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−三十六章−〜世界樹〜


部屋の中で一人ゴロゴロしていたマキノは、ドアが開いた音を聞き視線をそっちへやった。

そこには、嬉しそうな顔をしたナディアがいた。さっき部屋の前でティーシェルに呼び止

められた時、何かあったのかと推測する。

「何か嬉しそーだね、ナディア。ティーシェルと、何かあった?」

「ふふっ……別に」

そう言いつつ、ナディアはクスクス笑っている。そんな態度を取られると、好奇心が芽生

えるのが人間である。

「何を隠してるのぉ!ずっるーい!」

「実はねぇ……ふふふ、聞きたい?」

「聞きたいから聞いてんのー!何、何?」

ナディアが笑いを収める為に、深く深呼吸する。それでも顔のにやけまでは戻らなかった

らしく、緩んだ顔のまま話し出した。

「あのね、私世界が平和になったら……またティーシェルの所に戻る事にしたんだ!」

「えー!そうなの?ふーん。ええっと、そういうのを出戻りって言うんだっけ?」

「違うわよ」

見当はずれなマキノの返事に、ナディアが突っ込む。

「違う?うー……でもよかったね、ナディア!でもどうして急にまた?」

その途端に、ナディアの顔が再びにやつき始める。どうやらナディアが喜んでいる原因は

ここにあるらしい。

「ティーシェルが誘ってくれたの!」

「あー、それで。だからニヤニヤしてたのね」

恐らくあのティーシェルの事だから照れながらだろうけど、それでも少しナディアが羨ま

しかった。素敵な男性が自分と一緒に来ないと誘ってくれるのは、王子様を夢見るマキノ

にとっても大きな憧れだからだ。それを自分が好意を持っている相手に言ってもらえるな

んて、幸せに違いない。

「そーいえば、マキノはこれからどこへ?」

「うーん。まだよく分かんないけど、でも取りあえず学校を卒業しないとね。それから後

の事はー……まぁ、私の人生プランの中では卒業すると同時に、王子様が私を迎えにきて

くれる事になってるんだけど……」

「非現実的ねぇー……あなた、王子様って具体的にどんなタイプの人なの?」

「え……」

王子様という事だけしか考えてなかったマキノにとって、ナディアの質問には言葉が詰ま

った。色々考えてみるが、具体的な事は余り出てこない。そんな中、マキノがたどたどし

く自分の王子様像を出していった。

「えっと……し、身長高くて、髪の毛サラサラで……えと……」

「ふーん……じゃあさー、ニックスでもいいわけ?」

「え……でもニックス泥臭いし」

背も男にしては高い方じゃないし、髪だって傷んでるじゃんと付け加える事も忘れない。

これを聞いて、ナディアはニックスがこの場にいない事に胸を撫で下ろす。余りの言い草

に哀れに思ったのか、ナディアがニックスのフォローを始めた。

「でも、ほら。ニックスもいい男じゃん!ね、マキノ!」

「えー?まぁ、悪いとは言わないけど……もっとこう爽やかな人がいい」

この分じゃ全く脈がなさそうね、何か哀れとナディアが思っていると、マキノがその後を

更に続けて言った。

「まぁ、ニックスも多少は……考えてあげてるけどね」

マキノの顔色に変化が無かった為、今の言葉の真意は図りかねるが全く脈が無いという訳

ではないのだろう。その言葉を聞いたナディアは、何だ、少しは脈ありなんじゃない。頑

張りなさいよニックスと心の中で呟いた。




「はぁー、若いモンはいいよなぁ」

「お前だってまだ二十歳だろ!」

「……俺を数に入れるな、キルト」

部屋に戻ってきたニックスとキルトの二人がベッドに座り、とうにここへ戻ってきていた

サードを巻き込んで話をしている。

「それよりさ、二人共!二人は全部ケリが付いたら、何するんだ?」

