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−八章−〜名工〜


ここはフォートレスの城下町。至る所に商店が立ち並び、常に人で賑わっているようだ。

武の国という名の通り、特に武具の店が多く立ち並んでいる。今までラフィスト達がいた

グラン大陸と比べても、武器の質は遙かに高い。ここならば確かに、鉱石の加工も期待出

来そうである。

「ここは国土の狭い国ですけれど、代わりに良質な鉄が沢山取れますの。その鉄を使って、

これらの武具を作っているんですのよ!」

「そうなんだ……ところでサード、その名工に会うにはどうしたらいいかな?」

「その名工は今、国のお抱え技師だ。頼むなら、まず王に謁見しなければならん」

「あ、僕は宿にいるよ……」

こっそり逃げ出そうとするティーシェルの服の裾を、ガーネットが掴んで引き止める。

「そんな事を言ったら、ディレス王子が悲しみますわよ」

「だから行きたくないんだよ!」

「でも、ティーシェルがいないとつまんないよ!ね?皆!」

「そうだぜ、ティーシェル!」

何も知らないマキノとニックスが能天気に言い放つ。

「つべこべ言わずに行くぞ!」

サードが無理矢理、ティーシェルの服の首根っこの部分を持って引き摺る。ティーシェル

は最後まで抵抗していたが、力の差には敵わず、あっという間に城の前についてしまった。

ここまでくると、流石に諦めたのか、ティーシェルが抵抗をやめる。それを見て、サード

がティーシェルを離した。

「へぇ、ここがフォートレスのお城なんだな」

いかにも軍事国家と言わんばかりの城を見て、ラフィストが唸る。

「ここには騎士団もあるんですわよ」

「ふーん、騎士団か……―――」

城の中に入り、謁見の受付を済ませてから暫く経つと、一人の兵士がラフィスト達を王の

間へと案内してくれた。

「やっぱり……僕帰っちゃ―――……」

「ダメ!」

「……だよ、ね……」

王の間への扉が開き中へ招かれて入ると、鎧姿の出立ちをしている王がラフィスト達を歓

迎してくれた。

「ようこそ、ラフィスト君。それにガーネット姫とティーシェル司祭、久しぶりだな」

「はい、王様。この度は、王様にお願い事がありまして―――……」

「ティーシェル!」

ラフィストの言葉が、何者かの声によって中途半端にさえぎられる。

「げっ……ディレス王子」

条件反射と言わんばかりに、一歩引き下がったティーシェルにつかつかと歩み寄るこの人

が、どうやら噂のディレス王子らしい。そのディレス王子は嬉しそうにティーシェルの手

を取って、ウットリとした顔をしている。

「本当に久しぶりだね……髪の毛は切ってしまったみたいだけど、短い髪の君も可愛いよ」

「はぁ?」

ディレス王子の様子に、事情を知らないサード、ニックス、マキノが首をかしげる。

「まぁ、可愛いこたぁ可愛いけど……」

「え?え?ティーシェルって、女じゃなくて男よね?もしかしてそういう趣味だったり?」

ラフィストとガーネットは言ってしまったか、と言う顔をしてディレス王子の顔を見る。

ディレス王子にもニックスとマキノの声は充分届いていたらしく、ショックを受けていた。

「……男?ええっ!ティーシェル、君は女の子だろ!?」

「何っ回も、違うっつってんだろうがー!こんボケがー!」

掴まれた手を乱暴に振り払い、ティーシェルがショックを受けた王子に止めを刺す。言葉

遣いもいつもより乱暴な事から、相当きていたんだろう。

「そうか……男なのか。ティーシェルは、私の初恋だったのに……」

がっくりと肩を落とすディレス王子が流石に可哀想になり、一同の同情が集まる。

「何だよ、この空気!それじゃ僕が悪いみたいじゃないか!可哀想なのは僕だろ!」

「ところで、ラフィスト君。君達は何の用で、ここにきたんだね?」

フォートレス王が、ディレス王子を退出させ、ラフィストに尋ねる。

