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−十七章−〜トレジャーハンター〜


「ティーシェル〜、大変ねー。でも似あってるわよ」

ティーシェルの格好を見てナディアがニヤニヤ笑う。そのナディアの笑みを見て、不快そ

うにティーシェルは眉を顰めた。もの凄く機嫌が悪そうなティーシェルの後ろで、クリス

ティーヌが恐縮そうに身を縮めている。

「ご……ごめんなさいね、ティーシェル。私のせいで……」

「い、いや……姉さんのせいじゃ……―――」

目に涙を浮かべ始めたクリスティーヌに、ティーシェルが慌ててフォローする。事の顛末

はこうだ。警備隊から戻ってきた三人を、クリスティーヌが出迎えてくれた。その時、ク

リスティーヌが転びかけたのだ。そして、水をまく為に持っていたバケツの中身が、見事

にティーシェルに引っかかったのである。運悪く、着替えを全て洗ってもらっていた為、

替えも無い。仕方なく、背丈が近いクリスティーヌの服を、今現在着ているのである。ナ

ディアがニヤニヤしているのは、この姿に対して、だ。

「姉さん、せめてドレス以外のは無かった訳……?」

「一番ましなのが、それだったの……―――」

「そ、そう……」

ティーシェルが遠い目をしていると、ドアが開く後がする。それとともに、大広間にマキ

ノがひょっこりと顔を出した。

「あっれー!ティーシェル何着てんの?か〜わいー!」

外から戻ってきたマキノが、ティーシェルの姿を見てはしゃぐ。服の替えが無かったと説

明するが、マキノにとってはそんな事はどうでも良いらしい。悪乗りして、ティーシェル

の頭にリボンまでつけ始める。必死に抵抗するが、マキノの腕力に勝てるはずもなく、髪

の毛にリボンが結いつけられた。

「……きしょ」

鏡を見て、ポツリと呟く。しかしそう思ってるのは彼だけなのか、女性陣は至って嬉しそ

うにその姿を眺めている。その反応に少しばかり傷つき、項垂れていると大広間にニック

スがやってきた。

「お、誰?かーわいーい!―――……って、ティーシェルじゃねえか!……お前、何やっ

てんだ?女装か?」

「水に濡れて……替えが無かったから……」

「あー!それでその格好かー!あはははは!」

似合いすぎてておかしいとばかりに、ニックスが大笑いする。とうとう臨界点に達したの

か、ティーシェルは俯いてしまう。俯きながら、何かをボソボソ言っているようだが、大

騒ぎしている大広間の面々で気付く者は誰もいない。漸く一番近くにいるニックスが気が

付くと、何ブツブツ言ってるんだと尋ねる。その瞬間、ティーシェルはばっと顔を上げる

と、手をニックスに向けた。

「地獄に落ちろ!」

向けられた右手から、得意の水魔法が放たれる。丁度その時、大広間に慌てた様子の警備

隊の者が、飛び込んできた。そこに魔法によってふっ飛ばされたニックスが飛んでくる。

避ける間もなく、正面衝突してしまった。

「あっちゃー」

目を回してる二人を見て、ナディアとマキノが苦笑する。かたやティーシェルは、ニック

スは兎も角、警備隊の者まで巻き込んでしまった事に大慌てしている。急いで回復魔法を

かけに向かった。回復魔法によって目を覚ました警備隊の者は、先ほどの勢いのまま、こ

の屋敷の主人であるアレンの元に駆け寄る。

「大変です!警備隊に先程予告状が届いたんです!ダール家宛で!」

「と、とにかく落ち着いて下さい!……で、どんな事が書いてあったのですか?」

落ち着いた様子のアレンの諭され、落ち着きを取り戻した警備隊は、懐から一通の手紙を

取り出した。

「こよい、貴女を攫いに参ります!……だそうです」

「貴女って……姉さんの事、かなぁ?」

ティーシェルがポツリと疑問を漏らすと、アレンが先程と打って変わって大慌てする。

「なっ……それは大変だ!すぐ警備を依頼しないと!妻にもしもの事があったら、私は―

