−七章−〜幻の鉱石〜
「ああー、そうだったの……大変ねえ。ニックスったら、ご存知の通りアホでしょ?いや
はや、苦労をおかけしまして……」
「あ、こ……こちらこそ、ご丁寧に」
「ア……アホかー!」
「ちょっと、静かにしてよニックス」
マキノに言いくるめられるラフィストに、顔を赤らめながらニックスが突っ込む。一同は
まだ村へ帰る森の中だ。ティーシェルが魔物を気にして注意するが、ニックスの突っ込み
は森の中に木霊していた。サードがニックスを殴り、静かにしろと短く言うとさっと周囲
を確認する。あれだけの大声だったのにもかかわらず、幸い魔物が寄ってくる気配は無か
った。ほっと息を吐き、サードが結界を強くするように言うと、ティーシェルが周囲に薄
く張った結界を強めた。流石にこの疲れきった中で戦闘するのは、確かにごめんだ。
「ところで、マキノは何でナイトメアなんかにとり憑かれてましたの?」
「それがさ、私にもよく分かんないの。洞窟を見つけて、一歩足を踏み入れた所までしか
覚えてないんだよねー」
「じゃあ、昨日私達にあった事も?」
「ゴメン、全く覚えてないんだ」
「そうだったんですのー」
ガーネットは同じ年頃の女の子と話せるのが嬉しいらしく、はしゃぎ気味になっている。
「それにしても、ナイトメアが言っていた“何も知らなければよかった”とは、どういう
意味だ?」
女の子達の後ろで、サードがラフィスト達に話を切り出す。それが耳に入ったのか、マキ
ノが後ろを振り向いて答えた。
「ああ、アレ?実はあの時、ナイトメアの意識っていうのかな……そういうのが私を支配
してたでしょ?だからか、アイツの気持ちとかが、少し体に残ってるんだ。で、あの意味
は多分……何も知らずに平凡に暮らしていれば楽に死ねたのに、って感じだと思う」
「何も、知らずに?」
「マキノの行動を考えると、洞窟の事をさしているのかな?」
「そ。多分、だけど。それとあのナイトメア、誰かの部下みたいな感じだったかなー。そ
こで、私は一つの結論に辿り着いた!」
「な、何?」
思いがけないマキノの言葉に、皆の足が止まる。
「中間管理職は大変だ」
「……何でそうなんねん!」
気の抜けるような答えに、思わず一同はずっこける。ニックスがワンテンポ遅い突っ込み
を入れると、マキノが頬をプクーと膨らませる。
「そんな事言われたって、あくまでモヤモヤした霧みたいな意識なんだもん!ナイトメア
の親玉が私を殺そうとしてたのかな、位のもんよ!」
マキノがニックスと言い合いを始め、ずんずんと先を進んでいく。その気楽な様子に苦笑
し、ラフィスト達も歩き出すとティーシェルが何やら考え込んだような仕草を見せる。
「どうかしたのか、ティーシェル」
「……ラフィスト、僕達は何の為にここにきてる?」
「それは、鉱石を手に入れる為……」
ラフィストの答えを聞いたサードがハッとしたような顔をする。
「なるほど……アンカースの魔導士か」
「ご明察。そもそも僕らは、セクルードさんからダグラスとか言う奴に、並みの攻撃は効
かない、っていう話を聞かなかったら、鉱石を採りにきている訳が無い。つまり……」
「鉱石を手に入れられては困る人物……アンカースの魔導士が、裏にいる可能性がある」
「そういう事」
こんな山奥の平和な村にまで、魔導士の影が及んでいるのだと実感する。思った以上に世
界は深刻な状態なのかもしれないと、ラフィストは改めて思った。こう頭の中で考えてい
ると、いつの間にか医務室についていたらしい。中に入ると、保健の先生がマキノに事情
を聞いている所だった。ニックスも一緒に説明したのが良かったらしく、保健の先生は大
分落ち着いてきているようだ。
「そう、そんな事がねぇ……ああ、村の皆にも説明しなきゃ」
「そうなんですよ!もう大変!っつーワケで、私、ラフィストさん達について行く事にし