「実は僕達、トラートの森の洞窟で鉱石を採ってきたんです。それをこの国のお抱え技師

である名工の方に、加工して頂きたくて……」

「それは、ディーテ=クレーディの事だな。うむ、わかったぞ。……おい、ディーテをこ

こへ呼んでまいれ」

「ははっ!」

側にいた兵士の一人が足早に王の間を退出する。王は話す事が好きなのか、ディーテを待

っている間、今までどんな旅をしてきたのかなどを聞いたり、自分の武勇伝を話したりし

た。そうこうしていると、先程の兵士が一人の老人を連れて戻ってきた。

「うむ。お前に用があるのは、こちらの方々だ」

王に目で促され、ラフィストはディーテに事情を話し始めた。

「僕ら、トラートの森の洞窟で鉱石を採ってきたんです。加工して頂けないでしょうか?」

「何!?トラートの森の聖地で!?―――……で、その鉱石は?」

「これです」

「お、おお……美しい」

ディーテが鉱石を手に取り、じっと眺めている。

「どうでしょうか?」

「ああ、勿論加工させてもらうよ。こんな良い材質を加工できる機会なんて、滅多にない

からの。じゃが、早くても一ヶ月位はかかるが、それでもいいか?」

「い……一ヶ月!?」

「当たり前じゃ。こんな老いぼれ急かすと、ロクなモンが出来んぞ」

「一ヶ月……少々長いですわね」

「そうじゃ!」

どうするべきか悩む一行に、王が口を挟む。

「ディーテよ、キキナナ湖にある加工場に行ってみてはどうじゃ?この者達は一刻を争っ

ておる。あそこならば、最新の設備が揃っておるから、二週間もあれば充分じゃろう?」

「……確かに。ですが王よ、あの辺は最近グールが出ますよって……」

「グール?」

サードが興味深そうに耳を傾ける。

「そう、あの人食い鬼じゃ。あやつらが、キキナナ湖の聖水を狙ってやってくるんじゃよ。

流石に命の危険にさらされとると思うと、集中できん」

「そういう事なら、私達が!」

マキノが得意げに言うが、ディーテはまだ不安な事があるのか暗い顔のままだ。

「じゃが、あのグールに術は効かんぞ。手練れとはいえ、これはきつい」

「ちょっと待って!あいつらは攻撃力と防御力が高い代わりに、術の耐久は殆ど無いだろ」

「リフレクションじゃ……」

王が重い口調で話し始める。

「数年前に、キキナナ湖周辺で暴れ始めたグールに討伐隊を送った時、兵士の使った呪文

が全て跳ね返ってきたらしい。……この事から考えると、恐らく何者かによってリフレク

ションをかけられたのじゃろう」

「リフレクション!?そんな……それでは魔法を解く呪も、跳ね返されてしまいますわ!」

「プギュー!」

緊迫した空気の中、プギューの鳴き声が王の間に響き渡る。

「どうしたの!?大人しくしてなさいって言ったじゃないの!」

「プ……プギュー」

マキノがきつく言うと、プギューが少し寂しそうに鳴く。じっとプギューを見ていた王が、

何か閃いたのかポンッと手を打った。

「そうじゃ!ドリームドラゴン……こやつのガスで!」

「グールを眠らせてしまえば、問題はありませんね!……ディーテさん!」

ラフィストの熱意に折れてディーテが了承した事により、一行はキキナナ湖へ向かう事と

なった。ラフィスト達は早速ディーテを連れて、キキナナ湖に向かい始める。フォートレ

スから二、三刻ほど歩くと目的地であるキキナナ湖が見えてきた。

「ほれ、あそこがキキナナ湖じゃ」

一行が辿り着いたキキナナ湖の水はとても澄んでおり、湖の底まで見えるほどだった。湖

には橋が架かっており、どうやら加工場というのは湖の中に建っている、橋の先にある建

物のようだ。

「じゃあ、早速ここ一帯に結界を張るよ……プギューも、頼んだよ」

「プギュー」

プギューはティーシェルの周りを一周し、了解と言わんばかりに一鳴きした。

「ディーテさんの安全の為にも、念の為に二手に分かれようか」

バランスを考えた結果、最初に武器を作ってもらう事になったラフィストと、マキノとテ

