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第三話(後編)

 初めにボスの伊里谷 呪元≪いりたに じゅげん≫が口を開いた。

「まず、王谷に率いてもらった部隊に、伝えねばならんことがある」

 そう区切って一息置いてから続けた。

「お主たちは……囮だったのだ」

 この言葉を聞くと、今回の任務に関わっていない人たちがいる、と不思議に思っていた三人が目を丸くした。麻衣が聞き返す。

「お、囮ですか? となりますと彼らが本命?」

 さすがに丁寧口調。彼女らしくないところが面白い。こうやって余計なことを考えているのも面白い。

 ボスはゆっくり、大きく頷いた。

 それを目にしたメンバーたちは、安堵とやるせなさがごちゃまぜになった表情をしている。取引相手の失態だったとはいえ、作戦失敗は心に響いていたと見える。ほかにも、囮作戦で死んでしまった二人の報われなさに憤っているのかもしれない。といっても彼らも暗部だからある程度は割り切れてるみたいだけど。

 それに対して僕ときたら……おや? あのアホどももう少し頑張れよって思ってるだけだな。うむ、意外と優しい。

「それじゃあ、本命で受け取ったクスリってのは、どんな物なんですかい?」

 具炎が核心を衝く質問をした。彼も内心、自分の力不足を嘆いていることだろう、うん。

「うむ、それはな」

 全体を見渡した。みんなの視線がボスに集まっている。

 満足げに一度うなづいてから

「身体強化薬じゃ!」

「「「……は?」」」

 僕も含め、全員の頭の上にクエスチョンマークが現れた。

 この薬は効果が低いことで有名だ。副作用も強く、いくら持てる手札を増やしたいと考えていても実際に使いたがる人は少ない。

 以前の物よりも強力になったんだろうか?

 目で問いかけてみた。

 みんなの反応がうれしかったかのように、笑みを浮かべながら続ける。

「強化能力がな、二倍になった。しかも、全身じゃ!」 

「継続時間と副作用は?」

 驚きの声が上がる前に突っ込む。効果は強くなって、副作用も強くなりました! そんなのでは冗談じゃ済まない。

 筆頭幹部の義母がボスの代わりに対応した。

「安心して。継続時間は約三十分。飲んだらすぐに効果が上がるから、戦闘直前に服用すれば、ある程度の作戦には対応できる」

「副作用も以前のより弱くなった。副作用が切れるまで、使用できないのは同じじゃが……強化効果が切れてから、痛みで身体能力が半分近くまで落ちるのは二十時間だけじゃ」

 具炎を含めたほとんどの者が驚いている。実際凄いことで、僕もかなり驚いている。

「昔の二,三日副作用が続くやつに比べればずいぶんと良くなったもんだ」

 回りも、うんうんと同意している。そう、昔の身体強化薬はゴミ同然だったと言って差し支えない。

 そこで最後の幹部、乃磁 純矢≪のじ じゅんや≫が、一番懸念されていることを聞いた。いや、聞いてしまった。

「さぞかし高そうじゃないですか」




 空気が凍った。下っ端たちは、やっちまったよこの人、という表情をしている。ボスとと義母は、なんでここで聞くのかな? 無能なのかな? と若干キレている。さすが世紀のエアブレイカ―。どんな空気でも壊すことにかけては超一流と謳われる乃磁 純矢。せめて幹部だけの時に聞けばいいのに。無駄に責任感があるからみんな君をいろんな意味で怖れているんだ。この僕が優秀と認めるくらいだから相当なものを持っている。ああ、もったいない。もっとも本人は責められていたり、空気的な意味で怖れられていたりすることに気づいていない。



 エアブレイクもあそこまでいくともはや芸術だな、と頷いていると意気消沈したボスが肩を落としながら質問に答えた。

「一回分で――二十六万円じゃ」

「……」

 高いな、高い。前の何倍なんだろうか。

 暗部と聞くとなんとなくお金がたくさんあるように聞こえるけど、どこもお金のやりくりに困っている。暗部に入った時は驚いたが、これが暗部の常識。



 会議室は沈黙に包まれている。誰一人例外なく、いや、純矢を除いた全てのメンバーが下を向いており、顔を上げようする者はいない。

 ちぇっ、誰かこの空気どうにかしろよ。こんなことを言えるはずもないがぼやきたくなった。

 僕は己の心を奮い立たせ、意を決して大声を上げた。男にはやらなくちゃいけない時が、立ち上がらなくちゃいけない時がある! 

