−六章−〜ナイトメア〜
「あぁー、きついですわ……」
きつい山岳地帯を長時間かけて歩いたせいか、ガーネットはよろよろとしている。しかし、
行けども行けども見えるのは急斜面や鬱蒼とした木々ばかりなので、いい加減ラフィスト
も弊璧してくる。元気なのは故郷に戻れる事を喜んでいるニックスと、書物に目を輝かせ
ているティーシェル位だろう。
「私、こんなに歩いたの……初めてですわ。―――……ティーシェルも体力無いくせに、
よく平気ですわね」
「ふふ……オートマで回復魔法かけてるからね。行ってすぐ書物を読む為にも、体力は残
しておかないと」
「ず、ずるいですわ!」
「無駄使いは止めろ。地図通りならば、もうじき着く」
私も、とばかり回復魔法を使おうとするが、横からサードに止められる。暫くの間は黙々
と懸命に歩いたが、結局サードの励ましも効果は無かった。もう駄目、と声を上げてガー
ネットがその場にしゃがみ込んでしまう。
「ニックス……一体いつ着きますの?」
んー、と目を細めてニックスが先を見渡す。
「一本杉が見えたらすぐなんだけどよ……あ、あった!皆、着いたぞ!」
ニックスが指差した先には、他より大き目の杉が立っている。さらに先には小さくだが、
集落のようなものも見えた。
「……それでも遠いですわよ。あうー……着く頃には夕暮れですわね」
目的地は見えたが、リアルな距離にガーネットががっくりと項垂れる。一方、トラートが
見えた事に興奮したのか、ニックスは一人駆け出して行ってしまった。
「お、おい!ニックス!」
ラフィストが慌てて止めるが、ニックスが止まる様子は無い。結局、ラフィスト達を残し
一人先に行ってしまったようだ。完全にニックスの姿を見失い、一同に溜息が漏れる。勝
手な行動にいらついたのか、サードはチッと舌打ちをすると、ニックスの行った道を歩き
出した。ラフィスト達も遅れないよう、サードの後を歩き出す。
「ガーネット、大丈夫?」
少しでも楽になればと思い、ガーネットに手を差し出すと、ガーネットは少し躊躇した後
にその手をとった。
「ありがとう、ラフィー。……ええ、もう少しですもの。頑張りますわ」
「ラフィスト。ニックスの奴、何か妙にはしゃいでたけど……どこに行くつもりなのか知
ってる?」
一番後方を歩いていたティーシェルがラフィストの隣に並び、ニックスの行方を尋ねる。
「まぁ、多分」
「多分?」
煮え切らない、中途半端なラフィストの答えに違和感を感じたのか、ティーシェルが怪訝
そうな顔つきでラフィストを見る。
「学校に行ったんじゃないかな」
と、ここまで話してニックスが『この事は内緒だ』と言っていた事を思い出す。しまった
と思っても、時は既に遅く、言ってしまった事は取り返しがつかない。どうかばれません
ように、とティーシェルの様子を伺う。最初は先ほどの顔のままであったが、ピンッと何
か感じ取ったような顔をし、クスリと笑ってラフィストに言葉を投げかける。
「そうだよねー、学校は色々あるからねー。会いたい相手もそりゃいるよね」
と意味深に言った後、ティーシェルはさっさと先方を歩くサードの元へ行く。ばれてしま
ったなど露とも思っていないニックスに心の中ですまないと謝りながら、不安定な足場の
注意を促す為にガーネットに視線をやる。すると、何やらガーネットが考え込んでいた。
「ガーネット、どうかしたのか?」
気になって声をかけてみるが、反応は無い。
「ガーネット?」
「―――……ラフィー、さっきの話は何だったんですの?」
ガーネットの思わぬ返答に、拍子抜けする。しかし正直に答えてやる訳にも行かず、ラフ
ィストは懸命に言い訳を模索した。
トラート村に着いたニックスは、すれ違う村人と挨拶しながらもある人物を探して走り回
っていた。しかし、どこを探してもニックスが求める姿は無く、山道を駆けてきた体に限
界が来たのかその場にしゃがみ込んでしまう。
「く、くそ……何であいついないんだよ」
「ん、あれ……ニックス。何でここにいるんだ?」
上からふってきた声に顔を上げると、学校の恩師であるガレレオ=ガレレイ先生が立って
