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そして現在 四

 変身とは、自分の体を変形させろということに他ならない。

人間の骨格とか構造とやらを完全に無視したその変身という行為は、つまり、人間には出来ないといっても過言じゃあないだろう。

というか、出来ない。

 元々変身という単語自体は人間の為に作られた訳ではないことはまことに当然の如く周知の事実。はああ、駄目だ。出来ない。出来る訳ねえ。一介の人間に出来る訳がねえんだよ、変身なんてものは。狸とか狐とか天狗とかそこら辺の動物達なら出来ないこともないんだろうけど、人間には出来ない。ましてやこの俺だ。通常業務である人間生活の方もキッチリキッカリこなせていないにも関わらず、都合良く変身が出来るなんて展開、お天道様が許さないんだよなあこれが。

「サンタになるならまずはサンタに変身してみろ、か」

 どうなんだろう。

 果たして、この試験とやらにどんな意味があるんだろう。ああ、別にあれだよ、サンタになるならないとかいうことには興味ないよ。サラサラないよ、サラサラ。砂丘の砂が風で静かに揺れ動かされる時の擬音を使う程、俺は、サンタなんかには興味はないんですよ。頼みますよそこら辺。理解承諾了解の旨、宜しくお伝えしておいてくだせえ。

「…………」

無言の状態で、とぼとぼと一人歩きながらサンタになる為の試験について考える俺。新美教官から試験の内容を聞いた時は昼だったのに、今現在は午後十時ジャスト。頭上には満天の夜空が広がっている。「うむ。満天の夜空は満点だ」と頭の中で思ったことをそのままつぶやいたら、物凄くつまらないことに気付き直ぐさまなかったことにした。もう駄目だ。やるせねえ。ちなみに新美教官というのは先刻のメガホン女性のことであり、またまたちなみに言うと先刻までいた小学校は廃校だった。新美教官いわく、「だからメガホンで叫べたんだよ。こんな休日の昼間から小学校の前でサンタになる為の試験の説明なんかしてたら、子供泣き出すっての」なんだとか。まあでもメガホンで拡大されていた音は人間の意識を混濁させることが出来るほどのものだったので、廃校云々関係なく校舎の外の外まで届いていたと思う。現に、俺とツチクラに説明した後、「新美教官声デカイですよモロバレですよ! 貴女正気ですか!」とか叫びながらなんだか偉そうな中年男性が新美教官に走り寄ってきていたし。そしてちょっとうろたえながら「す、すいませんでした」と謝るメガホン女性もとい新美教官。

 うわはははどうだメガホン使いまくるからこうなるんだ。

 と、言ったコンマ一秒後に新美教官の右拳が俺を攻撃したのは、回想したくない。トラウマもんだからね、あれはね。新美教官の上司っぽい人なんて俺が殴られたことにすら気付いてなかったからね。その時隣に居たツチクラなんかは、「大丈夫?頭」とだけ呟いてその場を去ろうとしていたしね。それは殴られた俺を労ってくれているのか、はたまた痴呆症にかかっているかもしれない俺の頭の構造に対して非難しているのかどちらなんだろう――と思っていたら、ツチクラの背中は既に校門の外に在り、「おーいツチクラー。秘策ってのはいいんかーい」と遠くに話しかけても何も言い返してくれなかった。これが巷で噂の放置プレイとかいうやつかいやいや放置ってなんだよプレイってなんだよ表現がやらしいよ。「いやーん、なんか官能っぽい」

「……流石にその呟きは引くわ」

「うえおうあ!」満天の夜空の下、俺が歩く右横にある電柱の側に女性が居た。何をか言わんや、ツチクラだった。「おいツチクラ! お前、何で俺が恥ずかしい言動している時に限って登場するんだよ!」