――……っ!」

アレンは知らせに来た警備隊の者に、急いで警備の者を手筈するよう依頼する。警備隊の

者は、人数を集める為入ってきた時と同じ様子で走って屋敷を出て行った。警備隊が去っ

た後も、アレンは未だパニック状態である。

「あ、あなた……落ち着いて」

「そうですよ!まだクリスティーヌさんと決まった訳じゃありませんし」

「確かに……名前が指定されてないのも、変……よね〜?」

ナディアは予告状に、変な違和感を感じる。それが何なのかははっきりしないが、嫌な予

感がするのは確かだ。そこに、ラフィストとガーネットが戻ってくる。大広間に入ると、

何やら変な雰囲気が漂っている事に気付き、ラフィストがニックスに何かあったのか尋ね

る。ニックスはラフィストに予告状が届いたのだと答える。

「今宵貴女を攫いに……って、大変じゃないか!」

「警備はもう頼んだんですの?」

「今頼んだところですが……こんな急に大人数が集まるかどうか」

アレンの言葉に、ラフィストは自分達も交代ごうたいに警備をしようと提案する。御世話

になっている事もあり、仲間達はその案に賛成し、夜を待つ事となった。




完全に日が沈み、時間はあっという間に深夜になった。そんな中、ダール家の屋敷を屋根

の上から眺めてる者がいる。キルトだ。

「や〜っぱ、こよいぐらい辞書で調べればよかったかな〜?頭悪く見えるよなぁ……」

キルトは夜目が利くのか、暗がりの中でもばっちり様子が分かるようだ。唸りながら目の

上に手を翳し、目を細めてじっと見ている。すると、屋敷が段々と騒がしくなり、警備の

人数が増えていく。

「流石ダール家。警備も半端じゃないねぁ〜!……ま、アレ位の障害がないと燃えないし

な!A級トレジャーハンターの俺にとっちゃ、アレくらい楽勝だけど!ギャラリーも集ま

ってきた事だし、そろそろ行くか……―――」

いつの間にか屋根にあった人影がフッと消える。キルトは闇に姿をくらまして行った。

「今宵って具体的な数字にして欲しいわよね」

キルトが闇に姿をくらました頃、ナディアとティーシェルの二人が警備を手伝っていた。

他の皆は自分の番に備えて仮眠中である。

「今の所、何の音沙汰も無いようだけど……」

ティーシェルが辺りを見回す。落ち着き払っているティーシェルと異なり、ナディアはち

っとも現れる気配の無い怪盗にイライラしている。財布に続き、こんな騒動まであった事

で、不機嫌が頂点にきているのかもしれない。

「ああもう出るなら出る!出ないなら出ない!はっきり―――」

しなさいよ、と言葉を続けようとした時、辺りの証明が全て消える。すると、用意してい

た証明の一つが勝手に付き、そこに一人の男が立っていた。彼はキョロキョロと辺りを伺

い、誰かを探しているようだ。警備員がその男、キルトに殺到する。キルトは彼らを相手

にもしてないようで、視線もやらずヒョイッと避ける。

「麗しの君よ、いずこ……―――見つけた!」

キルトは叫ぶと、軽やかに走り出す。しかし、その先にいたのはクリスティーヌではない。

隠れて様子を伺っていたクリスティーヌも、妻を守る為意気込んで警備をしていたアレン

も戸惑いを隠せない。キルトが走っている方向にはティーシェルと、ナディアの二人しか

いないからだ。キルトの視線は、ティーシェルの方に向いている。それに気付いたナディ

アは、一つの考えに至った。

「そ……そうか!アンタね!」

この男がきっと自分の財布を盗んだのだ。そして、財布の中の写真に気付き、そこに写っ

ていたティーシェルを追っかけまわしているのだ。財布を盗んだ犯人と、誘拐騒動の犯人

がナディアの中で結びつき、怒りが沸々と湧き起こる。

「其が奏でし雷光を我が力をもって集結せん……」

ナディアの詠唱に気付いたティーシェルが、慌ててナディアを止める。男が自分に向かっ