新しい話題をキルトが切り出し、興味津々な顔してせまっていく。

「俺はトラートに戻って、もう一回武術学校で訓練をやり直す!」

そしてマキノと、と心の中で握りこぶしを固めるが、キルトはその先まで興味が無かった

らしい。あっさり話の矛先をサードに向けてしまった。一番聞いて欲しかった所を聞いて

もらえなかったからか、ニックスが撃沈する。

「……俺は、また旅に出る」

サードの言葉に、二人はじっとサードの方を見る。その視線が何を言いたいのか分かった

のか、サードがまた喋り始めた。

「ガーネットの事はいいんだ。彼女にはラフィストがいるし、奴になら安心して任せられ

る。取りあえず二、三年旅をしたら、またアンカースに戻ろうと思う」

「アンカース?」

「見習いとはいえ元々アンカースの軍属だった訳だし、今更故郷に戻る気もないしな。そ

れに、アデルの手伝いもしたい」

「なるほどなぁ……っておい!キルト、お前まだ言ってねぇぞ!」

言いだしっぺのくせにとニックスが噛み付くが、キルトは愉快そうに笑っている。まるで

話の内容が、自分と無関係といわんばかりの態度だ。

「俺は変わんねえよ。今はお前らと旅してっけど、元々トレジャーハンターなんだし、ま

た旅に出るに決まってるさ」

「……寂しい人生だな」

「お前にだけは言われたかねぇよ、サード」

「ま、どっちもどっちだな!」

二人の間に割って入ってニックスが言うと、双方からお前に言われたらおしまいだな、と

そろって反論された。何だと、と腹を立てるニックスを見てサードとキルトが笑い出す。

そこに、大きな溜息をついてティーシェルが部屋の中に入ってきた。

「ふー……」

「あれ?」

異変に気付き、ニックスがティーシェルに近付く。

「何かさ、お前顔赤くねー?」

「あ、ホントだ!どうしたんだ、ハニー!」

「風邪か?」

サードの風邪説に、ちょっとねと言ってティーシェルが視線を逸らす。いつも以上に勘が

冴えていたニックスが、彼の態度に何か気付いた顔をした。大抵、いつも以上に冴えてた

りするとろくな事が無いというのが常だが、ニックスはお構い無しに突っ込んでいく。

「って事はよー、サードの風邪説じゃないんだろ?他に顔が赤くなるって事はぁ……お前、

もしかして!」

「もう、ほっといてよ!」

ムキになって自分のベッドの中に入り、話を終わらせようとしたが、むしろそれが逆効果

だった。他の人間の興味まで誘ってしまったらしい。

「ハニー!何があったー!」

「おいっ!教えろよぉ!」

「あーもー……うるさいなぁ」

ニックスに続いてキルトまで騒ぎ出した事で、ティーシェルが耳を塞ぐ。こうなったら力

づくで黙らせるか、と布団から這い出て彼らにいい笑顔を向けた。その笑顔に不穏な物を

感じ取ったキルトは黙ったが、ニックスは尚もしつこく言え言えと迫ってくる。そんなニ

ックスの頭を鷲づかみにし、笑顔のまま一言告げた。

「水の中入る時、空気抜くよ?」

「げっ!」

ちょっとの興味が自身の命の危機となり、ニックスが慌てて押し黙る。

「ハニー……冷たーい」

「僕は元々冷たいし」

「お前ぜってぇー友達少ねーよ」

「……悪かったね」

ぶうぶうと文句を言う二人に、ティーシェルが反論する。余りの言いように落ち込む二人

を尻目に、サードがティーシェルにこの先どうするのか尋ねた。ベッドに腰をかけてしば

し考えた後、そうだなといって口を開く。

「やっぱり、カダンツの司祭に戻るかな?仕事も溜まってるだろうし。……後は、僕の人

生プランなんだけど」

「何?」

「ツァラかアンカースの、宮廷お抱え魔導士になる」

さらりと野望を言ってのけるティーシェル。にやりと笑うその顔に、真正面から見たニッ

