表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

−三十一章−〜前夜〜


今日は、グレイスとの約束の一日前。アンカースに行く前に、各自準備を整えようという

事になり、二手に分かれて行動する事にした。ラフィストが紙に阿弥陀を書いていると、

後ろからキルトが仕組むなよとせっついてくる。どうやらキルトはこの間のくじ引きを、

未だに不満に思っているようだ。

「はい、作ったから書いて」

先に自分の名を明記して、ラフィストが筆を置く。それぞれが線を足しながら、どんどん

名前を紙に書いていった。

「っていうかさ、何でいつも分かれる時、くじ引きする必要があるのさ?サッと分かれら

れない訳?……まぁ、もう諦めてるけど」

「俺もその意見に賛成だな」

残った所にティーシェルとサードが名前を書く。

「こうでもしないと、一部の人から文句がくるからね」

ラフィストはサードから阿弥陀の紙を受け取り、折りたたんだ部分を開いて線を辿ってい

く。全員分の線を辿り終えた後、ラフィストとキルトとマキノとナディア、サードとニッ

クスとティーシェルとガーネットで行動する事を告げた。

「あ、アデルさんはどうします?」

「んー……サードと一緒の方に行くよ」

取りあえず、六時に宿のレストランに集まる事に決め、ラフィスト達は二手に分かれて行

動を始めた。




まずは道具屋に行く事にしたラフィスト達は、今広場にさしかかっていた。しかし、広場

がやけに騒がしい。気になったラフィストは、広場にいる人に一体何があったのか尋ねた。

「実は……広場の裏の森でモンスターが出たんだが、誰も歯が立たなくてな。……困って

るんだよ」

「ラフィスト、どうする?」

「出来れば倒してあげたいと思ってるんだけど……皆はいいかな?」

行くのか、という意味を含んだキルトの言葉に肯定の言葉を返し、ラフィストは同行して

いる皆の意見を伺う。マキノやナディアは快く了解してくれ、キルトも納得してくれた事

により、ラフィスト達はモンスターが出たという森へ向かった。森の入口付近に、確かに

モンスターがいた。しかも、何やら見覚えがあるモンスターだ。

「あれは、確か……―――」

「あ、ほら!ラフィー、ドラゴンゾンビじゃなかったっけ!」

「ドラゴンゾンビなら、光魔法ね」

敵を確認した後にドラゴンゾンビの前に躍り出ると、ラフィスト達を捉えたドラゴンゾン

ビが襲い掛かってきた。

「ラフィスト、特訓の成果の見せ場じゃねえ?」

まず、敵との間合いをとる為に、キルトが勢い良くライジング・サンを投げた。見事に命

中し、敵が怯んで動きが止まる。ナディアが詠唱を始め、マキノが隙が出来た敵に踊りか

かろうとする。

「キルト……確かにな!―――これが俺の剣だ!神火告天破斬!」

ラフィストが剣に気を纏わせ、剣を振るう。その瞬間、凄い威力の剣圧が炎のようにうね

り、一気に敵を呑みこんだ。巻き起こった土埃に、ナディアは詠唱を止めて目を閉じ、踊

りかかろうとしていたマキノは、止まって顔を伏せる。視界が晴れると、既にドラゴンゾ

ンビは絶命していた。ラフィストの剣による鮮やかな勝利に、キルトが口笛を吹く。

「ラフィスト、やるじゃん」

ラフィストの肩を叩き、キルトがラフィストをはやしたてる。

「でも、倒せてよかった……」

「よくない!」

和気藹々と勝利を喜ぶ二人の後ろから、女性二人の声が発せられる。

「私、全然活躍の場が無かったじゃない!」

「マキノはまだ良いわよ!私なんて呪文唱える前に倒されちゃったから、ただ突っ立って

ただけよ!」

女性二人に詰め寄られ、タジタジになるラフィスト。女性の反感を買うと、後が大変であ

ると身に染みる思いだった。彼女らにとっては、ラフィストの剣よりも自分達の活躍の方

が大事なのだ。その事に心の中で少し涙しつつも、ラフィストは懸命に二人を宥め、町に

戻って道具屋に行こうと言った。怒りを収めた二人と、キルトと共に歩き出し道具屋に到

着した四人は店の中に入っていった。

「ねぇ、ところで何を買うのよ」

道具屋の中を物色しながらも、ナディアが首をかしげる。

「何って……魔力回復させる薬とか買ったり……後、補助アイテムとか」

「別に一日だけなんだし、良いと思うけど……」

「でもさ、どうなるかわかんねーよ、アネさん。ほら、それに備えあれば憂いなしって言

うだろ?準備はしっかりしといた方が良いぜ。それに、ここの特効薬は良く効くからな。

俺もちょうど買いたいと思ってた所だし」

「それもそうね」

返事をしながらも、そういった方面はラフィスト達に任せる事にしたらしいナディアは、

棚に並べられた物を何気なく見て回っていた。

「ナディアー。ちょっち来てー」

マキノに呼ばれ、ナディアが振り返ると肘に何かが当たった。慌てて品物を確かめるが、