 なんてね。めんどくさい、かったるい、やりたくない、仕方ない、それだけしか思えない。

「べ、べ、別にいいじゃないですか。切り札といことで……ほら! 切り札は簡単には使えないって、ロマンですよね?」

「そ、そうだ! 落ち込むことはない! 切り札はいざという時に使う物だから問題ないんだ。高宮の言うとおりだ、ロマンだよ、ロマン! な、みんな?」

 具炎が焦りながら同調すると、「そうだ、そうだ」と全員が口を揃えるようになった。まるで死んでしまったかのような空気は生き返り、ボスの顔もパァ―と明るくなる。

「おお、みんな分かってくれたか! わしはお主らのような部下を持てて幸せだぞ!」

 僕はほっとして席に着く。ちらっと義母の方に目を向けると、苦笑いしながらウィンクし、手を合わせて感謝してきた。



 この薬は表に公表するらしい。量産化及びさらなる高性能化を図り、その後、副作用がさらに軽減してからだけど。オリンピックや大会などで悪用しても、一目でばれるし、検査で陽性反応を示すからだと言っていた。

 適当に聞き流していると会議、というか報告が終わっていた。茶番、茶番。

 僕は基本的に実働部隊なので、研究所の仕事には関わらない。未成年だし、それに別の日に正式な会議をもう一度開くと言っていた。幹部と研究員を集めたやつを。だからぼけっとしていてもなんら問題ない。


 そういうことで僕にとっては一本の豚毛にも劣る任務報告と簡単な会議が幕を閉じ、帰宅の路に着こうとした。

 かと思うと突然、義母がやってきて耳元で囁く。

「三十分後に幹部だけで会議があるから、まだ帰らないでくれるかしら?」

「分かった」との旨を伝え夜風に当たりに外へ出ようとする。



 するとこれまた突然、麻衣が話しかけてきた。後ろには、今回の任務のメンバーが済まなさそうに佇んでいる。

 囮任務のことで文句を言いに来たな、と見当をつけた。僕は、優しいということで暗部では通っているので、苦情だとか相談を持ち込んでくる隊員が多い。些細なことでも邪険に扱わず、真摯に対応しているうちに頼りにされるようになった。本性を明かすつもりはないので、めんどいと言って断ることもできない。

 頼られることは嫌ではないが、なんといっても多すぎる。一言、言わせてもらいたい。他のやつにも頼れ!

 精神年齢は三十過ぎでも見た目は中・高校生だ。少しは遠慮してほしい。なんといってもめんどくさい。

 笑顔の裏に悪意を抱く少年。でも笑顔。健気な僕、頑張りまくってるな。

「少し聞きたいことがあるんだけど?」

「なんだい?」

 麻衣も遠慮を知らない。……僕、年上ってだけじゃなく幹部でもあるんだけどな。たまには敬語を使ってくれないだろうか。日常茶飯事とは言え、今回は他のメンバーもいることだし。

 そんな僕の心の叫びを華麗に無視し、僕の手を引っ張っていく。残りの彼らも、おろおろしながらも着いてきた。

 いきなり止まるとこちらを向いて目を見つめてきた。異様に恐く見えるのは気のせいだろうか、緊張する。頑張って笑顔を維持するけど、内心はガクブル。膝が震えないように頑張り見つめ返した。

 麻衣は目を閉じ、一息ついてから質問してくる。

「囮作戦のこと、高宮君は始めから知ってたの?}

「うん」

 威圧感が凄すぎて反論できそうもない。

「そう……時間とらせてごめん」

 それだけ言うと頭を下げて帰ってしまった。




 拍子抜け。もっと責められるんじゃないかと思ったのに。延々と責められるよりも心にくるけど。

 隣に立っていた男が頭を下げている。

「す、すみません。あいつが失礼な態度をとってしまいまして」

「いや気にしてない。君たちも敬語は使わなくていいんだよ? 

 まあ、そんなことよりあまり責められなかったのが不思議だな。彼女の性格なら、任務開始前に知らせてくれてもいいじゃない! って怒られるんじゃないかと思ったんだけどね」

 実際、普段の彼女ならなにか言ってきそうだから余計に不思議だ。成長したのかな。

 敬語を使わないなんてとんでもないという風に首を振り、彼は自分の推測を述べた。

「あいつも理屈では分かってるんだと思います。でも、仲間が死ぬことにはなんか忌避感があるようで――」

「なるほど、まだ克服できていない、か」

「たぶんそうなんだと思います」

「ふ~ん、そういえば敵を倒したのは誰?」

「麻衣です」

「うん、もう帰ってもいいよ」 

「失礼します」と頭を下げて二人は僕に背を向けて帰っていく。




 しかし麻衣をどうするか、かなり難しい問題だ。

 ボスと幹部ぐらいしか知らない事実だが、麻衣は目の前で家族を殺された挙句食べられたという経緯がある。人が死んだり、敵を倒したりするのは克服して問題なくなったようだけど、仲間が死ぬとまだフラッシュバックしている。親しければ親しいほどきつくなるみたいだ。さすがにかわいそうだなと思う。

 今までよりは良くなって、敵を殺せるようになったけど……僕だけじゃどうしようもない。義母にも相談してみるか。


 ひとまず悩むのをやめ、僕は適当に外で休んだ。比較的郊外の方に建てられているため、辺りはとても暗い。雲が立ち込めているのが夜でも分かる。分厚いかどうかは知らないけど。でもきっと、今日は朝日が見えることはない。


 それなりに時間をつぶしたあと、のろのろと小会議室へ戻る。






 そこで僕は、後に世界を揺るがす重大事項を知ることになる。やってられないよ、としか感想を抱かなかったのはいつものことだけど。

 理由は分からず、そして面倒な話だったけれども、僕の思惑とは全く関係なくゲームは急速に加速し、終焉へと突き進むことになってしまった。

 今まで脱落者が居なかったのが嘘のように――――――――



長すぎるので前後に分けました。

というか分けただけですね。

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