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転生魔法学園記3期

掲載日:2026/02/27

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【転生魔法学園記】第三期

~三年生と世界の端で~

   全24話 完全版


■3期新登場ヒロイン8人


・セラ・フロストブルーム(16歳)

 植物魔法の使い手。緑がかった長い茶色の髪に、落ち着いた翠色の瞳。

 学園の植物温室を一人で管理している穏やかな少女。

 魔法で植物を自在に操り、攻撃から回復まで幅広く使える。

 普段は温室にこもって植物と話しているため、人付き合いが苦手。

 ライトが温室に迷い込んだ際「植物が、あなたを気に入ったみたいです」と言った。

 実は騎士家の娘で、戦いたくないがために植物魔法を選んだ過去を持つ。


・ラナ・シルヴァーウィング(15歳)

 翼魔法の使い手。銀白の髪を短く切り、空色の瞳を持つ快活な少女。

 魔法で翼を生やして空を飛べる唯一の生徒。

 自由奔放で誰とでも仲良くなれるが、「空が一番好き」と言い地上に降りてこない日もある。

 実は飛ぶことへの強い執着の裏に、幼い頃の事故による「地上への恐怖」がある。

 ライトに「地上にいても怖くない人、初めて会った」と言った。


・ドーン・エクリプス(17歳)・三年生

 日食魔法(光と闇の中間を操る)の使い手。金と黒のオッドアイを持つ謎めいた少女。

 三年生で数少ない残留組。普段はどこにいるか分からず、突然現れる。

 口調は飄々としていてつかみどころがないが、実は学園で最も古い魔法の系統を扱える。

 ライトの前世に関する情報を「少し知っている」と言い近づいてきた。

 「あなたって、昔とほとんど変わらないのね」と呟いた理由を教えてくれない。


・ミント・グリーンウェル(15歳)

 音楽魔法の使い手。明るいミントグリーンの髪に、くりくりとした緑の瞳。

 魔法を音楽と組み合わせることで効果を増幅できる。

 学園の音楽室に毎日こもり、歌と演奏の練習をしている。

 元気で話好きだが、歌の練習中だけは真剣そのもの。

 ライトの魔法の音(魔力が空間を動く時の微かな音)を「すごく綺麗な音がする」と言った初めての人物。


・ライラ・ムーンシャドウ(16歳)

 占い魔法の使い手。紫がかった黒髪を長く垂らし、神秘的な藍色の瞳を持つ。

 タロットカードと水晶を使った占いで、なぜかよく当たる。

 飄々としていて悩みがなさそうに見えるが、占いの結果が”怖い”場合は誰にも言えずに一人で抱えている。

 ノアとは星読みと占いで見える未来が似ており、よく二人で情報を交換している。

 ライトに「あなたの未来は占えない。多すぎて」と言った。


・ヴィオラ・グランベル(16歳)

 時間魔法の使い手。ショートの藤色の髪と、ぼんやりした紫の瞳。

 時間の流れをわずかに加速・減速できるが、消耗が激しく一日一回が限度。

 のんびりしていて何事にも動じないマイペースキャラ。

 「急ぐより待った方が早い」という哲学を持つ。

 ライトに「あなたと話していると、時間の流れが変わる気がする」と言った。


・キア・サンダーストライク(15歳)

 雷魔法の使い手。赤みがかった金髪に、鋭い黄色の瞳。

 ライトと前大会で戦った「雷帝」本人ではなく、その後輩。

 「師匠がライトに負けたので、私が雪辱を果たします」と宣言して転入してきた。

 元気よくまっすぐで、努力家。ライトを「宿命のライバル」と呼んでいる(一方的に)。

 実は物怖じしない性格の裏に、師匠への深い敬愛と複雑な感情がある。


・アンナ・ウィンターローズ(15歳)

 氷と花を組み合わせた「氷花魔法」の使い手。淡いピンクがかった銀髪に、桜色の瞳。

 ソフィアとは同系統の氷魔法だが、ソフィアが彫刻なら、アンナは花を咲かせるタイプ。

 常に笑顔で温かく、誰にでも親切。でも実は自分の感情を笑顔の下に隠す癖がある。

 ソフィアの「笑顔が苦手な子」とは対照的な「笑顔を手放せない子」として描かれる。

 ライトに「笑顔って、時々とても重たいんです」と初めて打ち明けた。


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    第一章 三年生の始まりと新たな波

    (第1話~第4話)


