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−二十五章−〜告げる過去〜

「……あれは俺が十一歳の時、つまり九年前だな。俺は、山間の雪の多い町に父と母と、

三人で暮らしていた。雪が降りしきるあの日……町に調査団がやってきた。そいつらは山

頂付近にある遺跡を調査しに来た、アンカースの連中だった」

「アンカース!?」

これから向かう目的地の名前が出た事で、小さなどよめきが起こる。

「山頂……遺跡……もしかしてそれって、ハーマル遺跡の事?」

ティーシェルの声にサードが一つ頷いて同意の意を示す。そして、俺はアンカース王国の

ハーマル出身だと短く告げた。まさかサードがアンカース出身だとは皆思ってはいなかっ

たようで、驚きで目を見開いていた。ただ一人キルトだけが、ラフィストに視線で言った

通りだろと告げている。

「マキノが出会った男はアデル=シュワイツァーと言って、若いながらも調査団の団長を

務めていた。―――……そんな彼と、アデルと初めて出会ったのはアデルが家に宿を借り

に来た時だった」

ハーマルには宿が無かった為、調査団全員がどこかの家を借りたのだという。そしてたま

たまアデルがサードの家にやって来たらしい。アデルの優しい人柄もあり、サードが異国

の話をせがむと彼は喜んで話してくれた。サードはそんなアデルについていく事を、その

時決めたのだと言った。




ハーマル遺跡の調査が終わり、アデルがアンカースに戻る日がやってきた。アデルは昨日

寂しくなるねと別れを惜しんでくれたが、サードはアデルと離れる気などサラサラ無い。

昨日皆が寝静まった時、家を出る為の荷物を一人でこっそり纏めた。後はアデルや両親を

説得するだけだ。サードはアデルのいる部屋をノックすると、一つ深呼吸して中に入った。

「サード、どうしたんだい?」

「ねえ、アデル。……お願いだよ、俺も一緒に連れて行ってくれよ!俺もアデルのように、

外の世界を見たいんだ!」

サードがこう告げると、案の定アデルが驚いた顔をする。その次にアデルが浮かべた表情

は、いかにも困ったといった顔だった。でもなあと渋るアデルに、サードが必死にくらい

つく。すると、とうとうアデルは音を上げたらしい。自分ではなく、両親に説得してもら

おうと思ったのだろう。両親と相談しておいでと一言告げた。こうなるとアデルには悪い

が、サードは両親を説得する自信があった。サードが両親にアデルの元に行きたいという

意思と、その理由を告げる。サードの熱のこもった言葉に、両親は中途半端に帰ってこな

い事を条件に許してくれた。両親の了解を得て早々にアデルの元に戻ると、アデルはやっ

ぱり駄目だったのだろうという顔をする。そんなアデルに了解を得た事を告げると、アデ

ルは驚きの声を上げた後、諦めたかのように溜息をついた。

「……言っとくが、末席とはいえお前はアンカースの兵士になるんだ。ついてくる以上、

厳しい訓練をお前につけるぞ。それでもいいんだな?」

「俺、アデルと同じ魔法戦士になる!その為にも頑張るよ!」

人間、こんな事を言われて嬉しくない者などめったにいない。アデルも例外ではなく、そ

の頬を緩ませていた。

「仕方ないなー」

アデルはサードの頭を一撫ですると、両親にちゃんと挨拶をした後に荷物を持って、村の

入口にくるよう告げた。それから二年の間、サードは常にアデルについて行った。城での

訓練の時も、他国に調査に向かう時も、アデルと一緒に日々を過ごし時を重ねていった。

アデルの厳しいといった言葉に嘘はなく、アデルと剣を交える時はいつも満身創痍になる

ほどだった。アデルは部下だけではなく、上の将軍達にも一目置かれているらしく、時に

はそういった人達にも稽古をつけて貰えた。辛かったが、同時に楽しかったとも思う。ア

デルの訓練の賜物でもあるが、元々サードにも剣の才があったのだろう。二年後には魔法

剣士の称号を与えても良いというレベルにまで、サードは腕を上げた。サードがアデルに

呼び出されたのは、そんな時だった。

「サード、ちょっとついてこい」

「何?」

「くおら!何ではなーい!」

