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−エピローグ2−


旅をしている時は長い道のりを歩いたが、戻ってくるのは一瞬だった。目の前の光景はト

ラートではなく、グラン城が聳え立っている。最初に旅立った地であるこの城を見上げる

と、何やら感慨深い物があった。ここでガーネットやサードと出会い、ニックスと再会し

て旅に出たのだ。そしてまた、この地で冒険も終えるのだ。他の皆に一緒に王の所へ行く

か尋ねたが、皆は応接間で待っているから、ラフィストとガーネットの二人で行ってこい

と言った。ラフィストがスッと手を差し伸べると、ガーネットが微笑んでその手を取る。

「行こうか、ガーネット」

「ええ……」

応接間を出て、王の間の前に立つとドクンと心臓が強く鳴った。握り合う互いの手も、心

なしか強くなる。緊張しながらもラフィストは扉に手をかけると、それは重い響きを立て

ながら開いていった。中に入ると、グラン王は笑顔で二人を出迎えてくれた。

「おお、ラフィスト!……ガーネット、よく無事で帰ってきたな。お前がアンカースの調

査に参加していた事は、アルベルト司教から聞いた。済んだ事とはいえ、全く無茶をする」

「ごめんなさい、お父様」

グラン王が王座から二人の元へ歩み寄る。

「ガーネット……大人になったな。見違えたぞ」

先程まで不安そうにしていたガーネットの顔に、笑みが浮かぶ。グラン王はラフィストに

向き直ると、そういえばお主に褒美を授けなければいかんなと続けた。何なりと申せとい

う王の言葉に、ラフィストはちらりとガーネットの方を見ると、ガーネットもまたラフィ

ストの顔を不安そうに伺っていた。

「あの……褒美は、いりません」

「何?」

「えと、その……僕は……王様!ガーネットを僕に下さい!」

思い切り、頭を下げる。じっとグラン王を見つめるガーネットの視線で、王も二人の気持

ちが分かったらしい。やれやれと言いながら、大きく溜息をついた。

「お父様、駄目……かしら」

「おい!誰か!ガーネットとラフィストを連れて行け!」

二人が驚いていると、王の間に続々と兵が入ってくる。兵がグラン王に一礼すると、グラ

ン王は更に言葉を続けた。

「街一番の仕立て屋の所へな。そして、最高の衣装を見繕え!」

「あ、ありがとうございます!」

グラン王の言葉にラフィストが礼を述べると、ガーネットが泣きながらラフィストに抱き

ついてくる。ラフィストも嬉しさの余り、ギュッと彼女を抱きしめ返した。その時、よか

ったわねという声が耳に入る。ラフィストが視線をそちらに向けると、入口にはティーシ

ェルやナディア、それにジュリアがいた。この様子からすると、立ち聞きしていたらしい。

「ラフィスト。お主さえよければ、お主の家族も城に呼ぶがいい」

「王様……本当に、ありがとうございます」

「さ、衣装を選んでくるがいい」

グラン王に促され、数人のお付きと共にラフィストとガーネットは城下町へと向かった。

その様子を見ようと、彼らの後をナディアとジュリアが追っていく。やはり女性として、

こういった物には興味があるのだろう。人がはけていき、王の間にはグラン王とティーシ

ェルだけが残された。

「……ティーシェル、そなたも大儀であった。どうじゃ?この国のお抱え魔導士に……」

「お断りしますよ」

「と言うと思ったわ……はっはっは!やはりお主は面白い奴じゃ!……本当はラフィスト

がいなかったらお主とガーネットを……と言っても、昔の話だな」

「グラン王……ラフィストは彼女にとって、最高のパートナーになりますよ。僕なんかよ

りも。彼には不思議な力がある……彼に会って、僕が変わったようにね」

「お主が言うなら、絶対だな」

グラン王が満足そうな笑みを浮かべ、大きく頷く。

「式の時には、僕も呼んでください」

「帰るのか、もう?」

「ええ……仕事をいつまでも放ってはおけないので。あ、ナディアには先に戻ったと伝え

ておいて下さい」

「式は一週間後に執り行うからな」

王の言葉に微笑むと、ティーシェルはサッと印をきりワープを唱えた。グラン王は相変わ

らずマイペースな彼の行動に笑みを漏らすと、窓の外の空を仰いだ。

「ガーネット……幸せになれ」