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◆第1話「三年生、世界が動き出す」


 新学期の朝。


 ライトは三度目の正門をくぐった。今度は三年生として。


《ご主人様、今年はどんな年になるのでしょうな》


「静かな年にしたい」


《三年連続で同じことを仰っていますな》


「三年連続で裏切られているな」


《でございますな》


 ホームルームに入ると、見知らぬ顔が複数あった。


-----


 最初に声をかけてきたのは、ミントグリーンの髪の少女だった。


「ライト・アシュトンさんですよね!! 知ってます! 学園の有名人! 私、ミント・グリーンウェルといいます! 音楽魔法が得意で!」


「……声が大きい」


「すみません! 音楽やってると声が大きくなっちゃって! あの、一つだけ聞いてもいいですか!」


「何だ」


「ライトさんの魔法って、音がするんですよ。魔力が空間を動く時に。聞いたことありますか?」


 ライトは少し考えた。


「意識したことがない」


「すごく綺麗な音なんです! ずっと聴いてたいくらい! いつか録音させてもらえませんか!」


「……考える」


「やった! よろしくお願いします!」


 ミントが元気よくお辞儀をした。


-----


 窓際の席に、藤色のショートヘアの少女がぼんやりと外を見ていた。


「……ヴィオラ・グランベルか」


「……ん。そう」


「時間魔法の使い手だと聞いた」


「……うん。でも一日一回しか使えない。疲れるから」


「節制した使い方だな」


「……急ぐ必要がないから。待てば大体うまくいく」


「そういう哲学か」


「……哲学というか、体質」


 ヴィオラがライトを見た。のんびりした紫の瞳だった。


「……あなたと話していると、時間の流れが変わる気がする」


「どんな風に」


「……少し、ゆっくりになる。悪くない」


-----


 廊下に出ると、赤みがかった金髪の少女が待ち構えていた。


「ライト・アシュトット!!」


「アシュトン」


「ア、アシュトン! 私はキア・サンダーストライク! 師匠があなたに負けたので、私が雪辱を果たしに来ました!!」


「師匠とは」


「前の大会で戦った雷帝の弟子です! 師匠はあなたのことを”今まで会った中で最強の相手”と言っていました! だから私が絶対に勝ちます!!」


「そうか。楽しみにしている」


「……あっさり受けるんですね。もっと反応してください」


「どんな反応が望ましい」


「“かかってこい!“とか!」


「かかってこい」


「……なんか棒読みっぽいですけど受けます!! 絶対勝ちます!!」


 キアが勢いよく走り去った。


《また増えましたな》


「言うな」


-----


◆第2話「植物温室と花の告白」


 ライトが資料を探していると、地図を見誤って学園の植物温室に迷い込んだ。


 温室の中は別世界だった。天井まで届く巨大な植物、色とりどりの花、魔力を含んだ草が光を放っている。


 奥に、緑がかった長い茶色の髪の少女が座っていた。植物に話しかけていた。


「……あなた、人を呼んでるのね。珍しい」


 少女が振り向いた。翠色の瞳が静かにライトを見た。


「迷い込んだ。邪魔だったか」


「いいえ。……植物が、あなたを気に入ったみたいです」


「植物が?」


「この子たちは魔力に敏感で。気に入らない人が入ると、葉が閉じるんです。でも今、全部開いてる」


 ライトが周囲を見ると、確かに全ての植物が開いていた。


「……セラ・フロストブルームといいます。ここの管理をしています」


「ライト・アシュトン」


「知ってます。学園で知らない人はいないと思います」


「そうか。邪魔なら出る」


「……いてください。植物が喜んでいるので」


 ライトは温室の椅子に座った。


 植物の中で、魔力の流れが特殊な形をしていることに気づいた。


「この植物に魔力を流しているのか」


「はい。毎日少しずつ。そうすると大きく育って、魔法効果も高くなるんです」


「根気のいる作業だな」


「……好きなので」


「植物と話すのも好きか」


「好きです。……人と話すより、楽です」


「理由は」


「植物は嘘をつかない。人は時々、顔と心が違うから……分からなくなることがあって」


「分かる」


「……あなたも?」


「前世で三百年生きて、最も信用できたのは弟子と古い友人と、使い魔の白フクロウだった」


「植物と同じですね。嘘をつかないから」


「そうだ」


 セラがほんのりと微笑んだ。


「……また来てください。植物が待ってると思うので」


「来る」


「……そう言う人、初めてです。たいてい”迷子だったから”で終わりなので」


「俺は迷子だったが、来る理由ができた」


「……魔力の流れを研究するためですか?」


「それもある。ここは静かだ。それも理由だ」


 セラがまた微笑んだ。今度は少し長く。


-----


◆第3話「銀翼の少女と空の恐怖」


 昼休み、校庭の上空を誰かが飛んでいた。


 銀白の髪を風になびかせた少女が、魔法の翼で自由に空を舞っている。


「……ラナ・シルヴァーウィングか」


《転入生の翼魔法使いでございますな。毎日あそこにいるようで》


 ライトが見上げていると、ラナが気づいて降りてきた。


「あ、ライトさん! 見てましたか! 飛ぶの、気持ちいいですよ! 上から見たら全部小さくて!」


「上から見ると何が見える」


「全部! 悩みも、怖いことも、全部小さく見える! だから飛ぶのが好きで!」


「地上が怖いのか」


 ラナが少し止まった。


「……なんで分かるんですか」


「空から降りてくる時に、少しだけ一瞬だけ、足がためらう。それが見えた」


「…………」


「聞かなくてもいいが」


「……いや、いいです。初めて気づいてくれた人だから」


 ラナが地面を見た。


「小さい頃に、高い場所から落ちたんです。魔法を使おうとして、うまくいかなくて。大怪我して……それから、地面が怖くなりました。でも空は怖くなかった。地面から離れているから」


「逆説だな。地面が怖いから、空に逃げた」


「……そうです。でも空には誰もいなくて、一人で、それはそれで……」


「孤独だったか」


「……はい」


 ライトは少し考えた。


「地上にいても怖くない理由ができれば、降りてこられるか」


「理由があれば……たぶん」


「俺がそばにいれば怖くないと言ったのはどういう意味だ」


「え? あ、初めて会った時に言いましたっけ……」


「言った」


「……あなたがいると、地面が固く感じないんです。なんか……安心するというか」


「重力魔法は使えないが」


「そういう意味じゃなくて!」


「分かっている」


 ラナが赤くなった。


「……あなた、いじわるですか?」


「そうか?」


「……そうじゃないですね。分かってて言ってる」


「そうだ」


「……(笑う)」


「来年、地面に降りたままで一日過ごせるか」


「……やってみます。あなたがいれば」


「いる」


「……本当に?」


「本当だ」


 ラナが翼を少し広げて、それからゆっくりと畳んだ。


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◆第4話「謎の三年生と前世の記憶」


 学園の屋根の上に、見知らぬ少女が座っていた。


 金と黒のオッドアイ、飄々とした表情。三年生の制服を着ている。


「ドーン・エクリプスか」


「知ってるの。賢いわね」とドーンが言った。


「噂で聞いた。日食魔法の使い手で三年生に残った」


「そう。あなたのことも知ってるわよ。前世のあなたのことも」


 ライトは少し緊張した。


「どこで知った」


「ここ数年で古い資料を読んでたら、アルバート・クロノスの記録が出てきて。それがあなたと一致するのに気づいた」


「それだけか」


「……もう一つ」


 ドーンが屋根から降りてライトの正面に立った。


「日食魔法って、光と闇の中間を扱うの。その性質上、百年以上前の”魔力の残滓”が見えることがある」


「見えるとはどういうことだ」


「魔力は消えない。形を変えるだけ。百年前にあなたが使った魔法の痕跡が、この学園のあちこちに残ってる」


「……前世の俺の痕跡が」


「うん。で、それを見てたら——あなたって、昔とほとんど変わらないのね、って思った」


「どの辺りが」


「魔力の色。形。動き方。転生して体が変わっても、魔力の”癖”は変わらない。あなたはアルバートと同じ癖で魔法を使う」


「そうか」


「それを教えたくて声をかけた。……あと」


「あと?」


「前世の空白期間に残した魔力の痕跡が、この学園の地下にある。封印したものの近くに」


「封印はすでに完成させた」


「封印の本体はね。でもその周囲に、もう一つ何かある。アルバートが封印の外側に作った、小さな部屋みたいなもの」


「なんのためだ」


「……それが分からない。でも、鍵はあなたの魔力でしか開かないみたい」


 ライトはしばらく考えた。


「案内できるか」


「もちろん。それを待ってた」


「なぜ待っていた」


「一人で開けようとしたけど、開かなかったから」


 ドーンが笑った。掴みどころのない、でもどこか正直な笑顔だった。


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   第二章 新ヒロインたちの個性爆発

   (第5話~第8話)


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◆第5話「音楽魔法と魔力の音色」


 ミントが音楽室でライトを待っていた。


「来てくれましたね! 録音の許可、ありがとうございます!」


「許可した覚えはないが」


「昨日”考える”って言ってたじゃないですか! 考えた結果がOKだと思って!」


「……どんな理屈だ」


「楽観的解釈です!」


 ライトはため息をついて中に入った。


「何をする」


「魔法を少し使ってもらえますか。この音響測定の魔道具で記録します。クレアさんに作ってもらった特製品です!」


「クレアが作ったのか」


「はい! 魔力の音波を可視化できるんです!」


 ライトが簡単な術式を展開すると、クレアの装置が反応した。音の波形が空中に浮かんだ。


「……わあ」


 ミントが目を輝かせた。


「やっぱり! すごく綺麗な音です! 聞こえませんか?」


「聞こえない。魔力の音は普通聞こえない」


「私だけ聞こえるんです。音楽魔法の副産物で、魔力の音が見えたり聞こえたりして。……ライトさんの音は今まで聞いた中で一番複雑で、一番きれいです」


「前世三百年分の積み重ねだからだろう」


「それだけじゃないと思います。今世のあなたの音もある。前世の重さと今世の温かさが混ざってて……」


「温かさ?」


「……はい。今のあなたは、前世より音が温かい。誰かといる時間が増えたからだと思います」


 ライトは少し沈黙した。


「……そういうことが音で分かるのか」


「私には分かります。……聞かせてもらっていいですか、もう少し」


「好きにしろ」


「ありがとうございます! じゃあ私も弾きます! 音楽魔法で、一緒に音を作りましょう!」


 ミントがピアノの前に座った。弾き始めると、魔法の音が溢れ出した。


 ライトが魔術式を展開すると、二つの音が混ざり合った。


 音楽室が、光と音で満たされた。


 三十分後、ミントが言った。


「……すごく良かったです。一緒に演奏できて嬉しかった」


「俺が演奏した覚えはないが」


「魔法も演奏ですよ。あなたはそれを知らないだけで」


「そうか」


「……また来てくれますか」


「来る」


「約束ですよ」


「約束だ」


 ミントが弾んだように笑った。その笑顔と同じ音が、空中の波形に残っていた。


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◆第6話「占いと見たくない未来」


 ライラが廊下でカードを広げていた。


「あ、ライトさん。ちょうどいい。一枚引いてもらえますか」


「俺の未来が占えないと言っていたが」


「占えないの。でも、引いてもらうと私の次の占いの精度が上がるんです。理屈は分からないけど」


「奇妙な理屈だな」


「占いは全部奇妙な理屈ですよ」


 ライトがカードを一枚引いた。


「“星”のカードですね。過去と未来をつなぐカード。前世の記憶を持つあなたにぴったり」


「解釈が後付けじゃないか」


「占いはほぼ後付けですよ。でも当たる」


「矛盾してるな」


「人生は矛盾だらけです」


 ライラがカードをしまいながら、ふと真顔になった。


「……一つだけ聞いていいですか」


「何だ」


「……最近、自分の占いで見えるものが、怖くて誰にも言えないものがあって。ノアさんに相談しようとしたんですが、ノアさんも同じものを見ていると言って、二人で黙ってます」


