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第3話 初戦闘

正嗣はサイラス王国から追放された笹咲(さささき)美鈴に自身が陰陽師であることを伝えた。


「────っていうことなんだけど……」


正嗣は美鈴が信じてくれるか不安になり顔をうかがう。すると美鈴はポカーンとした表情となっていた。


「おん……みょうじ…………それって……」

「事実なんだよ。信じられないかもしれないけど」


正嗣は美鈴のその感じに信じてもらえていないと判断したが美鈴はそれを否定する。


「あ!?ごめんね?違うの……信じてないわけじゃなくてビックリしちゃって……漫画とかアニメとかの陰陽師が本当に存在したって知らなかったから」


まさかの信じてくれている発言に驚きの正嗣。だが美鈴の言葉を聞いて納得した。


「空想だって思ってた異世界召喚があったり……死んだって思ってた吉備くんが生きてたり……私のそれまでの常識だとありえないことが実際に起きてるんだから。吉備くんの言った陰陽師の話だけ否定はできないよ」

「笹咲さん……ありがとう」

「どういたしまして。それと私のことは美鈴でいいよ?言いにくいでしょ?私の苗字?」

「わかった。それじゃあ俺も正嗣でいいよ」


こうして正嗣と美鈴はそんなに話したこともないただのクラスメイトから下の名前で呼び合う関係へと変わった。しかしここが森の中ということもありそんな微笑ましい光景に水を差す形であのファンタジー定番の魔物が姿を現す。


「「グアア」」


それは緑の色をした子供のような身長に腰布を巻いて手には棍棒を握っている2体のゴブリンだった。


「あれってまさか……ゴブリン……」

「あ、あれが……魔物……」


正嗣は目の前のゴブリンに先ほどのイノシシの魔物よりは恐怖を感じないことといつまでも逃げていてはこの世界で生き抜いていけないという気持ちから同じように逃げるのではなく立ち向かうことを決意した。それを決意させた理由の一端として自身の背中でゴブリンに怯えている美鈴を体感しているから。


「(こんなに怯えてる……笹咲さんは……美鈴は俺が守らないと……)」


それは本当に女性を守るという立派な精神から来たものかそれとも背中に感じる美鈴の豊満な胸の感触からか。


「美鈴は下がっててくれ……俺がゴブリンを倒す!」

「正嗣くん」


美鈴を守るように一歩前に出てゴブリンたちを睨みつける正嗣。あそこまで啖呵(たんか)を切っていてなんだが実際の心のうちはガクガクと震えていた。


「(くっそー……こんなんだったら姉さんの仕事についていくんだった……)」


なんどか誘われたことはあるものの自身の力のなさを自覚しているのでその(たび)に拒否していた。しかしそんな終わったことを後悔していても向こうは正嗣の心が決まるまで待ってはくれない。


「「グガア!」」


ゴブリンが2体同時に正嗣へと向かって駆け出した。


「(来た!)」


しかしいざ戦闘が始まると正嗣は意外にも冷静にゴブリンの分析ができていた。


「(そこまで速くないし武器は棍棒だけ!)だったら土霊術『土壁(つちへき)』!」


正嗣は土壁を自身を守るためではなく迫るゴブリンの前に発動。それはゴブリンたちの視界から自身を消す効果があった。


「「グガア!グガガ!」」


ドシン!ドシン!


ゴブリンたちは目の前に突如現れた土壁を壊すために棍棒を振り下ろす。しかしイノシシの魔物の時とは違い1度の攻撃では破壊されない。そんな中で正嗣はゴブリンたちの横に回って自身の霊術の中で唯一の攻撃のための霊術を発動した。


「くらえ!火霊術『火玉(ひのたま)』!」


正嗣が繰り出したのはその名前の通りの火の玉を放つ基礎的な霊術。それは手前のゴブリンの頭に着弾。


「グガア!?」

「グガッ!?」


1体のゴブリンが顔を燃え上がらせて地面でじたばた。もう1体はそれに驚き動きが止まる。その隙を見逃すはずもなく正嗣は間髪入れずに火玉を連射。


「火玉!火玉!火玉!」


連射された火玉はそのままゴブリン2体に着弾。それによりほどなくゴブリン2体は討伐された。


「ふう……なんとかなったか……」


ゴブリン2体を無事に討伐できたことに安堵しているとそのゴブリン2体の死体から光が浮かび上がり正嗣に向かってくる。


「なっ!?つ!?土壁!?」


咄嗟に土壁を発動してその光を防ごうとするがその光は土壁を透過して正嗣の右腕に吸い込まれていった。


「正嗣くん!?大丈夫!?」


心配して美鈴が慌てた様子で声をかけてくる。


「う、うん……特に身体に違和感とかはない……けど……」


身体を触れて確認するも特に痛みなどもなく外見上の変わりはない。しかし正嗣には陰陽師だからこそ感じている()()()()()()違和感を感じ取っていた。


「あの光は正嗣くんの右腕に吸い込まれていったように見えたけど?」

「ああ……うん……実は言い忘れていたんだけど……右腕には陰陽師が霊術を扱う際に霊痕が浮かび上がるんだ……」


そう言って正嗣は右腕をまくり霊力を操作。すると正嗣の右腕に黒に近い灰色で描かれた紋様が浮かび上がってきた。


「へえ~。すごいね」


なにも知らない美鈴はそれに関心するのみだが正嗣はその光景に絶句していた。


「……色が……変わってる……」

「色?この灰色のこと?」

「う、うん……霊痕はその霊力の強さなど陰陽師の強さによって違いがあるんだよ。より白いほうが強くより黒いほうが弱い……」

「そうなんだ」

「……そして俺の霊痕は真っ黒だった……」

「え?でも……真っ黒っていうか……どちらかといえば灰色だよ?」

「……」


自身の霊痕の変化を見て正嗣は抱くことを許されなかった希望という言葉が頭によぎる。


「もしかしたら……魔物を倒したら俺は……強くなれるのか……」


歴代史上最弱の陰陽師「吉備正嗣」は異世界に連れてこられたことによって最弱という言葉が変化することになる。

読んでくださりありがとうございます!


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