今日のように晴れ晴れとした青い空は、我が子の旅立ちに相応しいだろうと思う。どうか

一点の曇りの無い青空の心のまま幸せになって欲しいと、グラン王は願った。




一週間後、空は澄みやかに晴れ渡っていた。陽射しも心地良い。その空の下、慌しく一組

の男女が宿を飛び出した。

「ああん!もうバカー!早くしてよー!」

「うるせー!」

文句を言いながら走るのは、チャイナドレスに身を包んだマキノだ。その後ろには、ちょ

っと不恰好にタキシードを着ているニックスがいる。

「はやくしないと、式の前に皆に会えないでしょー!」

「この服……首が苦しすぎる……吐く」

「吐くなー!少しは我慢しなさい!あ、あそこあそこ!」

前方に見えてきたのはグラン大聖堂。陽の光が窓に反射し、キラキラと美しく光っている。

その時、時を告げるかのように鐘が鳴った。

「あー!鐘が!急げー!」

さっき以上にスピードを上げ、大聖堂に駆けていくと入口前に見慣れた姿が映る。赤のド

レスに身を包んだナディアと、タキシードを着ているティーシェルだ。ナディア達が走っ

てくる二人に気付き、手を振る。二人が大聖堂についた途端、ナディアの口から檄が飛ぶ。

「ニックス!遅いわよ!」

「何で俺だけなんだよ、ナディア!」

ニックスは負けじと反論するものの、だってシミュレートして考えたら原因はアンタしか

いないでしょ、の一言に撃沈する。

「そういえばさ、ティーシェル。サードやキルトは……やっぱ駄目だった?」

「うん。全大陸中に使者を走らせたけど、見つからなかった」

「そっか……ちょっとサミシイよね」

「皆さーん!」

大聖堂から出てくる人、ジュリアの声に一同が振り向く。

「ジュリアちゃん、久しぶりー!……で、ラフィストの奴、どうしてる?」

「控え室で、凄く緊張してる」

控え室にいるその人物を思い描き、プッと一斉に吹き出す。ジュリアに中に入りましょう

と促され、ぞろぞろと大聖堂へと入っていった。外から見た大聖堂も美しかったが、中は

ステンドグラスから差し込む光が、より美しい色となっている。

「フフ……二人共、さぞかし素敵なんだろーなー」

「何か外がガヤガヤしてるわね」

「もう皆、集まってきたんだなー!」

「でも……」

何かを言いかけたナディアが、ふいに後ろを振り返る。

「何かサードもキルトも、こっそり見にきてそう」

「えー、どーかなー?」

「でもよ、サードなんか式の直前に、バラの花束を匿名で送ってそうじゃねーか?」

「アンタのサードに対するイメージって何なのよ……」

ナディアの言葉にひとしきり笑った後、皆はふいに喋るのを止める。穏やかな顔つきでそ

れぞれ考えている事は、恐らく同じだろう。

「色んな事……あったよね」

「そうだなー」

「何よ、もう過去の話なの?」

控え室の前に立つ。

「じゃあ、私とマキノとジュリアちゃんはガーネットの所ね」

「じゃ、僕らはラフィストの所に行くよ」

そう言って、それぞれの扉を叩いて中に入った。ガーネットの控え室に入った三人を、ウ

エディングドレス姿のガーネットが出迎える。

「皆……来てくれてありがとう」

白い衣装を着て微笑む姿は、まるで天使のように綺麗だった。そこにキャーと騒ぎながら、

マキノが駆け寄っていく。

「ガーネット、きれぇぇー!ね、ね!」

「やだ、マキノったらはしゃぎ過ぎですわ」

「もう!おめでたいんだから、はしゃいでもいーの!―――いーなぁぁ……私もいつか着

たい!そして……」

「ニックスと?」

「やーだ、もう!」

その頃ラフィストの控え室に入ったニックスとティーシェルは、ガチガチに緊張している

ラフィストと向かい合っていた。

「ラフィスト!いいじゃん、いいじゃん!よ、男前!」

「ニックス、おやじ臭いよ……」

騒ぎまくるニックスを、変な目で見るティーシェル。

「皆。き、きてくれて……その、あの、あ、ありがとう……」

「何そんなにキンチョーしてんだよ!お前、最終決戦の時よりキンチョーしてないか?」

「ハハ、言えてる」

「そ、そ、そんな事言ったって……」

控え室の外から、そろそろ時間ですと兵士が告げる。その言葉にラフィストがビクッと身

体を跳ね上がらせ、驚きを露にした。ラフィストの態度に笑いながら、ニックスとティー

