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そして現在 三

「サンタとはすなわちサンタクロースの略称なのは言うまでもねえ!

 かれこれ何千年も何万年も前から、先人のサンタ達は街の外の世界の良い行いをしていた子供達にプレゼントを配っていた! 理由はないらしい! ただ、先人が配っていたから、プレゼントを配る! 言わば伝統だ! 理由もなくプレゼントを配るなんてことに違和感を覚える奴らは山ほどいたが、少なくともその行為を止めようって奴ぁ、誰一人いなかった!

 なんやかんやで、私達は子供が喜ぶ姿を見るのが楽しみになっていたからだ!

 かくいう私も昔はサンタとしてプレゼントを配っていた! そして今もそれは変わらない! この街に居る限り、サンタとしてプレゼントを配るのは当たり前だからだ!

 だが、サンタになる為には、サンタなりにそれなりの条件が要る! だから私みたいな教官がいる訳だし、言わずもがなサンタとしてプレゼントを配れない街の住民もいる!

 なら、その住民はサンタではないのかと聞かれたとしたら、その答えは否だ! 何故ならクリスマスの日、プレゼントを配らないサンタは街に残り、プレゼントを配るサンタをバックアップするからだ! 体温調節、プレゼントの管理・……プレゼントを配る以外にやらなきゃいけないことは山ほどある! いわば裏方だ! しかし意味のある、重要な裏方だ! そこを肝に銘じて、今から私の話を聞け!

 ――これより、プレゼントを配るサンタになる為の第一試験の説明をする!」

 メガホンを使いながら一気にそこまで話すと、メガホン女性は大きく息を吸った。その間にも俺の鼓膜のビリビリとした感覚は治まる兆しを見せない。なのに、この待遇に文句を言おうとすると、「黙って聞いてろ!」というメガホン女性からの一言。拷問だろこれは。カタギリ君め、俺が起きるまでの間は耳栓をしていたに違いねえ。畜生っ。なのに何で右横で佇むツチクラは無表情のまま俺を眺めてニヤニヤしているんだよ。おいおいよもや涙目になりながら必死で耳を両手で閉じる俺が目当てでこの場に残ったんじゃなかろうな、と考察し、すぐにその考えを振り払った。そんな恐ろしいことを考えながらツチクラが俺の横に居る、なんてことは、まるでない。そう、思いたい。

俺が涙目になっている姿を一瞥し、何故なのかわからないが一度頷くと、メガホン女性がもう一度話し出す。「十年前にサンタの正体が白髭の老人っつー『根も葉も無い』噂が広がってしまったせいで、そしてその噂が事実だと認識されてしまったせいで、私達の行動は制限されることになった! 何故なら、もし、もしだ! もしも子供達に姿を見られてしまった時に、白髭の老人以外の姿だったら通報されるからだ!」

「強盗だと思われてるじゃないですかサンタが!」

「黙って聞いてろうあっ!」

「ヘァッ!」

「よし、わかったならそれでいい!」メガホンを使いながら極限まで大声を出しているとその使用者の頭はおかしくなるんだなあとぼんやり思いながら、依然涙目の状態で静かにしていることを再度決意する。「つまり! サンタは白髭の老人でなければならない! しかし! 全世界に向けて子供達が寝ているであろう深夜の時間帯だけでプレゼントを配る為には、この街に現存する白髭の老人だけでは全く足りねえ! そんなもんは考えなくても即効で気付く、わかる、理解出来るの三段思考展開だっ!

 そこで、第一の試験はこれだ!

 『白髭の老人に変身する技術を試験官に披露せよ!』

 期限は一週間! 出来なきゃサンタにはなれねえ! この程度できないのなら、子供達にプレゼントを配る資格はないと思え!」

「……は?」

 メガホン女性は自分の使命を充分果たしたと言わんばかりに晴れ晴れとした表情をしていたが、それを見る俺は思考が追いつかなかった。ツチクラはそんな俺の様子を見ながら、何も言わない。さっきまでの状態にいるならば、余裕で罵倒してきそうな筈なのに。

 メガホン女性の話を再度頭の中で繰り返しながら、もう一度、俺は疑問の意を唱える呟きをすることにした。

「はぁ?」

 なんだって?

 今、この人はなんて叫んだんだ?

 白髭の老人に変身する技術を試験官に披露しろ?

 ――扮装とか変装とかそういう意味合いじゃなく。

 変身しろ、だと?

「どうやらお前でもわかったみたいだな、春賀彼方受験生。一応は受験の資格があると認めてやる」どうやら俺は知らず知らずの内に暗い表情をしていたらしい。全くもって、そう、全くもってサンタって奴には興味がわかないが、何故だかこの試験の概要を聞いた時、俺の心に暗雲が立ち込めた。

 何故かはわからない。

 だが、これだけは言える。「要は、一介の人間な俺に、別人になってみろってことなんですか?」

 メガホン女性は、俺の問いかけを聞くと、満足気に頷いた。

「秘策、教えなさいよ」とツチクラはメガホン女性の方を向きながら俺の横で囁く。その横顔は彼女には珍しく、本気で悩んでいる様子だった。

 サンタになる為の第一試験――白髭の老人に変身する技術を試験官に披露せよ。

「無理だろ」と俺は呟く。

「無理じゃねえ、やるんだ」とメガホン女性は微笑を浮かべながら言う。「出来ないと諦めたら、そこで試合終了だ。お前らは、サンタになれねえ」


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