ました!」
「ええー!」
これには医務室を出掛かった先生も、入ってきたばかりのラフィスト達も驚く。
「どこかに必ず私みたいに困ってる人がいると思うんです。だから、私行きたいんです!」
「でも……ラフィストさん達は……」
先生は困惑の色を隠せない。
「別にいいよな、皆!」
ニックスが純粋に喜び、皆に賛同を促す。ガーネットは喜んでいるし、ラフィストも構わ
なかったが、サードとティーシェルの二人は渋い顔だ。
「ふざけるな!俺達は人助けをしに行くんじゃない!」
「サードの意見も、一理あるよ。どちらかというと、人助けじゃなくて人殺しに行くんだ
し?ま、僕はマキノにその覚悟があるなら構わないけどね」
「……マキノ、どうだい?」
一緒に旅をする以上、バラバラの意見のまま仲間にする訳にはいかないので、ラフィスト
はサード達の賛同を得る為にもマキノの考えを聞く。
「あのね、学生とはいえ私だって武闘家よ!それ位の覚悟は、常に持ってるわ。でもその
過程の中で、人を助けたいと思う事位はいいでしょ?……お願い!」
ラフィストが目配せすると、やれやれといった感じながらも二人が了承してくれた事が解
かった。その様子に一安心し、ラフィストがこれからよろしくとマキノに手を差し出すと、
マキノの顔に笑みが浮かぶ。
「こちらこそ、よろしくね。ラフィスト、ガーネット、サード、ティーシェル、それと…
…ニックス!」
「な、何で俺が最後なんだよ!つーか、そのついで感は何だ!」
「何でそんな事に拘んのよー。大体、アンタは昔からそう!」
ぎゃいぎゃい言い始めた二人に、選択誤ったかもな……とこっそり思う。結局、ニックス
が負かされたらしく、マキノにのされていた。
「とにかく、洞窟に行くんでしょ?明日早起きしていくわよ、いいわね!」
ボコボコにされた挙句、ニックスがお尻までマキノに蹴られる。今日の所はそろそろ解散
しようとラフィストが言うと、ニックスががばっと起き上がって遠慮がちに口を開いた。
「今日一日だけでいいんだ。俺、実家の方に泊まってきてもいいかな?」
いつものニックスらしからぬ態度に、思わず笑みがこぼれる。
「何今更遠慮してんだよ!俺達に遠慮せず、行ってこいよ」
「そうですわ。家族との御食事を、お楽しみになって」
「ああ、別に気にする事無いよ。だって、君いない方が静かだからね」
「……勝手にしろ」
「皆……ありがとな!朝七時に宿の方に行くからさ!じゃ、おやすみ〜!」
嬉しそうに家路につくニックスと、途中まで一緒に行く事にしたマキノを見送った後、ラ
フィスト達も宿の方に戻り始めた。
次の日の朝、宿の方にやってきたニックスとマキノと合流したラフィスト達は、昨日マキ
ノを探す際に足を踏み入れた危険地帯の森の中を歩いていた。ティーシェルが薄く張って
くれた結界のおかげで、昨日ほどうじゃうじゃ敵は沸いては来ない。それでも道程はきつ
く、多少の敵は出る為疲労は溜まっていく。
「マキノ、後どれ位でつくんだい?」
「んっとねー、もうちょっとだったと思うけど。……あ、ここ右に曲がって」
「マーキノー。いい加減、俺ぁ疲れたんだよー……まだかー?」
愚痴をこぼすニックスに、サードの鋭い視線が突き刺さる。あまりに情けない様子に、マ
キノもニックスにおかんむりのようだ。
「んもう!本当にあと少しなんだから我慢しなさいよね!」
「全くだよ!ちょっとは静かに出来ないわけ?」
「ねぇ、マキノ。あれではなくて?」
マキノとティーシェルのニックスへの文句が続きかけた所に、ガーネットが口を発する。
ほら、とガーネットが指差した先を見ると、大きな洞窟の入り口があった。
「あ、そうそう!これこれ。さ、入るわよー」
「ちぇっ!調子のいい奴ー」
入口に着き、中を覗くと真っ暗で先が見えない。サードが図書館で見つけた地図を開き、