「何が見えた」


「……また、世界に何かが起きようとしてる。封印の外側に残ったものが、鍵を探してる。ドーンさんが言ってた”小さな部屋”——それが、何かの鍵になってる」


「ドーンとも話したのか」


「三人で話しました。それで……あなたに言うべきか迷って、迷ってる間に二週間経ってしまいました」


「早く言え」


「ごめんなさい。怖かったので……あなたが危険な目に遭うと思うと、言えなくて」


「俺が危険な目に遭う可能性があるなら、早く言った方が準備できる」


「……そうですね。分かってます。でも感情がついていかなくて」


「ライラ」


「何ですか」


「気にかけてくれているなら、遠慮なく言ってくれ。準備する時間があれば俺は対処できる。隠すことの方が困る」


 ライラが少し目を潤ませた。


「……ライトさんって、怒らないんですね。こういう時」


「怒る理由がない」


「普通は”なぜ早く言わなかった”と怒る」


「怖くて言えなかったと言っただろう。怒っても意味がない」


「……(小声)好きです、そういうところ」


「聞こえた」


「……(真っ赤)聞こえませんでした」


「そうか」


「聞こえませんでした!!」


「分かった」


-----


◆第7話「時間魔法とのんびりした告白」


 放課後の教室で、ヴィオラが一人で窓の外を眺めていた。


「……ライト」


「ヴィオラか。何をしている」


「……時間を見てた」


「時間は見えないだろう」


「……流れは見える。今日は少し速い気がする」


「気のせいだ」


「……そうかも」


 ヴィオラがゆっくりライトを見た。


「……一つ、実験してもいい?」


「何の実験だ」


「……時間魔法で、少しだけ時間の流れを変える。あなたにとってどう感じるか確かめたい」


「俺に許可を取るのか」


「……あなたの魔力が強すぎて、術式がはじかれるかもしれないから、先に了解を」


「わかった」


 ヴィオラが静かに魔法を発動した。


 その瞬間、時間の流れがわずかに変わった。


 ライトには分かった。周囲の音が少しだけ低くなり、光がわずかに暖かくなる感覚。


「……どう?」


「面白い感覚だ。主観的な時間が伸びる」


「……そう。あなたと話してる時に自然に出る感覚と、同じ?」


「お前が俺と話している時に時間魔法が発動しているのか」


「……意識してないけど、してる気がする。あなたといる時だけ」


「なぜそうなる」


「……好きだから、かも」


「…………」


「……言ってみた」


「急だな」


「……のんびり言おうと思ってたら二ヶ月経ってたので」


「そうか」


「……反応は?」


「大切だ」


「……それだけ?」


「今はそれだけだ」


「……ゆっくり待つ」


「時間魔法があるから待てるか」


「……時間魔法と関係なく待てます。好きだから」


 ヴィオラがまたぼんやりと窓の外を見た。


「……あなたと話していると、時間がちょうどよくなる。それが好き」


「そうか」


「……それだけで、今は十分」


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◆第8話「氷花の笑顔と本当の気持ち」


 アンナが笑顔で全員に話しかけていた。いつでもどこでも笑顔の少女だった。


 ライトが観察していると、アンナが気づいた。


「ライトさん、何か?」


「笑顔が似合う」


「ありがとうございます!」


「……だが、今の笑顔は少し違う」


「え?」


「さっきシャルと話していた時と、レイアと話していた時と、笑顔の種類が違う。どちらも作り笑いではないが——」


「……気づくんですね」


「前世で弟子を何百人も見た。顔の変化は読みやすい」


 アンナが少し笑顔を緩めた。初めて、力の入っていない顔になった。


「……笑顔って、時々とても重たいんです」


「どういう意味だ」


「笑っていれば丸く収まる。笑っていれば誰かを傷つけない。笑っていれば、自分が何を感じているか分からなくなる。……それが楽で、ずっとしてたら、本当の顔が分からなくなってきました」


「今の顔が本当の顔か」


「……これが一番、正直な顔だと思います。あなたの前でだけ」


「なぜ俺の前でだけ」


「……あなたが顔の種類に気づいたから。気づかれると、隠せなくなって」


「隠さなくていい」


「……笑顔が嫌いなわけじゃないんです。でも選べないのが嫌で。笑いたい時に笑える笑顔が欲しくて」


「それはいつでもある」


「どうやって?」


「笑いたくない時に笑わない練習からだ」


「……それ、怖いです」


「最初は怖い。でも笑いたい時の笑顔の方が価値がある」


 アンナが少し考えて、それから——自然に笑った。さっきとは違う笑顔で。


「……今のは、本当に笑えました」


「分かった」


「……ライトさんといると、笑える理由ができる気がします」


「それでいい」


「……ありがとうございます」


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   第三章 ラッキースケベ大全集・三年生編

   (第9話~第12話)


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◆第9話「温室の事故と植物の反乱」


 セラがライトを温室に招待した。特別な植物の観察会のためだった。


「これが魔力花、“スターブルーム”です。百年に一度だけ開花する花で、今日が開花日なんです」


「珍しいものを見せてくれるんだな」


「はい。でも……開花の瞬間に大量の花粉が出て。魔力を含んだ花粉なので、吸い込むと少し眠気が」


「事前に言え」


「今言いました」


「……遅い」


 スターブルームが開いた。


 金色の花粉が温室いっぱいに広がった。


「わあ、きれい……」とセラが言った瞬間、大量の花粉を吸い込んだ。


「セラ、大丈夫か」


「……だい……じょう……ぶ……」


 セラがぐらっと傾いた。ライトが反射的に支えた。


 セラがライトの胸にもたれかかったまま、眠りに落ちた。


「……」


 ライトも花粉を吸い込んでいたが、前世の魔力耐性で辛うじて意識を保っていた。


(どうするか……)


 植物がざわざわと揺れていた。まるでセラを守るように、ライトの周囲に枝を伸ばし始めた。


(植物がセラを慕っているのか……それとも俺を試しているのか)