てきている以上、自分も巻き添えを食らう可能性があるからだ。幾らなんでも、見知らぬ

男の為に魔法をくらいたくは無い。しかし、制止の言葉はナディアには届かず、ナディア

の手から雷が放たれた。

「ライトニングディザスター!」

キルトは突然放たれた雷を間一髪で避ける。その時バランスを崩したのか、キルトは地面

に倒れこんだ。そこにつかつかと歩み寄ったナディアが、顔の真横に思いっきりヒールを

突き立てる。ナディアの目は完全に据わっており、今にも魔法をぶち込みそうである。キ

ルトは一瞬にして自分の身の危険を感じ取った。

「ナ……ナディア。いきなりどうしたんだよ」

「ティーシェル!コイツが私の財布盗んだのよ!―――……ふふ、今から神の裁きを与え

てくれるわ」

ナディアの口元は邪悪に笑っている。その顔を真正面で見ているキルトにとっては、般若

のような顔に思えた。これ以上の災を防ごうと、ティーシェルがナディアの手を掴んで制

止をかける。キルトは横にいるティーシェルに気付き、勢いよく立ち上がりティーシェル

の手をとった。

「麗しの君……俺の命を、般若から助けてくれたんだね」

「何ですって!」

「何ですの、さっきから……」

仮眠していたガーネット達も、この騒ぎに気が付いたらしい。走って現場に駆けつける。

ナディアはキルトの暴言に対して腹を立てているが、ティーシェルはキルトがしている勘

違いに気が付いた。

「皆、この人僕を女と勘違いしてるんだよ!」

「ハハ、またまたそんな冗談を!」

「本当だぜ。今は偶々そんな服を着てるけどよ、コイツは男だ」

そう、ティーシェルはまだクリスティーヌの服のままなのだ。ニックスは残念だったな、

とキルトの肩に手を置く。キルトはその事実に打ちのめされたのか、ガックリしている。

そこを警備員が逃がすまいと、ぐるりと取り囲む。

「っと、落ち込んでる暇はなさそうだ。あばよ!」

警備員の頭を馬飛びするような形で飛び越え、キルトは去っていった。あっという間の出

来事だった為、一同は一体なんだったのかとポカンとしている。真っ先にナディアが我に

返ると、キルトが財布を持って行ったままだという事に気が付いた。

「アイツ、私の財布持って行ったままじゃない!―――……あの身のこなし……きっとツ

ァラの盗賊ってアイツの事だわ!ツァラに行きましょう!さぁ、早く!」

ナディアにもの凄い剣幕で急かされ、ラフィスト達は旅の支度を済ませると、ツァラへ向

かい始めた。




「おいよー……ツァラまで後どれくらいだー?」

歩いても歩いてもツァラらしき町は見えない。それどころか一面砂漠地帯だ。ついにニッ

クスが弱音を吐き、ダウンする。

「ニックス!だらしないわね!それでも男!?」

「まあまあ、ナディア」

ナディアが泣き言を言うニックスに、活を入れる。ラフィストがナディアを宥めるが、ナ

ディアの剣幕はこの間の一件から、ずっとこんな調子だ。その様子を見て、馬車の中に入

っているマキノとガーネットが一体財布に何が入っていたのだろうと、ヒソヒソ会話する。

「ニックス、ダレルのもわかるけどさ……砂漠の途中にあるストロアートって町も過ぎた

事だし、後ちょっとだよ」

「本当か、ティーシェル!」

ニックスが嬉しそうに顔を上げると、前を歩いていたサードが前方を指差した。

「見ろ……あそこが大帝国ツァラだ」

薄っすらと大きな城と町の影が、ラフィスト達の視界に飛び込んできた。




ツァラに辿り着いた一同は町の外に馬車を止め、門をくぐる。流石大帝国と言われる国だ

けあって、立派で美しい町並みである。まずは宿を取ろうと、宿の中に入り予約を取る。

砂漠を歩きつくして皆クタクタであったが、これからの為にも情報収集をしておこうと、

頑張って町に繰り出すことにする。一人いきり立っているナディアにラフィストは近付く

と、キルトを探すのか彼女に尋ねた。

「当たり前よ!」