「私はそういう役回りなのよ。あんたが恥部をさらしている時限定で、私はあんたの前に現れる。わーいわーい」

「嫌がらせもそこまでいくともはや超能力の類だろうが!」

「馬鹿いってんじゃないわよ、こんなの超能力じゃないわ。全国の超能力さん達に贖罪しなさい」

「一人も居ないかもしれない超能力さん達に向けて単なる謝罪の上を行く謝り方をしなきゃいけないんですかツチクラさん!」

「さん、じゃない。様」

「……ツチクラよう」

「ごめんその返しわかりにくい上にキツイ」

「率直な感想ってここまで人を傷付けられるのか!」

「ほら、もう一回言ってみなさい。せーの」

「ツチクラよう」

「その残念なのを言えって催促する訳ないじゃないの私が」

「残念なのっていう表現で俺の恥部をまとめるのはやめろ!」

 あまりの精神的ショックにツチクラが謝罪をしたというその信じられない展開を軽く流してしまう俺だったが、ツチクラが、閉じたツチクラの唇に右手の人差し指を当てているのには気付いた。「何やってんだ、ツチクラ」

「うるさいのよ。今何時だと思ってんの。叫ばないで静かに指摘しなさいな」

 どうやらうるせえから静かにしろやコラァと言いたいらしい。

「今更じゃね?」

「今更も殊更もないわ。お願い、静かにして。あんたと二人で居る所なんか誰かに見られたら、私、明日から外歩けないじゃない」

「激写されたモデル気取りかお前は!」

「モデル? ああ、違う違うそういう意味じゃなくてね。ただ単にそういう噂たてられるのが嫌いってなだけよ」

 あんただから嫌とかそういう訳じゃないからね、とツチクラはぼそぼそ呟く。そうか、ツチクラも意外とそんなことを気にする所があったのか。誰に何を言われようとそんなの関係なく我が道を進む女、みたいな感じだと思っていたのだけれど、どうやらどうやらそういう訳でもないらしい。

「へえ。お前もそういうところあるんだな」

「……何よその言い草。警察呼ぶわよ」

「ちょっと感想言っただけでその仕打ちかよ!」

「ちょ、本当にうるさいから黙りなさい。さもないと警察呼ぶわよ」

「対処方法が一辺倒!」

「ああもううるさいわかった警察呼ぶ! 警察の人ー! 誰かこっち来てー!」

「呼び方が原始的過ぎる! てか俺が言えた義理じゃねえけどお前もうるさいって!」前世はネアンデルタール人なんじゃねえのかこの女と思いながら焦る俺。「わかった、よくわかったから静かにするから! だから二度と警察を呼ぼうとすんなよ!」

「何言ってんのよこの嘘つき! まだうるさいじゃないのよあんた!」

「いや、だから、これから静かにする予定なんだって!」

「警察の人ー! 漫画における未成年の性描写制限規約に異論を唱えたがってる人がここに居まーす!」

「テメっ……わかったよ、トーン落とせばいいんだろ。ほら、落としたぞ」

「はあ? 何言ってんのか聞こえないわよ! もっと大きな声で喋りなさい!」

「おいおいどうしろってんだ俺に!」

 結局、夜中に俺とツチクラはわーわーぎゃーぎゃーと騒ぎ立てた。途中でツチクラが「大体あんたは私の話を全然聞かないじゃないのよ! なのにこういう時に限って文句を言うんだもんねあんたは!」と話を切り返した時からツチクラが一方的に俺へと愚痴を叫ぶ展開となり、当然の如く何も言い返せない俺は縮こまってしまい、「はい。すいません、はい……」と相槌を打つしかなくなった。結構大きなボリュームでツチクラは叫んでいるんだけども、そういえば警察の人はリアルに何をしているんだろう。今は三月で、街の大人全員が協力して働くクリスマスにはまだ遠い筈なのに。

いやあ、初めて夜のクリスマスを見た時は圧巻だったなあ。見知った大人も見知らぬ大人も、皆が皆協力してトナカイがひくソリに乗って飛んでいったあの光景。ソリには大量の白い袋が置いてあって、そしてそれらは全て、クリスマスの何ヶ月も前から街の大人全員が協力して準備したものだと思うと、感慨深いものがあった。サンタなんかはどうでもいいけれど、あの一丸となって一つの目的に動く大人たちの姿は、物凄く感動したなあ。サンタは嫌いだけど、うん。

「なあ、ツチクラ」

「あんたはいつもいつもそうなのよ! 私があんたに漫画貸そうとしたら「あ、すまん。その作品、俺の中では終わったことになってるから」とか言ってさあ! あんた自身が既に終わってんのによくもそんなこと言えるわね!」

「あれえ? お前、何に対して怒ってんだあ?」

「間延びした口調で問いかけないで! あー腹が立つ腹が立つ腹が立つ!」

 とにかく、わかったわね!