 ライトが動かずにいると、植物たちは枝を下げた。安心したように。


 セラが三十分後に目を覚ました。


「……あ……私、眠って……」


「眠った」


「……ごめんなさい! 花粉の量を計算し損ねて……! もしかして抱きかかえてましたか!?」


「もたれかかっていたから支えた」


「……!!」


 セラが真っ赤になって植物の陰に隠れた。


「あの……植物は……何か言ってませんでしたか(植物に話しかける)」


「植物が話すのか」


「……気配で分かるんです。今、すごく”良かったね”みたいな気配がしてて……」


「そうか」


「……(植物に向かって)余計なことを……!」


「植物に怒っているのか」


「怒ってない……です……」


 ライトはセラが植物と話し続けるのを、静かに見ていた。


-----


◆第10話「雷少女の特訓と魔力暴発」


 キアが毎日ライトに勝負を挑んできた。毎日負けた。


「また負けた! でも昨日より五秒長くなりました!」


「確かに成長している」


「本当ですか!! じゃあもう一回!」


「……休め。魔力が切れている」


「まだ大丈夫です! これでもう一回!」


 キアが無理して雷魔法を発動した。制御が乱れた。雷が予期しない方向に走った。


「あ」


「…………」


 雷がライトとキアの間を通り抜け、近くの木に当たって、その反動で二人が吹き飛んだ。


 ライトが防護魔法を展開していたため二人は無事だったが、着地の際にキアがライトの上に落ちた。


「……っ!」


「……大丈夫か」


「…………だい……じょうぶ……あ、あの……」


 顔が近い。


「…………」


「…………」


「離れろ」


「は、はい!!」


 キアが飛び退いた。顔が真っ赤だった。


「ご、ごめんなさい!! 雷が! 制御が!」


「気をつけろ。自分が一番被害を受ける」


「はい……あの……見ましたか?」


「何を」


「……スカートが、吹き飛んだ衝撃で」


「……見ていない。防護魔法を張るのに集中していた」


「本当に!?」


「本当だ」


「よかった……!」


 キアがほっとした顔になった。それからまた立ち上がった。


「……あの、もう一回だけ!」


「休め」


「休んでから!」


「それなら許可する」


「よかった!」


 キアは五分後に「休みました!」と言って戻ってきた。ライトはため息をついた。


-----


◆第11話「魔力合宿・総勢全員で温泉へ」


 三年生の魔力回復合宿。


 今年は新入りも含めて人数がさらに増えた。


「総勢十九名か」


「過去最多ですぞ」とフロストが言った。


「今年こそ時間管理を徹底する」


「期待薄でございます」


-----


 一日目の夜。


 ライトが正しい時間に男湯に向かうと、脱衣所の前にラナが落ちていた。


「……ラナ、なぜここにいる」


「飛んでたら……方向を間違えて……落ちてきました……」


「空から脱衣所の前に?」


「……ちょうどそこに落ちました……」


「……中には入っていないか」


「……入ってない……ですけど、着地の衝撃でスカートが」


「見てない」


「ほんとうに!?」


「本当だ。飛んでくる軌道を目で追っていた。着地の衝撃の後は目を逸らした」


「……よかったです……じゃあ私、戻ります……」


「ちゃんと地面を歩いて帰れるか」


「……あなたがいれば歩けます」


「……送っていく」


「……うれしいです(小声)」


-----


 二日目の早朝、露天風呂。


 今度こそ一人で入れると思っていたライトの隣で、ヴィオラの声がした。


「……ライト」


「……ヴィオラ。なぜここにいる」


「……時間魔法で少し時間を戻そうとしたら、場所もずれた」


「時間と場所が同時にずれるのか」


「……たまに」


「それは便利なのか不便なのか」


「……今は不便。ごめんなさい」


「出るか?」


「……もう少しだけいていいですか」


「……そうしろ」


「……(浸かる)」


 沈黙が続いた。


「……あなたは怒らないんですね」


「怒る理由がない」


「……普通は怒る」


「普通がどういうものか分からない」


「……私も分からない。でも、あなたと一緒にいると、普通を気にしなくていい気がする」


「そうか」


「……(小声)好き」


「聞こえた」


「……聞こえませんでした」


「そうか」


 それ以上は何も言わなかった。


 でも湯気の中で、二人の沈黙は穏やかだった。


-----


 二日目の夜、クレアが「改良版装置の防水テスト」を温泉で強行した。


 装置が防水じゃなかった。


 盛大な水蒸気爆発が起きた。


 暖簾が全部吹き飛んだ。今年で三年連続。


「クレェェェェアァァァ!!!!!」


 レイアの怒声が温泉地に響いた。


 ライトはノアと天文台から降りてきたところで、爆発音を聞いた。


「……また」とノアが言った。


「……毎年だな」とライトが言った。


《ご主人様は今年も安全地帯でございましたな》


「運がいい」


-----


◆第12話「音楽会の夜と魔力のセッション」


 学園の文化祭、「魔法文化祭」が開催された。


 ミントが音楽ステージを企画し、ライトに参加を求めた。


「出演してください!!」


「俺は音楽家じゃない」


「魔法を使ってくれるだけでいいです! 私が演奏して、ライトさんが魔法で音に色をつける! 前に一緒にやった時みたいに!」


「観客がいる前でするのか」


「はい! 学園中に見せたいんです! ライトさんの魔力の音が、どれだけ綺麗か!」


 ライトはしばらく考えた。


「……わかった」


「やった!!」


-----


 文化祭当日の夜、音楽ステージ。


 ミントがピアノを弾き始めた。音楽魔法が発動して、会場全体が音に包まれた。


 そこにライトが術式を展開した。


 音楽と魔法が交差した瞬間、会場の空気が変わった。


 ミントの音楽が光になり、ライトの魔法が音になり、二つが渦を巻いて会場全体を包んだ。


 観客が静まり返った。


 三分間の演奏が終わった後、拍手が起きた。


 ミントが涙ぐんでいた。


「……やっぱり綺麗でした。みんなにも聞こえましたね」


「聞こえていたか」


「はい! あなたの魔力の音を、みんなが聞けた。嬉しかった」


 ライトは少し考えた。


「……俺も楽しかった」


「え!?」


「初めて言ったかもしれないが。楽しかった」


 ミントがわーっと泣き出した。


「ライトさんが楽しかったって言った!! 嬉しすぎる!!」


「泣くことはないだろう」


「嬉しい時は泣くんです!!」


「そうか」


 ミントが泣きながら笑っていた。それはとても良い音がした——とミントが後で言った。


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   第四章 世界会議と故郷の戦乱

   (第13話~第16話)


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◆第13話「世界魔法会議・各国の思惑」


 三学期、王都で「世界魔法会議」が開催された。


 大陸各国の魔法使いの代表が集まり、魔法に関する国際条約を協議する大規模な会議だ。


 エルヴィア王国から、星詠み魔法学園の生徒たちが「次世代代表」として招待された。


「なぜ学生が招待される」とライトが言った。


「あなたがいるからよ♪」とアリアが笑顔で言った。「男の魔法使いという前例のない存在が、国際会議に出るだけで話題になる。それが外交カードになるの」


「俺を政治的に使うのか」


「使われてあげましょうよ。その代わりに、あなたの魔法の自由な使用を国際的に保障させる。国際条約にあなたの存在を”正式な例外”として認めさせれば、国内だけじゃなく国際的にも守られる」


「……それは俺のためにもなるか」


「なる。だからお願い♪」


 ライトはため息をついた。「わかった」


-----


 会議の会場で、各国の代表が集まっていた。


 エリスの故郷・サンローゼ王国の代表団に、見知らぬ男がいた。


「……エリス、あの男は」


「……父の側近よ。嫌な予感がする」


「なぜ」


「サンローゼで最近、魔力の異変が起きてるって聞いた。それとこの会議、関係があると思う」


「どんな異変だ」


「……街の植物が魔力を失って枯れていく現象。局所的に起きてて、原因不明」


 その時、ユイが近づいてきた。


「ライト。白蓮国の代表から話を聞いた。白蓮国でも似たような現象が起きている。山の魔力が薄くなっていると」


「ツキの故郷の月白国は?」


「……(影から出てくる)月白国も。月の光が弱くなってると、国から連絡がきた」


 三国で同時に起きている現象。


 ライトは思い出した。ドーンが言っていた「封印の外側に残ったもの」。


「……封印の周囲にあるもう一つの何か。それが世界の魔力を吸収しているのかもしれない」


「どういうことだ」とエリスが言った。


「前世の封印を完成させた。でもドーンが言っていた”小さな部屋”——前世の俺がその外側に作ったもの——それがまだ開かれていない。そこに何かある」


「それが世界の魔力を?」


「因果関係は分からない。だが可能性がある」


「なら早急に調べる必要があるわ」


「ああ。会議の後、学園に戻ってすぐに動く」


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◆第14話「セラの過去と植物の涙」(感動エピソード)


 会議が続く中、セラが珍しく元気がなかった。


「どうした」


「……サンローゼ王国の植物が枯れているという話を聞きました。植物に魔力がなくなると……枯れる前に、助けを求める音がするんです」


「聞こえるのか」


「……微かに。遠くてはっきりはしないけど、苦しんでいるのが分かって」


 ライトはセラを見た。


「お前は植物を通じて、遠くの状態も分かるのか」


「……繋がっていれば。この温室の植物と、世界中の植物は、魔力の根で繋がっています。根のネットワーク、と私は呼んでいて」


「それはすごい情報網だ。具体的にどの場所の植物が苦しんでいる?」


「……エリスさんの故郷の南側の森。ユイさんの故郷の東の山脈。ツキさんの故郷の月の森……全部、地下の魔力が薄くなってる」


「地下から魔力が吸われている」


「……そう思います」


 セラが膝を抱えた。


「……私、騎士の家に生まれたんです。戦うことが当然の家で。でも私は、戦いたくなくて。植物と一緒にいる方が好きで……家族に失望されて、この学園に来ました」


「だから人付き合いが苦手か」


「……失望させることが怖くて。植物は失望しないから、ここが一番安心で」


「俺は失望しないぞ」


「……なぜ?」


「お前の植物魔法は特殊で貴重だ。騎士としての価値より、今の価値の方が高い。それは事実だ」


「……でも、戦えない」


「今まさに必要な情報を、お前だけが持っている。それは十分な戦力だ」


 セラが少しだけ涙をこぼした。


「……やっぱり植物が正しかったです」


「何が」


「……あなたを気に入ったこと。植物は正直だから、いつも正しい」


「そうか」


「……私も、正直になっていいですか」


「どうぞ」


「……あなたのことが、好きです。植物が教えてくれたので」


「植物に教えてもらったか」


「……はい。ずっと前から、分かってたんだと思います。言葉にできてなかっただけで」


「ありがとう。大切だ」


「……十分です。今は」


 セラが一輪の花を魔法で咲かせた。世界中の植物への応援の花だと言った。


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◆第15話「キアの師匠と雷の継承」(感動エピソード)


 世界魔法会議の余興として、「次世代魔法使い模擬戦」が行われた。


 各国の若手魔法使いが腕を競う催しで、キアが「師匠の雪辱を」と意気込んで出場した。


 キアの相手は強かった。前大会の準優勝者の弟子だった。


「……くっ……!」


 キアが押されていた。雷魔法は強いが、制御がまだ荒削りで、強引に押しきろうとしてミスが出た。


 スタンドでライトが見ていた。


(キアの雷は攻撃力は高い。でも精度が低い。……師匠の雷帝と同じ弱点だ)