いた。ニックスが調査団に参加する為に村を離れていた事は皆知っていたので、村にいる
はずのないニックスにガレレオも驚いているらしい。
「せ、先生!」
「……あー、さては君、マキノだろ。別れの挨拶出来なかったものなぁ。……確か彼女は、
普段なら森に訓練に行ってる時間だが……多分森にはいないだろう」
「え、どうしてですか?」
あいつが訓練をやらないなんてありえないとニックスは思い、ガレレオに詳しい事情を聞
こうとする。
「実はね最近元気が無くてね。ちょっと様子もおかしいし……正気はあるのだが、何かを
ブツブツ唱えたり、夜中に歩き回ったりとかもする」
「確かに、あいつらしくないな」
「一回ちゃんと神父や司祭などに見せた方が良いのかもしれんが、生憎ここにはいないか
らな。仕方が無いから様子を見てる状態なんだよ」
「神父や司祭、ねぇ……あー!いるいる!俺の仲間にいます、先生!」
ニックスの頭に、ティーシェルの顔が浮かび上がり、嬉々としてガレレオにその事を告げ
る。きっと彼ならばマキノを何とかしてくれるに違いない。早速ティーシェル頼まなきゃ
な、と勝手な事を考えていた。
「なら一度、彼女を見てもらえないかね?」
「はい!」
善は急げとばかりにニックスは宿に戻ると、気の知れた宿の主人に仲間が泊まっている部
屋を聞きだす。大急ぎで階段を駆け上っていき、とっている部屋の一室を空けると、そこ
には誰もいない。なら隣だな、とニックスが隣の部屋のドアを開けると、部屋の中には探
し人であるティーシェルと、サードがいた。ティーシェルはベッドの上で本を読んでおり、
サードは仮眠をとっているようだった。ティーシェルは、ドアの音に気付いてチラリと視
線を送るが、入ってきた人物を確認すると、すぐに本に視線を戻す。しかしニックスはそ
んな事には気付かず、ティーシェルに詰め寄る。
「なぁ、ティーシェル!頼みがあるんだけどよ……」
「嫌。他当たって」
本を読んでいる所を邪魔されて機嫌が悪いのか、にべも無く切り捨てる。それでもニック
スは他当たれたら頼まねえよとばかり、くいさがる。
「あのね、僕達疲れてる訳。わかる?君が勝手な行動した後、僕達は疲れた足を引き摺っ
て、大図書館まで鉱石の場所探しに行ってるの。……やっと宿に戻って魔道書読んでる所
なんだから、頼みごとならラフィストにでもしてよ」
「だからよー……」
「ただいま」
続く押し問答に嫌気が差し、ティーシェルがニックスを手に持つ書物の角で黙らせようと
した時、ラフィストとガーネットの二人が戻ってくる。ガーネットが手に何か持っている
所を見ると、図書館の帰りに小物か何かを見るのにラフィストが付き合っていたのだろう。
「二人とも、何やってるんですの?―――……というか、ティーシェル。いくらニックス
でもそんなので殴ったら、重症ですわよ」
「大丈夫だよ。もしかしたら、ちょっと賢くなるかもしれないし」
「や、止めろって!」
慌てて書物を取り上げ、傍にあった机に置く。二人を落ち着かせた後、ラフィストは椅子
に座り、ニックスに調べてきた鉱石の事を話す事にした。
「鉱石のある洞窟内部の地図は見つけたんだが、その洞窟の場所まではわからなくってな。
村の人に聞いてみたら、マキノって子がたまたま洞窟を見つけたって言ってて……」
「あ、会ったのか!?」
どれだけ探しても見つからなかったマキノの話題が出た事で、ニックスが凄い勢いでラフ
ィストをガシッと掴む。
「あ、ああ。何か様子が変だったけど。急に倒れたとかで、俺達が見たのは学校の医務室
だった。……まぁ、あの様子じゃ案内は無理だろうな」
そこまで聞くと、ニックスは首だけぐるりと勢いよくティーシェルの方に向け、その勢い
のまま捲くし立てる。
「ティーシェル、俺の頼みってのはそのマキノの事なんだよ!あいつ最近様子が変らしい
んだ。村には神父とかいないから、お前が頼りなんだよ!頼む、診てやってくれ!……洞
窟の場所解かんないのは、困るだろ?な、な?」
「……仕方ないなぁ。分かったよ、明日な!……はぁ。明日は一日図書館に篭ってようと
思ったのに」