 最終的にツチクラ自身も何に対して怒っているのかわからなくなったんだろう。一体全体俺に何をわかれというのか。静かにしろってことなのか、いつも俺がのほほんと日々を過ごしていることをわかれということなのか、サンタになる為の試験の秘策を教えろということなのか、まだ連載中のあの漫画をもう一度読めということなのか。正直、あの漫画嫌いなんだよなあ。絵柄も微妙だし毎話毎話テキトーだし。なんであの作品が打ち切られないんだろうか。「やっぱ、あれだな。あの漫画が打ち切られない世の中は間違ってるよな」

「はあ?」俺が思考していたら、いつの間にかツチクラの怒りもおさまっていた。ハアハア言いながら荒い息を整えようとしているが、まあ、ツチクラにとってこの程度どうってことなんだろう。何故なら俺に投げかけた二文字の相槌をうつツチクラの顔が元通りのアンドロイドになっていたから。少し赤い頬はご愛嬌ってところか。「何の話してんの、あんた」

「あの漫画だよ。ほら、ツチクラがかしてくれ漫画」

「ああ。あの微妙な漫画ね」

「ん? お前が貸してくれたのに何で当の本人が批判してんだ? ……まあいいか。こんな話どうでもいいんだよ、ツチクラさんよう」

「またあんたその残念な呼び方使っちゃって。自虐ってそんなに楽しい?」

「そういうんじゃねえよ今のは! てか話しの腰折るんじゃねえよ、黙って俺の話し聞いてくれ!」

「嫌よ! 絶対に嫌!」

「ここで完全なる拒絶反応が出るのは何でなんだ!」

「そんな……無理、無理よう……私があんたの話しを黙って聞くなんて……。お願い、許して……許してくだ、さい……」

「そこまで弱気になるまで嫌なのかよ俺の話し聞くの!」

「そりゃそうでしょうが。どうせ、あれでしょ? 「お前、今日どんなパンツはいてんの」とか聞くんでしょ? ……この変態! 痴漢!」

「どこをどう繋げたらそういう人物像になるんだ俺が!」

「謝って!」

「それこそ何でだよ!」

「謝って! 謝りなさい!」いつの間にか大きな声を出している俺とツチクラだったので、いつの間にかギャラリーが周りに出来ていた。言い換えれば野次馬という奴だ。夜中の街路地に、十人くらいの老若男女が俺とツチクラを指差してひそひそと何かを喋っている。

「近頃の男は酷いわねえ」「あの女の人可哀相ー」「両手で顔隠しててよくわからないけど泣いてるんじゃない?」「じゃあ泣かせているのはあの男の方かね」「アヒャヒャ! 切り刻みてえ!」「ドロドロしてるわねえ。あんなサンタは嫌ねえ」「ほんとほんと。あんなサンタになったらダメよ、ゆうくん」「ねえお母さん、サンタになるってどういうこと?」「あ、違うのよゆうくんそういうことじゃなくてね」

「謝りなさいよ、あんた!」

「…………」何故かはわからないが、ヤバイくらいに発狂してる人と、サンタ的な事情に関してピンチになってる親子が居たような気はしたが、とにもかくにも依然としてツチクラは叫んでおり、そして周りのひそひそ話は続いている。

 この場をおさめるにはどうしたらいいのか。

 ツチクラの怒りを静め、下がりに下がった俺の評価を少しだけでも上げるにはどうすればいいのか。損得論とかそんなのは無視して、とにかく、この場を苦労せずに静めるにはどうすればいいのか。