シェルの二人はじゃあ、と言って控え室を後にした。廊下で他の三人と落ち合い、他愛無

い話をしながら五人は大聖堂へと移動する。彼らが椅子に座ると暫くして、奥から今日の

主役である二人が出てくる。ヴァージンロードを歩く為に移動するラフィストの足は、手

と足が同時に出てしまっているようだ。その様子に五人は小さく噴出すと、同時に始まり

を告げる鐘が鳴る。グラン王に手を引かれたガーネットがラフィストの隣に立つと、まる

で二人を祝福するかのようにヴァージンロードに光が射した。二人は手を繋ぎ、ゆっくり

とその道を歩いていく。これから二人で歩んでいく、光の道を。




剣が鋭い音を放ち、綺麗な線を描く。

「ラフィー、そろそろ休憩なさったら?」

「ああ……そうするよ」

剣を鞘にしまい、テラスにいるガーネットの元へと歩いていく。テラスにつくと、ガーネ

ットが入れてくれたらしいお茶と、添えつけのお菓子がテーブルの上に置かれていた。剣

を立て掛け、ラフィストは椅子に座るとお茶を口に含んだ。こうした時間を共に過ごすと、

改めて幸せなのだと思う事が出来た。ラフィスト達がそんな時間を共に過ごして、間もな

く二年になろうとしている。確かめるように、ラフィストはガーネットに話しかけた。

「もう……二年になるな、あれから……―――」

「ラフィー、覚えてる?明日……」

「世界樹の下で、皆と会う!」

二人の声が重なり、一瞬二人で顔を見合わせたような形になる。似たもの同士のようなお

互いの行動に、ガーネットが悪戯っぽく笑う。

「やっぱり、覚えてましたのね」

「当たり前だろ。……そういえば、最近サードとアデルさんがアンカースの方に戻ってき

たって、ティーシェルが言ってたな」

「ええ。アデルさんが白騎士団長、サードが黒騎士団長でしたわね」

しみじみと懐かしむように話すガーネットは、どこか嬉しそうだ。

「サード……強くなってるんだろうな。俺、勝てるかな?」

ははは、と苦笑しながら言うと、ガーネットがクスリと笑った。

「大丈夫。ラフィーは、誰よりも強いですわ」

暖かい日が当たるテラスから、幸せそうな笑い声が響き渡った。




「ニックスせんせー!」

数人の子供が、ニックスの元へと走り寄る。

「せんせー!今日は何するのー?」

「んー……じゃあ、今日は受身の取り方を教えてやるか!という訳で皆、武術場に移動!」

「わーい!」

無邪気な顔で笑いながら、再び子供達が走っていく。転ぶなよと声をかけ、走っていく子

供達を微笑ましく見つめていると、突然身体に衝撃が走る。

「いって〜……」

「あっははー、すきありー!」

「マキノ!……てめぇ、何すんだいきなり!」

涙目で背中をさすって、ニックスが訴える。

「いや〜……ニックスも変わったよねー!まさかあのニックスが、武術学校の先生やって

るなんてさー!あ、私も今年卒業かー……」

二年経った今、既に学校を卒業したニックスは武術学校の先生となり、マキノはそこを今

年卒業する予定という現状だ。

「そういやよ……明日だな」

「そだね」

二年前の約束が、二人の頭を過ぎる。

「と……、ボケッとしてる場合じゃないか!ほら、ニックスせんせー!行ってこーい」

「いってー!だから叩くなって言ってるだろ!」




「ナディアー、ご飯出来たよ」

大広間から食器を並べながら、ティーシェルが声をかける。その途端、バタバタと慌しい

音が響き、ナディアが階段を駆け下りてきた。

「きゃー!おいしそー!流石ティーシェルね!」

並べられた料理の数々を眺めて、いそいそと椅子に座る。そんなナディアを見つめるティ

ーシェルは、完全に呆れ顔だ。

「全く……もうちょっと落ち着いて食べられないわけ?……あ、今日の午後にアンカース

の方へ行って来るから」

「わかってるわ。気をつけてね、大魔導士様!フフ……すっかり世界中からの御用達にな

ってるわね」

ナディアは料理を口に運びながら、ティーシェルは一々その手を止めながら会話をする。

「ま、当然でしょ?」

フッと自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。

「一応……二児の父な訳だし……」

と少し赤くなりながら、ポツリと付け加える。彼らもラフィスト達が結婚した暫く後に結

