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−二十一章−〜約束〜


「うっわ〜、美味しそう!」

マキノがテーブルに並んだ料理を見て声を上げる。そこには高級料理店に出てくるような

品々が沢山並んでいて、いかにもティーシェルらしいメニューだった。テーブルに付きな

がら、ナディアがあんたの料理基準ってこれだったっけと呟いている。キルトやニックス

は我先にと料理を口にしようとする。まだ全員揃ってないでしょ、とナディアが二人の手

をバシっと叩くと、そこにラフィストとガーネットが入ってきた。

「あ、ラフィスト!ガーネット!……もう大丈夫なのか?」

心配してくれたニックスに、ラフィストはもう大丈夫ってと返す。そして、テーブルの上

の物に気付き、これ全部ティーシェルが作ったのかと驚いた。まぁね、と自信満々に返し

た後、明日は世界樹の所につくし、しっかり食べないとねとティーシェルが言った。操縦

者のグランを含み、全員がその場に揃った事で一同は食事を開始する。

「超うま〜い!さっすがティーシェル!―――……ティーシェルみたいな旦那さん持った

人って、幸せ者よね〜!」

「ありがと」

料理を頬張りながら、マキノがウットリしている。ティーシェルの方も誉められて悪い気

はしないのか、少々顔が赤い。ティーシェルみたいな旦那さんという言葉にショックを受

けているニックスを小突き、もっとしっかりしなさいよアンタ、とナディアが鼓舞する。

その後ティーシェルの反応に気付いたナディアは、ニックスにかまけてる場合じゃないと

一人心の炎を燃えたたせていた。

「ナディア、食べないのか?」

食事の手が止まっているナディアに、ラフィストが声をかける。ナディアは食べるわよ、

と言うと料理をガツガツ食べ始めた。

「アネさんは食い意地が汚い……っと」

その光景を見ていたキルトがメモを取り出し、メモり始める。それに気付いたナディアが、

キルトを睨む。

「誰も食い意地なんか汚くないわよ!」

「いや〜ん、アネさんこわ〜い!」

キルトのふざけた声に、ナディアの血管の切れる音がする。礼の如くナディアがこのまま

暴走し、万が一呪文が発動でもしたら、この船は沈没するだろう。最悪の事態を脳裏に想

像し、全員が一斉に席を立つ。落ち着けとナディアを止めに入るが、ナディアの耳に皆の

声は全く届いていない。

「も……もうダメだ……」

「アンカースで死ぬならまだしも、こんな死に方だけは絶対嫌ー!誰か、何とかしてー!」

ニックスがテーブルの下に潜り込み、マキノは大声を上げる。その瞬間、ナディアの動き

がピタリと止まった。恐る恐る彼女に近付き、ナディアと声をかける。

「―――……呪文、使えない」

「な、何ー!?」

今度は恐怖でなく動揺が一同の間に走る。もしかして、世界樹に近付いている事による影

響なのだろうか。そう思いどうしようか慌てていると、ティーシェルが落ち着いてよ、皆

と至って冷静な声を出す。

「僕がスペルロックをかけただけだってば。こんな所で沈没、嫌でしょ?」

船室が一瞬静まり返った後、皆が黙って席に戻る。そして妙な雰囲気で食事が再開された。

食事を終えたサードが付き合いきれんと言って、早々に席を立ち部屋に戻っていく。普段

なら引き止めたり茶化したりする他の皆も、それを引き止める訳でもなく、あ、うんと言

って流してく。この場に流れるシュールな空気を変えようと、俺達も早く寝ないとな、と

ラフィストが元気な声を出す。こう言いながら、このメンバー個性強すぎるよなと内心ひ

っそり思い、何だか疲れてきたなと思った。ラフィストももう休もうと席を立つと、ナデ

ィアが、あ、そういえばと話し出した。

「ティーシェル、いつぞやの合成魔法の話だけど……―――」

何の話だ、と席を立ちかけていた面々が戻ってくる。結局操縦者のグランと、サード以外

の全員がその場に残った。マキノが興味深そうに、それって何なのとナディアに聞いてい

る。ナディアは皆に、二人で同時に魔法を放つつもりだと説明する。それってかなり難し

いんじゃ、とラフィストは簡単に言い放ったナディアに呆れたが、ナディアは完成すれば

大きな戦力になるからと返した。

「ですけど、どんな風にやるんですの?」

「そうそう、私もそれを聞きたいのよ。私もあれからいくつかの合成魔法を完成させたけ