クスがヒィッと小さく叫び声を上げる。

「あれ?でもハニー、カダンツからはグラン王国が一番近いんじゃ……」

「んー……あそこはツァラやアンカースよりでかくないし、フォートレスじゃ魔導士優遇

されないし」

何より、その二国には奴等がいるから嫌なんだよと小さく呟くが、幸い誰の耳にも届いて

いなかったらしい。キルトやサードはそうかと納得しているが、ニックスだけは目を逸ら

して、野心家だこいつとこっそり呟いている。

「で、最終目標とかあるのか?」

聞いてはならないような事が、サードの口からあっさり出てくる。何聞いてんだサード、

お前はあの真っ黒い笑顔を見ていなかったのか、とニックスが心の中で叫ぶが、どうやら

本人は答える気満々らしい。話を中断する為にキルトに助けを求めようにも、キルトはテ

ィーシェルの顔を嬉しそうに見ているだけだから、役に立ちそうにない。

「フフ……特別に教えてあげるよ。カダンツの司教、宮廷のお抱え大魔導士、世界一の術

士の肩書きを持つ事かなー」

お前、事故を起こして最初の肩書きとるなよと思っているニックスの横で、キルトが、夢

が大きくていいねと笑っている。キルトの言葉に、ティーシェルはこれ位当然じゃないと

言ってのけたのを見て、こいつだけは敵に回したくないと三人共同時に思った。

「まぁ、こっちの方もいいが……お前は精霊の町へは帰らなくていいのか?」

「今更って感じだし、こっちの方が好きだし……皆にも会えるし」

最後の言葉だけ、小さくなる。その反応に、キルトが可愛いなハニーは、と言って抱きつ

く。ニックスがそこにちょっと凶悪だけどなと付け足すと、ティーシェルがニックスうる

さいと言ってニックスの枕を鷲づかみ、彼に向かって思いっきり投げつけた。

「いってー!何すんだよ!」

「……寝るぞ」

「お休みー」

「悪ぃ、お先に」

さっさと電気を消して、三人が眠りに入ってしまう。あまりに早い三人の切り替えの早さ

に、ニックスが一人ポツンと虚しく取り残された。何でこいつらはマイペースというか、

こんなに切り替えが早いんだよと愚痴りながらも、残されたニックスも眠りに付いた。




翌朝、一行はグランの叫び声で目が覚めた。急いで身支度を整えて操舵室に向かうと、世

界樹のあった場所のかなり近くまで来ている事が分かった。

「風がかなり酷いからな……悪いがここから先は進めそうに無い」

「本当だ、酷いな……ティーシェル、ここからなら大丈夫か?」

ラフィストが外の様子を確認し、ティーシェルに声をかける。それに対して、ティーシェ

ルは思った以上に進んでくれたし、大丈夫だよと答えた。武器などを確認し、ラフィスト

達が甲板に出る。甲板の外は暴風が吹き荒れ、支え無しではきつい程だった。ティーシェ

ルが詠唱を済ませると、一向はグランに別れを告げて海の中へと入っていった。迷わない

ように灯している魔法の明かりを頼りに進んでいると、前方に世界樹が見え始める。

「皆……生きて帰ろう!」

ラフィストの言葉に、全員が頷いて返す。思いは皆同じだった。世界樹の前に着くと、テ

ィーシェルがグレイスから受け取った珠を取り出して詠唱を始める。彼が何事か呟いたの

とほぼ同時に、彼の手の中にある珠が強く光った。眩しさに一同が目を閉じると、目を開

けた時には既に海底でない場所へと移動していた。

「何か……不気味な感じが致しますわ」

辺りを見回し、呟く。根の様な物が、蜘蛛の糸のように周り中に張り巡らされている。し

かも、ところどころ脈打つ所があるようだ。そんな中を、ラフィスト達は一抹の不安を抱

えながら歩き始めた。




「ラフィー!後ろ!」

「……ったぁ!」

創世の剣が、敵を切り裂く。かれこれ五十匹以上は軽く倒してきたラフィスト達であった