壊れてはいないらしい。

「良かった……」

それを棚に戻した時、ふと横に目を遣ると、そこにはアクセサリーが並んでいた。ナディ

アはその中の一つを手に取り、立ち尽くす。なかなか来ないナディアに焦れたのか、マキ

ノがナディアの元に駆け寄ってきた。

「どしたの?……あ、可愛いー!ビーズの指輪だ」

「これ……」

「ナディア、これビーズだよー。ナディアは高い宝石とか、そういうのの方が良いんじゃ

ないの?」

「……何かさ、懐かしい。当たり前だけど、昔は宝石なんて買えなくって……欲しいなっ

て思って、一日中ウインドゥを覗いてた時もあったの。そしたら、弟が作ってくれたのよ」

「いい弟さんだったんだね」

「皆、もう行くよ」

ビーズの指輪を見つめていると、いつの間にか会計を済ませてしまっていたラフィスト達

が、店の入口付近から声をかける。マキノがどうするの、と問うとナディアは指輪を手に

持ち、先に行っててと言い残してカウンターへ向かっていった。

「あれ、アネさんは?」

マキノが一足先に店の入口に向かうと、ナディアと一緒でない事に気が付いたキルトが首

をかしげる。

「うん、ちょっと思い出を買いに行ったのよ」

何だそれ、訳わかんねえとキルトが騒いでいると、お待たせと言ってナディアが戻ってき

た。ナディアの指には、ビーズの指輪が綺麗に光り輝いている。それを見たマキノがにっ

こり笑ってナディアの耳に似合ってるよ、と囁いた。二人の間に漂う秘密の香りに、ラフ

ィスト達は顔を見合わせるばかりだ。

「何か、隠し事されてるみたいで面白くねえなぁ」

「んふふ……女の子同士の秘密よ。さ、次は何処に行くのかしら?」

「えっと、次は……携帯食料を調達しに……」

キルトが先頭に立ち、ならこっちの食料屋が安いぜとラフィスト達を手招きする。そして、

再び路地を歩き出した。




一方その頃、サード達は武具屋に向かっていた。

「ねぇ、サード。武器は揃ってるんじゃなくて?」

店に入りかけた時、ガーネットがおずおずと尋ねる。

「買うのは武器じゃない、防具だ」

そこまで言うと、一足先にサードが店の中に入っていく。その後に、四人が続いて入る。

すると、店の主人の威勢のいい声が、店の中いっぱいに響き渡った。

「取りあえず、自分に合う防具を選んでこい」

「サードは?」

「服の下にプレートを付けてるから、俺はいらん」

「ふーん……僕もいいや。この服魔防も、守備力も高いし」

そう言う二人とアデルを残し、ニックスとガーネットが防具を合わせ始める。

「ティーシェル、どんなのがいいんですの?」

「軽くて、出来るだけ守備も魔防も高い奴……例えば、これかな」

ガーネットに手招きで呼ばれたティーシェルが、一着を見繕いガーネットに手渡す。気に

入ったのか、早速試着を試みようとしているガーネットとは対象的に、ニックスは未だに

防具と睨めっこしている。

「んー……これもいいんだが、こいつも……ってガーネット、いいじゃねえか!」

試着を終えたガーネットに気が付いたのか、ニックスが声を上げる。余りにもニックスが

褒めちぎるので、ガーネットは少し恥ずかしそうだ。似合ってるよ、とアデルも感嘆の声

を漏らし、サードに至っては顔が真っ赤だ。

「サード〜……顔、真っ赤だよ〜!」

「う、五月蝿い!」

真っ赤な顔をしたサードをティーシェルがからかうと、サードはこう一声だけ述べた後、

ズカズカとニックスの元へ歩み寄る。そしてこれにしろと、手甲と胸当てをニックスに押

し付けた。つまり、これ以上からかわれないうちに、さっさとここから出てしまいたいの

だろう。ニックスはその事に気付いた様子も無く、じゃこれにするかと決めたらしい。防

具を買ったガーネットとニックスは、買った防具に変えて買い物を続ける事にした。

「何か、見たい物でもある?」

ティーシェルが皆に意見を聞くと、ガーネットがおずおずと手を上げる。

「私、食べ物屋さんに行きたいんですけど……」

「え?でもそれはラフィスト達が……ああ、おやつね」

付き合いの長いティーシェルが、ガーネットの言わんとしていた事を悟る。そして一同は

ガーネットの希望通り、食料品店へ向かった。




「これなら長持ちするし、腹持ちもいいぜ。味も悪くない」

「そうなのか?……じゃ、これにしとくか」

「いらっしゃいませー」

ラフィストとキルトが携帯食料を物色していると、店員の元気な声が店内に響いた。その

声と共に、別行動をしていた五人が店の中に入ってくる。店の入口付近にいたマキノがサ

ード達に気付き、駆け寄って行く。別れた時とガーネットの格好が違う事に気付き、マキ

ノが少し驚く。因みに、ニックスも防具を新たに身につけているのだが、根本的な服は一

緒だからかマキノは気にも留めていない。

「可愛いーじゃん!もう防具見てきたんだー。私達もね、この後行こうとしてた所なの!