ガーネットに明かりを頼む。
「ティーシェル、出番ですわよ」
「頼まれたのは君だろ!っていうかさ、何で僕がわざわざ使わなきゃいけないわけ!?」
「何でって、魔力が高い方が使うのは当然ですわ!それに、私は仮にも姫なんですから、
気を使ったらどうですの!?」
家出中のくせにとブツブツいいながらも、どっちでもいいから早くしろというサードの言
葉に、ティーシェルが魔法を使って辺りを灯す。洞窟内部に足を踏み入れると、中は鍾乳
洞のように湿り気の多い場所だった。暫く進むと、先を歩くサードの足がピタリと止まる。
「……くるぞ」
そのすぐ後に、魔物の攻撃がニックスに襲いかかる。ニックスは間一髪の所で避け、敵に
対して戦闘体勢をとる。物陰から出てきた魔物は、ドラゴンゾンビだ。攻撃力が高く、当
たると洒落にならない。詠唱を始めるガーネットとティーシェルを庇うように、二人の前
に立ち塞がって敵を攻撃しにかかった。
「たぁぁ!」
「うりゃぁぁぁ!」
マキノの三節坤が敵の首にヒットし、よろめいた所をニックスが仕掛ける。その後ろから、
サードとラフィストが続いて飛び出す。
「紅蓮剣!」
「連続剣!」
サードの魔法剣によって紅蓮に包まれた敵を、ラフィストが二重に切り刻む。
「二人とも下がって!……オーラ!」
「シャイニングライト!」
止めと言わんばかりに、ガーネットとティーシェルの魔法が放たれる。これには堪らず、
ドラゴンゾンビは断末魔の叫びを上げて、崩れ落ちていった。
「ふふ、やっぱりこの手の敵には光魔法が有効だね」
「それにしても、強い敵が出てきたな。……鉱石に近付くにつれ、強くなっていくのかも。
皆、気を引き締めて行こう!」
武器を収めると、ラフィスト達は再び先を進み始めた。
「ったくよー、どうやったらここ開くんだよ!」
数多の戦闘の末、洞窟最深部と思われる所まで進んだのはいいが、目の前にある扉が開か
ない。さっきから何とかしてあけようと、ニックスなんかは体当たりまでしている。
「ねぇ、サード。これ分かる?ね!ね!」
「……知らん」
「うーん、困りましたわ」
「そうだね」
皆の視線が、後ろで休憩していたティーシェルに集まる。
「え!もしかしてよく考えもせずに、僕に考えろっていうの!?冗談やめてよ!僕だって、
休憩したいんだから!」
「そう言わずに頼むよ、ティーシェル」
「だから嫌だってば」
「あ、もしかしてお前もわかんないんだろ?それならそうと、正直に言えよー」
ニックスが茶化していうと、カチンと来たのかティーシェルが立ち上がり、つかつかと扉
の方に向かう。暫く扉と向き合うと、ニックスに向かってフンと鼻を鳴らして笑った。
「これは恐らく、呪文によって封印されてる。だけどこれ位、訳ないよ」
ニックスが苦い顔をしたのを見ると、ティーシェルは扉に向き直り何やら唱える。すると
音を立てて扉が開いた。
「やったな!」
一行が足を踏み入れたとたん、何かの気配を感じる。一行の間に緊張が走り、それぞれ武
器に手をかける。物陰から何かが飛び出し、身構えた一行の視界に入ったのは小さなドラ
ゴンだった。
「あー!プギューじゃない!」
「な、何じゃそりゃ!」
とりあえず敵じゃないとわかり、脱力する一行。そのプギューについてニックスがマキノ
に突っ込むが、マキノは全く聞いていない。
「どうしたの?何でこんな所にいるの!?」
「プギュー……」
ドラゴンはマキノの周りを、ふわふわ浮いている。
「ま、まさか……そのドラゴンの鳴き声が、プギューだから……」
「あ、ティーシェル!よく分かったね!そんなティーシェルには賞品をあげよう!」
がっくりきているティーシェルに、マキノがポケットを弄って何やら取り出す。ラフィス
ト達が覗き込むと、色々な種類のガムがマキノの手に広げられていた。ガムの種類につい