ィーシェルが中に入る事となり、サードとニックスとガーネットがグールに備えて外にい

る事になった。ニックスは半強制的にマキノに外に追い出される形になったので、ぶつぶ

つと不満を漏らしている。

「ふむ、剣が二本と杖が二本、それにナックル、三節坤……か。わかったぞい!このディ

ーテが腕を振るって作ってやろう!」

「おい、じいさん……俺は大剣で、こいつは中剣だからな」

「おお、わかったわかった」

ディーテに行くぞと促され、ラフィスト達は一先ずサード達と別れて加工場の中へと入っ

ていった。

「ディーテさん。悪いけど、僕の杖にこの宝玉使ってくれないか?」

加工場の中に入る階段を下りながら、ティーシェルがディーテに話しかける。

「ふむ、これか?」

杖を眺めていたディーテが、なら預かっておくぞとティーシェルから杖を受け取る。階段

を下りきると、思った以上に広い空間に出た。そこはテーブルやキッチンがあり、一種の

ダイニングのようだ。そしてそこの左側には同じようなドアが並んでおり、右側には更に

通路がのびている。ディーテは左の真ん中のドアの前で立ち止まると、その扉を開いた。

「ほれ、ここが加工する場所じゃ」

「わお!凄い!ここが最新!」

知らない加工設備の前で、マキノがはしゃぎまくっている。ティーシェルは加工場の中で、

結晶化した鉱石を元に戻す。それからダイニングに戻って話した結果、ラフィストはディ

ーテの作業を手伝う事にし、マキノとティーシェルは最初に出た広い空間の所で、思い思

いに過ごす事に決めた。ここならば何かあっても、すぐ対応する事が出来るからだ。マキ

ノは今晩寝る部屋までもう勝手に決めたらしく、右側の通路の先にある仮眠部屋のドアに、

それぞれの名前が書かれた紙をペタペタと貼り付けている。その時、上の方から物凄い音

が聞こえて、地響きがした。

「グ、グールじゃ!」

「グールが……でもディーテさん、大丈夫です。きっと彼らが食い止めてくれます」

「そうじゃな……では、早速作業に取り掛かるぞ!」

「はい!」

ラフィストとディーテが加工場の中に入り、扉を閉め切る。ティーシェルとマキノの二人

が広い場所にとり残される。暫くして、ティーシェルはテーブルの近くに置かれたソファ

に横になった。

「こんな時に悪いけど、やる事も無いしちょっと休むよ」

「んー、私は……そうだ!皆が戻って来た時の為に、お風呂沸かして夕飯作ってよっと!」

「……マキノの料理?ガムは嫌だからね」

「あ、馬鹿にした!私これでも料理はマトモなのよ!」

「あ、そうなの?ふふ……じゃあ、ちょっとは期待して待ってるよ」

そう言うと、ティーシェルは完全に寝る体勢に入る。マキノもまずはお風呂を洗ってこよ

うと、その場を離れた。




加工場内に物凄い地響きがした時、キキナナ湖の湖畔に待機して待っていたサード達も同

じ振動を感じていた。おそらくこの地響きの元凶が、キキナナ湖の聖水を狙っているグー

ルなのだろう。

「おそらくこれは、グールですわね。―――……あっちの方からですわ!」

「あーっ!どんな奴なんだー!くそー、マキノの奴!俺にこんな役回りばかり押し付けや

がって!……あ、でもそれって結局俺の事頼りにして!」

「何ブツブツ言ってる!―――……くるぞ!」

色が黒く、目が一つの巨漢の生き物が、のっそりと現れる。それぞれ武器を構え、戦闘態

勢に入ったとたん、グールの腕が三人に襲い掛かってきた。サードがガーネットを抱えて

横っ飛びし、ニックスがヒラリと宙返りして攻撃をかわす。三人がいた所には、大きな窪

みが出来ている。あれを食らったらひとたまりも無いだろう。

「きゃっ!あ、危ないですわー……」

「物凄い攻撃力だな……やはりさっさと眠らすに限るか」

プギュー、と声をかけるとプギューは了解とばかりに一鳴きし、グールの前に躍り出る。

グールは動きが鈍いのか、まだ攻撃の態勢を整えているところのようだ。

「今だ!いけ!」