んー、いいなぁ。私は今までの服でいいと思ってたけど、やっぱ変えちゃおうかなぁ……

あ!ラフィー!」

視界に入ったラフィストを、マキノが手招きする。

「ねー、可愛くない?」

「う……うん」

ラフィストは顔を赤くして、少し俯き加減に返事をする。普段とは違うガーネットの姿に、

完全に照れてしまったのだ。ラフィストの反応に、ガーネットも気恥ずかしくなったのか、

顔を真っ赤にしてお礼を述べる。

「ちょっとラフィー!おやつは五ギルまでって、一体どーいう……あ、ガーネット!」

「姫ー!」

怒った様子のナディアと、会計を済ませたキルトがその場にやってくる。二人とも、ガー

ネットの姿に驚いているようだ。

「いいじゃないの!似合うわ」

「姫は何を着ても似合うさ!」

「アンタが自慢してどうすんの!……そうだわ。食糧も買ったし、私達もそろそろ防具を

見に行きましょうよ」

何もしてなかったくせに、こういう時は現金だなアネさん、と言いかけたキルトの口を、

新たな火種にならないようにラフィストが塞ぐ。これ以上、女性陣に文句を言われるのは、

絶対に避けたいからだ。別行動の皆と別れて防具屋へと歩いていると、ナディアがラフィ

ストの傍に寄り、喋りかけた。

「んふふ、ラフィー。……ときめいたでしょ?」

「えっ……何が?」

さっきの事でからかわれたくなかった為、ラフィストはとぼけて見せる。しかし、マキノ

によってガーネットの事よと背中をバンバン叩かれて、あっという間に逃げ道を塞がれて

しまった。

「でもニックスも新しい防具を付けてたろ?マキノはどう思ったんだ?」

「な、何で私に聞くの!」

「そうだぜ〜、まずは姫さんについてだろ?」

話題を逸らしてしまおうとマキノに話を振ったが、そうはさせないとばかりにキルトが突

っ込む。その顔はニヤニヤしており、楽しいといわんばかりの表情だ。

「―――〜っ!可愛かった!ときめいたよ!」

と思わず叫ぶラフィストに、あら正直とナディアが言う。ラフィストがここまではっきり

言うのは、どうやら意外だったらしい。

「誰かさんと違って、ラフィーは正直者よね」

「もういいだろ!先入るよ、俺!」

乱暴に武具屋の扉を開けると、ドアについていた鐘が五月蝿く鳴り響く。構わずさっさと

武具屋の中に入っていくラフィストの後に続いて、キルトとマキノとナディアも店の中に

入っていった。

「じゃあ、見てくるね〜」

一人さっさと店の中を見て回るマキノ。

「私も見てこようかしら……二人はどうするの?」

特に必要が無かった二人は、自分達は構わないとナディアに返す。ナディアは、あ、そう

とだけ簡潔に述べると、マキノの後を追うように、店の奥の方へ行ってしまった。彼女達

の買い物が終わるまでここにいないと、絶対に怒るよなと溜息をつき、残された二人は近

くに置かれている椅子に腰掛ける。

「……男二人はちょっち寂しいかも……なぁ、ラフィスト」

「同感だよ」

残った二人はがっくりと肩を落とし、呟いた。そう、女の買い物は長いのだ。長丁場に備

えようと、キルトがちょっと抜けるなと言って店の外に出て行く。ラフィストがぼんやり

と店の中を眺めている間に、出て行ったキルトが戻ってきた。

「ほれ、ラフィスト」

「ああ、ありがとう」

キルトから手渡された物は、蒸しパンのような物だった。ここでは店の中で物食っても文

句言われないから安心しろ、いうキルトの言葉に聞き、ラフィストもパンに口をつける。

蒸したての美味しいパンを食べながら、遠目で女性陣の様子を眺めていると、何とも楽し

そうにしていた。

「きゃー、見て見て!可愛くない?」

