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−十章−〜武術大会開幕〜


次の日の朝、ラフィストはいつもより早く目が覚めた。大きく伸びをし、ベッドから起き

て隣を見る。隣のベッドではティーシェルが寝ているはずだが、既にその姿はベッドには

無かった。随分早いな、と思いつつラフィストは服を着替えて部屋の外に出た。流石に昨

日の今日だったので、ティーシェルの調子が気になったのだ。その姿を探すと、ダイニン

グで見つける事が出来た。いつもと変わった様子は無く、元気そうなので一先ず安心する。

ティーシェルがラフィストに気付いたのか、ラフィストの方を振り向いた。

「おはよう、ラフィスト」

「ああ、おはよう。随分早いな」

その場に突っ立っているのも何なので、ティーシェルの方に歩いていく。ティーシェルが

いるのはキッチンだ。何も無いところから、これから何か作ろうとしているのだろうか。

何する所なのか気になり、聞いてみる事にした。

「何か、作るのか?」

ラフィストの言葉に、少し照れたような顔をしてティーシェルがごにょごにょと喋る。

「あ、いや……昨日は皆に迷惑かけたなって思って。……今日は僕、結界張るだけだし、

朝の軽食でも作ろうかと」

「ティーシェル、迷惑なんて言うなよ。俺達、そんな風には全然思ってないんだからさ。

……でもそうか、軽食作るんなら俺も一緒に作ってもいいかい?」

「ラフィストが?」

ラフィストが料理を一緒にする、と言い出した事に驚いたらしく、意外そうな顔をする。

ラフィストとしては、純粋培養のお坊ちゃんのティーシェルが作れる方が驚きなのだが、

それはあえて言わないでおく。嫌かい?と聞くとティーシェルが首を横に振ったので、ラ

フィストは一緒に作る為、エプロンをつけた。取りあえず簡単なものにしようと言う事で

サンドイッチを作る事にし、二人は料理を始めた。

「まさか、ラフィストが料理できるとは思わなかったよ……」

ゆで卵を作りながらポツリと言ったティーシェルの言葉に、ラフィストは苦笑する。ラフ

ィストの反応に気付いたティーシェルは、だってニックスは料理できないだろ、と言い訳

するかのように早口でまくし立てる。

「確かに、ニックスは料理できないな」

「でしょ?やっぱりそうだと思った。……ああいうタイプには、向かないんだよ。現に、

ガーネットやナディアも料理の方はからっきしだしね」

まぁ、サードはどうか知らないけど、とティーシェルは言っているが、ラフィストとして

は出来るイメージが想像できない。それ以前に、エプロンつけたサードの想像イメージが

不気味だった。耐え切れなかったのか、体から変な汗が流れる感じがする。

「からっきしって、そんなに酷いのかい?」

ラフィストの言葉に、嫌な事を思い出したのかティーシェルが眉を顰める。

「酷いなんてもんじゃないよ……あれで、何回死にかけた事か!ガーネットは、新種の変

な物体を生み出そうとする!ナディアは湯銭するのに、魔法で直火焼きにしようとする!