翌朝、ラフィスト達は学校の医務室に向かった。その前に寄ったマキノの家で、昨日倒れ
てから念の為動かさない方がいいと、医務室に寝かせたままだという事を聞いたからだ。
医務室のドアを開き中に入ると、中では保健の先生と思われる人が何やら慌しくしていた。
「何かあったんですか?」
「あ、あら昨日の……それにニックスも。実はね、マキノがいないのよ」
「え!」
ニックスが保健の先生に駆け寄ると、保健の先生はニックスに落ち着くように促す。
「ニックス、落ち着きなさい。朝、様子を見たらいなくなってたの。ベッドはまだ暖かい
から、そんなに遠くへは行ってないと思うわ。今、皆で探してる所だから直に見つかるわ」
「皆で?そんなに心配する事ですの?」
「あの子、洞窟を見つけた日から何だか様子がおかしくって……だから皆ちょっと、神経
質になっているのよ」
「そのマキノって子が寝てたのはここ?」
ティーシェルが近くにあるベッドを指し示すと、保健の先生が頷く。その答えに考え込む
素振りを見せたのが気になったのか、ニックスがティーシェルを問いかける。
「何かわかったのか?」
「……マキノって子、魔法は?」
「い、いや。からっきしだけど……」
「そう……」
「とにかく、俺達も探そう」
ここで話していても埒があかないので探しに行こうとする。ニックスが先生にまだ探して
いない所を聞きだし、探しに行こうとドアを開ける。しかし、ティーシェルだけはなぜか
ついてこようとしない。
「ティーシェル?」
「悪いけど、僕は後から行くよ」
「ティーシェル!また団体行動乱す気ですの!?」
「おい、この俺まで探しに行くのに後からだと?ふざけるな!」
「ティーシェル、お前がいてくれなきゃ困るだろうが!」
各々口々に文句を並べるが、ティーシェルは気にせず、ラフィストの耳に耳打ちする。
「ベッドに残る魔力の残り香といい、嫌な感じがする。……これからこの残り香から、嫌
な気配の正体を探る。だから彼女の事はよろしく頼むよ」
「皆に言わないのか?」
「こんな事言ったら、皆して残ろうとするだろ?集中しなきゃ探知できないし、居られて
も邪魔なんだよ」
「確かに……そうかもしれないけど」
皆の性格を考えながら、ラフィストは頷く。サードだけはお構い無しにやると思うが、ニ
ックスやガーネットは間違いなく協力すると言うだろう。だからといって、わざわざ憎ま
れ役を買わなくたっていいだろうにと思いながら、いきり立つ皆を促してマキノを探しに
外へ駆け出して行く。渋々ながらも、探す事に専念する事に決めた面々はニックスが指し
示す方に向かうと、森の入り口に辿り着いた。
「まだ、ここは探してないらしい。……あいつ、いつもここで訓練とかしているし、いる
可能性は高いと思う」
入り口には古ぼけた看板が立っており、擦れた文字が綴られている。目を凝らして読もう
とすると、ニックスが右手の方が学生などが使う訓練コースで、左手の方が地元の人も避
ける危険地帯だと教えてくれた。どちらに行こうか迷っていると、サードが左手の道に入
っていく。
「おい、サード!何で左手に行くんだよ!いつもあいつが使っているのは……」
「あそこを見ろ」
サードが指差したのは、人の丈ほどの所にある枝だ。
「枝が折れている。誰かがこっちの道に入っていったのは確かだ。……それに」
サードが地面に視線を移す。そこには、人の物と思われる足跡が一つだけ残されていた。
「大きさからして間違いなく女だ。状況から考えて、マキノとやらの可能性が高いんじゃ
ないのか?」
「確かに……よし、こっちに向かおう!」
左手の道に入って暫くすると、道らしい道は無くなって、木々の間を通り抜けながら進む
事になった。森の中は暗く、かつマキノの進んだ道を探しながらなので、不安と疲れだけ
が一方的に蓄積される。しかも危険地帯だというだけあり、幾度と無く魔物が現れてはラ
フィスト達の行く手を塞ぐ。今も突如目の前に現れたグリズリー二体を、ラフィストとサ
ードで切り伏せたが、さっきから何十体も相手をしていた事もあり、剣を振るう腕も鈍り
始めてきていた。
「流石に、この数はきついな……」