「あら、マキノ。あなたそういうのが趣味なの?私は、こっちの方が……」

楽しそうに買い物をしている二人を横目で見た後、二人は特に見る必要も無い防具に目を

走らせる。あの様子からして、機能性とか防御力とかは全く考えていないのだろう。サー

ドに怒られなきゃいいけど、と思いながらもラフィストは他人事を決め込む事にした。サ

ードに文句を言われるのは自分ではないし、今あの空間に割って入って彼女達に文句を言

われるのは真っ平だからだ。それはキルトも同じらしく、彼女達の様子を黙って見ている。

「あーあ……どうせ買うとしてもたった一着だけなのに……」

「だよなー!たかが一着の為に……しかもアレ、絶対何も考えてねえぞ」

たかが一着。その為に、二人は長い事待たされている。蒸しパンも食べ終わり、欠伸が出

掛かった頃になって、マキノは漸く決まったらしい。試着を済ませ、それを買いに行った。

ナディアに決まったのか尋ねると、彼女はあまり気に入らないからか、結局今のままにし

たらしい。あんなに悩んで一着も買わないのかと思うと、長かった時間を思ったラフィス

ト達は一気に疲れたような気がした。買った服を手に持ったマキノが、ラフィスト達の元

に駆け寄ってくる。店の時計で時間を確認してみると、もう六時近かった。

「ラフィー、もう戻ろうぜ……何か、くたびれた」

「そ、そうだな……」

「あら、二人共体力無いのね」

ぐったりしている二人を、ナディアがキョトンとした目で見つめる。

「アネさん、これは何つーか……気疲れ?」

「ふぅん。じゃあ、精神的に弱いってワケ?」

いや、そうじゃなくてと食い下がるキルトに、無駄だとラフィストが止める。そして目線

でこれ以上疲れを増やす必要ないだろと訴えると、キルトが無言で頷いた。




ラフィスト達が宿に戻ると、レストランの入口に既に別行動をしていた皆が集まっていた。

サード達に全く疲れた様子は無い。あの様子だと、さっさと買い物を終えたんだろうなと

思い、少しうらやましく思った。そんな彼らの元に、お待たせと言ってマキノとナディア

が駆け寄っていく。

「まだそんなに待っていませんわ」

「そうそう……って何かラフィスト達、ぐったりしてない」

後ろからゆっくり歩いてくる二人を見て、食料品店で会った時は元気だったのにと、ティ

ーシェルが首を傾げる。

「ああ、二人が弱いだけだから放っておいていいのよ。ね、マキノ」

「そうそう」

ナディアとマキノの言葉に、まぁ大丈夫ならいいんだけど、とティーシェルが納得する。

女性二人の言葉を聞き、それは無いだろうとラフィストとキルトは思った。しかも今の言

葉は、そんな二人の心に更なる気疲れを与えた。

「俺、もう駄目かも……」

「お……俺も」

ラフィストが地面に崩れ落ち、その後にキルトが続く。今日は理不尽に責められてばかり

だと思い、自分の不幸を呪った。そんな二人の前に、ティーシェルがしゃがみ込んでヒー

ルかけたげよっか、と問いかける。

「ティーシェル、申し出はありがたいけど……いくら回復魔法でも精神面までは効かない

だろうし、いいよ」

「あら、精神面の回復魔法ならありますわよ」

ティーシェルの後ろから、ガーネットがニッコリ笑って言葉を続ける。本当は対精神攻撃

用の魔法なのらしいが、精神を安らげる効果も得られるらしい。ティーシェルがマインド

ウォールね、と呟くと確かにあれなら効果があるかもと付け足した。

「そんなのあるのか?お願いだ、ガーネット!やってくれ!」

「俺も俺も!」

「いいですわよ」

杖を持っていない為、二人の額に指を当ててガーネットが詠唱を始める。