てはしゃいで説明する様子から察すると、どうやらマキノは無類のガム好きのようだ。サ
ードはそんなマキノを無視し、ドラゴンに近付いてじっと見ている。
「……こいつは、ドリームドラゴンの子供だな」
「ドリームドラゴン!?」
ラフィストが珍しそうにプギューを突付くと、プギューはくすぐったそうに身をよじる。
「あ!マキノ、あなた。洞窟の前でプギューを見かけて、ついて行ったのでしょう?」
「よく分かったね、ガーネット!出血大サービスでガーネットにも……」
ティーシェルにガムを押し付けたマキノが、再びガムを手に広げる。
「あ……いえ、け……結構ですわ」
「でも、何でついてったって思うんだ?」
「このドラゴンは、口からガスを吐いて名前の通り、相手を眠らせてしまいますの。それ
で催眠状態を、ナイトメアに狙われたのではと思いまして……」
「え……じゃ、こいつ……またスリープガスをだすんじゃ……」
「マキノに懐いている所を見ると、大丈夫だと思いますけど……多分」
こっそり付け足された部分に脱力しつつも、とりあえず奥で光っている鉱石を採る事にし
た。間近で見ると、その光は七色の様に見える。おもむろにそこらに転がっている石で叩
いて鉱石を採りだそうとすると、慌てた様子のサードに止められる。
「な、何やってるんだお前は!採り方があるんだ、採り方が!大体、どれだけの鉱石が必
要だと思ってるんだ!それに、それをどうやって持ち帰るつもりだ!?」
「え……その、皆で引っ張って?」
ラフィストの答えにサードが呆れて溜息をつく。
「ラフィスト、そんな採り方じゃこの鉱石は、ただの石と変わらなくなってしまうんだよ」
ほら、とティーシェルに指し示された先を見ると、光を失った石の破片があった。
「あ……本当だ。でもじゃあ、どうやって?」
「必要な分だけ結晶化させる。そうすれば軽く持ち運べるしね」
みてて、と言うと皆を後ろへ下がらせティーシェルが詠唱を始める。
「古より語られる数多の伝承、原子を変える礎となりし呪法にならん。天の煌きは覇者の
紋様、夢幻の力を示す天の印……リスターフォース!」
鉱石の一部がカッと光、消えていく。完全に光が消えた時、ティーシェルが結晶化された
鉱石を皆に見せた。
「ま、ざっとこんなもんだよね」
「すっげー!ティーシェルの魔法にはびっくりだぜ!今度、俺も呪文習ってみようかな!」
「君が魔法覚えたとしても、絶対スカートめくりにはまるから、やめた方がいいよ」
「全くもってティーシェルの言う通りよね」
ニックスとティーシェル、マキノの会話に笑いが起こる。目的は達した事だし、ひとまず
村に戻ろうと呼びかけると、洞窟から出る為にテレポートした。あれだけ大変だった道程
も、戻るのにはテレポートとワープによって一瞬だった。改めて魔法の便利さに感心する。
宿屋に戻って部屋に入ると、ラフィスト達はこれからの事を話す事にした。しかし、一人
魔法を連発する形となったティーシェルだけは、ぐったりとベッドに横になっている。顔
だけはこちらを向いているので、とりあえず話だけは聞こえているらしい。
「鉱石手に入れたのはいいけどさ、これどうすりゃいいんだ?」
「確かにそうよねー。名工とかいれば、何とかなるとは思うけど……」
そう言うと、ニックスとマキノが考え込んでうーんと唸る。
「名工か……当てが無い訳ではないな」
サードの言葉に、一同の視線が集まる。サードはさっと地図を広げると、とある場所を指
差した。
「ここは……?」
「フォートレスだ。ここにそいつがいる。……アンカースとは別大陸だがな」
「あら?もしかしてそこ、武の国フォートレスの首都ではなくって?」
「ガーネット、知っているのかい?」
「ええ……ちょっと。前に一度だけ、お父様とティーシェルとで行った事が……」
「ガーネット!それは誰にも言わないって言っただろ!」
