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第四話

 超能力。

 それは未知のウイルスによる対処不可能だった病気。

 超能力が発症した原因は、二〇二四年に太平洋に落下した隕石にあると考えられている。正確には隕石の破片に付着していた未知のウイルスというべきだろうか。

 月に設置された迎撃ミサイルによって砕かれた隕石。その中のいくつかの破片――――比較的大きかったものが大気圏中でも燃え尽きず太平洋に激突した。

 その直後である。正真正銘の超能力者が各地に現れ始めたのは。未知のウイルスには、宇宙空間も大気圏突入による灼熱も障害とはなりえなかったのだ。潜伏期間は約一ヶ月。短時間で増殖し飛塵感染する未知のウイルスは、あっという間に地球上に広がり、最終的に全人類が感染した。いったん発症したウイルスは、どのように対処しても治る気配どころか、弱まる気配さえ見せない。しかし、人間には悪影響を及ぼすことはなかった。また、能力の種類は変わるが子供にも遺伝した。

 そのことが分かった途端、世界各国は素早く動く。

 超能力をカリキュラムに加え、さまざまな研究機関によって効率のよい超能力の向上法や戦闘術を開発していく。

 その間も超能力ウイルスについて様々な実験が行われた。しかし、人類の技術力では能力を強化させることも劣化させることもできず不可侵だったのである。




 ……その常識が変わろうとしていた。







 驚愕と沈黙が部屋を支配していた。

 それだけ、超能力に直接的な影響を与える薬ができたことが驚きだったのだろう。そういう僕もその例には洩れずしばし茫然としていた。

 一時的に一ランク下げることしかできないが、不可侵と謳われた超能力ウイルスに干渉できるようになったことは大きい。人々が知ったらどうなってしまうのか。


 なかなか面白くなりそうだと感じる。恩恵をもたらした新たな力を失いかねないこの薬を恐れるのか、それとも格差を広げた超能力を失うことで平等になれると騒ぎ出すのか。……そもそも一般に公表されるのははるかに先の話だろうけど。

 いずれにせよ、僕たちのいる小会議室は異様な熱気に包まれていた。

 誰かが口を開いた。

「どこが開発を?」

「第三支部の連中だ」

「それはそれは……連中これまた厄介なもんを作ったな」

「あいつらは研究馬鹿ですから。何を言ったところで無駄になるだけ、ってのを改めて確認させられたところですかね」

 具炎と僕のやりとりはこの場にいた全ての人の気持ちを代弁したと言えると思う。

 第三支部のやつらは今までにも言葉に記すこともはばかれるようなものすごいモノを作ってきた。そしてその度に面倒な目にあわされてきた。たくさんの成果を出しているため、バックからの評価は高めだが、現場からすれば疫病神でしかない。

 今回も、明らかにサイクルの厄介事に巻き込まれる可能性が高くなっている。

 こういうブラックボックスになりかねない問題は、僕が土に還ってからとまでは言わないけれども、せめて元の世界に戻ってからにしてほしい。サイクルが他の組織に狙われるということは僕の仕事が増えるわけで。ということは、僕も参加者だけでなく他の敵にも良く狙われるようになるわけで。そうなれば僕の死ぬ危険もアホみたいに上がることは三秒で分かる。

 もちろん危険度が上がるのは僕だけではない。他の人も、忙しくなり死ぬ危険も上がり、とデメリットがメリットを上回りすぎている。別の組織が開発するのなら傍観するだけで――バックから圧力をかけられなければという条件がつくが――事が済む。いことが一つもないと言うと誇張しすぎだけど。 

 この場にいる他の人も総じて嫌そうな顔をしている。誰だって面倒事は勘弁してもらいたいってことなのか。

 ボスが幹部たちを見渡す。

「それでは三つ星以下のメンバーにも伝えるどうかを決めたい」

「まずは全員に伝えるべきかどうかどうか、ね」

「信用の問題もあるから、全員に伝えたいところだけど」

「情報が漏れる可能性が高くなってしまうからな。一部に留めておくべきだろう}

「純矢の言うことはもっともな話だがよ、信用の方も馬鹿に出来んぞ」

 部下からの信用は重要な問題だ。サイクルの下っ端は他の組織に比べ数は少ない代わりに能力は高く、少数精鋭型だと言える。ただ幹部級から見れば下っ端の能力は決して高くということはできない。それでも幹部の数をはるかに上回っており、組織の大部分を占める大事な構成員である。相変わらず暗部社会のは世知辛いことだ。今日の麻衣の件もある。