「しかもほぼ間髪入れずにくるなんて、どれだけ魔物さんは暇ですの!それよりも、女の
子一人にこんな道これて!?」
「うーん……」
皆の不安がピークに達し、口々に不安をもらし始める。すると、辺りを見回していたサー
ドが口に人差し指を当て「しっ!」と、声を発し、木々の先を指差す。そちらに視線を向
けると、人影のような物がちらりと見えた。
「誰だろう……マキノかな?」
「わからない。それに、ここからじゃ人か魔物か区別出来ん。慎重に……」
「きっとマキノだ!」
慎重を期するべきだというサードの意に反して、ニックスが飛び出していく。待て、と慌
てて声をかけるが、もうニックスは人影の方に行ってしまっている。仕方なくラフィスト
達も後に続くと、そこには女の子が一人立っていた。ニックスが声をかけている所をみる
に、彼女がどうやらマキノらしい。
「おい、マキノ!大丈夫か!それにこんな所で何やってんだよ!」
「……何も知らなければ、よかったのに」
「!?」
それだけ言うと、彼女はドサッとその場に倒れこむ。
「マキノの体が心配だ。一旦マキノを負ぶって、医務室に戻ろう」
ラフィストのその言葉にニックスが頷き、マキノを負ぶる為近付く。そしてマキノの腕を
取ろうとした時、マキノを中心とした辺りに突風が巻き起こった。あまりの凄まじさに腕
を前に翳して、目を閉じる。
「な、何だ!」
「……何も知らなければ、穏やかに過ごせたものを。だが、知られたからには生かしてお
けない。勿論それを邪魔するお前らも同じだ!」
吹き荒れていた風が止み、目を開けてマキノを見る。さっきまで地に伏していたはずのマ
キノの体は、宙に浮かび上がっていた。そして、向けられた掌から、掌圧のような物が放
たれた。
仲間と別れた後、魔力の残り香を探知していたティーシェルは今、大図書館に来ていた。
机に分厚い辞典を置き、物凄い速さでページをめくっていく。
「あの魔力の種類と属性からして、恐らくナイトメアだな。……徐々に精神を喰って殺す
ついでに、自らの餌にするつもりだったんだろう。―――……まずは身体からナイトメア
を追い出さないと、ね」
ナイトメアの性質や弱点が書かれた部分に目を通すと、辞書を閉じて元の場所に戻す。足
早に魔道書が置いてあるコーナーに行き、本棚から無造作に本を取り出してページを捲り、
中を確認していく。
「確か、憑依された人物と切り離す呪文があったはずだけど……と、これか?」
そのページを見ると、スターリフレクションと書かれており、憑依した者にのみダメージ
を与え、切り離すとあった。
「光属性か……力加減が上手くいくか心配だな。下手したら、憑依された相手まで傷付け
ちゃうし。―――っ!魔力の波動が……ちょっと急がなきゃね」
魔道書を手に持ち、窓から外へ飛び出すと、ラフィスト達のいる森へと急いだ。
放たれた掌圧により、木に叩きつけられたラフィスト達は大ダメージを受ける。ラフィス
トやサード、ニックスはよろめきながらも立ち上がるが、ガーネットは気絶してしまって
いた。こうなっては体力の回復も出来ず、また攻撃する訳にもいかないので、一方的な防
戦を強いられていた。
「マキノ!目ぇ覚ませ!」
「ふ……無駄だ」
再びマキノの手がこちらに向けられる。衝撃波が与えるダメージを思い、身構えて防御体
勢をとる。手が微かに震え、衝撃波が放たれる。しかしラフィスト達に届く前に、後方か
ら吹き荒れた風によって掻き消された。
「な、何だ?」
「……待たせたね」
声をした方を振り向くと、呪文を使った名残なのか、風をまとったティーシェルが立って
いた。ティーシェルはニコリと笑い、ラフィスト達の隣に立つと怪我の具合を確かめる。
「全く、酷いもんだね……傷つきし全ての者に、癒しの水を降り注げ―――ヒール!」
言の葉が紡がれたとたん、ラフィスト達の体が青い光に包まれ、みるみるうちに傷が癒え
ていった。
「さて、お次はコイツを何とかしないとね」
「そうは言うが、あいつの体の中にいる以上、打つ手が無い」
「それは僕に任せてよ。それより、体からナイトメアが飛び出してきたら頼むよ」
