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−三章−〜消えた島〜


「ささ……皆、遠慮せずに食べなさい」

そう俺たちに促したのは司教、アルベルト=ミッドウェーである。そして、テーブルの上

には今まで食べた事もないような物がずらりと湯気を立てて並んでいる。

「そういえば……ラフィスト君達は調査団に入ったのだったね。ティーシェルもこれから

君達の仲間になる訳だが……ご覧の通り自分勝手な所があってね」

「父上!」

「こんな息子だが……呪文に関してはかなりの使い手だ。役に立つ事を祈っている」

「当ったり前じゃないかっ!全く……。こんな奴ら、足手まといなだけだ!!」

と、不機嫌そうに料理を頬張るティーシェル。

「でもさ!誰にだって良い所はあるんだから、きっとお前みたいな奴でも良いとこ位ある

よな!!」

何かを悟ったかのように輝いてニックスが言う。そんなニックスの視線を受け、ティーシ

ェルは心底気持ち悪いといったように顔を歪める。

「そういえば、さっきナディア=メイカーの話が出ましたのよ。あの子、今頃はどうして

るかしら……ね、あなた?」

「そうだなぁ……『探したい物がある』と飛び出していったきり、だものな。見つかった

のだろうか、『探し物』とやらは」

「フンッ!ナディアの探し物なんか、タカが知れているさ!それに、そんな物嘘かもしれ

ないじゃないか!そうさ、きっと練習が嫌になったんだ!」

手に持ったナイフとフォークを音を立てて置き、ティーシェルが怒鳴り散らすと、アルベ

ルト卿がティーシェルにきつい視線を向ける。

「ティーシェル、そんな事を言うもんじゃない!……ナディアは確かに自由気ままな子だ

った。しかし、嘘をつくような子じゃない。それはお前も解っているだろう?」

「……」

「それに、お前の腕前も素晴らしいが、あの子の腕前も大したものだった。……今は、ど

の位強くなっただろうか……」

「……ま、僕には適わないだろうけど」

何やら激論している親子に、ラフィストはナディアについて尋ねると、五年前に出て行っ

たかつての教え子だという事を教えてくれた。ティーシェルがあれだけくってかかるとこ

ろを見ると、この家に深く関わっていたのだろうという事を感じられた。

「……悪いが、ナディアとかいう奴に興味はない」

我慢の限界だったのか、ちっとも本題に入らない様子にきれたサードが口を挟む。あまり

のサードの態度に、ラフィストはアルベルトに向かって頭を下げる。

「す、すみません……アンカース王国について、何か知っている事はありませんか?」

「ああ、そうだったね。……アンカース王国、か。あそこは今酷い状態だ……民は酷く苦

しんでいる。一刻も早く助けてやりたいが、それには国のトップをまずどうにかしなけれ

ばならん」

「だけどよー。王さんが変わっちまっただけで、そこまで酷くなるものなんか?」

自治区に住んでいるという事もあり、国の事情について実感がわかないニックスが、アル

ベルト卿に尋ねる。

「国だけならば、ありえる話だろう……しかし、事が世界全体に及んでいる所を見ると、

どうもきな臭い感じがする」

「何か、変わった事はありませんでしたの?」

ガーネットの問いに、アルベルト卿はしばし考え込む。暫くして、そういえば……と何か

思い立ったかのように顔を上げる。

「アンカース王国とは国交が途絶えてしまって、あの国の事を知るのは今や非常に困難だ。

そんな中、人伝に聞いた話で信憑性は薄いのだが……アンカースの位置する大陸の北西に

ある島が、王が変わる前に起こった大きな地震と共に沈んだというのだ」

「し、島が沈んだーっっ!?……って、え?それだけ??」

「それだけならまだ良かったのだが、その島には聖なる樹があってね。それだけに、少し

気になっているのだよ」

「世界樹」

「え?」

アルベルト卿の言葉が終わるか終わらないか位の時に、さっきまで黙って話を聞いていた

ティーシェルがポツリと呟く。

「何だ、それは」

「神話に出てくる聖なる樹の名前だよ……別名ユグドラシルとも言うらしいけど。世界樹

は、この世界の全てを支えている……もし無くなっているのなら、この世界も消え失せて