「……気の流動が蠢く鳴動、呪禁の暁光でかの者の心の深淵に癒しの光を与えん!マイン

ドウォール!」

言霊の終わりと共に、ガーネットの指先から二人の額へ柔らかい光が流れる。

「何かすっきりしたな、ラフィスト!」

「ああ。ありがとう、ガーネット」

お礼など結構ですわと述べるガーネットの後ろで、僕も使えるのにと小さな声で呟き、テ

ィーシェルが落ち込んでいる。出番が無かった事は勿論、二人に頼られなかったのが不満

だったらしい。

「まあまあ、ティーシェル……あ、ほら!ガーネットの方が光魔法得意だし!ね?」

慰めようとしたナディアが、マキノに先を越されてしまい、不機嫌そうな顔になる。そん

なナディアの気持ちなど露知らずといったティーシェルが、彼女の目の前でマキノに礼を

述べる。それを見て、ますますナディアの機嫌が下降していく。ナディアは心の中で、テ

ィーシェルの馬鹿と悪態をついた。

「なぁ……何かよう、ナディア機嫌悪くねえ?」

ニックスが隣にいたサードとアデルに耳打ちする。

「知るか」

「あー、そうだよな。サードはそういう奴だもんな……―――」

半ば諦めたように溜息をつき、アデルの方に向き直る。

「んー、確かに悪そうだね〜。これは……―――」

「これは!」

「触らぬ神に、祟りなし!だねぇ」

少し期待していた事もあり、駄目だこりゃとニックスはガックリ肩を落とした。




最後にラフィストがハンバーグを注文し、オーダーを終える。

「ラフィー、それだけでいいんですの?」

「うん。……何かあんまり食べたくなくてさ」

二人のやり取りをじっと見て、次にニックスの方へ目を向けるマキノ。

「……ニックス、あんた食べすぎよ」

「そんな事ねーよ」

「そうよ、少しは緊張なさい」

「ナ、ナディアまで言うなよー!」

走行している間に、あっという間に料理が運ばれてくる。

「あーあ……明日か」

ナイフとフォークを持ち、ウインナーを切りながらティーシェルがボソッと呟く。

「早いものね」

横からナディアが、ティーシェルのウインナーを一つとって口に運ぶ。それを見たニック

スが、先程のお返しとばかりに大きな声を出す。

「あー!ナディアも食べ過ぎ!」

「い、いいじゃないの……」

「ニックスとナディアは同類項だね」

何それと文句を言うナディアを無視し、ティーシェルが切ったウインナーとブロッコリー

を口に運んで、さっさと席を立つ。

「御馳走様、もう寝るよ」

「早!」

ティーシェルのおやすみなさい宣言に、キルトが叫ぶ。ティーシェルはそれを気に止めた

様子も無く、今日位は早く寝た方がいいよと言い残して、早々にレストランを後にした。

「じゃあ、ティーシェルのは貰うわね」

残っている料理を当然といった風に、ナディアが皿を引き寄せる。

「あ!それは俺が狙って……」

「うるさいわね!レディーファーストよ!」

ティーシェルの皿に伸びたニックスの手を、ナディアがパシンと払いのける。完全に自分

の下に皿を寄せ、ナディアが料理を食べ始めた。その様子を、ニックスが半泣き状態でじ

っと見ている。

「二人共……がめついなぁ……―――」

二人に聞こえないよう、ラフィストはこっそりと呟く。そしてテーブルから目を逸らすよ

うに視線を窓に向けると、空には綺麗な満天の星空が出ていた。星の美しさに暫く眺め続

けていると、空に一筋の流れ星が流れる。ラフィストは何事も無いようにという祈りを星

に託し、明日へと想いを馳せていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