……あいつらにとって料理は愛情じゃない、戦争なんだよ」

お陰で毒物の耐性はついたよ、とフッと遠い目をして語るティーシェルに同情する。この

間ガーネットから聞いたバイオレンスな過去から、新種の料理の実験台になっていた事は

容易に想像がついたからだ。

「……あっ、と。そろそろいいんじゃないか?」

「……そうだね」

半ば現実逃避気味に、料理に集中する事にする。元々二人とも手際が良かった事もあり、

あっという間にサンドイッチが完成した。テーブルに並べていると、マキノがダイニング

にやってくる。

「あー、私が一番だと思ったのにー!早く起きて、朝食作ろうと思ってたのになぁ……こ

れ、二人が作ったの?」

「まあね」

マキノは、料理作れたんだ、と呟くと、皿に盛られたサンドイッチを一つ口に運ぶ。

「……美味しい」

「はは、ありがとう」

取りあえず手分けして皆を起こしてこくる事にし、まだ夢の中であろう三人とディーテの

元に向かった。




朝食を終え、キキナナ湖の湖畔へ向かうとグールはまだ眠っていた。その隙に、ティーシ

ェルが結界を張りなおす。そして、これで派手にやっても大丈夫だよと言い残すと、加工

場の中に戻っていった。それぞれ武器を構え、戦闘体勢をとったのを確認し、ラフィスト

が眠っているグールに切りかかった。新しい剣はグールの皮膚を深々と切り裂いたかと思

うと、ピキィィィンと弾けるような音がした。今のはきっと、リフレクションが解けた音

だろう。切り裂かれた痛みで気が付いたのか、グールが目を覚ましラフィスト達に襲い掛

かってくる。

「皆、くるぞ!」

先程の傷がかなり痛むのか、グールはブンブンと腕を振り回してラフィスト達を攻撃して

くる。直接の攻撃を避けても、拳の拳圧が更に襲い掛かってくるのでなかなか近付く事が

出来ない。攻撃手段を遠距離に切り替え、グールに反撃を始めた。

「閃光八卦掌!」

ニックスとマキノが同時に気孔拳を放ち、グールに命中させる。よろめいた所に、ガーネ

ットが詠唱した呪文を放った。

「グランツ!」

光の玉は、弾かれる事無くグールにダメージを与える。元々グールは魔法が苦手という事

もあり、かなりのダメージを与えられたようだ。今のチャンスに一気に片をつけようと、

サードとラフィストが殺到する。

「ライジングロット!」

剣にバチバチと激しい雷鳴を纏わせ、サードがグールの腕を切り落とす。そのまま刃を返

し、腹に大きな傷をもつけた。激痛にのた打ち回るグールに、続いてラフィストが刃を繰

り出し、肩から下を一気に切り裂く。これが止めとなったのか、グールは断末魔の声を上

げ、その場にズズンと大きな音を立てて倒れた。

「やった、のか……」

渾身の力を込めて大きなグールを一気に切り裂いた事もあり、ラフィストが肩で息をして

呟く。それでも、技ではなく普通に剣を振るっただけであれだけの威力になるとは、と思

うと、ラフィストはディーテの仕事振りに改めて感謝した。マントで剣に付いた血を拭っ

て、剣を鞘に収めたところに仲間達が駆け寄ってきた。

「ラフィー、すげーじゃんその剣!……くー、俺の武器の完成も楽しみだぜ!」

「あれだけ苦戦したグールも、あっけなく倒せましたわ」

「連携も上手くいってたしね!」

「まあまあだな」

皆、ラフィストの剣の威力を見て思う所は同じらしい。ニックスの言う通り、武器の完成

が改めて待ち遠しくなったという所だろう。

「早速ディーテさんに、グール倒した事教えてあげよう!」

そういって加工場にマキノが駆けて行き、ニックスが待てよと言いながらその後に続く。

ラフィストも加工場に戻ろうとしたが、それをガーネットに引き止められる。

「どうかしたのか、ガーネット」

「いえ、余り疲れていませんし、今日フォートレスに行ってきません事?こういう行事ご

とのお願いは、早い方が良いですわ」

「確かにそうだな……今日のうちに行ってきたらどうだ、ラフィスト」

「ん、そうしようか」

では早速ティーシェルに送って頂きましょうと、ガーネットが加工場の中に入っていく。

王様の所に行った後に、馬車を買いに行くのを忘れないようにしないとなぁ、と考えなが

らラフィストも後に続いた。




「―――、という訳なんです。大会を開いてもらえませんか」

ラフィストとガーネットは今、王の間にいる。謁見したいと申し出たら、あっさりと通し

てもらえた。どうやら優先して通すよう、取り計らってくれているのだろう。