ど……それを合わせるとなると、話は別じゃない?」

ナディアの言葉に、ティーシェルはそうそこなんだよ、と返す。

「あれから僕も色々考えてたんだけど……ほら、相反する属性の魔法が合わさると、消滅

するだろう?」

「そーだったのぉ!?」

「何、お前知らなかったの?」

ニックスに馬鹿にされ、マキノがむくれる。テーブルの下でニックスの足をガンッと蹴る

と、どういう事か教えてとティーシェルに説明を求めた。

「つまり、相手が呪文を唱えて、発動させるだろ?その瞬間、自分が反対の属性の呪文を

唱えると、同じ位の威力ならうまく消滅できるんだ。こっちの威力が大きいなら多少のダ

メージは与えられるし、まぁ無いと思うけど相手の威力が強い場合でも、受けるダメージ

は格段に減る」

「アンタ……こっそりと自意識過剰よ?」

ナディアには言われたくないね、とティーシェルが一蹴すると、ナディアが腹を立てて怒

鳴る。隣に座っているラフィストが、まあまあとそれを宥めた。

「それにしてもこのスペルロックって気持ち悪いわ!さっさと解きなさいよ」

寝て起きれば直るし、いつきれるか分からないからそれはダメと返され、ナディアが悔し

そうな顔をする。それを見たキルトはキラキラと目を輝かせている。

「って事は、今日はアネさんの裁きが無い!イコール、何をしてもいい!?」

やった、何しても痛い思いしなくてすむぜとキルトがはしゃいでいると、どす黒いオーラ

を醸し出しているナディアがキルトの背後にスッと立つ。

「うふふ……私、攻撃魔法しか出来ないけど、強力な黒魔術も会得しているの。アンタ、

変死体になりたい?いいわよ、お望みなら叶えてあげる。……その前に私には強力な拳も

残されている事を忘れないでね」

「ナディア、話がずれてるって……」

仲間内で争わなくても、とラフィストは再度宥めると、ナディアにラフィストは優しすぎ

るのだと怒鳴られる。突然の大声に、ラフィストの心臓はバクバクする。そんな怒鳴るよ

うな事じゃないような気がするがと思うが、とりあえず余計な事は口にしない事にした。

そこに本題に戻るけど、とティーシェルが話を切り出す。

「僕達が得意なのって相反属性だろ?理論的に考えると、消滅を防ぐ為に多少威力は落ち

ても同じ属性を使うか、水と雷のように比較的相性の良いものを使うかだと思う。……そ

れと、一種の賭けのようなものだけど……」

「何よ、もったいぶらないでさっさと言いなさいよ!」

「思い切って、相反属性を使う」

「え!」

どよめきがおこる。先程ティーシェルは消滅すると言っていたはずだ。それなのに、相反

属性を使うとはどういう意味なのだろうか。ナディアは、そんなの消滅するに決まってる

じゃない、常識よとティーシェルにくってかかる。ティーシェルはそれは下級、中級の魔

法の話だと言った後、最上級クラスの魔法は自身に膨大なエネルギーがあるから、反発す

る時に新たなエネルギーが生じる可能性があると述べる。

「確かに、それが成功すればもの凄い魔法になると思うけど……最上級クラスの合成魔法

なんて、かなり疲れるわ」

考え込み、煮え切らない態度を返す。今まで誰もやった事が無い事だ。不安などがあるの

かもしれない。しかし、それが出来れば切り札として使えるのは間違いないだろう。迷っ

ているナディアに、普段は同じ属性のものを使っていればいいとティーシェルは言った。

「でもよ、それって実際にはどういうものになるんだ?……ガラスを熱くしたところに水

を垂らすと割れるっていうアレか?」

ニックスが珍しくマトモな質問をする。ティーシェルはそれに近いものかもしれないね、

と答えた。それを聞いて、やっぱ俺には魔法無理だなとニックスが頷いている。確かに理

論構築の世界にはラフィストもついていけないと思ったので、ニックスの言葉に心の中で

賛同する。皆が話している中、ナディアが一人黙って考え込んでいたが、少し考えさせて

頂戴と言い残すとその場から立ち去って言った。

「あ、でも……ねぇティーシェル。さっきの例みたいに、水と雷とかなら反対じゃないん

でしょ?ならどうして威力が落ちちゃうの?」

必死になって話を理解しようとするマキノに、ティーシェルがそれは先天属性があるから

だと言った。先天属性って、と頭に疑問符を浮かべるマキノに、最初から備わっているそ

の人の属性だと告げる。大抵の場合、自分の得意な系統はこの先天属性に左右される事が