ティーシェルがベッドから飛び起きて怒鳴りつける。いつもの様子と違った余裕の無さに
疑問を持ち、ラフィストがガーネットに問いかける。
「何かあったの?」
「何せフォートレスには、いやーな想い出がありますから……」
「おい、フォートレスにワープで行けないのか」
サードに問い詰められ、ティーシェルは視線を泳がす。正直に答えるべきか、迷っている
のかもしれない。しかし、結局行けると答えたようだった。
「ねぇ、本っ当に行くの?」
「当然だ」
最後の希望までにべも無く切り捨てられ、ティーシェルはがっくりと肩を落とす。諦めた
のか一つ溜息をついた後、布団の中に潜り込んでしまった。それを見たガーネットが、ラ
フィストにボソボソと耳打ちする。
「ラフィー、あのね。フォートレスの王子がティーシェルの事を女の子と勘違いしていま
して、ティーシェルにベタ惚れですの。名前はディレス王子というのですけど、彼があま
りにも人がいいものですから……―――」
「本当の事、言えないんだね……」
返事の代わりにコクリと頷くと、ガーネットは同情を含んだ目でティーシェルを見る。
「可哀想ですわ……」
「た、確かに」
男としての自尊心の高いティーシェルにとって、何よりの苦痛なんだろうなと思い、ラフ
ィストも同情を禁じえなかった。次の行き先も決まった事で作戦会議を終了すると、各自
部屋に戻って体を休めた。
朝、なるべく広い場所の方でワープした方がいいという意見のもと、六人は村の外に集ま
っていた。一晩経っても、相変わらずティーシェルは元気が無く、俯き加減だ。そんなテ
ィーシェルを、何も知らないマキノが元気付けようとする。
「ティーシェル、頑張れー!あ、そうだ。景気付けにガム食べる?今日のお勧めはキムチ
でね!この辛味が疲れを……―――」
「……いらないよ」
「ふふ……ならば応援しかないね!ガーネットも一緒に応援しよ!」
「OKですわ!せーの……っ」
後ろでどんちゃん騒ぎ始めた二人に、集中力を欠かれたのかティーシェルが青筋を立て始
める。その時、ニックスの頭の上を跳ねて、何かが皆の前に躍り出てきた。
「プッ……プギューッ」
「あー!プギュー!」
「あらあら、寂しいんですの?よしよし」
皆の前に突如現れた物体、プギューはマキノに擦り寄っていく。そのプギューの頭をガー
ネットが撫でてやると、気持ちよさそうに一鳴きする。
「おいおい、マキノー!すっかり懐きまくってんじゃねえか!」
女性陣に可愛がられるプギューを見て、ニックスが慌てだす。
「えー、いいじゃん。プギュー、可愛いし。見るからに、役立ちそうだよ!……そーだ!
今日から一緒にお風呂入ろう!」
ねー、とプギューに言ったマキノに、ガーネットが私も一緒に入りますわ、などと言って
いるが、ニックスには全く聞こえていないようだ。物凄いショックを受け、フラフラとラ
フィストに近付いてポツリと言った。
「ラフィスト……俺、こんな間抜け面に負けちまった」
「ニックス……大変だな、お前も。まぁ、元気出せよ。ガーネットも一緒みたいだし、何
より相手はドラゴンじゃないか!お前は人間だろ?」
「そ、そうだよな……っ!」
わいわい騒ぎ出した一行から少し離れた所で、ティーシェルがしゃがみ込む。何やらブツ
ブツ喋る様子からは、絶望感が滲み出ていた。
「―――……っていうかさ、僕の負担、また重くなった訳?……そもそも行きたくすらな
いのに、何で僕ばっかりこんな目に」
「お前も、何だかんだ言って苦労性だな」
ティーシェルの頭にポンと手を置き、サードが同情を帯びた目で見る。その行動は思いの
外、ティーシェルの心に響いたらしい。
「サ……サード!……でも、いいんだ。―――……もう僕、諦めてるから」
「そうか」
どこか遠い目をしたサードがフッと笑う。二人の視線の先には、出発前だという事を忘れ
きっている四人+一匹の姿があった。