「よし、武術大会を開催すればよいのだな。世界の命運がかかっているのなら、わしも喜

んで協力しよう!……大臣、世界中にこの事を伝えよ!日付はそうじゃな……一ヵ月後だ。

それまでには武器も完成しておるし、遠い所にいる者も参加しにやってこれる頃じゃ。出

場者の受付は明日午後一時からで賞品はルーン聖石……ラフィスト君、これでいいかな?」

「はい、ありがとうございます!何てお礼を申し上げればいいか……」

「ははは、良いのじゃよ」

王の笑い声に安堵感で一杯になる。

「あ、そうですわ王様。出場者の名簿、よろしければこちらに回して頂けません?」

「ああ。……ちとお主等が有利になるやもしれんが、事情もある事だし仕方あるまい」

「ふふ……ありがとうございますわ」

「それでは王様、僕達は戻ってディーテさんの手伝いをしたいと思います。大会の方、よ

ろしくお願いします」

ラフィストが深々とお辞儀をする。その隣でガーネットもスカートをつまんで会釈する。

「大会の方は任せておきたまえ。ではラフィスト君、健闘を祈っておるぞ!」

「ありがとうございます!」

二人は王の間を後にし、馬車を購入する為市場に向かって歩き出した。市場は活気に溢れ、

物凄い人が行き交っている。その人波をぬいながら、ラフィストとガーネットは馬車を売

っている店へと歩いた。

「ラフィー」

「何?」

「物凄い人ですわね」

「……?そうだね。どうしたの?」

人波に飲まれないよう、ガーネットの手を引いて誘導しながらラフィストが答える。

「私達が並んでいると、どういう風に見られているのかしら?」

「……ど、どうだろう?」

ラフィストが少し顔を赤らめながら、そっけなく返事をする。その時、手の力が少し強く

なった気がして、思わず握られた手をラフィストは見た。

「私は―――……」

「え?」

瞳と瞳がぶつかる。騒がしい市場の中が、一瞬静まり返ったような感じがした。どれだけ

の間、そうしていたのだろうか。じっとラフィストを見ていたガーネットの瞳がフッと逸

らされ、辺りに喧騒が戻った。

「何でもありませんわ。あ、あそこの店で頼むんですわよね!さ、行きましょう」

「う、うん」

ガーネットに引っ張られながら、ラフィストはさっきのガーネットの言葉が忘れられなか

った。自分とガーネットはどういう風に見えているのだろう、もしかしたら恋人同士にで

も見えているのだろうか。こんな事を考えているうちに、いつの間にか店についていたら

しい。結ばれた手が離され、ガーネットが先に店の中に入っていく。

「いらっしゃい」

ラフィストも中に入ると、背の低い少し太った五十代の男性が二人を出迎えてくれた。

「あの、馬車が欲しいんですけど」

「二人かい?」

「あ、いえ。えーっと……今は六人なんですけど、これからもう少し増えるかも」

「大所帯だねぇ……旅用だろう」

「はい」

ここまで言うと、店の主人は条件にあった馬車のリストを、ラフィスト達に渡してくれた。

どうやらこの中から選べということなので、リストを見てみることにする。そこには超豪

華な物、ピンクの物、普通の物、カボチャの形をした物があった。

「ラフィー!私これかこれが良いですわ!」

ガーネットが指差したのは、宝石が散りばめられた超豪華な馬車と、ピンクの馬車だった。

サードとティーシェルの懸念は当たったな、と内心溜息をつく。こんな宝石まみれの馬車

では物取りに巻き込まれる可能性があるし、どピンクの馬車に乗りたいとは誰も思わない

だろう。何より、お金を出してくれているティーシェルが怒髪天になりそうだ。

「駄目だよ、高すぎる。それにこっちはちょっと、派手で目立ちすぎるよ」

「うー。そうですわねぇー……」

最もらしい事を並べ立ててガーネットを説得にかかる。渋々だが、ガーネットも解かって

はくれたらしい。

「おいおい兄ちゃん。恋人にそんな顔させちゃいけないよ!」

「!そっ……そんな!」

「私達、恋人同士に見えます?」

「ああ、違うのかい?」

店の主人の答えに、ラフィストは顔に熱が集まったような気がしてならなかった。それを

誤魔化すように、馬車選びに話を逸らした。

「まぁ、いいや。で、どれにするんだい?」

「じゃあ、これにしましょ。流石にカボチャは遠慮致しますわ」

結局、ごくごく一般的な馬車に決め主人に注文する。馬は力強い物を選び、きつい旅に耐

えられるようにした。

