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十年前side3

第十八回電撃文庫一次選考落選作品です。非常に読みにくいとは思いますが、もしよかったら評価してください。お願いします。

「僕はね、僕が上手くいかない時、僕が悪いんじゃなくて世界が悪いと思うようにしているんだ」

 その若い男は、その男の前に座る少年に向けて優しい微笑みを浮かべたまま呟いた。暗い暗い街の中。街灯が照らす交差点で、誰も何も通らないその場所で、双方共体操座りの状態で向き合う。「君はどう思う?」

「わかんない」誰かの家の塀である冷たいコンクリートに背を預けながら、少年は男に答える。「お兄さん、何なの。いきなり声かけてきて、いきなり変なこと言い始めてさ」

「アハハ。そうだね、そうだ、唐突過ぎた。……今更だけど言っておこう。僕は変質者じゃあない。よって、ボサボサ頭で薄着の君を誘拐しようだとかそういうことは考えていないから、そのつもりでね」

「そんなこといわれてもお兄さん、変なお兄さんじゃん」

「おうっ。君は意外とストレートに物事を表現するんだな」

「まあね」

 少年は体操座りのまま得意げになる。「いや、褒めた訳ではないんだけど」と一応の注釈を男が加えると、「まあいいか、君は」と言って男は立ち上がる。「そろそろ時間だ。暇つぶしになったよ。ありがとう」

「……どういたしまして」

「御礼。いいね、ちゃんと御礼を言う子供。僕は好きだよ。君みたいな少年が」

 さあ、野郎共。馬鹿げた理想の為に立ち上がる、気高くもなく高貴でもない野郎共。「あ、野郎じゃない人も居た、か」

 言いながら、男は少年が向く先を見る。立ち上がった男は成人男性の平均身長を軽く越えており、全体的に細い印象を兼ね備えていた。

「いちいちしまらねえよなあ、あんたは」

すると、少年と男が向く先に、人影が現れた。二桁は越している数の、人影。屈強な者もいれば、女性特有のシルエットを映し出す者もいる。子供のような身長を持つ者もいれば、老人のように腰を曲げたままの者もいた。その中の一人である、屈強な体を持つ男の低い声が夜の交差点に響く。「ビシッと決めてくれよビシッと。これからが正念場だろうが」

「いやー、ごめんね皆。こんな調子じゃなきゃやっぱり僕は生きられないみたいだ」

「……ま、それをわかって俺達はあんたについて行くんだがな」

 その子供はどうした、と聞かれた男は、暇つぶしに語り合おうかと思ってさ、と答えになっているかどうか微妙な返答をする。その返答に困惑した表情でため息をする屈強な男を見やった後、細い体格をしたその男はもう一度少年に顔を向ける。少年は「え、え、え」と明らかに混乱していた。今まで喋っていた温和そうなお兄さんが、なんだか怖い人達と怖いことをしようとしている。それだけわかれば、少年の恐怖を浮かび上がらせるのには充分過ぎる程だった。

「大丈夫、怖がる必要はないよ。僕らはこれから、粛清をするだけだから」膝を折り、男は笑顔のまま少年に向き合う。「粛清に次ぐ粛清だ。この汚れきった街と、汚れきったとこしえの現世を、粛清してやるんだ」

「粛清……?」

「そう、粛清。僕らは子供の頃から疑問に思ってた。何でこの街はこんな街なのか。僕らの未来の一部を勝手に決め、僕らの行動を勝手に制限する。この街の未来は夢を与える? 希望を与える? 馬鹿言ってんじゃない、ということはすなわち僕らはその夢やら希望やらの礎に過ぎないじゃないか」

 そう一気にまくし立てた男に対し、「な、何言ってるのお兄さん」と少年は訪ねる。体を少しだけ震わせながら。しかし少年の顔は、少しだけ、ほんの少しだけ好奇心を持ち合わせていた。