 試合が終わった。キアが負けた。


「……負けた」


「よくやった」とライトが言った。


「負けたのに?」


「前よりずっとうまい。ただ精度が課題だ」


「……師匠も精度が課題でした。私も同じ弱点を継いでしまった」


「弱点を知っているなら直せる」


「でも師匠は長年直せなかった。だから私もできないかも」


「師匠がやり方を知らなかっただけだ。知っている方法がある」


「え?」


「前世で似た問題を抱えた弟子がいた。雷魔法ではないが、高威力低精度の魔力使いだった。直す方法を知っている」


「……教えてもらえますか」


「教える。ただし地道な練習が必要だ。急ぎすぎない方がいい」


「はい……。あの、ライトさん」


「何だ」


「師匠は……ライトさんのことを、“悔しいが本物だ”と言ってました。今日、師匠からメッセージが来て」


「そうか」


「……私が師匠の雪辱を果たすことより、師匠がライトさんに敬意を持っていることの方が、今は嬉しくて」


「なぜ」


「師匠が”本物だ”と言った人と、私は毎日話してる。それってすごいことだと思うから」


 ライトは少し考えた。


「師匠に伝えるか? 弟子がよく頑張っていると」


「……言ってくれるんですか?」


「事実だから言える」


 キアが会議場で声を出して泣いた。周囲が振り返った。


「……ごめんなさい、人前で泣いちゃって! でも嬉しくて!」


「泣いていい」


「師匠に伝えてください……私、まだ修行します、って!」


「伝える」


「……ありがとうございます! ライトさん、大好きです!!」


「知っている」


「知ってたんですか!!?」


「気づかない方が難しい」


「……(また泣く)」


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◆第16話「ドーンの日食と古代の記憶」(感動エピソード)


 会議から帰った後、ライトはドーンに案内されて学園地下に向かった。


 全員が集まった。


 深部への道はすでに知っていた。去年の封印の時に通ったルート。


 しかし今回、ドーンが別の分岐を示した。


「こっちよ。封印の本体から少し西に外れた場所」


 狭い通路を進むと、小さな部屋があった。


 部屋の中央に、小さな魔法陣が描かれていた。


「……これは」


「開くのを待ってたみたい。あなたの魔力に反応してる」


 ライトが魔力を流すと、魔法陣が光った。


 中から、小さな水晶の玉が現れた。


「……記録結晶だ」


「何それ?」とエリスが言った。


「前世の俺が使っていた記録媒体だ。魔力と記憶を封じ込められる」


「中に何が入ってるの?」


「……前世の記憶だ。封印の代償として失われた三年間の記憶」


 全員が静まり返った。


「前世のあなたが……自分の記憶を保管していた?」とシャルが言った。


「失った記憶を、この結晶に封じておいたのだと思う。転生した俺がいつか辿り着くように」


「……見る?」とドーンが言った。


「見る。でも一人ではなく、全員で見たい」


「なぜ」


「一人で見たら、また抱え込むかもしれない。今世の俺は一人で抱えなくていいと知っている」


 ドーンが少し目を細めた。


「……変わったわね、アルバート」


「ライトだ」


「……ライト。そうね」


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 結晶の記憶が展開された。


 前世のアルバートが、三年間で何をしたか——全員が見た。


 それは封印の準備だった。


 暴走する魔力の奔流を封じるために、アルバートは三年をかけて術式を組み上げた。


 その過程で多くのものを犠牲にした。故郷の村を離れ、友人との縁を切り、弟子たちと距離を置き——ただ一人で、術式を完成させた。


 最後の場面では、若いフィアが「一緒にいる」と言って手を伸ばしていた。


 アルバートがその手を握り返さずに、一人で封印の中心に向かう場面で記憶が途切れた。


 フィアが静かに泣いていた。


「……あの時、手を握ってくれなかった。ずっと、それが悲しかった」


「フィア」


「……今世の自分に言ってるの。あの時手を差し伸べてくれた人の手を、握ればよかった、と」


「前世の俺に伝わるか分からないが——」


「伝わってると思う。あなたは今、たくさんの手を握っているから」


 ライトが全員を見た。


「……前世の俺が握らなかった手を、今世の俺が握っている。それがこの転生の意味かもしれない」


 誰も何も言わなかった。


 でも全員が、少しずつライトに近づいた。


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   第五章 故郷の戦乱と守るべきもの

   (第17話~第20話)


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◆第17話「サンローゼの異変とエリスの叫び」


 会議の翌週、エリスに緊急の連絡が届いた。


「サンローゼ王国で戦乱が始まった」


「詳細は」


「南側の森の魔力消失が広がって、農作物が育たなくなった。民が動揺して暴動が起きた。王が……父が鎮圧に動いたが、魔法使いの一部が分裂している」


「地下の魔力吸収が原因か」


「たぶん。でも国内では原因が分からなくて、魔法使いのせいだという誤解が広まってる。魔法使いが迫害されてる地域もある」


 ライトは全員を見た。


「行く必要があるか」


「……行きたい」とエリスが言った。「でも、私一人では」


「一人じゃない」


「……みんなを巻き込むのは」


「巻き込まれたい人間が大勢いる」とシャルが言った。


「私の故郷の山にも影響が出てる。行く」とユイが言った。


「月白国への影響を確かめたい。行く」とツキが言った。


「植物の根ネットワークでサポートできる。行く」とセラが言った。


「占いで動向を探れる。行く」とライラが言った。


「速攻で移動するなら私が最速だ」とテスが言った。


「全員まとめていく方法を考える」とアリアが言った。


「装置を持っていく。地下の魔力測定に使える」とクレアが言った。


 エリスが目を潤ませた。


「……みんな」


「行くぞ」とライトが言った。


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◆第18話「ラナの空と地上への着地」(感動エピソード)


 サンローゼ王国への移動中、ラナが空から偵察を担当した。


「南側の森が見えます! 本当に枯れてる……」


「どの範囲だ」


「森の三分の一くらい。中心が一番ひどくて、放射状に広がってます。中心が……どこか、地下から突き出た何かに見えます」


「封印の外側の構造物か。地上まで影響が出てきた」


「ライト、地上への入口みたいなものが見えます! 古代の遺跡っぽい」


「案内できるか」


「できます! 一緒に来ますか?」


「ああ」


「……じゃあ、飛んでいきましょう! あ、でも私に掴まれますか?」


「重力操作で飛べる」


「わあ! じゃあ並んで!」


 ライトとラナが並んで空を飛んだ。


 ラナが横を見てライトを見た。


「……地上を見ていますね」


「地形を確認している」


「……私、地上を見るの怖いんですけど……ライトが隣にいると、見られます」


「そうか」


「……地上って、こんなにきれいなんですね。空から見ると」


「空から見るといいか」


「……好きです。でも地上も……あなたがいる地上は、好き」


 ライトが少しラナを見た。


「…さっき、初めて地上を好きと言ったな」


「……本当だ。初めて言ったかもしれない」


「よかった」


「……ライトのおかげです」


「お前が変わったんだ」


「……でも理由はライトで」


 二人は並んで空を飛び続けた。下には枯れた森が広がっていた。でもラナは地上を見ながら、怖がらなかった。


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◆第19話「地下の核心と前世の答え」


 全員でサンローゼ王国南部の遺跡に辿り着いた。


 地下への入口は古代の術式で封じられていたが、ライトの魔力で開いた。


「前世の俺が使った術式だ。鍵になるように設計してある」


「本当に前世は全部考えてたのね」とドーンが言った。


「考えすぎて、一人になっていた」


「……そうね」


 地下深部に降りると、そこには巨大な魔力の渦があった。


 前世の封印の”外側”に、もう一つの魔力の核があった。


「……これは」


「魔力の暴れの第二の核だ。前世の俺は一つしか見えなかったのか、もしくは見えていたが封じきれなかったのか」


「どちらだ」とレイアが言った。


「分からない。でも、今ここにある」


 全員が核を取り囲んだ。


「前回と同じように、全員の力で封印するか」とシャルが言った。


「ただし今回の方が規模が大きい。前回は一人ひとりの力を合算すれば足りた。今回は……力の組み合わせ方が重要だ」


「どういう意味?」とクレアが言った。


「一つの術式に全員の魔法系統を統合する必要がある。植物魔法、音楽魔法、時間魔法、翼魔法、日食魔法……全部が同時に、一つの術式の一部として機能しなければならない」


「……それ、できるの?」とミントが言った。


「前世で俺が研究した統一魔法理論の完成形がそれだ。今世で実践したことはないが——お前たちがいれば可能だ」


「理由は?」とノアが言った。


「一人の天才より、多様な力を持つ者が集まる方が、統一魔法理論の実践には向いている。前世の俺が一人でできなかったことを、今世の俺たちでやる」


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◆第20話「統一魔法・全員の力」(感動エピソード)