「じゃあ、以上で10000ギルでどうだい?」

「10000ギル……ラフィー、ティーシェルからいくら位貰ってきたんですの?」

「20000ギル……」

財布の中身を確かめ、ラフィストが言った。

「それだけあれば大丈夫ですわね!おじ様、これ下さいな」

「あいよ!旅を楽しめよ、兄ちゃん!」

そんな楽しい旅じゃないんだけどね、と苦笑しつつ金を払うラフィストに、店の主人が何

か思い出したかのように語りだした。

「そういえば兄ちゃん。もう一年ぐらい前の話なんだがよ……この嬢ちゃんも可愛いが、

うちに美人な姉さんが来てなぁ。ルーン聖石、とかいう石について聞いた事がないかって

言ってた事があったんだよ。いい女だったぜ、あれは」

「ルーン聖石だって!?」

床にお金の音が響く。ラフィストが床に財布を落としたのだ。落ちた財布もそのままに、

その事を詳しく知ろうと店の主人に詰め寄った。

「それ、どんな女性でしたか!?」

「え……えーと、確か銀髪の―――……あ!そうそう、何かイヤリングつけてたっけ、羽

根飾りのイヤリング!」

ラフィストがガーネットの方に振り返ると、ガーネットがラフィストの考えを肯定するよ

うに頷く。やっぱり、ナディアの目的はルーン聖石だったのか、などとラフィストが考え

こんでいる間に、ガーネットが床に落ちた財布を拾い上げる。

「でも今は出来る事をしなければ、ね?」

優しく微笑みながら、ラフィストに財布を手渡した。ガーネットの微笑みに、暖かくなる

ものを感じ、思わずラフィストからも笑みが漏れる。

「そうだね、ガーネット。……おじさん、この馬車一ヵ月後に取りに来るから」

「わかった。それまでは、うちの方で預かっておくよ!はい、領収書」

今出来る最善を尽くす為にもまずは皆の所へ戻らなくてはと、二人はキキナナ湖にいる仲

間の元へと戻った。




「ええっ!ナディアを見た人がいるって!?」

ワープするアイテムでキキナナ湖へと戻ったラフィストは、残っていたメンバーを呼び集

めて話し合いを始めた。大会と、馬車の話が終わったのでナディアの話に移った時、この

第一声が上がったのだ。

「ああ。でも、一年前の話だけど……ルーン聖石を探しているのは確からしいんだ」

皆の視線がペンダントに集まる。その視線を受け、ティーシェルがペンダントをギュッと

握り締めた。

「それはそうと、ちゃんとリスト回してもらえるように、したんだろうな?」

サードがラフィストに念を押すと、任せてとばかりにガーネットがラフィストに代わって

ばっちりだと答えた。

「そうか……それならいい」

「さっすがー!」

納得するサードの肩越しから、マキノが褒め称える。サードが不快な顔をし、その手を退

けろと言うとマキノは軽い調子で誤ってその手を退けた。このじゃれる様なやり取りに、

ニックスが一人恨めしそうにしている。

「大会まで時間もあるし、今から修行しようかな!……サード、付き合ってもらっても良

いかな?」

「わかった……」

ラフィストとサードが修行しに、加工場の外へと出て行く。ガーネットは部屋で読書をす

る事に決めたらしく、本を持って部屋に戻って行った。

「ニックス、私達も修行するわよ!」

「おう、手加減しねえからな!」

「マキノ、ニックス」

残っていたティーシェルが二人に声をかける。

「僕に護身術を教えてくれないかな?いい機会だし、ちょっと位覚えておきたくて」

「いいんじゃない。ね、ニックス教えてあげようよ!」

「あ……ああ、うん」

快い返事をしたものの、マキノと二人っきりになれずニックスは内心がっかりし、肩を落

とす。そんなニックスの内心に、マキノが気付いた様子は全くない。

「じゃ、湖畔に出て早速やろう!ニックス、行くわよほら!」

ティーシェルと、マキノと、マキノに引き摺られたニックスも修行をする為、加工場から

外の湖畔へと向かった。




「おお!ラフィスト!武器が出来たのじゃな!?」

「はい、王様……」

大会三日前となり、キキナナ湖での修行を終えてフォートレスに戻ってきたラフィスト達

は、まずは報告をと思い、王への謁見に向かった。王は武器が完成した事を、我が事のよ

うに喜んでくれた。ラフィストは王に完成した武器を見せようと、腰に差した剣を王に差

し出した。

「ああ、そんなに畏まらなくてよい。……ふむ、良い出来だ。ディーテ、良い働きをして

くれたな」

