第2話 プロローグ②
正嗣が陰陽師として最弱と言われる理由。それには霊力の少なさにある。陰陽師にとって霊力とはそのまま強さの1つの指針になり多くの霊力がなくては強力な霊術を放てない。
そんな陰陽師にあって正嗣の霊力は平均を大きく下回りそれは一応・微かに存在する程度。それほどに少ない霊力では基礎的な霊術しか扱えず、霊術を学び始めた子供のほうが強い霊術を発動できるほど。
「やっぱり異世界だし魔物とかいるのかな?山賊とかはどうなんだろ……どこか安全な村とかないかな?」
とりあえず正嗣はそのまま森の中にいるのは危険と判断して森から出ることを決意して歩き出す。陰陽師としていまだに実戦に出たことのない正嗣は命をかけた戦いを経験していない。
「なにも出てきませんように……」
そうおっかなびっくりと歩いている正嗣だったがしかしすぐに顔を横に振りその思考を否定する。
「違う!俺は仮にも陰陽師なんだ!戦う力もある!自信を持て正嗣!弱気になるな!異世界にやってきて怖い思いをしてるのはみんなの方なんだ!みんなを助けれるのは俺だけなんだ!」
なんとか自身を奮い立たせるべく強気な言葉を叫ぶ。
「いくぞ!おう!」
拳を振り上げて気合いを入れる。しかしそこは森の中であり正嗣の懸念通り魔物が生息していた。
パリッ!
「っ!?」
ふと聞こえたその音。それは枝かなにかを踏んだような音。それが背後から聞こえてきた正嗣は先ほどの威勢はどこへやらビクビクとしながら後ろに振り向いた。
「グモウ……」
そこにいたのは角が3本生えているイノシシだった。その姿は大きさも相まってとても地球に存在するようなイノシシではない。
「でたー!?!?!?」
「グモウ!!!」
正嗣は50m以上の距離にイノシシの魔物を発見。戦う姿勢は一切見せずに一目散に逃亡を選択。しかしそんな逃げる正嗣を獲物と判断したのかイノシシの魔物は正嗣を追いかける。
ドシドシ!ドシドシ!
「はやっ!?こっちは強化してるのに!?」
正嗣が霊術にて身体能力を強化して全力で走っているのだが走力はあちらのほうが上のようで一瞬で追いつかれそうな距離まで接近された。そんな危機的状況になって正嗣はやっと向き合うことを決意した。
「お!?俺だってやればできるんだ!?土霊術『土壁』!」
それは地面から土の壁を発生させる正嗣が発動できる数少ない霊術の1つ。それによって正嗣はイノシシの魔物の突進を防ごうと考えた。
「これるもんなら来てみろ!」
「グモウ!!!」
その挑発に乗ったのかイノシシの魔物はさらに速度を加速。正嗣の土壁をその突進力と3本の角で破壊。
バコン!!
「……グモウ?」
しかしその土壁の奥には正嗣は存在せずイノシシの魔物は首をかしげる。
カサッ
すると遠くの茂みから草むらを踏んだような音が。その音を感知してイノシシの魔物はそちらへと向かった。
「グモウ!!!」
ドシドシドシドシ!!
「……もういいかな?……」
実は正嗣は土壁を発動したタイミングで近くの木へと飛び乗っていた。その後の音はその時に手に取った石を投げてそちらへと誘導した音。これは正嗣の即席の作戦だった。
「ふう……いろいろと鍛えてくれた姉さんに感謝しないと……」
正嗣は姉によるシゴキによって実戦は経験していないがこうした生き残る術は身についていた。ちなみに毎朝ボロボロになるので毎回学校には遅刻寸前だったりする。
「とりあえず……早く森を抜けよう……」
改めてそう決意して慎重に森の中を移動する。すると森を歩くこと5.6分程度。正嗣は土で固められたような道路に出た。
「ほっ。やっと森を抜けた~」
そのまま安堵して地面に横たわる正嗣。ふと隣を見るとそこには外壁が見えた。
「そうか……俺って街の左の森に捨てられたんだ……」
捨てられたときは生きていることがバレてはいけないと思って目をつぶっていたために正嗣は正確な場所は理解していなかった。
「……中にいるほうが魔物からは安全かもしれないけど……あの態度を見るとな~……とても信用ができる国じゃないしな~……それに俺が侵入したところで助ける前に死にそうだし……」
完全に当初の威勢は完全に消滅した正嗣。元々自身の弱さを自覚しているために自分になにかができるなどといった思考は己惚れた考えは持っていない。
「はあ……ほんとうに……どうしたらいいんだ……」
みんなを助けたいという気持ちはある。しかし自身には不可能とも分かっているために思い悩む正嗣。すると街の中から一台の馬車が出てくるとその中から1人の女の子が押し出される形で馬車の外へと出てきた。
「きゃっ!?」
「陛下の心優しさに感謝するんだな」
「そうだそうだ!さっきの男のように死なずに済んだんだからな!」
「だけどよ~…どうせ追放するんなら遊びたかったよな~。なにせ胸がデカかったしよ~」
そう言いながら馬車は再び街の中へと入っていく。
「やっぱりあの子……笹咲さん……」
街から追放されこれからのことを考えて絶望している女の子は正嗣のクラスメイトの1人。名前を笹咲美鈴。そしてその子もまた正嗣の存在に気が付いた。
「吉備くん!?」
まさか死んだと思っていたクラスメイトが生きていたことに驚きの美鈴。とりあえずその場は門番の騎士も2人いるので場所を向かいの森の中に移す。正嗣としては別とはいえ再び森の中というのは恐怖があったがさすがにあそこで話すわけにもいかない。
「でも……どうして吉備くんが?あの時確かに斬られて……死んだと思ったのに……」
「いや~……それはその~……」
どうやって説明しようかと焦り中の正嗣。基本的に陰陽師はその力を一般の人間に明かすことを禁じられている。ゆえに正嗣は幼馴染で親友の俊哉にも陰陽師のことは明かしていない。
「それもユニークスキルが関係してるのかな?」
「ユニークスキル?」
「うん……実は────」
そうして話された言葉は正嗣たちが召喚された理由。簡潔に述べるとこの国=サイラス王国は侵略戦争をしておりこの国にのみ存在する異世界人召喚魔法陣によって異世界人を召喚しているらしい。
その理由は異世界人はこの世界でも貴重とされるユニークスキルを必ず持って現れるため強い者が多数なため。そうして異世界人の奴隷兵士を使うことでこの国は大国と呼ばれるまでに強大になっていった。
「────そして私が追放されたのは……私のユニークスキルに価値がないからって……」
「そうなのか……ユニークスキル……」
大体の流れを理解した正嗣はこれから一緒に行動するだろう美鈴に自身の力について伝える。
「笹咲さん……俺にはたぶんユニークスキルはないと思う……」
「どういうこと?あの人たちは異世界人には必ずユニークスキルが備わっているって……」
「わかるんだよ……自分の身体に異変があれば気づかないはずがない……これでも鍛えられてるから……」
「??」
困惑の美鈴は首をかしげる。そして正嗣は意を決して自身のことを伝える。
「俺は……陰陽師なんだ……」
サイラス王国はこの2人を手放したことをきっと後悔するだろう。これより先に吉備正嗣と笹咲美鈴のてによってサイラス王国は滅亡する。
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