番外編・バルザルダインの回想
私の名は、バルザルダイン。
近衛騎士隊長、ガイザーヴの元で仕事に勤しむ副隊長である。
隊長が城の三階にある近衛騎士の詰め所から飛び降りていって連れ帰った女性が近々王子殿下の侍女となる予定のセリフィス殿だったと知るのに、さほどの時間は要しなかった。
とりあえず言づかっていたお茶を二人に出し、私は内密の話を聞かないよう席を外しがてら、詰め所に出向く。
そしてだれていた連中から適当に二人を選び出し、命を下した。
「いいか、何人たりとも部屋に入れるなよ?」
「副隊長ー。王子殿下の使者もっすかー?」
からかい混じりの声に、冗談を返す気には全くなれなかった。
「彼らは特にだ」
素っ気なく返すと、二人の表情が引き締まる。
「……マジ話みたいで」
「えらい任務ですこと」
二人は視線を絡ませた後、黙って廊下に出ていった。
私はため息をつき、テラス前の部屋に戻る。
外を窺うと隊長はお茶を啜る彼女の隣に陣取り、優しく頭を撫でていた。
漏れ聞く話を統合するに、彼女は殿下に襲われたらしい。
それで殿下の手の者が、こんなに騒いでいるわけか……。
しかし、口封じ……の割には騒ぎすぎる。
何が目的だ?
詰め所前の騒ぎに耳を傾けながら、私は考える。
あちらも、セリフィス殿が近衛の詰め所にいる事は把握している様子。
そりゃあ人間二人が王城の壁登りなんぞしていたら、目立つよなぁ。
しかし、見張りに出した二人は絶対に使者を通さないだろう。
我々の忠誠は今や、隊長のもの。
それは、ただ……隊長が恐いのだ。
あの方にまつわるお噂……十になるかならずの年でのデビュー戦における、大将首を上げたエピソード。
最初から、違和感があった。
どうしてそんな幼い子供が戦場に?
どうやって敵本陣まで行き、大将の首を掻けた?
始まりは、ほんの好奇心。
あの戦から数年後、隊長のご両親が鬼籍に入られた事。
対外的には心臓発作と発表されたそれが、実は裏切り者の粛清であった事。
幼子だった隊長は両親が己の身の保障を得るために差し出され、子供好きな性的嗜好を持つ大将と……。
そんな背景が浮き彫りになった時、私は激しく後悔した。
天真爛漫な隊長が、こんな苦汁を味わっていたのかと。
けれど、救いはあった。
あくまでも被害者である隊長に累が及ばないよう、両親の粛清を押し進めたのは王子殿下だった。
そして両親と隔絶した隊長を城に呼び寄せ、心の傷が癒えるよう安らかな日々を与えたのだ。
隊長はその事に感謝し、殿下の懐刀となる事を願って研鑽を積み、それを実現した。
その研鑽の過程で培われたあだ名は、全て本物だ。
一癖も二癖もある我々近衛騎士が隊長に忠誠を誓うのは王子殿下を見くびっているからではなく、隊長が備えたあだ名が裏付けるその実力が恐ろしいからなのだ。