 おっと、さっさと義母に相談しないと忘れてしまうかもしれない。それなりに大事な要件だから気をつけなければ。



 議論は続く。三つ星までには知らせる、二つ星の一部まで。様々な意見が出るけどなかなか決まらない。

 ここで一つの提案をすることにした。

「ここは全員に知らせた方がいいんじゃないですかね」

「皇輝か。理由はなんだ?」

 ボスに促される。

「遅かれ早かれこの情報は漏れてしまうでしょう」

 一呼吸置き異論がないことを確認する。

 小さくうなづき続けた。

「それならばいっそのこと全員に伝えてしまい、サイクルの組織力を高めていった方がいいと思いまして。緊急事態とまではいかなくても、ある程度厄介な状況に置かれているのは間違いありませんから」

 みんな心が傾いたようで考え込んでいる。


 ひとまず、まともな意見を出せたのでものすごく気楽になった。

 残りは消化試合も同然だ。他の人が話し始めるまで、しばし夢の世界へと旅立つ。

「確かにいずればれてしまう可能性は高いわね」

「だが情報が洩れやすくなるのも考えものではないか?」

 純矢が苦言を呈しているようだけど、僕の案に真っ向から反対って感じはしない。すぐに決まってしまうのもなんなので、とりあえず提案してみたという雰囲気がする。

 結局、それから数分と経たないうちに全員に知らせる方向に決定された。

「なるべく早い対応をとりたい。そこで三日後には全てのメンバーに伝える。それまでは…………三位以上の幹部で協議する。

 三日後まで話題に出さないように注意してくれ。では解散」

 僕たちは「了解です」と返事をすると、どことなく厳かな雰囲気を醸し出しながら静かに部屋を出て行った。

 

 部屋を出た幹部たちは凄まじいことを聞いたせいか、心なしか足取りがふらふらとしている気がする。客観的かつ冷静であることが取り柄の僕も、若干ながら頭がくらくらしている感じがしていた。おそらく普段ほど冷静にはなれていない。





 僕は、倦怠感を振り払うかのように頭を小さく横に振った。確か麻衣のことを相談しないといけないんだった、と先に小会議室を出た義母を追いかける。後ろから声をかけて呼び止めた。

「ねえ、お義母さん」

 振り返り「どうしたの?」と微笑みながら声をかけてくる。

「麻衣のことで相談があるんだけど」

「分かったわ。帰りながら話して」

 時間も遅く、あと数日で高校に入学するためとりあえず駐車場に向かった。

 その間にも今日の出来事、すなわち下っ端たちと少しの間だけ語った、麻衣の克服できていないトラウマを義母に説明した。ちなみに両親のいない彼女がどこに住んでいるかというと児童養護施設だ。当然サイクルの管理下にある。



 相談する相手が義母なのは家族だからというだけではない。

 義母も麻衣についてはいろいろ知っているからだ。

 というのも、麻衣のリハビリに義母と僕が付き添ってあげていたことに関係する。僕は途中からだったが、なぜ付き添ったかといえば義母に誘われたことが大きい。ちょうど僕がプログラムを終えたあとのことで、仕事がすくなめだったこともあり暇つぶしとして手伝ったのだ。なんといっても、学校行きたくなかったし。

 まあ、こんなことがあったので暗部の中で僕と義母の二人は、麻衣に心を開いてもらえる方なのだ。僕も他の人に比べれば、彼女のことを大切に見ている。

 ただ利用できる時は最大限利用し、切り捨てなければならない時は躊躇せず切り捨てることに変わりはない。こう考えているのがばれてしまうと社会的に死んでしまうが、所詮他人でしかない以上どこかで割り切らないといけない。

 そのラインが世間一般の人に比べて浅いだけ。僕は外道ですから。

 自分が生き残れなかったら意味がない。死んでしまったら何もかも失ってしまうし、ゲームに負ければ重いペナルティが科せられる。超越者を自称するくらいの変態だから、どんなモノにされるか分かったもんじゃない。負けることだけは絶対に避けなければ。



 僕の理由は置いとくとして、義母も筆頭幹部の立場にありながら、麻衣のことはかなり目にかけている。リハビリに付き合って情が湧いた、というだけでは足りないくらいに異常な優しさを見せている。たぶん何か大きな理由があるんだと思う。まるで自分の娘のように接することがあるからだ。もしかすると、もしかすると義妹ができるかもしれない。……義妹か、悪くないな。

 



 赤いスポーツカーのドアを開け中に乗り込む。

 お互いにシートベルトを締めてから、義母が車のエンジンをかけた。

 しばらくエンジンを温めている。義母はしばらく悩むそぶりを見せていたが、顔を上げると僕に話しかけてきた。

「もう一度病院で診てもらった方がいいかもしれないわね」

「それには賛成だけど、お金とか学校とかどうすんの?」

「そうねぇ」

 義母は呟くと車を発車させた。

「しばらく休んでもらうわ、学校も任務も。お金は私が負担するつもりよ」

 ずいぶんと太っ腹な対応だと感じる。本当に、麻衣が僕のように養子になる可能性が出てきた。僕にしてみても特に問題はないので、彼女がどう応じるかどうかだけだ。

 いずれ義妹と呼ぶ日が来るかもしれんな、とひそかに笑みを浮かべた。





 義妹ばんざい!! 