ティーシェルが詠唱を始めると、不穏な物を感じ取ったのかマキノの手がティーシェルの
方に向けられる。
「死ね、小娘!」
「誰が小娘だ!―――……スターリフレクション!」
圧縮して放たれた衝撃波をヒラリとかわし、ティーシェルが杖を掲げる。杖から光が生じ
たかと思うと、それは一筋の光となりマキノにささる。
「グッ……こ、これは!」
光に包まれるマキノから、一つの黒い物が飛び出していく。その瞬間、マキノの体が宙を
舞い、落下し始めた。慌ててニックスが飛び出し、落ちてきたマキノをキャッチする。
「今だ!―――……火炎剣!」
飛び出したナイトメアに、真っ先にサードが殺到する。剣に炎をまとわせた魔法剣がナイ
トメアを切り裂くが、すぐに傷口が塞がってしまう。マキノを地に下ろしたニックスが、
気孔弾を放つが結果は同じだった。
「なっ!」
「サード、無と光属性以外の魔法剣は駄目だ!……それと、生命力が停止しているナイト
メアに気孔弾は効果ない。皆、物理攻撃でやるんだ!」
「わかった!」
ラフィストは、殴りかかったニックスのパンチを受けて、ナイトメアがよろめいた所を狙
って剣を繰り出す。その攻撃は上手くナイトメアの腕を捉え、切り落とした。反撃に衝撃
波を繰り出してきたが、先程までの威力や正確さは無くラフィストは難なくそれをかわす。
サードも剣を繰り出し、ナイトメアにダメージを与えていく。
「この、ちょこまかと……!」
ありったけの力を振り絞るかのように、大きく体を震わせて炎を吐き出してくる。迫って
来る炎に対し、ティーシェルがサッと印を切り炎の前に結界を張る。炎が結界によって弾
かれて掻き消えると、ラフィストは剣を握りなおし切りかかった。
「止めだ!」
肩から胴にかけて切り裂くと、ナイトメアの体は土の様になり、崩れ落ちていった。崩れ
落ちた土は砂となり、風に流されていく。
「やっと倒したな!」
「よっしゃー!」
ラフィストとニックスが手を叩いて、喜び合う。ティーシェルはマキノの具合を確かめ、
サードは気絶したままのガーネットを揺り起こす。意識を取り戻したガーネットと共に、
マキノの所へ駆け寄ると、マキノはまだ目を閉じたままだった。
「ティーシェル!マキノの奴、どうなんだ?」
具合を見ていたティーシェルが、抱えていたマキノの体をニックスに渡す。
「普段鍛えてたおかげか、ナイトメアに憑かれた事による後遺症もなさそうだし、大丈夫
だよ。じきに目を覚ますさ」
「そっか……よかったー」
その答えに安心したのか、ニックスがマキノをギュッと力を込めて抱きかかえる。その感
触で、意識を取り戻したのかマキノの目がうっすらと開かれる。
「いやぁぁぁー!痴漢!変態!」
誰かに抱きかかえられているという状態に気付き、ハッと目を見開いたマキノが平手打ち
を放つ。それはニックスの頬を直撃し、ニックスが後ろにぶっ倒れる。
「痛ぇー!何すんだ、マキノ!」
起き上がりながらマキノに抗議するが、マキノはそれに気付かない。それどころかラフィ
ストやサードの方を見て、ウットリしている。あまりの態度に切れたニックスがマキノの
頭にチョップすると、マキノが怒った顔で振り向いた。
「ちょっと、痛いじゃないアンタ!……って、ニックス!?」
「やーっと気付いたか……この様子じゃ、大丈夫そうだな」
「そうみたいだね」
ラフィストも笑って頷く。
「じゃあ、この人達はニックスの仲間かー。可愛い子二人に囲まれて、幸せ者ねアンタ!」
「馬鹿!アイツは男だ!」
ガーネットとティーシェルを見た後にマキノが大きな声で言ったので、ニックスは焦って
耳打ちする。しかし、元来大きな声なのが災いし、ばっちり筒抜けになっていた。本日二
度目の間違いに、ティーシェルの額には薄っすらと青筋が立っているように見えた。
「えー!嘘ー!こんなに可愛いのに……勿体無ーい」
「しかもお前より二つも年上だぞ!」
「悪かったね、年上な男でさ」
眉間に皺を寄せたティーシェルが杖でニックスの頭をぶん殴り、ぼそりと呟く。
「とりあえず、マキノの無事を知らせる為にも一度医務室に戻ろう」
そう言って立ち上がり、元来た道を歩き始めた。