王の賛辞に、ディーテが平伏する。王が、大会の賞品用に用いるルーン聖石についてどう

したのかとラフィスト等に尋ねると、ディーテが懐からトラートの鉱石から作った宝石を

取り出し、王に献上した。ディーテの仕事ぶりと、ティーシェルが刻んだ魔法印のお陰で、

作られたルーン聖石は美しい輝きを放っている。

「おお……美しい輝きじゃ―――……」

「あの、王様……」

「ん、何じゃ?ガーネット姫」

ガーネットが立ち上がり、王の傍に歩み寄る。

「少々、内々のお話がありますので……すみませんが、他の者に席を外すよう仰って頂け

ませんか?」

王はあい分かったと答えると、他の者を王の間の外へと退出させた。扉が閉じられた事を

確認すると、王はラフィストに一つに纏められた紙を手渡した。

「これは……」

「参加者リストじゃ。後でじっくり見るが良い……で、お前達の話とは?」

「ルーン聖石の事なんですが……」

「ん、わかっておるぞ。贋物だという事は百も承知じゃ。ルーン聖石なぞ所詮古の伝承に

存在する物であって、実際に在るはずが無いからの」

「いえ、そうではなくて……」

「ん、何なのだ?」

「本物のルーン聖石がここにあるんですの」

「な、何じゃと!どこにあるのじゃ、それは!」

驚きの余り、王は玉座から立ち上がり辺りをキョロキョロ見回す。ティーシェルが黙って

王の前に行き、胸にかけられたペンダントを外して王に渡した。

「まさか、これが?―――……美しい。これと比べたら先程の宝玉も、ただの石ころじゃ。

ティーシェルよ、一体この石をどこで?」

「わかりません……その、生まれた時から持っていたもので」

「ほう……生まれた時からとな。それは興味深い」

王は暫くルーン聖石を眺めていたが、大切に持っていなさいと言い、それをティーシェル

の首にかけ直してやる。そして、ラフィスト達に大会まで城に部屋を用意したからそこを

使うと良いというと、先程下がらせたうちの一人を呼び寄せた。

「今日はもう疲れたであろう……ゆっくり休むがいい」

衛兵にラフィスト達を部屋まで案内するよう、王が命令する。衛兵に案内され、ラフィス

ト達は王の間を後にした。




「うわお!このベッドふかふかだぜ!スッゲー!」

ゴージャスなベッドに感動したニックスが、ベッドの上で飛び跳ねながら叫ぶ。今は、寝

る前のミーティングの最中で、ラフィストとサードの部屋に皆が集まっている。

「ニックス!それラフィーのベッドでしょ!?やるなら自分のベッドでやんなさい!」

「おい、あったぞ!」

騒ぐニックスを完全に無視し、一人黙々と出場者名簿を見ていたサードが、見ていたペー

ジを皆に見せてその部分を指差す。ガーネットとティーシェルが名前を読み、ナディア本

人であると確認する。どうやら思った以上に、作戦が上手くいったらしい。

「これで、準備OKですわね!」

ガーネットの言葉に、皆が頷く。後は全て武術大会の開催を待つだけだ。ナディアを見つ

け、彼女の話を聞く為に。




「ダメ、ボツ、クズ。見るからに弱い」

フォートレス城から城下町に続く橋の上で、何やら呟いている女性がいる。

「あいつは筋肉ゴリモリだけど、力ばっか強くてスピードや戦略弱そうだからダメ。あの

術士は見た目賢そうだけど魔力、カス」

銀の髪の女性は橋の手すりに腰かけて、どうやら大会に出る者の品定めをしているらしい。

しかも、かなり酷評だ。今日開催されるという事もあり、参加者がここを通っていくので、

ここでどんな者が出るのか見ているのだろう。

「フン!どいつもこいつも弱そうね。大した事ないわ。―――……ま、こんなチャチな大

会であれが手に入るなら……あはは、こんな楽な事って無いわ」

「よう、姉ちゃん」

女性が声のした方に視線を向けると、そこには先程女性にダメと言われた出場者と、カス

と言われた術士が立っていた。

「言いたい放題じゃねえかよ。アンタだって大した事無いんだろ?拳の方が、術の発動よ

り早いんだからよ!」

「そ、それに私の術だって決して弱くはありませんよ、ハイ!」

格闘家は今にも女性に掴みかかりそうな勢いだ。術士の方も、眼鏡をクイッと上げながら、

精一杯主張している。

「強いか弱いかなんて見りゃわかんのよ!っていうかさっさと退いてくれない?邪魔なの

よね。それにさ、何っていうの?アレよ。筋肉系特有の汗臭さ?あと眼鏡系の特に暗い分

類の放つ湿り気?あんたら二人並ぶと、相乗効果でマジキモイのよ」