 義妹が欲しいのは確かだけどこのあたりにしておかないと。自重、自重。

 それに義母が麻衣を養子にするとはまだ決まっていないし。


 



 そろそろ家に着く。

 序列三位以上の幹部は三日後まで話し合いをしているはずだったから、明日からは夜になるまで僕は一人になる。

 暇すぎる。どうやって時間をつぶそう……

 ま、大した問題ではないから置いとくとして、発表の二日後からはついに高校生活が始まる。一度経験したことがあるから、特に幻想などは抱いていないが少しだけ楽しみだ。少しだけ、少しだけだぞ。

 高校は、一年生から選択科目があり自主性が重んじられている。昔と変わっている、というよりも前世と違っている。そんな違いを見つけるとやっぱりここが異世界なんだと分かる。いや、強制的に気づかせられるというべきか。一見そんなに変わったようには感じられないけれど、その些細な違いが面白くもあり、不本意ながら寂しくさせられることもある。どうしても異郷の地としか感じられないため望郷の念に駆られるのだ。

 それと同時に、結局は僕はゲームの参加者でしかなく決して安全な状況ではないことを改めて意識させられた。


 車が止まった。高層マンションが目の前に見える。空は暗雲が立ち込めている。そのせいだろう。もう朝と言っていい時間だけど太陽は見えなかった。時間がたてば雨も降るかもしれない。

 僕たちが住んでいる部屋、前世と同じく二一〇三号室あたりの窓をなんとなく見上げてみた。何の因果か知らないが、養子となったおかげで名字も住んでいる部屋番号も一緒になっている。



 そう、僕はゲームの参加者だ。元の世界に五体満足で帰りたい。はっきりいってゲームが終われば元の世界へ帰ることになる以上、この世界にさほど価値があるとは思っていない。自分に良くしてくれた相手――義母や具炎など数少ないが――彼らにはできるだけ恩返ししたいとも思っている。しかし、そんなことは二の次であることも確かだ。



 しかし元の世界の僕はこんなに非情だっただろうか? 

 僕は――表面上はともかく自身の内面においては、世間から見て悪と判断されたはずだ。友人たちと比べると、かなり狂っていた方だとも思っている。

 それでも、いくらここが別の世界でゲームの舞台であったとしても、元の僕はこんなにも世界に価値を感じていなかっただろうか。

 どうしようもないことだけど、このままでは元の世界へ戻った時に上手くやっていけるかどうか分からない。




 エレベーターのドアが開き二人で乗り込む。



 そもそも帰れるかどうかも分からない。勝ち残って最後の一人になりたい――――

 それなのに不安な気持ちを殺しきれない。昔はもっと自分に自信を持っていた。未熟な自分が恨めしい。いっそのこと感情がなければ楽なのにと思ってしまう。

 

 エレベーターが止まり、ゆっくりとドアが開く。いつもより遅く感じられたのはどうしてだろうか。


     


 まったく。笑えるくらいいつもの僕らしくない。まるで鬱患者になってしまったのかのようだ。ネガティブになりすぎているのは、いろんなことがあったからかもしれない。普段より疲れたのもあるだろう。

 そろそろ五時になる。もう明け方だ。

 他の参加者にも初めて会った。「放送」とやらがないからまだ死んでいないが、あと少しってところまでいけた。本当に惜しかった、もったいなかったな。


 小さなため息が漏れる。たくさんの説明できない感情が入り混じっていた。隣で部屋のドアを開けようとしている義母には気づかれなかったみたいだ。

 この世界では珍しく、彼女のことは好ましいと思っている、恋愛感情ではなく。

 彼女にはできるだけ幸せになってほしい。長生きしてほしいとも思う。




 じゃあ、僕はどうなのだろうか。



 …………そうか。





 僕は死にたくないのかもしれない。


皇輝の感情の落差は激しいです。

弱点は晒したくないタイプなので、他の人には気付かれませんが。

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