迷うことなく即答してくる。どうやら彼女は裁きを下さないと気がすまないらしい。ラフ

ィストはそんな彼女に一抹の不安を感じる。ナディア一人だと何をするか分からないので、

結局ラフィストとティーシェルも仲間と別れ、彼女についていく事にした。彼の情報を手

に入れる為、裏通りに入り酒場の中へと入る。そこは傭兵やゴロツキが多いらしく、雰囲

気はあまりよくない。

「すみません……緑髪の盗賊について知りませんか」

その中の一人にラフィストが尋ねると、男は酒をあおり黙って手を差し出す。情報料をよ

こせという事だろうか。ラフィストは幾らかの金貨を男の手に乗せた後、酒を注文する。

注文した酒を男に渡すと、気前の良さに気を良くしたのかペラペラと喋りだした。

「あー、緑髪の盗賊……ねぇ。ここいらじゃ有名だよ……キルト、だろ?正確にぁ盗賊じ

ゃなくて、トレジャーハンターっつうんだが……―――」

「キルト?キルトって言うのね!?」

男の話を遮るように、ナディアが叫ぶ。ナディアの剣幕に押され、男は簡潔に短い返事だ

けを返す。キルトの居場所について尋ねると、裏通りの二番街にいるとの事だった。居場

所を聞いた途端飛び出していったナディアを追いかけ、ラフィストとティーシェルの二人

も酒場を後にする。辿り着いた二番街でも何人かに聞き込み、漸くキルトのいるらしい場

所に到着した。待ったの声をかける間もなく、ナディアによって家のドアが蹴り破られる。

ドアは勢いよく吹っ飛び、床に転がる。最早これでは再起不能だろう。

「うわ!何だ……って、げぇ!」

中にいたキルトが奇声をあげ、後ずさる。

「覚悟は……いいかしら?」

手をバキバキと鳴らし、デモンストレーションをするナディア。体からはバチバチと魔力

の波動が迸り、呪文を放つ気で一杯である。流石にそれにはキルトも慌てふためいている。

しかも、突然の状況についていけず、半ばパニックに陥っているようだ。何とかナディア

を二人がかりで落ち着かせると、漸く魔力の波動が収まった。

「とりあえず、私の財布返して!」

ナディアがキルトに手をズイッと差し出す。キルトはナディアの手に、ポイっと財布を投

げた。財布が戻ってきた事で、ナディアは少し落ち着いたらしい。先程までの剣幕はもう

なかった。

「それにしても少ない中身だなー……俺の方が、まだ持ってるぜ」

「ならなんで盗んだんだ?金に困ってる訳じゃないんだろ?」

キルトの言葉に、ラフィストが疑問の声を漏らす。キルトによると、暇つぶしと新しい刺

激を求めてらしいが、ラフィストにはイマイチその感覚が分からなかったので無視した。

「―――……そういえば、さっきの男が君の事、トレジャーハンターとかって言ってたけ

ど……トレジャーハンターって盗賊なわけ?」

ティーシェルの疑問も最もだ。ラフィストもナディアも、こそ泥と何が違うんだという思

いを心の中に抱いていたからだ。そんな三人にチッチと指を振ると、キルトはそんな狡い

奴らとは違うと言い出した。

「トレジャーハンターをそんなのと一緒にしないでくれよ。トレジャーハンターはツァラ

公認の冒険家なんだ。ほれ、証明書」

そういうと、キルトは一枚の紙を取り出して三人に見せる。キルトによると、トレジャー

ハンターとは傭兵の多いツァラ独特の専門職らしい。しかも上級クラスの人間にしか与え

られない特別な称号だ。普段は宝を求めて冒険するが、国や人の依頼を受けると情報を集

めたり、頼まれた物を持ってきたりするのだ。時には密偵を請け負う事もあるらしい。彼

らは依頼の難易度や達成度によって、更にAからEまでランク分けされる。A級ともなれ

ば自分で依頼を選ぶ事が出来るし、何か不祥事を起こしても国がそれをもみ消してくれる

ほど高待遇だという。俗にいう裏家業の専門職なのだが、表向きの体裁の為一般にはトレ

ジャーハンターと呼ばれている。

「情報……って事は色々な事に精通してるって事?」

