その怒り、鬼神モード
ゆっくりと、優しく。
頭を撫でてくれる手は、セリフィスに安堵を与えた。
二つ年下とは思えないほど、ガイザーヴは落ち着いている。
「……君は悪くないよ」
事情を聞き終えると、少年はそう言った。
「卑劣な事をしでかした男に対して、ごく当たり前の対応をしただけさ……でも」
頭を撫でていた手が、そっと肩に回る。
「つらかったね」
優しく抱かれたセリフィスは、その翠玉を涙で濡らした。
「……聞いてたろ?バルザルダイン」
感情が排除されたアクアマリンの視線が、窓際に隠れていた青年を睨む。
「俺の剣を持て。あの卑劣漢の元へ乗り込む!」
「り、了解っ!」
詰め所に舞い戻りながら、バルザルダインは蒼白になった。
「全員気合いを入れ直せ!」
ガイザーヴの席に立て掛けてあった剣を握りつつ、バルザルダインは叫ぶ。
「今から殿下の所へ向かう!なお、隊長は現在鬼神モードだ。茶化すな騒ぐな抗うな!」
涙目で叫ばれた内容に、近衛騎士達の顔色が変わった。
その場にいた全員が無言で立ち上がり、編隊を組む。
「準備できた〜?」
あくまでもにこやかなガイザーヴが、出入口に姿を現した。
いくら顔がにこやかでも、その雰囲気は爆発中の火山だとか直下型の大地震だとか、天変地異が目の前で凝縮され発現しているかのようだ。
「はい!本日出勤しております近衛騎士隊八名、全員準備は整いました!」
副隊長が敬礼付きで返事をすると、ガイザーヴは満足そうに頷く。
「けっこう。それじゃ、行こうか」