多いらしい。ティーシェルとナディアの二人も、例に漏れずそれぞれの先天属性を得意と

しているようだ。

「その話、ティーシェルが仲間になってすぐの頃に聞いたよな」

そうそうと思い出して言い出したラフィストとニックスに、ティーシェルが頷く。自分の

知らない話になった事で、マキノは少しむくれているらしい。で、どうしてダメなのと声

を張り上げた。

「ナディアの先天属性は炎だし、僕は水だ。例え使う魔法の相性が悪くなくても、半端な

魔法じゃ先天属性に影響を受けちゃうんだよ」

「それであえて、相反する自分達の先天属性を使うのか……でも、危険なんだろ?成功す

るっていう保証も無いし。大丈夫なのか?」

それでも、とティーシェルは呟くとそれっきり黙りこんでしまった。特に何か話す訳でも

なく、沈黙のまま皆が席に座っている。これではキリが無いと思ったラフィストは、明日

に備えて今日はもう休もうかと促し、部屋に戻った。




ゆっくりと伸びをし、個室の窓の外から景色を見渡す。昨日とはうって変わって青空が広

がり、清清しい天気だ。鳥の鳴き声まで聞こえてくる。昨日までの不安が嘘のように、目

覚めたラフィストの心は穏やかだった。こんなに目覚めのいい朝は久しぶりかもしれない。

船室に行くと、キルト以外の皆が揃っていた。いつもはぐっすり寝ている皆も、今日ばか

りは早く起きたらしい。

「ラフィー、いよいよですわね」

「ガーネット……―――そうだな」

自分と、皆を奮い立たせるように自信に満ちた笑みを浮かべる。ラフィストの笑みを見た

皆の顔にも笑みが溢れた。そこにキルトが欠伸しながら入ってくる。

「ふぁ?……あれ、皆起きてたのか」

いつも遅いくせに何で今日は早いんだと一人文句を垂れている。そんなキルトに、一番最

後に来て文句ばっか言ってんじゃないわよ、とナディアが突っ込む。座って朝食をとり始

めると、グランがやってきて目標の座標に到着した事を告げた。一同は準備を整え、船内

から甲板に移動した。カダンツやトラートで聞いた話通り、島のあった場所には何もなく、

ただ海が広がっているだけであった。

「この下に世界樹が……」

海を覗き込み、ラフィストが呟く。海の底は真っ暗で、島が沈んでいるとは思えない。こ

れからこの中に入るんだと、ラフィストはゴクリと唾を飲む。サードがティーシェルに呪

文を催促すると、ティーシェルは杖を掲げて詠唱を始める。緑色の光が彼を包み、辺りに

ルーンの呪が現れ始めた。詠唱が終わり杖から光が発せられると、透明な水の膜がラフィ

スト達を包み込む。これで水の中でも大丈夫だという彼の言葉を受け、一同は一斉に水の

中へと入っていく。

「わぁ!綺麗ー!」

周りには魚が沢山泳いでおり、光が差し込む水の中は神秘的な雰囲気を醸し出している。

マキノはこの光景に綺麗だと騒いで感動しているし、他の皆も珍しい光景に辺りを見回し

ながら目を輝かせている。

「―――……私、海の中なんて見た事も無かったし、それにカナヅチだし……何だか損し

た気分」

「ガーネット。今度、俺が泳ぎを教えてあげる。大丈夫、すぐにうまくなるさ」

「本当?じゃあ、約束ね」

「ああ。世界が平和になったら、必ず教えてあげるよ」

ガーネットと他愛の無い約束をしながらラフィストは思っていた。平和になったら、皆は

またそれぞれの生活をスタートさせるのだろう。一つの所に落ち着くかもしれない、世界

中を旅して回るかもしれない。自分だってどうしようか決めかねている。ホールスに戻る

のか、それとも、と。でも、平和になってもガーネットと一緒にいられたらいい。その想

いがラフィストに約束の言葉を紡がせた。こうぼんやり考えていたら、世界樹の傍に着い

たらしい。大きな木が見えてくる。世界樹の元へうまく入れたとしても、皆一緒だとは限

らない。ラフィストは新たに気合を入れ直した。

「いよいよだな……」

眼下にはっきりと世界樹らしき樹と、島が見えた。どうやら島の周りにも、ラフィスト達

を包んでいる魔法のようなものがかかっているらしい。ただ唯一異なる点は、島を包む光

が赤い事だ。一同は顔を見合わせて頷き合い、意を決して赤い光に手を触れる。その瞬間、

カッと光が目に飛び込んでくる。あまりの眩しさに目を閉じたラフィスト達は、その光に

飲まれていった。

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