異変
「……聞いているんですかっ!?隊長!」
副隊長の悲痛な声に、ガイザーヴは生返事した。
「あー聞いてまっすー」
ラメラーアーマーの下に着ていた純白の制服はそのままに、今の彼は背中を覆う分しか丈のないマントを羽織っている。
マントは見事な赤に染め上げられてあり、王家の意匠と近衛騎士のシンボルマークが縫い込まれていた。
テラスの柵近くに出したテーブルの上にブーツを履いた両足を投げ出し、ガイザーヴは副隊長のお小言を右から左へ聞き流す。
「全く!いくら殿下の依頼とはいえ、規則をことごとく破って侍女を迎えに行くなど!隊長、聞いてますか!?」
「あーい」
吹き渡る風は爽やかで心地よく、陽射しはうららか。
近くを流れる河の土手で昼寝でもしたらさぞかし気持ちいいだろうなぁなんて考えつつ、彼は視線を巡らせた。
「!?」
城に出入りしている人間の中に、信じられない女性を見つけ出す。
バッグを両手に抱えた、セリフィス。
しかも、今にも泣き出さんばかりの表情だ。
「ごめん、小言は後で」
ガイザーヴは立ち上がると、部屋の中に駆け込んだ。
すぐさま戻ってきた彼は、その手に何かを握っている。
副隊長はそれを、鉤付きのロープだと認識した。
ガイザーヴはテラスの柵に鉤を引っ掛け……飛び降りた。
「隊長おおおーーーっ!!?」
「ロープ一本追加!あとお茶の準備しといてー!」