「まあな。―――……この国で、俺以上に情報に詳しい奴はいないな。……アンカース調

査団さん」

キルトの言葉に、三人は驚きをみせる。

「おいおい、何で知ってんだみたいな顔は止めろよ。これでも腕には自信があるんだ。そ

の俺を物ともしないで攻撃かまして来る相手の事くらい、ちゃんと調べるぜ」

あれからラフィスト達はすぐツァラへと向かったので、キルトに殆ど調べる時間など無か

ったはずだ。それなのに、さらっとラフィスト達の正体について言い当てる。情報に詳し

いという彼の言葉に疑いようが無かった。

「キルト、だよな。―――……一つ聞きたいんだが……この国で船を出してもらおうと思

ったら、どうすればいい?」

ラフィストがキルトに尋ねる。彼ほどの情報力ならば、当てが見つかるかもしれないと踏

んだからだ。キルトがそうだな、といった後でもったいぶる。そんなキルトをナディアが

睨み、さっさと答えなさいと脅す。

「ま、あんたらには借りがあるからな。答えてやるよ。……アンカース方面行きって事な

ら、どんなに頼み込もうがまずどこの船も出ない」

思った通りの答えにがっかりする。キルトはだが、というと言葉を続けた。

「俺が同行するって形で、直接口を利けば……一つ、当てが無い訳ではないな」

「ほ、本当か!」

「……嘘じゃないでしょうね」

「この期に及んで嘘言うかよ。……本当だ」

キルトの言葉に三人は顔を見合わせて喜ぶ。彼の言う事が本当なら、早く仲間に知らせな

ければと口々に喋りだす。

「おいおい……誰も同行するとは言ってねえぜ」

「頼む、キルト。協力してくれ!」

ラフィストがキルトに頭を下げる。真っ直ぐ過ぎるラフィストの態度に、キルトは溜息を

つくと、いいぜと言葉を返した。

「……あんたらの旅に同行しても。コイツ可愛いし、アネさんは怖いけど美人だしな。潤

いがあれば、俺は構わねえ」

キルトの返事にラフィスト達は喜びを見せる。そんな三人を尻目に、キルトはティーシェ

ルの方をマジマジと眺め、やっぱりコイツ性別間違えて生まれてきてるよな、と呟く。キ

ルトを仲間の元に連れて行こうと、ラフィストが宿に一緒に来てくれと言うと、キルトは

手早く荷物を纏めだした。

「さ、行くかハニー!」

準備を終えたキルトは、ティーシェルの肩に腕を回す。不快な顔したティーシェルが腕を

払いのける前に、ナディアによってキルトの手が抓られ、払いのけられる。

「俺ってば、アネさんに嫌われてる?」

「アンタ……もしかしてアネさんって私の事?」

「そうだけど?」

「はー!?な、何でなのよ!」

「だって……何か、なぁ……」

キルトは言葉を濁してはいるが、その目は人の手に負えなさそうだとか、極悪的な強さが

ありそうだと言っている。ナディアもキルトのそんな視線に気付いたのか、不機嫌な顔を

している。隙あらば呪文を放ちそうな勢いだ。

「ナディア、落ち着いて」

「へぇ、アネさんナディアっての?ところでハニー、君の名は?」

「ハニー……?」

ナディアがキルトを射殺しそうな目で睨む。

「いやいや、失礼。アハ」

「僕はティーシェル=ミッドウェー……で、彼が」

「ラフィスト=ブレッセントだ。よろしくな、キルト」

「ティーシェルか!いい名前だ!……あ、ラフィストもよろしくな」

キルトは至ってマイペースな上、上機嫌である。

「ほら、とっとと行くわよ!」

「はーい、アネさ〜ん」

「……」

そんな事ばかり言ってるから、アネさんなんて言われるんだナディア、とラフィストとテ

ィーシェルは思ったが、そんな事は口が裂けても言える訳が無い。言い争いを始めながら

先へ行ってしまったナディアとキルトの後ろ姿を見ながら、これから先の事に気を重くす

る二人であった。

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