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−二十章−〜赤の守り石〜


段々天候が崩れ始め、波が荒くなってきているのか船の揺れが激しくなる。流石にこのま

まガーネットを外にいさせる訳には行かなかったので、ラフィストはガーネットを呼びに

外に出た。外に出ると、まだガーネットは船の縁から身を乗り出して、気分悪そうにして

いる。中に入った方がいいと言う為、ラフィストがガーネットの所へ近付こうとした瞬間、

大きく船が揺れて傾いた。

「うっ……わ!」

ラフィストは近くにつかまり、何とか転ぶのを免れる。早くガーネットを船室に入れなけ

ればと思い顔を上げると、さっきまでいたはずのガーネットがいない。

「ガーネット!」

船が揺れるのにも構わず、ラフィストは船の縁に走りよる。そこから海を覗き込むと、ガ

ーネットが海に放りだされていた。気分の悪さと海の冷たさで、意識が無いのだろうか、

ぐったりとしたガーネットが海に飲まれていく。誰かを待っている時間など無い。ラフィ

ストはそう判断し、海に飛び込んだ。

「ちょっ……ラフィー!」

様子を見に来たらしいマキノの叫び声が響き、足音が遠ざかる。海に飛び込んだラフィス

トを見て、皆を呼びに行ったのだ。ラフィストはマキノが自分の名前を読んだのにも気付

かず、懸命に荒れ狂う海を掻き分け泳いだ。ガーネットと自分の距離はどんどん遠ざかっ

ていく。水は冷たく、体が冷えていき掻き分ける力も弱まっていく。

「く……そ!もう少し!」

めいっぱい手を伸ばすと、ガーネットのマントに手が触れた。ラフィストはマントを引っ

張り、ガーネットを自分の傍に引き寄せる。そして、引き離されないよう、彼女の体をし

っかりと掴んだ。何とか船まで戻り、船の周りについている網を伝って上に上ろうとする。

波の抵抗力が強く、思うように船に戻れない。そう思っていると、上からぐいっと引っ張

られた。

「……っ!」

引っ張られた反動で、ドッと甲板に体をぶつける。ラフィストの傍には、荒い息をしたニ

ックスとサードがいる。彼らがラフィストを引き上げてくれたのだろう。そこに他の仲間

達が駆け寄り、倒れこんでしまっているラフィスト達を引っ張って、船内に引き入れた。

マキノがすぐさまガーネットを部屋に運び、彼女の濡れた服を脱がせて体を温める。海に

飛び込んだラフィストも、全身びしょ濡れだったので服を脱いで着替え、毛布に包まった。

暫くしてマキノに呼ばれたティーシェルがその場を離れ、船室はマキノとティーシェル以

外の者だけになる。キルトに入れてもらったお茶を飲み、体も温まって漸く一心地付くと、

ナディアが話しかけてきた。

「でもラフィー、いきなり飛び込むなんてカッコイイじゃない!」

「そ……そうかな」

「これはポイント高いわー……きっと、ときめいたわね!」

「えぇ!?」

「おい、海に入って体力消耗してるんだ。静かにしてやれ」

サードがからかわれているラフィストを見かねて口を挟むが、逆に、勿論引っ張り上げた

サードもカッコ良かったわよとからかい倒される。そこに、マキノに先程呼ばれたティー

シェルが戻ってきた。

「あ、ティーシェル。どうだったよ?」

ニックスがガーネットの具合について尋ねる。ティーシェルが水もあまり飲んでないし、

回復魔法もかけたから大丈夫と言うと、一同はほっと息をつく。ガーネットの事はマキノ

に任す事に決め、このままぼんやりしているだけなのも何なので、世界樹についた時の事

を再び話し始めた。

「やっぱりよー、きちんとした事を聞いといた方がいいんじゃねえ?」

「あ、俺もそう思う。気が合うじゃねえかマッチョ!」

「だーかーらー、俺はマッチョじゃ……―――」

大声を上げてキルトにくってかかるニックスを無視し、ティーシェルがラフィストとサー

ドに意見を求める。サードは二つの魂の謎と、大きな災悪とは何なのかをまず聞くべきだ

と主張する。そこにラフィストが、ルーン聖石が存在している理由も聞いてみてはどうか

と付け加えた。

「しかし、何故今更死んだとされる創世神の名前が、出て来るんだろうな……」

「……グレイスの事か」

ラフィストの疑問に、サードが反応し呟く。ラフィストがグレイスについて何か知ってい