が、一向にコアへたどり着けない。

「あー、もう疲れた〜!」

ペタンとマキノが床に座り込む。

「マキノ、しっかりしなさいよ!」

「ナディア、見た事も無い魔物達と戦い続けているんだ……仕方ないよ」

真っ先に敵陣に切って進むラフィストとサードの二人の顔には、既に疲労の色が色濃く出

ている。これでは無理して先を進んでも、世界樹と戦いにすらならないだろう。

「なー、ラフィストー。休もーぜ?」

マキノに続いて、ニックスまでもがダウンする。ラフィストがサードに目線をやると、サ

ードが少しだけなと言ってその場に腰を下ろした。何だかんだ言って彼も疲労が蓄積して

いたのだろう。ティーシェルが周囲に結界を張ると、ガーネットが少しでも皆の疲労を消

そうと回復魔法を施した。

「皓々たる癒しの光。無数の羽と共に、彼の者に舞い降りよ。ライトフェザーグライド!」

全員の身体を癒しの光が包み、みるみるうちに傷を治していく。少しだけ疲労も薄れたよ

うだ。ラフィストがガーネットに礼を言うと、ガーネットは笑いながら私にはこれ位しか

出来ませんし、と返した。そこに、キルトがニヤニヤ笑いながら二人にお茶を持ってくる。

「ほら、二人共」

「すまない、キルト」

「いーって、いーって!それより頑張れよ、ラフィスト!」

「は?……何が?」

ラフィストの返事に、思わず滑ってこけそうになったキルトだったが、めげずにラフィス

トの耳へ耳打ちする。

「……ってんだろ」

「何、聞こえない」

「だから、ガーネットの事だって……―――」

ここまで言うと、キルトが一旦言葉を切り大きく息を吸う。嫌な予感がしたラフィストは

急いで離れようとしたが、時既に遅かった。

「言ってんだろーが、タコ!」

耳を思いっきり引っ張られ、そこに大きな声で叫ばれた為ラフィストの耳がキーンとする。

余りの痛さに蹲っていると、お間抜けな反応するからだと言って、キルトはさっさと他の

皆の所へ戻っていった。

「ラフィー、大丈夫?」

「だ、大丈夫……大丈夫」

ラフィストが顔を上げると、顔を覗き込んでいたらしいガーネットとバチッと目が合った。

驚いてラフィストが二、三歩さがるが、ラフィストを心配するガーネットが負けじとラフ

ィストの方へ詰め寄ってくる。すると、ガーネットがプッと噴出し、笑い出した。

「何か変」

「何が?」

「私達」

「俺達……?」

こくりとガーネットが頷く。

「だって、何だか遊んでるみたいで」

「ぷっ……確かに」

ガーネットの言い方が面白くて、ラフィストも思わず噴出してしまう。こうしたやり取り

をしていると、何だか疲れが取れたような気分になった。ラフィストがそろそろ行こうか

と声をかけると、皆が頷く。戦闘体勢を整えた後結界を解くと、同時に数多の敵が出てき

た。体力温存の為に出来るだけ戦わずに避けていったが、その全てを避けられる程敵は少

なくなかった。次第に敵の数もどんどん増えていく。木の根も複雑に絡み合っており、コ

アが近い証拠だった。人一人がやっと通り抜けられる程度の根の間を抜けると、少し広い

場所に出た。その中心から黒い光が漏れている。そこには何かの球体が、根によって隠さ

れるように存在した。恐らくあれがコアなのだろう。ラフィストの持つ創世の剣が光りだ

すと、急に球体から激しい光が放たれた。

「きゃあ!」

「うわぁっ!」

光と共に風圧の様な物が、ラフィスト達を襲う。それによって軽く十メートルは飛ばされ

てしまった。ガーネットが皆に回復魔法を施すと、癒しの光がラフィスト達を包んでいく。

前にあったコアが突如消え失せたかと思うと、代わりに一人の女性が姿を現した。

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