サードが叫ぶとプギューは思いっきりスリープガスを吐き出した。辺り一面にピンクの靄

がかかり、三人はそのガスを吸わないように息を止め、しゃがみ込む。グールは力をため

ようと大きく息を吸った為、このスリープガスを思いっきり吸い込んだ。ガスが効いてき

たのかグールは大きい巨漢をフラフラさせ、やがてその場に倒れこんだ。プギューも息が

切れたのか、徐々にピンクの靄が晴れてくる。

「……効いてる、みたいだな」

ニックスが眠っているグールをツンツン突付き、確認する。相当深い眠りに陥っているら

しく、グールが起きる気配は全く無い。

「よし、眠っている間に少しでもダメージを与えるんだ!」

サードがグールに切りかかる。しかし、元来の高い防御力のせいで、皮膚を切り裂く程度

のダメージしか与えられない。ニックスも負けじと拳を連弾で炸裂させるが、結果は同じ

ようだ。

「おいおい、こんなんで本当に倒せるのかよー……」

「泣き言を言うな、ニックス!倒すまで技を繰り出すまでだ!……炎烈斬!」

「二人共、頑張って……!」

「プ……プニュー……」

ガーネットはプギューを抱え、離れた位置で二人を見守る。プギューはさっきのスリープ

ガスで、疲れきっているらしい。




キキナナ湖の湖畔での戦闘中、マキノは鼻歌まじりに料理を作っていた。疲れきって帰っ

てきた皆に美味しい物を食べてもらおうと気合が入っているらしく、マキノの手によって

かなりの量が作られていく。

「えっと……ここで片栗粉を入れて―――……キャッ!」

マキノが片栗粉を入れた瞬間大爆発が起こり、ソファで眠っていたティーシェルも飛び起

きてその場に駆け寄った。

「何やってるんだよマキノ!料理得意なんだろ!?」

「わ……私のせいじゃないわよ!」

これよこれ、とマキノがズイッと差し出した袋には、片栗と書かれている。袋をマジマジ

ト見つめていたティーシェルが、中をあけて匂いを嗅ぐと、顔を顰めて溜息を吐いた。

「これ……中身片栗粉じゃなくて、爆薬の一種だよ」

「げ、嘘……だ、誰よ!こんな所にそんな物置いた奴は!」

この加工場は国が管理する特別な場所だ。そんな所を使用できる人間など、極一部に限ら

れている。十中八九、ここをよく使うディーテさんがポンッと置いた物だろうと思ったが、

言ったら大変な事になりそうなので、それはマキノに言わない事にする。ティーシェルは

気をつけて料理しなよと言い残すと、再びソファにねっころがって眠りについた。暫くう

とうとしていると、自分を呼ぶ聞き覚えのある声がする。

「―――シェル、ティーシェル」

懐かしい―――……この声の主に対してそう思った。しかし、寝ぼけているせいか、誰な

のかはっきりわからない。

「誰……?」

「誰って失礼ね!このナディア様に向かって!!」

ナディアだ。そう思った時、はっきりと意識が覚醒する。しかしナディアが話しかけてい

るのは、自分であって自分ではなかった。自分の意識は上にあるのに、自分とナディアが

下で会話をしているからである。過去の事を夢に見てしまったのだろうか、そう思いつつ

これはいつの事だろうと考える。

「ティーシェル。また魔力・魔法攻撃威力共々トップだったんだってね、おめでとう。こ

のままいけば、アルベルト様を抜かしちゃうんじゃない?」

「さあね。でも、やっぱり反属性の威力って弱まるんだって、実際の数字見て思ったよ」

「フフ……あんたなら絶対そう言うと思ったわ」

ナディアが腰につけた袋から、ゴソゴソと何かを取り出そうとしている。

「な、何だよ!悪かったね、わかりやすくって!」

「別にそんな事言ってるんじゃないの……はいっ!」

ポンッといきなり投げられた石を慌ててキャッチする。一見すると、ただの赤い石のよう

に見えるが、この石には魔力が込められている。

「魔法玉よ。主に炎とかの威力が上がる宝石、大事にしてね」

「ナディア……」

溜息交じりにティーシェルが呟く。

「な、何よ!何か変な事でもした!?」