そういうアデルを何ですか、団長とサードがかわすと、アデルはちょっと歩くぞとサード

に告げた。調査場に向かう為に、途中立ち寄った町からどんどん離れていく。何処まで行

くのだろうとサードが思っていると、草原に出た所でアデルが歩みを止めた。

「これをやろう」

アデルがサードに三つの魔石を差し出す。サードはアデルが魔法剣士になる事を認めてく

れたのだと思い、純粋に喜んだ。サードが感謝の気持ちをアデルに告げようと顔を上げた

時、その瞳に映ったのは真剣な顔をして自分に剣を向けるアデルだった。

「え……アデル?」

「サード、真剣勝負だ」

何を、というサードの疑問に答える事も無く、アデルが切りかかってくる。サードは必死

に攻撃をかわし応戦するが、サードの敵うレベルの相手ではなかった。小石に躓き、転ぶ。

いつものアデルならば、仕方ないなといって手を差し伸べてくれる所だ。しかし、そこに

いたのは鬼のような形相をした一人の剣士だった。冷たく剣を取れと言い放つ。サードは

立ち上がると、アデルに習った方法で魔石を使い、剣に炎を纏わせる。そんなサードの攻

撃を容易く受け止めると、アデルは剣に風を纏わせサードに向けて技を放った。

「真空剣!」

二重の風の刃が、サードを襲う。それは容赦なくサードの全身を切り刻んでいった。サー

ドは必死に立ち上がろうとするが、足に激痛が走る。血が止め処なく流れ、意識もはっき

りしない。とうとうその場に崩れ落ちてしまった。倒れたサードの元に、アデルが剣をし

まいつかつかと歩み寄ってくる。

「ア、デル」

「―――……サード。お前の剣の腕は上達したとはいえ、まだまだだ。自分の実力を思い

知ったか?」

それだけ言うと、アデルは踵を返し歩き始める。直感した。自分はこの場に打ち捨てられ

ていくのだと。サードは必死に何でなんだと叫んだ。理由も知らず、このままアデルに捨

てられていくのは嫌だった。そんなサードに告げられたのは、役に立たない者はいらない

という、無常な言葉だった。

「そ、そんな……。アデル、嘘だよな」

その問いにアデルは答えない。歩いていくアデルの姿がどんどん小さくなる。アデルの姿

が完全に見えなくなった時、サードは声がかれるほど泣き叫んだ。




興味津々といったマキノが、サードにその後の事を尋ねると、サードは血が止まらなくて

動けなかったが、回復の魔石を見つけた事で何とか助かったのだという。魔石など、そこ

らに落ちている物ではない。アデルがサードの為に置いていったのだろう。

「あ、もしかしてサードがアデルと別れたのは……」

「そうだ。ランツフィートが侵攻される、一ヶ月前の話だ」

恐らくアデルは、サードを切り捨てたのではないだろう。国の異変にサードを巻き込むま

いとした結果だったのだ。その時アデルがアンカースで重要な役割を担っていた事が、後

に調べた結果わかったらしい。そして、五年前世界樹のあった島付近で失踪した事も。そ

れを知ったサードは、アデルを探す為今まで旅を続けていたのだと告げた。

「だけど、アデルさんを探してどうするつもりなんだ?」

「アデルの真意が知りたい。……あの時の俺は幼すぎた。俺が未練を残さず別れるようし

向ける為、アデルがあの時戦った事になど気付きもしなかった。アデルと別れた何年かは、

俺を切って捨てたアデルを憎んでいたほどだ。その憎しみは、俺自身すら変えてしまった

……今の俺に会う資格など、ないかもしれないがな」

「大丈夫ですわよ」

自嘲気味に俯いて笑うサードに、ガーネットが笑って言った。

「変わらないものなど、滅多にありませんわ。あるとすればそれは想い。あなたがアデル

に会いたいという、その純粋な想いですわ」

ガーネットの言葉に、サードの口元に笑みが宿る。

「そうか……」

「そうだぜ、サード!な、マッチョもそう思うだろ!」

「おう!アデルさんは生きてるって事が分かったんだしよー!」

珍しくキルトとニックスが一致団結してサードを励ましている。それにしてもニックスは、

段々マッチョと呼ばれる事に抵抗が無くなっていっている様だ。

「サード、アデルさんにはきっと会えるさ。旅の目的がアンカースという以上、彼の行動