「……いけないいけない。そうか、君はまだ知らされてないのかな。じゃあ、これ以上言うのはやめようか」

 でも、最後にこれだけいわせてもらおうかな。

 男は再度立ち上がる。電灯によって微かに照らされる人影をバックにしながら、その人影の内の一人に「結局それ以上言うのかよあなたは」と指摘されながら、男は少年に言う。

「この街はそんじょそこらにある普通の街じゃあない。この街の全包囲が馬鹿デカイコンクリートで囲まれてるのがいい証拠だよ。そう、この街は他の街とは違う。他の街とは違う理由が、ある」

 そして、男は。

 少年がまだ知り得ない情報を、笑顔のまま語る。「何故ならこの街は、子供達の一日限定救世主――サンタを育成する、街だからさ」

「サンタ?」

 少年はこの場の雰囲気に似つかわしくないその単語を聞いて、思わず首を傾げる。

 サンタ?

 サンタって、あの、クリスマスにプレゼントを運んでくれるサンタクロースのこと?

「うん。恐らく、今現在君が考えてるそのサンタであっていると思うよ。この街に住んではいない外の街の人達は、サンタの姿形どころか名称すらしらないだろうけど」言うと男は立ち上がり、少年に背を向けて複数の人影の元へと歩き出す。「じゃあ行こうか、皆。僕達の人生を粉々にしたこの街に復讐する為に」

「ま、待ってお兄さん! サンタってどういう意味……この街がサンタを育てるって、どういう意味なの!」

 本来ならば。

 少年は、この場では恐怖を感じるべきだったのだろう。当然だ。夜中、いきなり訳のわからない大人に話しかけられたと思えば、復讐だなんだといい始め、他の同行が一同に会す。そんな場面を見て、普通の少年は、普通の少年らしく恐怖を感じるべきだった。

 しかし、その少年は。

 満面の笑みを、浮かべていた。「本当なの? この街がサンタの街で、その街に復讐しようとしてくれているの? 何にもプレゼントをくれない、貧乏だからこんな場所で寝るしかない僕を見捨てるサンタに、復讐してくれるの?」

「……へえ。君、思った以上に面白い出で立ちをしているね」

 再び男は少年に近づく。少年は喜々とした表情をしながら、期待に満ちた視線を男に向ける。「そうだね。もし、もしだ。僕らの復讐が何十年も先にまた行われるようなことがあれば、君を仲間に加えてあげよう」

 えー今回で終わらせるんじゃないの、という女性の声が夜の街に響く。「も、もしかしたらだよ」と男ははぐらかし、「だからね」と言って少年のかじかんだ手を握る。

「君はそれまで頑張って生きるんだ。そしてやがて真実を知ると思う。その時に憤りを感じたら、君は僕らの仲間だ」

 だから。

 それまで頑張って生きるんだ。「辛い時も、病める時も。何もかもがどうだっていいと思った時も。生きることだけ考えて、生きてくれ」

 男の優しい声を聞くと少年は一度だけ頷いた。その顔には何やら決意のようなものが滲み出ており、少年はそして生き続けることを決意する。「うん。頑張る!」

「よし。その意気だ!」男は少年の手を握るのをやめ、声を張り上げた。「聞いたか野郎共! こんな小さな子でもこんな凄いことを約束出来るんだ! だったら僕らが復讐を完遂出来ないなんてことは……って、野郎じゃない人もいたっけ」

 そのしまらない意気込みを聞いて、複数の人影を含め、少年も口元だけで笑った。なんだか朗らかな気分だった。今の今まで、荒んでいて糞ったれな世の中に絶望していたのに。この、何だか少しだけ抜けている男が側に居ると、安心出来る。

 こうして、男は複数の同志をつれて復讐へと駆り出した。

 ――この街はサンタを育成する街。サンタしか、居ない街。

 他の街とは科学や何やらの技術が格段に違い、しかしそれでいてどの街とも交渉を行えない――他の街の誰も知らない何処かにある街。

 サンタがまだ知られていない世界で。

 男と同志達は、サンタの存在を世界にしらしめるべく立ち上がる。

 こうして、世界にサンタクロースという存在が広まり――その日は『サンタ記念日』と称され、『クリスマス』と称され。

 十年の月日が、経った。

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