いるはず。きっと今頃、海の中でいきづいているんだね」

「あら、随分詳しいのね。ティーシェル」

「前にちょっと調べた事があってね。何せ世界樹の葉は不滅の肉体を与え、樹の上にある

とされる雫は無限の魔力や力を与えてくれるらしいし。……でも、世界樹に入るには資格

が要るんだ」

「入る……?資格??」

「世界樹は生きている。それゆえ、自分と関わる人間を選ぶ。そして、その選ばれた者の

みを世界樹に取り込んで……つまり、その中へ入る事を許す、という訳さ」

「あー、俺難しい話なんてわっかんねーよ!」

ニックスがティーシェルの話にうーとか、あーとか奇声をあげながら頭を悩ませている。

「簡単に言うと、沈んだ島にはこの世界の元があったんだよ」

ニックスのあまりの煩さに、サードが投げやりにニックスに返す。それではあまりに簡単

過ぎるような気がするが、何故かニックスはそれで納得していたので、良しとしよう。

「もし、次に向かう当てがないのなら商業が盛んなルネサンスに行ってみるがいい。あそ

こなら、色々な情報が集まりやすいしな」

アルベルト卿のアドバイスを元に次に向かう場所を商業都市ルネサンスに決めると、旅支

度をきちんとする為に出立を一週間後にする事に決めた。




「ラフィー、お隣の部屋ですから一緒に参りましょう」

と、ガーネットに腕を引っ張られ、ラフィストはガーネットと共に長い廊下を歩いていた。

二人で喋りながらその突き当りのテラスを通り過ぎようとした時、テラスに一人佇んでい

るティーシェルに気が付く。

「どうしたんだい、ティーシェル。眠れないのか?」

俺の問いには答えず、ティーシェルは腕の中に顔を埋める。何か、考え事でもしていたの

か、心なしぼんやりしているようにも見えた。

「ティーシェル……あなた、ナディアの探し物を知っているんじゃなくて?」

じっとティーシェルを見ていたガーネットが口を開く。

「確か六年前……でしたわね。アルベルト卿があなたとナディアを連れて、城にきたのは。

そしてナディアは世界樹について情報を求めた……」

「……」

「ティーシェル、とぼけようったって駄目ですわよ!幼馴染なんですから、嘘は無しです

わ!」

ガーネットの勢いに観念したかのようにティーシェルは一つ大きな溜息をつき、顔を上げ、

視線をすっと俺達へと向ける。背後にある月の明かりによって光を称えたティーシェルの

瞳は、どこか鋭利な刃物を思わせた。

「……推測は当たらずとも遠からずって所かな。ナディアは、世界樹の葉を求めてるんだ。

七年前、ランツフィートで亡くした弟を生き返らせる為にね。ナディアは七年前、世界樹

の根元に行ったが……」

「認められなかったのね」

小さくティーシェルは頷くと、さらに続けた。

「ナディアは足りないものは力だと思った……そして、ここに来た。でも、僕がナディア

と戦わされた時、感じたんだ。足りないのは力じゃない、精神の部分だと」

「……ちょっと待ってくれよ!」

ラフィストが突然叫んだ事で、二人の視線が俺に集まるが、そんな事はお構い無しに言葉

を続ける。

「アルベルトさんは“王が変わる前”に島が沈んだって言ってたじゃないか!ランツフィ

ートが滅ぼされたのは王が変わってからなんだぞ!どういう事なんだよ!」

「……つまり、地震のせいで島は沈んだんじゃないって事さ。これは僕の推測だけど、島

はアンカースの者の手によって沈んだんだと思う。そうする目的はわからないけど、そん

な奴がいるんなら……そいつはとてつもない力を持っている事になるね」

「そんな相手がアンカースにいますの!?」

「多分……だけどね。でも、もし世界樹が海の中だとしても、水中に入る方法はあるんだ。

僕の使える禁呪法……でね」

「なら、行ってみる価値はありそうだな」

「アンカースが絡んでいるのなら、世界樹に行く事で答えが見つかるかもしれない。……

ラフィスト、もし君も何かの答えを求めているのなら、世界樹に行く事が一番なんじゃな

いかな?」

「そう、なのかな……そういえば、何だかんだ言ってティーシェルって優しいよな」

「はぁ!?」

俺の言葉に驚いたのか、はたまた照れたのかは解からないがティーシェルがすっとんきょ

んな声を出し、俺に何故だと詰め寄る。