 ため息を一つつき。

 膝を両方と両手の掌をひんやりとする地面につけ。

 額を地面につけて、「すまん!」と一言叫んだ。

「……え?」と、観客ならびにツチクラから戸惑いの声が漏れる。

 今日だけで二度目となる謝罪方法。

 土下座とやらを、俺はしたのだ。

「え、な、あんた何してんのよ! ほら、頭上げて! そこまでしてもらわなくてもいいわよ!」

 そもそもそういう場面でもないでしょう! 私が、一方的に騒ぎ立てただけじゃない! 「ああ、もう……悪ふざけが過ぎました! はいはい悪ふざけしすぎましたよ! ほら、早く顔上げ、て……」

 何だかわからないが最後の方で声がしぼんでいくツチクラ。ツチクラに催促されて顔をあげると、そこには顔を少しだけ赤くして俯くツチクラの姿があった。察するに、周りからの目線が恥ずかしくてしょうがないんだろう。やがて「よかったよかった」「仲直りした仲直りした」と言いながらギャラリーが去って行き、電灯が足元を照らす街路地には俺とツチクラだけが残される。

 立ち上がり、沈黙の状態で歩き始める俺とツチクラ。

「……わざとでしょ、あんた」

 沈黙を最初にぶち破ったのはツチクラの方だった。「何がだ?」

「惚けんじゃないわよ。あんなにいっぱい人が居る中土下座なんかして。私に恥をかかせる為に、わざわざ土下座なんかしたんでしょ」

「……そう感じたんだったら」ツチクラの顔は俯いていて、俺にはツチクラの本心が全く読めない。だから、俺は、言葉を繋げるしかなかった。「ツチクラがそう感じたんだったら、俺が悪かった。どうやってあの場をおさめればいいかわからなかった。スマン」

「……あー! あああああ、もう!」

 そして、叫ぶツチクラは。

 思いっきり俺の方を振り返り、大股で一気に俺の方へと近寄ったかと思うと、大きな声で「謝んないで!」と言い放った。「そんなに簡単に謝んないでよ……って違う! そういうことが言いたいんじゃなくて……ああああ、もう! わた、私が謝れなくなるじゃないの!」

 言いながらツチクラは先刻俺が謝った時のような体勢に入ろうとした。つまりは土下座という奴である。土下座。ツチクラが、土下座。「うおおお、やめろって! そこまでしてもらわなくてもいいって!」

「うるさい! このままじゃ私の気が済まないのよ!」

「いや、いいって充分だって! ツチクラの気持ちは充分伝わったから!」

「はあ? そんなのどうだっていいわ!」

「えええ! ダメだこいつキャパシティー越えて言動が破綻してやがる!」

 再び俺とツチクラはぎゃーぎゃーわーわーわめき立て、二人同時にピタリととまり、二人同時に「「学習しよう、お互いに!」」と叫んでいた。もう一度、学習しろよ、と心中で自分自身に唱える。謝るとか謝らない以前に、俺達二人は夜中に騒ぎ過ぎだ、こりゃ。静かな雰囲気の中、反省した俺とツチクラは静かに歩く。

「ちなみにさあ、ツチクラ」

「何よ」

「お前、何でこんな夜中に一人で居たんだ?」

「決まってるでしょ。あんたから秘策を聞き出す為よ」

「それにしたって新美教官の話聞いた後に時間あったろうに」

「……昼間、私なりに調べたの。どうすればいいのか。でも、何も見つからなかった。だから、行く宛てはあんたのところしかなかったの」

「秘策なんて無えって言ってるのによお」

「何よ、もう。じゃあ秘策がないあんたは、サンタの姿に変身しろっていう試験をクリア出来るの」

「……わっかんねえ」心に思うありのままをそのまま口に出す。「サンタなんかになる気はねえし、試験に落ちたって、この街に居る限りは強制的にサンタにさせられる。サンタを補佐するサンタってのも聞こえはわりぃが、結局はサンタだ」