婚し、双子に恵まれた。男の子と女の子一人ずつだ。

「頑張れ!新米パパ!」

「茶化すな!」

真っ赤になってムキになるティーシェルに、ナディアが手を振って笑う。

「照れない、照れない!あ、明日忘れないでよね!」

「わかってるよ。僕が、忘れる訳無いでしょ?」

「それもそうね」

暫くして、出かけていたアルベルト卿とリーサの二人が帰ってくる。人が増えた大広間は、

笑いで満ち溢れていた。




「はぁ〜……サード様、カッコいいわよね〜」

「あのクールな所とか」

「時々見せる笑顔とか」

「素敵〜」

アンカース城内では、既にサードのファンが大量に存在しているほどに、サードの人気や

評判は高かった。そのざわめきの中、アデルとサードが連れ立って歩いていく。

「いや〜、サードは人気者だねぇ」

「アデル!」

からかう様なアデルの言葉に、サードが噛み付く。黒騎士団長となってアデルと肩を並べ

た今も、サードはアデルに敵わないと思う。そんなアデルにからかわれると、まだまだ子

供だと言われている様な気がして、サードとしては悔しいものがある。サードの心情を知

ってか知らずか、アデルはなおもサードをからかう。

「随分モテモテじゃないか」

「そんな事は無いさ。……それよりアデル、悪いが……」

「明日、休ませてくれ……だろ?」

面食らったような顔をしているサードに、相変わらずだねと言って、アデルがその頭をポ

ンと叩く。そしてにっこりと笑った。

「だって、明日は君にとって大切な日だからね」

「アデル……―――」

アデルの方をじっと見ていたサードの手に、大量の荷物がドンッと乗せられる。これは先

程までアデルが持っていたものだ。サードがそれを見つめ疑問符を浮かべていると、すた

こらとアデルが先を行く。

「ま、今日は明日の分まで働いてもらうから……それ、よろしくな!」

「―――っ!アデルー!」

サードが叫んだと同時に、アデルが手を振りながら走り出す。その背を追い、サードも城

内を駆けて行った。




薄暗い洞窟の中、ジリジリと行き詰まりの方へ追い詰める者と、追い詰められる者の影二

つ。追い詰める方はニヤリと笑うと、懐から網を取り出した。

「フフフ……もう逃がさねーぜ……とりゃ!」

巨大な網が後者に覆い被さり、その動きを封じる。男はそれから羽を一つ取り、捕獲した

それを解放した。

「よっしゃー!ついに幻の霊鳥、ルーの羽をゲットしたぜー!」

そう叫んだ後、彼はその場に倒れこんだ。

「もうあれから二年近く経つんだよなぁ……ラフィストに姫君にサードにマッチョ、マキ

ノにハニーにアネさん……皆、どうしてっかなー」

この二年、彼にも様々な事があったのだが、それ以上に彼の頭を占めるのは二年前に彼ら

と共に過ごした日々だった。そんな自分に、繋がりってのはそう簡単に切れないもんだな、

と苦笑する。一度出来た絆は、切れるものじゃないのかもしれない。そうぼんやり考えて

いると、彼はある事を思い出した。

「そういや……明日じゃねえか?約束の日!」

ガバッと起き上がり、周囲に散らかった自分の荷物を適当に突っ込んでいく。

「急げー!……間に合えよ!」

袋を背負い、走り出した。彼、キルトは緑の髪をたなびかせながら、約束の地へと向かう。




どんなに歳月が流れても、変わらない物がある。それは彼らにとって、二年前のあの時に

育んだ友情、愛情、信頼、絆であった。人はただそれだけの事というかもしれない。けれ

ど、時間は常に流れる。それは変える事が出来ないのだ。それと比例するかのように、彼

ら自身もまた、変わっていく。変わらない物が在るように、変わってしまう物も存在する

のだ。でもこの一時だけ、あの時のままでいさせて欲しいと願う。


―――……あの緑溢れる大きな木の下、約束の地で。


The End

長い小説となってしまいましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。作者が運営しているサイトでは、登場人物設定画なども載せておりますので、もし宜しければ作者紹介ページのLINKから飛んで覗いてみて下さい。

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