「だって、ナディアさんの事にしろ、俺達の事にしろ結構考えてくれているじゃないか」

「あらー、ティーシェルは昔っからそうですわよ。素直じゃないだけで」

ね、とティーシェルを指で突付きながらガーネットがからかっている。顔を真っ赤にして

口をパクパクさせている所を見るに、誰かにつっこまれたりするのは慣れていないらしい。

「あ、明日は早く起きて特訓するんだろ!早く寝れば!!」

苦虫を噛んだように、顔をしかめながらティーシェルが足早に俺達の横を通り抜けていく。

ガーネットの言う通り、素直じゃないがティーシェルの一面を見たような気がして、思わ

ず小さな笑みがこぼれた。




心地良い日の光が庭一帯に差し込む。庭では、ラフィストとサードが手合わせをしており、

剣の交わる音が辺りに響き渡っている。近くでニックスが鍛錬しており、ガーネットも皆

の様子を眺めて応援している。そしてそこから少し離れたところで、ティーシェルが椅子

に座り、魔道書を読んでいる。

「もう、あれから五年経つのか……」

ぼんやりと、魔道書から目を移し、庭にいる彼らの姿を眺めながら五年前のあの日を思い

起こしていた。




「ティーシェル!……そこにいるのよね、出てきて頂戴!」

物凄い大声で叫ぶのは勿論ナディアだ。司教の息子を呼び捨てにするのは奴しかいないし、

何より窓の外から大声で叫ぶなんて恥ずかしい真似をするのも、ナディアだけだ。

「……何?」

窓から下の様子を伺うと、髪の毛もボサボサ状態で下から僕の部屋を見上げているナディ

アの姿が目に入った。仮にも女だろう、と文句の一つも言いたくなりティーシェルは口を

開いた。

「ナディア、君ね……髪の毛ボサボサ。それに、こんな朝から何考えてるの?全く、これ

だから無教養な奴は困るんだよね。第一……」

「いいから!出てきなさい!!」

「……」

何を言っても無駄だと思い、ティーシェルは黙って下に下りて行く。庭に下りて、ナディ

アの目の前に立つと、ナディアが物凄い形相でこちらを睨んできた。

「何だよ、一体」

「……我、神々の力を使わんと欲する者……」

「!何やってんだよ!それは……」

ティーシェルの問いかけを無視し、ナディアが言の葉を紡いだ瞬間、辺りの景色は赤く燃

え、地鳴りと共に雷が鳴り始める。ナディアが紡いだのは、呪文だ―――そう思ったティ

ーシェルはとっさに自分と辺りの物にシールドを張った。流石に辺り一帯全てを守るのは

難しく、ティーシェルの体に限界が近付く。そして、崩れ落ちそうになったその時、先に

崩れ落ち、膝をついたのはナディアの方だった。

「……イ、イヤ……」

「な、何言ってるんだ!それはこっちの台詞だよ!こんな余計な仕事させて……ちょっと、

おかしいんじゃないの!?」

荒い息遣いで、ティーシェルが叫ぶ。術者が呪文の行使を止めた為、辺りから完全に魔道

の波動の余波が消える。そして、それを感じたティーシェルが結界を解いた。

「……私は……オカシイノ……?オカシイ?私……私、が?」

その時、ぶつぶつ呟くナディアに何が起こっていたのかティーシェルにはわからなかった

が、とりあえず事情を知る為にナディアを問い詰める。

「当たり前だ!もう少しで罪もない人々を殺す所だったんだぞ!あれは、禁呪じゃない

か!……って、どうしてお前があれを知ってるんだ?」

「……」

「だんまり、か。……とにかくこの事は父上に報告しておく」

そうしてティーシェルが立ち上がろうとすると、急にナディアが立ち上がった。

「いいわよ、そんな事しなくたって。私、出てくから。私には探す物―――ううん、見つ

けるべき物がある。それには時間もかかるし、何よりここにいては見つからない物なの。

だから……ティーシェル、二年間ありがとう」

そう一方的に告げて、ナディアは走り去って行った。

「ま、待てよ!」

さっきの疲れが抜けきらない重い足を引き摺りながら、ティーシェルがナディアを追いか

ける。しかし、ティーシェルが門まで辿り着いた時には、既にナディアの姿はどこにもな

かった。

「探し物って……何なんだよ、ナディア」

そうポツリと呟いたティーシェルの言葉は、風にかき消されていった。