 術式の構築が始まった。


 ライトが中央に立ち、全員の魔力を繋いでいく。


 シャルの光魔法が基盤を作り、レイアの精密魔法が術式を整え、エリスの炎が熱源を供給し、ルナの魔力剣が構造を切り出し、メルの解析が誤りを修正し、アリアが全体のバランスを管理した。


 新しい仲間たちも。


 ノアが星の配置に合わせてタイミングを計り、クレアの装置が魔力の安定を保ち、イリスの夢魔法が核の内部構造を把握し、テスの風魔法が術式全体を循環させ、レナの血の魔法が核の読み取りをし、マリアの聖魔法が場を清めた。


 さらに今期の新メンバーも。


 セラの植物魔法が地中のネットワークを介して術式を地球規模で広げ、ラナが空から術式全体を俯瞰してバランスを知らせ、ドーンの日食魔法が光と闇の中間を橋渡しし、ミントの音楽魔法が全員の魔力のリズムを同期させ、ライラの占い魔法が最善の展開を選択し、ヴィオラの時間魔法が術式の完成タイミングを精密に管理し、キアの雷魔法が全体に電流のように力を行き渡らせ、アンナの氷花魔法が術式を固定して美しく形にした。


 そしてミラの闇魔法、ユイの魔刀術、ツキの月影魔法、フィアの百年分の魔力が加わった。


 二十人の力が一つになった。


 前世のアルバートが一人でできなかったことを、今世のライトが二十人でやった。


 術式が完成した。


 核が、静かに消えた。


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 地上に出た時、枯れていた森に少しずつ色が戻っていた。


 ゆっくりと、でも確かに。


「……植物が喜んでいます」とセラが言った。


「聞こえるか」


「……はい。根のネットワーク全体から。ありがとうって言ってる気がします」


 全員が疲れ果てて、遺跡の前の草原に座った。


 エリスが空を見上げた。


「……故郷が助かった」


「まだ復興に時間がかかる」


「分かってる。でも……原因がなくなれば、後は人の力で戻せる。サンローゼの人たちは強いから」


「そうだろうな」


「……ライト」


「何だ」


「ありがとう。私の故郷を、みんなで助けてくれて」


「俺一人じゃない」


「……分かってる。でも、最初に”行くか”と言ったのはあなただから」


 エリスが初めて、ライトの前で素直に泣いた。


 強がりの炎の王女が、草原で静かに泣いていた。


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   第六章 春の光と続く物語

   (第21話~第24話)


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◆第21話「帰還と各地の春」


 学園に帰ってきた。


 サンローゼ、白蓮、月白——三国で同時に進んでいた魔力の消失が止まり、少しずつ回復が始まった。


 各国からお礼の使者が届いた。


 エリスの父・サンローゼ王から、「娘がお世話になった」という礼状が届いた。


「父が礼を言うなんて珍しい……」とエリスが驚いた。


「それだけ深刻だったということだ」


「……そうね。父は感謝より叱責の方が多い人だから。珍しい」


 ユイの故郷からは「白蓮国より正式な感謝を。また一年の延長を認める」という通達が届いた。


「……これでさらに一年、ここにいられます」


「それはよかった」


「……はい。本当に」


 ツキの故郷からは「月白国の影の者より」という短い文が届いた。


「……うれしい(小声)」


「なんと書いてある?」


「……“よくやった。月白国は誇りに思う”って」


「そうか」


「……(目が潤む)」


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◆第22話「ドーンの正体と百年の繋がり」(感動エピソード)


 帰還後、ドーンが珍しくライトに「話がある」と言った。


「何だ」


「……一つだけ、正直に言う」


「聞いている」


「私の日食魔法は……前世のアルバートが開発した魔法系統よ」


「……何?」


「百年前、アルバートが光と闇の統合理論を作った。その研究の末端に、日食魔法の原型があった。私はその研究を受け継いだ一族の子孫」


「前世の俺の研究が、お前に繋がっているか」


「そう。だから私は、“あなたが来ることを知っていた”と言ったの。一族に伝わってた、アルバートの魂が転生してまた戻ってくると。そしたら日食魔法の完成が近くなると」


「日食魔法を完成させたいのか」


「……した。今回の統一魔法術式の中で、日食魔法が初めて本来の力を発揮できた。あなたの統一魔法理論の中に組み込まれた瞬間、百年間欠けていたものが埋まった」


「そうか」


「……感謝してる。一族みんなが待っていた答えを、あなたが持ってきてくれた」


「俺は知らなかった」


「知らなくて当然。でも……あなたは前世でも今世でも、繋いでいた。魔法の系統を、人との縁を、世代を超えた何かを」


 ドーンが初めて、掴みどころのない顔じゃなく、真剣な顔でライトを見た。


「……一つだけ、我儘を言っていい?」


「何だ」


「……ここに残りたい。来年も。一族の使命は果たした。でも、私は……ここが好きになってしまったから」


「残ればいい」


「先生方に話をする必要がある」


「アリアに頼め。処理が早い」


「……ありがとう」


「礼を言うことじゃない」


「……でも言う。前世のアルバートに届いてほしくて」


「届かないかもしれないが」


「……届いてる気がする。あなたが微笑んでるから」


「俺が微笑んでいるか」


「……うん。珍しいでしょ」


 ライトはそれ以上何も言わなかった。


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◆第23話「ラッキースケベ最終章・卒業式前夜の大混乱リターンズ」


 三年生の卒業式は……一年後だ。でも二年生の進級式と三年生の中間報告会が同日に行われる「春の祭典」が近づいていた。


 その前夜、学園中が準備で賑わっていた。


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 ライトが廊下を歩いていると、角からアンナが飛び出してきた。