る事はないか皆に尋ねると、智の神ということしか知らないという返事が、ティーシェル

から返ってくる。更にキルトによると、創世記の中からはグレイスの事が殆ど抜け落ちて

いるらしい。よってどんな知識人に聞いても、ティーシェル程度の反応が返ってくるのが

関の山だという。

「でも、知らねえじゃすまねえだろ?本当にソイツがアンカースにいるんならよ」

「だよなぁ……」

ニックの言葉に一同は、はぁっと溜息をつくと黙り込む。アンカースにいるという事は、

戦う可能性が高いという事だ。それなのに、相手の事を何一つ知らないで挑みかかるのは、

無謀としか言いようが無い。静まり返り、暗くなった雰囲気を払拭するように、ニックス

が明るい声を出した。

「それよりよ、二つの魂って誰の事なんだろうな!」

「はいはーい!俺!」

キルトが思いっきり立ち上がり主張するが、ナディアに却下と言われ、一刀両断される。

即答に近い形でばっさりとやられた為、キルトもショックを受けているようだ。テーブル

にのの字を書いてかなりへこんでいる。

「僕はラフィストだと思うな……こないだのクラスアップの一件といい、ラフィストには

何か不思議なものを感じる」

「えっ!そ、そんな……俺なんかがそんな訳ないよ」

ラフィストではないかと言うティーシェルに買いかぶり過ぎだとラフィストが否定する。

「それについては、世界樹の所に行ったらわかるんだ……考えていても仕方ないだろう」

サードの言葉でこの議題は結局お流れとなり、話し合いも終わりとなった。そこにマキノ

がガーネットの所から戻ってきて、話し合いは終わったのか尋ねてきた。皆がマキノに話

していた内容を伝えている中、ラフィストは一人離れてその様子をぼんやり見ている。サ

ードの、世界樹の元に行ったら分かるという言葉に、ラフィストは全ての根底が覆ってし

まうような恐怖を感じていたのだ。その場から逃げるように立ち上がり、ガーネットの様

子を見てくると言ってその場を離れた。

「サードは、行かなくていいワケェ?」

ガーネットの元に向かったラフィストを見ていた全員から、サードが突っ込まれる。しか

しサードは黙ったままだ。いい機会だとばかりに、皆がまくし立て始める。

「照れちゃってないで、素直になんなさいよ」

「サード。ラフィストにとられちゃうぜ!」

「マッチョに同感〜」

「サード、恋は遠慮しちゃダメだよ!」

「ハニーに同感〜♪」

サードに詰め寄る皆の間に、マキノがまぁまぁと言って入り込み、後ろからサードの首に

抱きつく。

「サードは一発逆転を狙っているのよ。ね!サード!」

サードは何も答えないが、ニックスは仲の良さそうな光景に涙が出そうだ。

「何かあの二人……あの事件以来仲が良い……どうしよう」

普通俺と仲良くなるはずだろ、なぁとニックスがナディアに泣きつく。ナディアはニック

スに落ち着きなさいよアンタ、と言うと小声で返した。

「あれは恋っつーより、兄妹に感じが近いから心配要らないわ」

それよりプギューに気をつけなさいというナディアに、そんなもんなのかとニックスが返

す。ナディアはそんなもんよと言い切った後、マキノがティーシェルに流れないように気

をつけてよねと付け足した。ナディアの反応に何か気付いたのか、ニックスがふーんと言

って、ニヤニヤ笑う。

「な、何よ」

「もしかしてナディアってば……ティーシェルらぶ、だったり?」

「ちっ……違うわよ!か、仮にも年下で、弟みたいな感じとゆーか……」

「とゆーか?」

「あーもう!いいでしょ別に!」

「二人で何騒いでんの?」

いきなり後ろから声がした事で、二人が声にならないほど驚く。しかも後ろの声の主は、

話題の主であるティーシェルだ。バツが悪そうな感じで二人は何でもないと否定する。テ

ィーシェルは二人の反応に、顔に疑問の色を浮かべていたが、気にしない事にしたらしい。

「変なの。それよりそろそろご飯にするから、悪いけど二人でラフィーと大丈夫そうだっ

たらガーネットを呼んできてよ」

ご飯という響きにニックスが目を輝かせる。

「め……飯かぁ〜!誰が作るんだ?」

「僕だけど?」

エプロンをつけながらティーシェルが答える。その光景にキルトが喜び、まさかハニーの

