手空拳でも非常識な強さを誇るから。
副隊長・バルザルダインの説明に、セリフィスは納得した。
先程父が慌てて否定したのは不敬罪に当たらないかと思うとともに、ガイザーヴが王子に本気のパンチを三発も食らわせたら確実に殿下が神の御元に召される事が分かっているからだろう。
その彼が、剣を持つ。
王子の申し開き如何によってはその場で斬って捨てる事も視野に入れるほど、ガイザーヴが怒っている。
あまりの怒りっぷりに王子から乱暴を働かれたショックも忘れかけて、セリフィスは最後尾を副隊長とともに歩いていた。
「お持ちになるのが剣なのは、せめて苦しまずに介錯して差し上げようという隊長の慈悲でしょう」
どこか苦労が染み付いた表情で、副隊長が言う。
この苦労が払拭されれば、なかなかのハンサムなのだが。
「……ガイザーヴ、どんな顔してるんでしょう?」
鞘に入った剣をぶら下げながら先頭を行くガイザーヴを見て、王子付きではない人間はもちろんおそらくは王子の追っ手と思われる人間すら、廊下の端に後退する。
一様に、本物の恐怖を顔に宿して。
「お知りにならない事を、強くお勧めいたします」
副隊長の言葉に、慌ててセリフィスは頷いた。
「!」
隊の歩みが、止まった。
「……セリフィス」
前を向いたまま、ガイザーヴは問う。
「俺は君とあの卑劣漢を会わせないと約束した。だから、君はここで待っていてくれないかな?」
振り返って笑ったその顔は、吹き抜ける風のように爽やかだ。
しかし、前にいる近衛騎士達は身じろぎする。
「……いえ」
首を振って、セリフィスは進み出る。
「ご一緒に」
ガイザーヴは、驚いた顔をする。
「……平気?」
「はい」
頷くセリフィスを見て、少年の目が緩んだ。
「じゃあ、一緒に。お前達は待機しておけ」