「きゃ!」


「……」


 ぶつかった。アンナがライトの胸に顔を埋める形になった。


「……すみません! 急いでて!」


「大丈夫か」


「大丈夫です! あの、ライトさん……今の状況、少し恥ずかしいのですが」


「離れるか?」


「……もう少しだけ」


「…………」


「……もう少しだけ」


「……好きにしろ」


「……ありがとうございます(小声)」


 アンナが顔を真っ赤にしながらもじっとしていた。


「……笑顔じゃない顔を、あなたの前でできてる気がします」


「今も笑ってないか?」


「……泣きそうです」


「どちらでも本物だ」


 アンナが離れた。目が少し潤んでいた。


「……ありがとうございます。本物の顔でいられる場所をくれて」


「礼を言うことじゃない」


「……言います。大事なことだから」


-----


 その夜、ミントが音楽室で一人練習していた。


 ライトが通りかかると、ミントが「ちょっとだけ聞いていてもらえますか!」と言った。


「好きにしろ」


 ミントが弾き始めた。今夜の曲は静かな曲だった。


「……今日の気分の曲です。今、何を弾きたいか分かりますか?」


「分からない」


「……みんなへの、ありがとう、の曲です。これだけ色々あって、一年経って、全員無事で……そのお礼を音にしたくて」


「きれいだ」


「……ライトさんが言ってくれると、特別です」


「なぜ」


「……魔力の音が、誉め言葉と同時に変わるんです。あなたが嬉しいと思うと、音が明るくなる。嘘をつけない」


「俺の魔力が正直か」


「……本当に正直なんです。あなたが思っていること、全部音に出てる」


「それは困る」


「なぜ?」


「お前に全部読まれる」


「……何が読まれたくないんですか?」


「……(少し間)」


「……(少し赤くなる)」


「……お互い様だ」


「……(笑う)」


-----


 廊下でキアが雷魔法の練習をしていて(夜中に廊下で)、制御が乱れて壁が少し焦げた。


「あっ!」


「また廊下か」とライトが言った。


「ライトさん! 実は精度向上の自主練をしてまして!」


「屋外でしろと言った」


「外は寒くて!」


「そうか」


「……見ててもらえますか」


「廊下でか」


「廊下で!」


「……分かった」


 キアが張り切って術式を展開した。


 今夜の雷は美しかった。細く、精密で、制御されていた。


「……ライトさん、どうですか!」


「よくなった」


「本当ですか!!」


「かなりよくなった。前回の倍は精密だ」


「やった!!」


 キアが跳び上がった。その弾みでバランスを崩して——ライトに飛び込んだ。


「……!」


「あ……」


 廊下で二人が至近距離になった。


「…………」


「…………」


「……また怒らないんですか」


「転んだのに怒る理由がない」


「……好きです、そういうところ」


「知っている」


「……いつも知ってるって言う! もっと驚いてください!」


「……驚いた」


「棒読みです!!」


「精度が上がったとは言え、まだ改善点がある。今夜の練習を続けるか?」


「……(切り替えが早い!)は、はい!!」


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 セラが温室で夜中に作業をしていた。


 ライトが声をかけると、慌てて立ち上がってじょうろを倒した。


 水がライトにかかった。


「……すみません!!」


「大丈夫だ」


「おぬれになって……! タオル! タオルを!」


 セラが温室内を探し回った。


「これしかなくて……」


 差し出されたのは小さなハンカチだった。


「大丈夫だ。魔法で乾かす」


「でも……あの……わ、私のせいだから、私が拭いても……」


「ハンカチを貸してくれ」


「は、はい!」


 ライトが自分で拭いていると、セラが隣に来て「顔にも少しかかっています」と言って自分のハンカチを当てた。


「…………」


「…………」


「……(真っ赤)す、すみません、出過ぎたことを……!」


「構わない」


「……植物が笑ってる気がします」


「植物もよく笑うな」


「……あなたのそばにいると、嬉しいんだと思います」


「植物もか。お前もか」


「……(真っ赤になりながらこくりとする)」


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◆第24話「春の光・十九人の答え」(最終話・感動エピソード)