そうじゃない、そういう事が言いたいんじゃない。自分の予想が間違っていないのなら、

これはトップだった記念などではないはずだ。今日という日と照らし合わせてみても、間

違いないと確信を持てるからこそ、女としてのナディアに悲しいものがあった。

「あのさ、もうちょっと女の子らしい贈り物は出来ない訳?……これって、僕の誕生日プ

レゼントのつもりだろ?」

「悪い?誕生日プレゼントがそれで!他のもんだったら、魔道書か古文書位しかないじゃ

ない!」

「はいはい」

そんな会話をしながら、屋敷の中へと二人が入っていく。ティーシェルはこの夢が、杖の

宝玉をナディアから貰った日の事だと気付いた。そして、その年のナディアの誕生日に真

似をして、水属性が上がる魔宝玉がついた青い羽根飾りを、彼女にプレゼントしたのだ。

そこまで思い出し、自分の行動に笑いがこみ上げてくる。何かと反発しつつも、そのやり

取りを楽しんでいた自分に気付いたからだ。心地良い気持ちのまま、意識が覚醒していく。

すると良い匂いが鼻に香ってきた。何の匂いだろうと、ティーシェルがうっすらと目を開

けると、マキノが出来上がった料理をいそいそとテーブルに並べている所だった。

「あ、ティーシェル。起きてたの?」

テーブルに向かって歩いてきたティーシェルに気付き、マキノが声をかける。しかし、テ

ィーシェルの返事は無い。どうやら、テーブルに置かれたある一つの物をじっと見ている

ようだった。

「……もしかして、これが気になってる?これ、クレープっていうの。デザートにどうか

なって思って作ったんだけど、知ってる?」

「うん……ナディアが好きで、よく食べてたから」

「ナディア?」

普段とは違う優しい笑みに、ナディアという人物が気になる。まだ短い付き合いに過ぎな

いが、ティーシェルは普段こういった表情をする事は、滅多にないはず。それがマキノな

りの、ティーシェルという人物の認識だったからだ。

「ナディアは、家に居候していた父上の教え子だよ」

「へぇ〜、私初めてティーシェルのお家の事聞いた!」

「えっ……そうだっけ?」

「そうよぅ!だって私ってまだ、仲間になったばかりじゃない!」

マキノの反応に、ティーシェルが笑う。マキノも、仲間になったばかりだと忘れるくらい、

仲間だと受け入れられているような気がして、嬉しく思った。ティーシェルにも手伝って

もらい、料理を並べ終えると、そこに一振りの剣を持ったラフィストが飛び込んできた。

「見てくれ!俺の剣が出来たんだ!」

彼の手に握られた剣は、あの鉱石と同じく美しい輝きをしていた。鋭い刀身と、眩いほど

の刃の照り返りはラフィスト自身のように思えるほどだ。これほどの剣が出来上がったの

も、ディーテの仕事が良かったからだろう。

「凄い!キレーねぇ……」

「意外と早かったね。それで、ディーテさんは?」

「今向こうで休んでるよ。もう少ししたら、こっちへくると思う。……ティーシェル、結

界を強力にしてガーネット達を呼んできてくれるかい?」

「わかった」

階段を駆け上って、キキナナ湖の湖畔にティーシェルが向かった。その後ろ姿を見送った

後、ラフィストも疲れていたのかソファに腰を下ろした。

「あ、そうだ。ラフィストさん」

「ラフィストでいいよ、マキノ。……何?」

「次は誰の武器作ってもらうの?」

「一応……ティーシェル、ニックス、ガーネット、マキノ、サードの順でってディーテさ

んと話してるんだけど、どうかな?」

「ふ〜ん、なるほどね。私は別にそれでいいと思うよ!……あ、戻ってきた!」

疲れきっている三人+一匹を出迎えに、マキノが階段の所まで駆けて行く。ニックスなん

かは口々に疲れた、などと言っているが全く声に力が入っていない。

「おかえり、皆!ご飯出来てるよ!」

「まあ!美味しそうですわ!」

ガーネットが嬉しそうに席へついた。ソファに座っていたラフィストも、結界を張って下