と交わる時がくるかもしれない。だから、これからも一緒に頑張ろうな!」

「ああ」

ラフィストは、サードの話が聞けて良かったと思った。今まで以上に、サードと言う人間

を知る事が出来たし、仲間だという意識が自分の中で高まったからだ。言っちゃって楽に

なったんじゃないのとからかうナディアをかわし、サードがマキノにアデルと何処で会っ

たのか尋ねる。マキノが夕方の事を思い出しながら、宿を出てちょっと行った所だと告げ

ると、サードがガタッと音を立ててその場を立ち上がった。

「サード?」

「ラフィスト……悪い。俺は先に帰る!」

剣を手に取り、サードが店の外に走っていく。一同が止める間もなく、サードはあっとい

う間に走っていってしまった。自分達も行くべきか迷ったが、ガーネットがそれを止める。

ガーネットの言う通り、今はサードのしたいようにさせてやろうと思い、その場に留まっ

て暫く話でもする事にした。




宿の裏庭に出て、空に浮かぶ満月を一人眺める。美しい夜だった。今日は色々な事があっ

たと思う。懐かしい人物の名前も聞く事が出来た。目的の物はこの町でも見つからなかっ

たが、彼の安否を知れただけでも良かったのだと思う。そんな事を考えていたアデルの元

に、誰かが近付いてくる。

「アデル!」

「……サードか。大きくなったな」

「大きくなっただけじゃない!俺は……俺は強くなった!あの時のように、無知で無力な

俺じゃない!」

「そうか……もうそんなに……七年か」

サードに背を向けていたアデルが振り向く。あれから色々あったのだろう。少し、やつれ

たようだとサードは思う。

「アデル、教えてくれ……お前に何があったんだ?何で俺を戦に巻き込まないよう、突き

放したりしたんだ?」

サードがアデルに詰め寄る。アデルはそろそろ話しても良い頃だと思ったのか、ゆっくり

と語り始めた。

「俺は、関係ないお前を巻き込みたくなかった。それにあの時、城の中では良くない噂が

あったしな……」

サードが、もしかしてあの魔導士の事かと尋ねると、アデルは頷く。そして五年前重要な

情報を掴み、それによって消されかかったのだと言った。

「重要な、情報?」

「魔導士と共にアンカースに居る、グレイスという存在の復活方法だ」

アデルによると、グレイスは不完全な状態なのだという。まずは魔導士よりもそっちを何

とかしようと思ったらしく、グレイスの復活を食い止める事にしたらしい。それにはルー

ン聖石を探し出し、それを破壊する必要があるのだと彼は言った。

「サード、どんなに些細な事でもいい。ルーン聖石について知っている事があったら、教

えてくれ……頼む!」

アデルの訴えに、サードが迷う。ルーン聖石について自分は知っている。仲間の一人が持

っている物だ。それを告げればアデルは喜ぶだろう。しかし、アデルはルーン聖石を壊す

と言った。あれはティーシェルにとって大切な物だ。それを壊すとなると、彼は非常に悲

しむかもしれない。だが、サードはアデルの役に立ちたかった。小さな声で、仲間が持っ

ている事を告げる。

「どこにいるんだ!サード、案内してくれ!」

アデルの頼みにサードが頷く。二人は、その場から離れ、歩き出した。




あれからレストランで話した後、ラフィスト達は宿に戻る事にした。今はその帰り道の途

中である。突如、何かに気付いたらしいティーシェルが空を仰ぎ見る。

「ティーシェル、どうかした?」

彼の様子に気が付いたナディアが声をかけるが、ティーシェルは言葉を濁した返事を返す。

少し思案した後、ラフィスト達に散歩してから戻ると告げた。いつもと違う態度に、ナデ

ィアが自分もついて行くと言うが、ティーシェルによって強く拒まれてしまった。渋々つ

いていくのを諦めたナディアにすぐに戻ると声をかけると、ティーシェルは広場の裏手に

ある森の方へ走っていった。森の中に入り、完全に一人きりになったティーシェルは息を

整える。辺りに誰かいる様子は無い。

「出てきなよ!……そこに、いるんだろ?」

そう言うと、待っていたかのように黒いローブを纏った男が姿を現す。禍々しい気配と、