 春の祭典の朝。


 桜の木の下に、全員が集まった。


 去年も一昨年も、同じ場所にいた。でも今年は人数が大幅に増えた。


 二十人と一羽。


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 シャルが光の蝶々を飛ばした。今年は千羽。


「先生! 千羽できました!!」


「去年の十倍だな」


「来年は一万羽を目指します!」


「来年卒業だぞ」


「卒業してからも目指します!」


「……そうしろ」


「先生は……卒業してからも、そばにいてくれますか?」


「……約束はできない。でも、縁は続く」


「……それで十分です」


-----


 レイアが静かにライトの隣に来た。


「……今年、初めて模擬戦で十秒以上粘れた」


「知っている。見ていた」


「……見てたの?」


「お前の練習はいつも見ている」


「……(少し赤くなる)言わなくていいそういうことは」


「事実だから言った」


「……来年こそ勝つ」


「楽しみにしている」


「……絶対に」


「絶対に、か。強い言葉だ」


「……あなたに勝ちたいのと同じくらい、あなたのそばにいたい。矛盾してるけど」


「矛盾していない。ライバルでもそばにいられる」


「……そうね」


-----


 メルが論文を持ってきた。


「第二稿ができました」


「早いな」


「……ライトさんの前世の記憶が全部戻ったおかげで、資料が増えて」


「俺の記憶を使うのか」


「共著者の記憶は公平に使います」


「そういう理屈か」


「……来年卒業論文を書きます。最高のものを」


「楽しみにしている」


「……ライトさんにそう言ってもらえると、書ける気がします」


-----


 エリスが真っすぐライトの前に立った。


「今年こそ勝った。覚えてる?」


「先週の模擬戦か。確かに負けた」


「……だから」


「だから?」


「……勝ったら言う、って言ってたじゃない。あなたに気持ちを伝えるって」


「言っていた」


「……ライト。好きよ。ずっと前から」


「知っている」


「……知ってたのね、やっぱり」


「気づかない方が難しかった」


「……反応が薄い!」


「俺も、大切だ。それは本当だ」


「……(真っ赤)もっとちゃんと言って」


「今はそれが精一杯だ」


「……いつかちゃんと言ってよね」


「いつか言う」


「約束?」


「約束だ」


 エリスが満足そうに笑った。


-----


 ノアが夜の星を昼に映す魔法を今日も展開した。


「……星が言っている。今日は新しい始まりの日」


「毎年そう言っているな」


「……毎年本当のことだから」


「今年の新しい始まりは何だ」


「……あなたと、また一年を始めること」


「それが始まりか」


「……私には、それが一番大切な始まり」


 ノアが静かに微笑んだ。夜空の色の、穏やかな笑顔だった。


-----


 クレアが新しい設計図を広げた。風が吹いて飛んでいった。今年で三年連続。


「あーーーーっ!!」


「テス」


「任せてください!!」


 テスが瞬時に走って設計図を回収した。


「ありがとうテスさん!!」


「どういたしまして! 今年こそ紐でくくっておいてください!」


「来年は絶対に!!」


「去年も同じことを言ってました」


「来年こそ絶対に!!」


-----


 ヴィオラがぼんやりとしていた。


「……ヴィオラ、どうした」


「……ライト」


「何だ」


「……今日の時間の流れ、いつもより速い気がする」


「なぜだ」


「……楽しい時間は速い。あなたといる時間は楽しいから、速くなる」


「それは困るな」


「……困る?」


「お前と一緒にいる時間が短くなる」


「……!」


「もう少し遅くできるか」


「……時間魔法で……できます」


「頼む」


「……(真っ赤)はい」


-----


 ライラが占いカードを出した。


「今日の一枚を引いてください」


「また俺の魔力でお前の精度を上げるのか」


「……それもありますけど、今日は純粋に引いてほしくて」


「どうせ当たらないだろう」


「……引いてみてください」


 ライトが一枚引いた。


「“太陽”のカード。全てを照らし、温める力。……似合いすぎて笑えます」


「笑うのか」


「……嬉しくて笑ってます。あなたがこのカードを引くと思ってたので」


「予言していたのか」


「……占いは当たるんです。あなただけ当たらないと言ったけど……あなたの引くカードは、初めてから全部分かってた」


「なぜそれを言わなかった」


「……あなたが自分で引くのを見たかったから」


「意地悪だな」


「……好きな人を見ていたいのは、意地悪じゃないです」


「そうか」


「……そうです」


-----


 ベルが今日は最初からライトの隣にいた。


「去年は離れた場所にいた。今年は最初から隣にいる。成長でしょ?」


「そうだ」


「……ありがとう、と言いたいけど、まだ素直さの練習中だから、遠回しに言う」


「どうぞ」


「……あなたがいたから、素直になる練習ができた。それだけ」


「直接言えている」


「……そう?」


「そうだ」


「……(照れる)じゃあ、もう一つ」


「何だ」


「……来年も隣にいていい?」


「いていい」


「……(少し笑う)……ありがとう」


-----


 ツキが影から出てきた。今年は影から出るのが少し早かった。


「……ライト」


「ツキ」


「……今年の満月の夜、また来ていい?」


「いつでも来い」


「……今夜も満月だ」


「そうか」


「……来てもいい?」


「来い」


「……(小声)正直なことを言う夜にする」


「楽しみにしている」


「……(微笑)ありがとう」


-----


 マリアが祈りを終えた。


「神よ、今年も……」


「祈り終わったか」


「はい! 今年も皆が無事でいられたことへの感謝を。それと……」


「それと?」


「……ライトさんへの感謝も、神に伝えました」


「直接言ってくれていい」


「……それが恥ずかしくて、神に伝言をお願いしたのですが」


「伝言より本人に言った方が早い」


「……そうですね。では——ライトさん、あなたがいてくれてよかったです。それは本当のことです」


「こちらこそ」


「……あと、もう一つ」


「何だ」


「……手を繋いでもいいですか。聖魔法の練習ではなく、ただ」


「……好きにしろ」


「……ありがとうございます(小声・神よ♪)」


-----


 アンナが笑顔で来た。でも今日の笑顔は、力が入っていなかった。一番自然な笑顔だった。


「ライトさん、今日の私の顔、どうですか?」


「きれいだ」


「……笑顔ですか?」


「笑顔だ。本物の」


「……よかった。あなたに本物と言ってもらえると、本物の気がします」


「本物だ。間違いない」


「……ありがとう。これからも、本物でいられるように練習します」


「練習しなくていい」


「え?」


「自然にやっているんだろう、今は」


「……そう、ですね。あなたの前では、自然に出てきます」


「それでいい」


「……(笑顔のまま目が潤む)やっぱり、泣きそうになります」


「どちらでも本物だ」


「……(笑いながら泣く)」


-----


 セラが温室から花を持ってきた。


「……みんなへ。今日は特別な日なので」


「何の花だ」


「スターブルーム。特別な日にだけ咲く花です」


「百年に一度じゃなかったか」


「……私の魔法で早めました。少しだけ」


「それはすごい制御だ」


「……ライトのためなら頑張れます」


「俺のためか」


「……みんなのためと、ライトのためと、半々くらいです」


「正直だな」


「……植物に学びました」


 セラが花を渡した。温室の香りがした。


-----


 ミントが最後にみんなの前でピアノを弾いた。


 今日の曲は誰も聞いたことのない曲だった。


「……何の曲だ」とライトが聞いた。


「今、作りました。みんながここにいる今この瞬間の音を、そのまま曲にしました」


「今作ったのか」


「……ライトさんの魔力の音と、みんなの気持ちの音が、今日はとても複雑で、でもとてもきれいで。これを逃したくなかったので」


「そうか」


「……この曲の名前は——“今、ここで”です」


 音楽が広がった。


 魔法の音が混ざった。


 全員が静かに、音楽を聞いた。


-----


 演奏が終わった後、しばらく誰も何も言わなかった。


 ライトがフロストを見た。


《ご主人様》


「何だ」


《今世は幸せでございますか》


 三年連続の問いかけ。


 ライトはしばらく考えた。


 一年目の答えは「悪くない」だった。


 二年目の答えは「幸せだ」だった。


 今年の答えは——


「……前世で何百年もかけて学ぼうとしたことを、今世では三年で学んだ」


《何を学ばれましたか》


「誰かと一緒にいること。誰かに頼ること。誰かに頼られること。そして——」


《そして?》


「……それ全部が、一人では手に入らないということだ」


《それが今世の答えでございますか》


「それが今世の、最初の答えだ」


《最初……?》


「まだ続く。来年も、その次も」


 フロストが羽を広げた。


《ようございました、ご主人様》


 春の光が降り注いだ。


 桜が舞った。


 ミントの音楽が再び始まった。


 シャルの蝶々が千羽、空に舞い上がった。


 ラナが翼を広げて、地面から少しだけ浮かんで、でも地上に戻ってきた。


 ノアの星が昼の空に輝いた。


 セラの花が咲いた。


 ヴィオラが時間を少しだけゆっくりにした。


 ドーンが日食魔法で空に七色の環を作った。


 ライラがカードを一枚引いた——「太陽」だった。


 キアが精密な雷を一本、まっすぐ空に伸ばした。


 アンナが本物の笑顔で笑った。


 ツキが影から完全に出て、光の中に立った。


 ミラの黒猫が、にゃあと鳴いた。


 クレアの装置が、今日は爆発しなかった。


 マリアが「神よ、ありがとうございます」と呟いた。


 ベルがライトの隣に、少し照れながら立っていた。


 テスが「今日も最速でしたよ!」と言った。


 レナが四枚目のトレーを持ってきて「食べながら見よう」と言った。


 イリスが「夢より、ここが好き」と目を開けて見ていた。


 ユイが刀を収めて微笑んだ。


 ソフィアが声を上げて笑った。


 リナが「みんなのご飯を作れてよかった!」と泣きながら言った。


 フィアが「アルバートより、ライトの方が好き。当人に言うのは変だけど」と笑った。


 アリアが「来年も頼りにしてるわ♪(本当に感謝してます、小声)」と言った。


 ルナが「来年は絶対勝つ。絶対に。本当に」と言った。


 エリスが「もう一回言って」と言った。


 ライトは「……大切だ、全員」と言った。


 レイアが「素直じゃない」と言った。


 「今日は十分素直だ」とライトが言った。


 シャルが「先生!!!」と叫んで駆けてきた。


 千羽の蝶々が全員の上で舞った。


-----


 二十人と一羽が、春の光の中にいた。


 前世では三百年、一人で見上げていた空。


 今世では三年で、こんなに大勢と見ている。


 それが答えだった。


 それが、転生という奇跡の意味だった。


 誰かのそばにいること。


 誰かに守られること。


 誰かを守ること。


 そして——それを、当たり前にすること。


-----


         了


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     次巻(4期)予告


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四年生になったライトたちに、卒業という現実が迫る。


三年生の先輩組(レナ、ドーン)が卒業し、各国への帰国が始まる中、エリスはサンローゼへ、ユイは白蓮へ、ツキは月白へ——それぞれが帰る時を迎える。


「離れていても、魔力は繋がっている」とライトが言う。


「でも離れたくない」と全員が言う。


そしてライト自身に、一つの選択が迫る。


“世界魔法統括機関”の設立に向けて、各国がライトに「初代代表」になるよう求めてきた。


学園を出て、世界へ。


前世では一人だった。今世では——二十人と共に。


 ★第四巻「転生魔法学園記 ~卒業と、世界の端の約束~」近日刊行!★


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     登場人物一覧(3期完全版)


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【主人公】

・ライト・アシュトン(17→18歳)

 前世の封印を完全に完成させ、前世の空白三年間の記憶も取り戻した。

 「一人じゃなくていい」を超えて「一人じゃない方が強い」と知った三年目。

 統一魔法理論を実践レベルで完成させた。


【第一期ヒロイン】

・シャルロット・エルヴィア…光の蝶々千羽を達成。婚約者と実際に会う機会が今年初めてあった。

・レイア・ヴァルテ…模擬戦で初めてライトに十秒以上粘れた。実力は学園二位が定着。

・メル・フォーゲル…共著論文第二稿完成。来年は卒業論文。

・アリア・クロード…本音が増えた。でも腹黒さも健在。世界会議でも活躍。

・ルナ・ベルフォート…魔法剣士として一人前の域に近づいてきた。


【第二期ヒロイン】

・エリス・サンローゼ…模擬戦でついにライトに一勝。故郷への愛と想いを両立。

・フィア・ルナリア…前世との和解が深まり、今世のライトとの友情を全力で楽しんでいる。

・ソフィア・グレイシア…笑顔と泣き顔が両方できるようになった。氷の薔薇は千輪目標。

・リナ・マーシュ…世界中に料理魔法を広める夢を持ち、実力は国際水準に。

・ミラ・シェイド…闇魔法が正式認定。猫が六頭になった。

・ユイ・ハクレン…さらに一年延長。刀と魔法の融合が学園史上最高レベルに。


【2期新登場ヒロイン】

・ノア・セレスティア…夜型から少し昼にも動けるようになってきた。

・クレア・ハンマースミス…設計図が風に飛ぶのは三年連続。装置が今年初めて爆発しなかった。

・イリス・ムーンウォーカー…現実の方が好きと言えるようになった。

・テス・ウィンドウェイ…父に認められ、走る理由が変わった。

・レナ・クリムゾン…四年制に延長申請中(食堂への執着が主な理由とは本人は言わない)。

・マリア・サンクトゥス…孤児院での奇跡が公式認定され、聖魔法使いとして名が広まった。

・ベル・グランフォート…素直になる練習の成果が出てきた。最初から隣に立てるようになった。

・ツキ・シライ…影から出るのが早くなった。満月の夜は恒例になった。


【3期新登場ヒロイン】

・セラ・フロストブルーム(16→17歳)…植物の根ネットワークで世界規模の情報を把握できる。騎士家と少し和解が進んだ。


・ラナ・シルヴァーウィング(15→16歳)…地上への恐怖が薄れ、ライトがいる地上を好きと言えた。飛ぶ理由が「逃げるため」から「見るため」に変わった。


・ドーン・エクリプス(17→18歳)…一族の使命を果たし、学園に残ることを選んだ。日食魔法が完成した。


・ミント・グリーンウェル(15→16歳)…ライトの魔力の音を録音・分析した論文が音楽魔法学会で話題に。音楽文化祭が大成功。


・ライラ・ムーンシャドウ(16→17歳)…怖い占い結果を一人で抱えなくなった。ノアと情報共有で未来を前向きに見ている。


・ヴィオラ・グランベル(16→17歳)…時間魔法を使わなくても、ライトといる時間はちょうどよく感じると言った。のんびりは相変わらず。


・キア・サンダーストライク(15→16歳)…精度が格段に向上。師匠との関係も前向きになった。ライトへの気持ちは師匠公認になった。


・アンナ・ウィンターローズ(15→16歳)…本物の笑顔が増えた。笑いたくない時に笑わない練習も少しずつ。ソフィアとは「笑顔の正反対の子」として深い友情が育った。


【使い魔】

・フロスト…三年連続で「幸せですか」と聞いている。今年の答えが一番長かった。


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       END

 【転生魔法学園記】第三期 全24話 完全版

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