第12話 師匠の強さ
正嗣がハイリザードを討伐し強さを証明した次は美鈴の出番だった。
「頑張ろうね!ぐー助!」
≪ぐっ!≫
"任せとけ!"とでも言うように右腕を上げるぐー助。そしてそんな美鈴が相手をするのは50体ほどのゴブリンを率い、そばにはランクⅡソードゴブリンを従えるランクⅢゴブリンリーダー。
「行ってくる!」
「危なくなったらいつでも助けるから!」
正嗣の言葉を受けて美鈴はぐー助と共に駆け出した。ちなみに正嗣とエアリスは前回同様にエアリスの魔法で空から見学。
「助けるとは随分と美鈴を心配しているようね?」
そう言うエアリスの表情は正嗣をからかっているような笑みを浮かべている。それに対して気づいているのかいないのか。正嗣は美鈴を見守る。
「当たり前だろ。美鈴は本当は喧嘩もした事がないようなおとなしい女の子なんだ。この世界に来なければ……」
「……ならちゃんと見てあげて帰ってきたら褒めてあげなさい。女の子ってのは好きな男の子に褒められる事がなにより嬉しいんだから」
「なっ!?別に恋人じゃないって言ってるだろ!?」
そんな大焦りの正嗣とは違って美鈴は冷静にクマのぬいぐるみのぐー助と共に駆け出していた。
「ぐー助!」
ダッ!
美鈴が名前を呼ぶだけで意図を理解して左側から近づいてくるゴブリンを吹き飛ばす。美鈴の役割はブーストをかける箇所だったりその量を調整してぐー助に指示。その指示に従ってぐー助は行動する。
その結果として美鈴とぐー助は迫り来るゴブリンたちを討伐しながらも最奥に位置するゴブリンリーダーの元までたどり着いた。
目の前に立ちはだかるのは2体の側近ソードゴブリンたち。しかし美鈴とぐー助が見据えるのはその奥に守られているゴブリンリーダーのみ。
「ぐー助!両脚最大ブースト!」
グン!!
現在できる最大のブーストをぐー助の両脚に集中。そのスピードは主君を守る為に一歩前で待ち構える2体のソードゴブリンの間を通過したことさえ気付かない。さらに主君であるゴブリンリーダーが吹き飛んだことさえもその直後に気がついた。
「右腕最大ブースト!!」
ドゴン!!
「ギャッ!?」
「ギャギャ!?」
いつの間にか主君が吹き飛ばされていたことに驚き膠着する。しかしぐー助は動き続けている。
ドドン!!
「「ギギャア!?」」
美鈴による高速でのブースト変換によって一撃でゴブリンリーダー・ソードゴブリン×2は討伐された。
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それからは定期的に依頼を受けて戦闘経験を稼ぎながらエアリスと対戦。
「正嗣!敵を恐れるな!己を侮るな!勝機と感じたら迷わずに踏み込め!」
「くそっ!?」
「美鈴!己も戦場の中にいるということを忘れるな!動け!戦え!己が何ができるかを考えろ!」
「はい!」
その指導は苛烈を極めた。主にその指導する場所は冒険者ギルドの地下の訓練場。その指導を見ている他の冒険者はあまりの激しさに引いている。
「……エアリス様に教えてもらえるなんてって嫉妬したけど……」
「……わかるぜ……あんなに魔法をぶつけられたら……」
「「……生きろよ……」」
エアリスは異名が大魔導士なためもちろん魔法を得意としている。しかしだからと言って近接が苦手かといえばそうではなく、今もまた強化系の魔法を使って正嗣などをぶっ飛ばしている。
「風の翼!」
グン!
エアリスは風魔法を使用して速度を強化する。それは正嗣の雷人を超える速度で直線のみの雷人とは違って縦横無尽。
「くそっ!?大魔導士なら遠距離に特化しとけよ!?火霊術『火玉花火』!」
放たれる無数の火の玉。それは今までで最大の個数でありそれだけでも正嗣の成長を意味している。しかしそれらを全く意に介していないのがエアリス。
「相手に弱くなることを願う暇があるのならさっさと強くなれ!!」
すべての火の玉を搔い潜り正嗣の接近。
「しまっ!?」
接近された正嗣は急いで離れようとする。
「遅い!」
ドゴン!
エアリスは掌底で正嗣の顎をかちあげる。それによって吹き飛んでいく正嗣。
「やあ!」
そんなエアリスの背後から美鈴が槍を手に突きを見舞う。
ガシ!
しかし素人の突きなどブラック冒険者として世界最強の一角であるエアリスには死角から隙をついた一撃でも効果はなかった。
「っ!?」
「それでいい!遠慮なく殺しに来い!」
その言葉の直後に吹き飛ばされた正嗣とぐー助がエアリスが美鈴と向き合うために背後を向いた瞬間に最大加速で駆ける。正嗣は雷霊術「雷人」で。ぐー助は全体最大ブーストにて。
「うおおおおお!!」
ここまですれば大半の人物は対応できず魔物もランクⅣやⅤですらどうにかできるかもしれない。しかし三度いうが相手は世界最強の一角である。
「風の圧」
ブオオオ!!
エアリスが風魔法にて突風を起こすことで吹き飛ばされエアリスに近づくことすらできなかった正嗣とぐー助。その風の圧は魔法を習い始めた子供が使用するような簡単な初球の魔法。しかし大魔導士たるエアリスが使用すればどのような魔法も脅威となる。
「安心しろ。お前たち程度では傷ひとつ付くことはない」
それは"だから全力で向かってこい"という意味なのかそれともただの挑発なのか。
少なくともエアリスにかすり傷でもつけることができるようになればそれはこの世界でも一握りの強者に慣れた証となるだろう。
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