手料理が食べれるとは、と感動している。そんなキルトに、ナディアが五月蝿いと言って

肘鉄を食らわせると、ニックスの服を引っ張ってラフィストを呼びに行った。

「ところでハニーって料理得意なの?」

腹を擦りながらキルトがマキノに尋ねる。今から食べる以上、やはり味の方が気になるの

だろう。マキノはサンドイッチ食べた事あるけど美味しかったよ、と答えた。ね、サード

と言いながら、抱きついたまま前に乗り出してサードに同意を求める。確かになと言いつ

つ、うざったいとばかりにサードがマキノの腕を首から振り払う。その時には、既にマキ

ノとキルトはこれから出てくる料理に想いを馳せており、マキノは腕が払われた事に気付

いていないようだ。




「ラフィー……」

「しっ!ニックス……ラフィーの声がしない?」

ラフィストを呼ぼうと、大きな声を出しかけたニックスを制するように、ナディアがニッ

クスの口に手を当てて、小声で喋る。

「……そういえば」

もごもごと、口を動かしニックスが返事をする。二人の思惑が一致したのか、二人ともド

アに耳を当てる。二人は中の会話を盗み聞きする体勢にすっかり入っているようだ。しか

し、中の会話はかすかにしか聞こえてこない。

「な、何て言ってる訳?」

「分かんねー!」

それにじれったさを感じたのか、二人の手に力が入る。ドアノブが回り、二人の重さで扉

が開く。急に支えがなくなった状態になった事で、盗み聞きしていた二人はどっと床に倒

れこむ。いたたと言いながら顔を上げると、こちらを見ていたラフィストと目が合う。ラ

フィストは不審そうな目つきで二人を見ていた。

「……大丈夫、二人とも」

ラフィストの言葉に二人は跳ね起きて、笑って誤魔化す。

「あはは、大丈夫よ!この扉中々開かなくて。ね!ニックス!」

「そうそう、つい力が入っちまってよ!」

明らかに言い訳くさい二人の言葉に、ラフィストは疑いの眼差しを向ける。しかしこれ以

上言っても意味が無いと思ったのか、まあいいやと呟く。ラフィストのその言葉に、二人

はほっと息をついた。

「ガーネットの様子はどうなの?」

「まだ目を覚まさないんだ」

三人は、ガーネットの様子を伺うように彼女の顔を覗き込む。次の瞬間、ガーネットの瞼

がゆっくりと開いた。

「う……うん……」

「ガーネット!」

「あ、あら……私、一体?」

状況を理解できていないガーネットにナディアが、海に落ちたガーネットをラフィストが

飛び込んで助けてくれたのだと伝えた。それを聞いた途端、ガーネットの顔が赤くなる。

私、その、かなづちでと言ってしどろもどろになるガーネットの手を、ラフィストがしっ

かりと握り、呟いた。

「ガーネット、君が無事で本当に良かった……」

「ラフィー……」

二人の間に流れる空気に、ナディアがあらあら、と言わんばかりな顔をする。

「そうそう、そろそろご飯なんだけど……ガーネット、あなた大丈夫?」

「ええ、もう少ししたら行きますわ」

「じゃ、先に行ってるわね私達」

御邪魔致しました〜、といった表情をしながら、ニックスとナディアが部屋を出て行く。

バタンと扉の閉まる音がした事で、二人っきりである事を、ラフィストとガーネットが急

に意識し始めてしまう。そんな気まずい空気と沈黙を破るよう、ぎこちなくだがラフィス

トが口を開いた。

「あ、あのさ……ガーネット。その、渡したい物があるんだけど……」

「何ですの?」

落ち着かない様子で胸ポケットを弄り始めたラフィストがおかしかったのか、ガーネット

が笑みを浮かべる。ラフィストがポケットから手を出し、ガーネットの前にズイッと差し

出す。ラフィストの手に乗っているのは欠片ほどの大きさの、ガーネットの石であった。

「これからはもっと危険になる。―――……だから、小さい石だけどお守り代わりにして

欲しいんだ」

「ラフィー……」

石を受け取り、嬉しそうにそれを握り締める。

「ありがとう、大切にしますわ……」

「……そろそろ、皆の所に行こうか」

照れながら、ガーネットの前に手を差し出す。ガーネットはラフィストの手の上に、そっ

と手を重ね、立ち上がった。

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