ティーシェルが一番気にかかっているのは、ナディアが途中までとはいえ禁呪を唱えた事

だ。禁呪なんてナディアに唱えられるはずがないし、ましてやあの時ならば尚更だ。ナデ

ィアは強くなりたいと二年間やってきた。それが、ティーシェルによって壊されてしまっ

たとまでは言わないが、自身の力という物を自覚したのは確かだろう。そして、世界樹の

葉に変わる物を探していた彼女。おそらく、ここを出て行ったのはそれが見つかった、も

しくはその手掛かりを手に入れたという事なのだろう。それは即ち死人を生き返らせる術、

という事。ティーシェルにとってそんなのは冗談じゃない、と言いたい事である。

「『自然の摂理に逆らう事は、アンタが男顔になるのと同じ位難しいのよ』なんて言ってた

っけ。……逆らおうとしているのは、そっちじゃないか。腹の立つ」

再び目を魔道書の方に戻し、適当にぱらぱらとページをめくり始める。その時、あるペー

ジに目が留まり、過ぎてしまったそのページまで、本をめくって戻す。このページは一般

的に言う、注意書きに当たる所だ。そこには“神々との契約無き者が呪文を唱える事、そ

れ即ち死である”と書かれていた。世界樹に拒絶されたという事は、神々に拒否された事

に等しい。つまり、あのままナディアが呪文を行使していたら……―――

「死んで、いた」

あれは僕の魔道書でも盗み見たのだろう、注意書きのページも読まずに。ただ、強い力が

手に入ると思って。

「何て危ない事をするんだ……」

「あら?それって禁呪じゃないですの?」

いつの間にか後ろに来ていたガーネットがひょっこり顔を出し、ティーシェルの手元にあ

る魔道書を覗き込む。

「禁呪まで勉強するなんて勉強熱心ですわね、ティーシェルは」

いつまでも無遠慮にジロジロと本を見ているガーネットにじろりと一瞥し、ティーシェル

は本をぱたりと閉じる。

「勉強じゃない、調べ事だ。それに、僕は使えるんだ……禁呪」

「ええ!アルベルト卿でも使えないのに!?……って事は」

「確かに、僕はもう父上よりも強い……だけど自惚れてなんかはいないさ。そこで満足し

たら上を目指せないからね」

「ふーん、そんなもんなのかな」

サードとの訓練が終わり、休憩しに戻ってきたラフィストがティーシェルの前の椅子に腰

をかける。そんなラフィストに、ティーシェルが黙ってお茶をよそってやり、ラフィスト

の目の前に滑らせる。

「あ、ありがとうティーシェル。サードってば手加減無しでやってくるから体の節々が痛

むよ。本人は至って元気で町に買出しに行ってるし……はぁ、やっぱ実力の違いかなぁ」

ガーネットの回復魔法で傷を癒してもらいながら、ラフィストがぼやく。手はマメを潰し

た後が硬くなっており、よく努力しているのがはっきりとわかる。

「初めはそんなものですわ。最初から何でも出来たら、誰も努力なんてしなくなってしま

いますもの。頑張ってこそ力を実感できると思いますわ。」

「それに、あのサードって人……旅の経験が相当長いんでしょ?そう簡単に君に追いつか

れちゃ、彼だって面白くないんじゃない?」

「そっか……そうだね。よし!俺もっと頑張るよ!」

そう言うとラフィストはカップに入ったお茶を一気に飲み干し、勢いよく立ち上がる。再

び庭に戻ってきたラフィストに、一人で訓練していたニックスが話しかけ、一緒に組み手

を始める。さっきまでラフィストが座っていた椅子にガーネットが座り、ラフィスト達の

様子を笑みを浮かべて眺めていた。




「それではアルベルト卿、リーサ……今までどうもありがとう。次会う時も必ず元気な姿

を見せて頂戴ね」

「姫も……そして皆さんも、お気をつけて。ティーシェル、お前も頑張れよ」

「はい……では父上、母上お元気で」

「アルベルト卿、リーサさん……長い間御世話になりました」

世話になったミッドウェー夫妻に礼を述べ、俺達はカダンツを後にした―――が。

「だーかーらー!あそこでお前が立ってて、その後ろに魔物が行ったんだよ!な、分かっ

とけ!それを殴りにかかったんだ!それを、お前が避けるから……―――!」

「はぁ!?じゃあ何!僕が悪いって言うワケ!っていうかさー、あの程度の魔物の攻撃位

避けられるから、余計な事はしないでもらいたいね!お陰で痛い思いをしたじゃないか!