強い魔力。おそらくコイツがアンカースにいる魔導士だと確信する。

「お前が、アンカースにいる魔導士か……」

「あなたこそ、私に気が付いたからこそ、ここへきたのでしょう?」

よくもまあいけしゃあしゃあと、と思う。これ見よがしに自分にだけ魔力の波動を送って

おいて、気が付いたからときたもんだ。ティーシェルが短く何の用、と言うと魔導士は自

分と一緒に来るよう告げた。答えず、無言で魔導士を睨み、嫌だといったらと問う。

「少し、大人しくして頂くだけです」

そう言って魔導士が出した物は、かかった相手を眠らせるスリープの杖だった。相手が実

力行使をする気だと分かり、さっと応戦の構えを取り呪文の印を結ぶ。

「ジューティリアムオクサイド!」

もの凄い量の水が発せられ、魔導士を襲う。あっという間に、魔導士は飲み込まれてしま

った。ティーシェルが止めとばかりにもう一発放とうと、詠唱を始める。しかし、みるみ

るうちに相手を襲った水が無くなっていく。再び眼前に現れた魔導士はまるで無傷だ。

「な……なぜ?」

効かないと言いかけた瞬間、辺りに鈴の音が響き渡る。それと同時に、ティーシェルの瞳

が閉じられ、地面へと倒れこんでいった。スリープの杖が発動したのだ。

「くくく……流石グレイスめの杖。いかなる魔法をも受け付けんわ……」

地面に倒れたティーシェルの腕を掴み、魔導士がワープする。そこにはティーシェルの杖

だけ残されていた。




ティーシェルと別れたラフィスト達が歩いていると、前方からサードと一人の男が走って

きた。サードと一緒にいるのがアデルなのだろうと思い、ラフィストはサードにどうかし

たのか聞いた。サードはそれに対して簡潔に、ティーシェルはいるかと尋ねる。ラフィス

トがティーシェルなら散歩に、と言いかけた瞬間鈴の音が響き渡った。

「この鈴の音は……まさか!サード、あっちだ!」

アデルが真っ先に鈴の音がした方へ駆けていく。サードもアデルの後を追い駆けていった

事で、何かあったのだと悟った。ラフィスト達も彼らを追って走り出す。いち早くその場

についたアデルが、地面に落ちている杖を拾い上げる。そのすぐ後に、サードがアデルに

追いついた。アデルはどうかしたのかと聞くサードに、手に持った杖を見せる。

「それは確か……―――ティーシェルの」

「やっぱりな……」

「やっぱりって、どういう事だ?アデル!」

そこに漸くラフィスト達が到着し、二人の元に歩み寄った。アデルはラフィスト達に気付

き、再び杖の所有者を確かめる。同じ杖を持っているガーネットが確認し、名前まで御丁

寧に彫ってありますし、間違いありませんわと告げた。

「くそ!先手を打たれた!」

木に拳をぶつけ、やりきれない思いを露にする。そんなアデルに事情を尋ねると、ティー

シェルがアンカースに連れ去られた可能性が高いといった。ルーン聖石について話し、き

っと目的はルーン聖石だろうと付け足す。事の事態を察知し、今すぐアンカースに向かう

事にした。アデルが、懐から一つの石を取り出す。

「ここに帰還の石が一つだけ残ってる……俺はアンカース城に行った事があるし、これを

使えば今すぐアンカースに行く事が出来る。ただ、問題は帰りだな……」

俺はワープを使えないしと言うと、ナディアがワープを使うと言った。

「だがこのメンバーの数じゃ、多すぎて目立つな……」

サードの呟きに、アデルが頷き今回は救出に専念すべきだと告げ、精々4、5人程度で行

くべきだと付け加える。ラフィストがアデルに協力してくれるよう頼むと、アデルは自分

の目的の為にも協力すると述べた。結局、アンカース内部を知っていて行く事の出来るア

デルと、仕掛け対策にキルト、ワープ要員にナディア、万が一に備えて戦士系のラフィス

トとサードが行く事になった。

「ラフィー、私達は宿で帰りを待っていますわ。……ティーシェルの事、よろしくお願い

致します」

「ああ、無事に連れて帰ってくる!」

残るガーネットとニックスとマキノにそう力強く告げ、ラフィスト達はティーシェル救出

にアンカース城へ向かった。

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