りてきたティーシェルも、加工場にいたディーテも席に着き、皆が一同にこの場に揃う。

「えへへ。沢山あるから皆どんどん食べて!」

「いっただっきま〜す!」

「プギュー」

余程お腹が空いていたのか、皆かきこむように並べられた料理を食べている。ゆっくり手

を動かしているのは、サードとティーシェルの二人くらいだ。それでも、取り皿にちゃっ

かり自分の分を確保している辺り、サードもお腹を空かせているのだろう。

「そういえば……グールの奴はどうじゃった?」

ディーテの問いに、湖畔に出てた三人の空気が微妙なものになる。

「全然駄目だな。……ある程度のダメージは与えたが、魔法や決め技が効かないんじゃ倒

すまでにはいかない。俺の魔法剣でさえ、跳ね返される恐れのある技は、殆ど使えないに

等しいからな」

「でもプギューのガスは物凄い効果がありましたのよ。こちらに下りてくる前に、念の為

にもう一度ガスをかけてきましたけれど、あの様子ならば一晩は眠りこけていそうですわ」

「そういや、武器の方はどうなったんだ?」

ニックスが口の中一杯に料理をほうばりながら喋る。喋る際に口の中の食べかすが辺りに

散っている。隣に座っているマキノが嫌な顔をし、箸を握るニックスの手をパチンと叩く。

「俺の剣はさっき完成したんだ」

ほら、と剣を立てかけて置いた壁を指差す。まだ剣を見ていなかった三人が、食べる手を

止めずに視線だけそちらへ向ける。

「良い剣だな」

サードが剣を検分すると、ディーテが満足そうに頷いた。

「そうじゃろう。わしも久々に良い仕事が出来て、大満足なんじゃよ!……あの鉱石は、

どうやら魔道の力を切り裂く力を持っておるようじゃ。あの剣ならば、グールにかけられ

たマジックシールドを何とかできるぞ」

「本当か!じいさん!」

どうしようもない状態だった所に、一縷の光が差し、ニックスが大きな声を出す。他の皆

も、ニックスのように大きな声を出したりはしていないが、グールを何とか出来そうで内

心ほっとしている事だろう。

「じゃあ、明日グールに一斉攻撃かけるのはどうかな?」

「そうだな……でも、念の為ここに誰か残しておいた方がいいかも」

「ディーテさんの安全も、ありますしね」

話し合った結果、結界を張らなくてはならないティーシェルが中に残り、他の全員でグー

ルと戦う事にした。まずはラフィストがグールに攻撃を仕掛け、傷を負わせてマジックシ

ールドを解除する。そこを皆で一斉攻撃、と作戦の確認をすると、サードが席を立った。

「俺はもう寝る……お前らも食べたらさっさと寝ろ」

壁に立てかけて置いた自分の剣を手に、さっさと仮眠室の方へ行ってしまう。

「チッ……相変わらず勝手な奴だなー」

あくまで自分のペースを貫き通すサードに、ニックスが悪態をつく。もうそろそろ慣れて

もいい頃なのに、ニックスはよほどサードと馬が合わないらしい。これだからスカした奴

は、と悪口を続けるニックスをマキノがたしなめる。二人のかけ合いに苦笑していると、

ティーシェルが席を立とうとしているのが目に入った。

「どうかした、ティーシェル?」

「あ、いや……僕も疲れたから寝ようと思って。……御馳走様」

歯切れの悪い返事が気になったが、ニックスがラフィストに話しかけてきたので、結局何

も聞けないうちにティーシェルは食器をさげて、部屋に戻ってしまった。

「何か、ティーシェル……メランコリックじゃない?あんまり食べてないしさ」

どうやらマキノも気になっていたのだろう。ティーシェルの後ろ姿を見て、こう呟いた。

「確かに、元気ないよな」

「そうかぁ?」

「あんたみたいに鈍感な奴には、わからないのよ!……さっきも起きたかと思ったら、ナ

ディアがどうのクレープが好きでどーの、言ってたのよねー……―――」

ニックスはマキノに一蹴され、一人蚊帳の外状態だ。マキノの話を聞き、ラフィストは妙

に納得する事が出来た。

「ああ、そうか。―――……ナディア絡みか」