ったく、これだから庶民は……」

そう、それは数分前の戦闘中に起こった。ティーシェルを後ろから狙っていた魔物を倒そ

うと、ニックスが殴りかかろうとした、その瞬間。ティーシェルは魔物に気付き、避けた

所をニックスが……―――ボカン。

「本来は痛い思いをするはずのない相手との戦闘なんだから!……ニックス−10点」

「―――――っ!!」

やはり、誰にもティーシェルに口で勝つ事なんか出来るはずがない。そして、サードのイ

ライラも頂点に達しようとしていた。

「大体ね、ニックスは―――」

「うるさい!黙れ!」

サードがついにブチ切れ、声を荒げる。隣で見ているガーネットもやれやれといった表情

だ。個々の能力は高いはずのメンバーなのに、どうもチームワークというか、結束力が足

りない気がしてラフィストから溜息がもれる。

「……仕方ありませんわね。ここら辺でちょっと休憩でもしましょうか」

「そ、そうだね。じゃあ一緒にお茶の準備でもしようか、ガーネット」

ガーネットの言葉にラフィストは同意し、早々ととばっちりを受けないようにお茶の準備

を始める。その様子に気付いたサードが敵が来たらどうするんだ、と噛み付く。

「じゃあ、僕が結界でも張ってあげるよ……と、その前に」

ニックスの後方に向かって、ティーシェルが杖を向ける。それと同時に、そこから敵がい

きなり飛び出してくる。

「……コイツが邪魔だね。ちょっとさがってて。『炎の精霊よ、我に無限の火の力を授け、

禍の者に裁きを与えよ!フレイム!』」

ティーシェルが何やらブツブツと唱え終わった後、敵が炎に呑まれる。次の瞬間には、既

に敵を焼き尽くしていた。

「ひぇぇぇぇぇ〜!これが魔法かよ!?スッゲー!!」

一番目の当たりにする事となったニックスが、黒焦げになった敵を見て唸る。ニックスの

様子に満足そうに鼻を鳴らし、辺りを確認した後、ティーシェルが周囲に結界を張った。




「それにしても、さっきの……フレイムだっけ?凄かったよなぁ!なぁ、ラフィスト!!」

ガーネットと共に入れたダージリンを飲みながら、ニックスがさっきの魔法について興奮

気味に語っている。きっとこの様子では、さっきまでティーシェルと口論になっていた事

など綺麗さっぱり忘れているのだろう。

「そういえば……フレイムって何クラスでしたっけ?」

「中級。わざわざあの程度の敵に、上級魔法使うまでも無いと思ってね」

ティーシェルの言葉にニックスが反応し、こういう所が自信過剰っつーか、何ていうかな

んだよなぁ……などと呟いている。それよりも、二人の話で気になった事があったので、

ラフィストはそれについて聞いてみる事にする。

「中級……上級?どう違うんだい?」

「魔法の威力によって、普通はランク分けされてるんだ。例えば、火で例を挙げると、一

番下級であるファイアーの威力を1として、それよりどの位威力が上かによってランクが

決まる。1〜5までが初級、6〜10までが中級、11〜15までが上級……といった風

にね。因みに最上級クラスはその魔法の属性と正反対の属性を持つ者には使えない……僕

の属性は水属性だから」

「火属性の最上級は使えないのか」

「……悔しいけど、そういう訳だね」

「でも、大魔法や禁呪文は使えるのでしょう?」

空になったコップにお茶を注ぎながら、ガーネットが横から口を挟む。

「使える事には使えるけど、反属性だからね……結構威力は落ちてしまう。だから、属性

に適した魔法が一番威力もあるし、効率的なんだよ」

「じゃあ、火属性に関してはナディアの方が得意分野なのですわね♪」

ナディアの名前が引き合いに出され、少し機嫌を損ねたかのように見えるティーシェルが

更に続ける。

「まぁ、魔力にもよるけど……一応そういう事になるかな。だけど!そんじょそこらの魔

導士には例え属性が不利でも負けないけどね」

「自信たっぷりだこと……」

ニックスの様子からして、いい加減聞き飽きてきたようだ。サードなんて我関せずと言わ

んばかりに、さっさと荷物を纏め始めている。ラフィストは皆を促し、再びルネサンスに

向かって歩き始めた。

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