「そうね」

「でも、さ」

 ――何故だか俺は、十年前を思い返していた。サンタが嫌いで、サンタを恨んでいた時に目の前に現れたあの男。あの後巻き起こった、一連の騒動。

 あの時は、サンタを恨んでいた。今は、あの時ほどではないけれど、嫌いなのにはかわりない。

 けれども、俺は見てしまった。大人になったら知らされるこの街の真実。クリスマスの日、街の大人が一丸となってプレゼントを配ろうとしていたあの光景を。「無償で子供にプレゼントを配る、クリスマス。街の皆がさ、馬鹿騒ぎして挑むあのお祭りにさ、参加したくねえってのは、嘘になるわな」

「……そうなの」

「ん?」

「あんたには、この街を出ようって気はさらさら無いのね」

 そう言うと、ツチクラは踵を返して去って行った。「おい、それってどういう意味だよ!」という俺の制止を無視し、走る。その後をついて俺も走り、全力で走ったのだが――その、あれだ、間に合わなかった。

「はあ、はあ、あいつ、本当に細身の女なのかよ」荒ぐ息を押さえつつ、誰かの家の白いコンクリート出来た外壁に背中を預け、その場に立ち止まる俺。

 ――あんなことを言った、ツチクラの真意はわからない。

 だけども、ツチクラは必死になってサンタになる為の試験を通過しようとしている。

 秘策があるんでしょうとかなんだといって、俺に詰め寄るくらいに――。

「ツチクラ自身が嫌いな漫画を俺にかす理由、聞けなかったな……」

 どうせあいつのことだろうから、単なる嫌がらせ以上の意味はないんだろうけど。

 まあ、何にしろ。「負けらんねえよなあ、俺も」

 とりあえず、明日になったら漫画喫茶に行って漫画を読むことにしよう。いや、現実逃避とかではなく、イメージトレーニングってやつだよ。変身してるっぽい漫画はいくらでもあるだろうから、読み漁ってイメージを固めておこうっていう魂胆の上で、だ。

そんでもって、俺のあんぽんな頭を限界の限界まで駆使して、なんとか、サンタになる為の試験とやらを通過してやろうじゃねーか。変身しろという訳がわからない試験を突破する為の秘策みたいなものを、何とかして用意する。そんくらいしか、絶賛傷心中のツチクラにしてやれることは何もねえから。

 そう、しようとした。


「アヒャヒャ、切り刻みてえ!」


 ――気付くと。

 目の前には、先程ギャラリーの一部と化していた男が存在していた。薄汚れた服を着て、右手にはナイフが一本。メガネをかけていて、その奥に見える両目はまるで酒に酔っているかのようによどんでいる。その男が、暗い顔でぶつぶつと独り言を言っている様を、目のあたりにした。

 正直に言いたい。

 うわあヤベエよこいつ、と。

「アヒャヒャ、切り刻みてえよなあ、なあ? なあ! アヒャヒャアヒャアヒャ! ああああああ、僕はさあ、サンタになるんだあ、サンタにさあ! でもようでもよう、変身しろっていう試験でよう、んなもん出来っこないじゃねーかよう……あのメガホン教官……切り刻みてえなあ……」

「…………」

「あー、ゴホン。と、言ったら君はどうする?」

 思わず唖然となり、若干、というか完全に引きに引きまくっていた俺の無言の雰囲気に気がついたんだろう。目の前でラリっていた男は、直ぐさま冷静沈着な振る舞いを取り戻そうとする。今更も殊更もありまくりだとは思うんだけども、「冗談が過ぎたか……。違うんだ、落ち着いて僕の話しを聞いてくれ。ほら、あれだよ。試験に挑む優等生がよくやるストレス発散って奴なんだ」と言い訳をしながら、先程までのラリった言動とは一変、あらまあ俺が見知ったその男性は、今日の朝方会った時のようなキリッとしたたたずまいになっていた。あらあらまあまあ。

「カタギリ君じゃねえでございますか。何やってんだい」と俺は頬を引きつりながら聞き、対してカタギリ君は、「変身しろという試験の対策に行き詰まった。この際だ、僕にも秘策とやらを教えてくれ」としれっと返した。


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