「なっ……て、テメェ!」

「あー、やだやだ。怒ると余計汗かくわよ。湿り気で汗が余計臭くなるのよね」

「さっきから言わせておけば、失礼ですぞ!」

「構わねえ!大会前に力っつーもんを身をもって教えてやる!」

格闘家が女性に殴りかかり、術士が術の詠唱を始める。

「バカみたい」

「ぐがっ!」

拳が女性の体に触れる直前、バチッと言う音が鳴り響き、男が五、六メートルほど吹っ飛

ばされる。

「か、体に帯びた魔力で吹っ飛ばしたのか!?」

「だ、大丈夫でありますか!おろおろ……」

女性は手すりにつかまったまま、指でサッと印を切る。

「ファイアー!」

指先から炎が現れ、二人に向かっていく。二人に呪文が直撃すると辺りにズガーンと派手

な音が響き、煙が巻き起こる。煙がはれたところで、女性が二人の下へ歩み寄り、倒れて

いる二人を見下ろした。

「れ、レベル1のファイアーでここまで……しかも、詠唱なしとは……」

「魔力の差、分かったワケ?」

「ハ、ハヒ……」

「全く、これだから身の程知らずは……」

それだけ言うと、女性はその場を立ち去っていった。




「いよいよ今日だな。皆、準備は出来てるか?」

「勿論!……あー、緊張するぜ!誰と戦うんだろうなー!」

ニックスが騒ぐ。大会前というのに、やたら元気だ。

「本当に頑張ってね!サード、私期待してるよ♪」

「マキノ!……俺は?」

「ニックス?……あー、精々頑張れ」

「な、何なんだよその差は!」

扱いの酷さにニックスがマキノに文句を言う。

「何って、決まってるじゃん。優勝候補と、バカ」

「バ、バカー!?」

「あはは、うそうそ!ニックスも頑張ってね」

マキノに応援してもらえてニックスは相当嬉しかったのか、余韻をかみ締めている。

「皆、頑張って!私応援していますわ。……でも、決して無茶はしないで」

「うん、分かってるよ。ありがとう、ガーネット」

サードと、顔がにやけたままのニックスもガーネットに返事を返す。そんな中、ティーシ

ェルだけ黙りこくっていた。

「……ティーシェル。緊張してるのか?」

「少しはね。でも、ナディア見つかるかな……」

「大丈夫だって、絶対」

ラフィストの言葉を受けて、ティーシェルが少し笑顔を見せるが、それでもやはりどこか

俯き加減だ。そんなティーシェルを見て、マキノがポツリと呟く。

「……やっぱ、可愛いわ。うん」

「え?」

「いや、何でも!ヲホホ、ヲホホホホ!」

呟きを聞き取られたからか、視線を逸らし、明らかに不自然な笑みを浮かべる。

「あ、サード、ニックス。俺達試合だから、先に受付に行かないと……」

ラフィストが上にかかっている時計を見て、二人に出発を促す。後から会場に向かうとい

うガーネット達と別れ、ラフィスト達は会場に向かった。城から会場に向かおうと橋を渡

ろうとするが、何やら人だかりが出来ていて通る事が出来ない。一体何なんだろうと思い

ながら、その人だかりの中に割って入ると、男が二人黒焦げになっていた。

「……これは、魔法?―――……レベル3並の威力だが、怪我の具合といいこれはファイ

アーだな」

サードが火傷の具合を見て呟き、何かの石を取り出した。

「キュア……」

石が光ったかと思うと、みるみるうちに男二人の火傷が治っていき、完全に回復する。

「サード、それは?」

サードの手の中にある石を指差すと、サードは魔石だと簡潔に答えた。ニックスはそれだ

けでは分からなかったらしく、魔石って何だとすっとんきょんな声を上げている。

「簡単に言うと、魔法を使えない者が魔法を使う為の石だ。あまり数や種類もないし、使

うには訓練がいる。……まあ、能力増強系の物は、持っているだけで効果が得られるが、

そういったのは稀だな」

懐に使った魔石をしまうと、男二人にサードが誰にやられたと問いかける。

「銀髪の……長い髪の女だ……―――」

「!?」

ナディアを知る二人に聞いた特徴と、合致する。三人はお互いの顔を見合わせ、大きく頷

いた。

「どうやら、ビンゴだな」

「いいか、二人とも。もしナディアに会っても、知らない振りをしろ!」

俺達が知っているのは不自然だからな、とサードが念を押す。二人は頷き、再び会場に向

かって歩き出す。晴れ晴れとした空に無数の花火が鳴り響き、武術大会の始まりを国中の

人に告げていた。

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