「きっと昔の事でも思い出して、ノスタルジックにでもなっていたんですわ」

ガーネットもラフィストの言葉に同意する。

「……ふーん。ティーシェルって、もしかして……?」

マキノが言外に、含みを持たせるように言う。しかしガーネットはうーんと唸るだけで、

肯定はしなかった。

「あの二人の場合、そういう関係って言うにはちょっと微妙なんですのよ」

「へぇー。あたしはてっきり……」

「まあ、ティーシェルは優しいからなぁ」

素直じゃないけど、と心の中で付け足しながらラフィストが言う。そんなラフィストに、

そうではなくて、とガーネットは言いながら話を切り出した。

「……私、五歳からの付き合いなのですけど、ティーシェル昔はあんなんじゃなかったん

ですの。初めてアルベルト卿に連れられてやってきたティーシェルは、大人しい女の子の

ようでしたわ。私は初めて出来たお友達が嬉しくって、ティーシェルを連れて城を抜け出

したりしていましたの。ですけどある日、探検気分で森の中に入った時に、私は木の根に

足を挟んでしまいまして……私は足の痛さと森の暗さに、わんわん泣き喚きましたわ」

「え、それで……どうしたの?」

「ティーシェルは、誰か大人を呼んでくると言いました。私は、一人になるのが怖くって、

行かないでと泣きましたわ。そんな私に、覚えたての魔法で小さな明かりを灯してくれま

した。これがあるから、大丈夫、怖くないと」

「ふぅ〜ん……ティーシェルもいい所があんだな!」

見直したぜ、と言わんばかりに言うニックスに、マキノがあんたが言うなと、どつく。

「それにガーネットとティーシェルも、俺とニックスみたいな事やってたなんて驚きだな」

「あ、いえ……実はまだ続きがありまして。―――……あの後、お父様達が助けに来てく

れたんですけど、ティーシェルの姿が無いものでどうしたのか聞いたら、城に着いて事情

を説明したとたん、倒れたらしくって。……しかも体が弱かったものですから私と森の中

にいた時から具合が悪くって、城に着いた時には肺炎一歩手前だったそうですの」

ガーネットの話にシーンと静まり返る。

「おい、なかなかにバイオレンスだなラフィー……」

「ああ……」

「それなのに、ティーシェルったら自分が姫を連れ出したなどと、私を庇うんですのよ!

……いつも相手の事ばかりで、自分の事は二の次。体は昔より健康になって、ズケズケ物

を言うようになっても、そこだけは変わらない所でしたわ。……ナディアはそんなティー

シェルに、肩の力を抜く事を教えてあげた存在なんですの。友達とか、恋人とかそういっ

た言葉でくくる様な関係以上に、大切なのだと思いますわ」

「そうかー……何かそういう関係って、いいなぁ〜」

マキノが恋人っていう響きもいいけど、そういう感じも素敵と瞳を輝かせる。ニックスは

今の話で心が昔にトリップしているのか、うんうんと大きく頷いている。

「ガーネットの話聞いてると、何だか昔を思い出すぜ!なあ、ラフィー。……ほら、昔よ

く爆竹で遊んだろ!」

「ああ、そうだな!楽しかった。……そういえばお前、爆竹尻の下に踏んでんのに気が付

かなくって、爆竹破裂した事無かったか?」

「あー、あったあった!あん時はマジびびったぜ〜!」

「アホか、ニックス。全く、ラフィーとは大違いね!」

マキノの突っ込みに、笑いが巻き起こる。

「ホォッホォッホォッ……お主等はなかなか面白い連中じゃの〜。もう少し話を聞いてい

たい気もするが、年寄りの夜更かしは堪えるでの。わしもそろそろ休ませて貰うぞ……」

「あ、はい!おやすみなさい、ディーテさん」

ディーテも部屋に帰った事で、そろそろお開きにしようとラフィストが促す。しかし、ガ

ーネットが寝付けないと言った事で、もう暫くここで話しをする事に決める。皆で食器を

片付けた後にお茶を入れ、他愛の無い話を続けた。

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