第11話 些細なキッカケ
正嗣と美鈴はエアリスの指令に従って依頼15件を苦労しながらも一日で完遂。翌日となって3人でやってきた場所とは違う森へとやってきていた。
「今日はソードゴブリン戦うのか?」
「私はウィンドウルフ?」
2人はエアリスが指定するブロンズの依頼を受けてからやってきていた。そのためそう思ったのだがどうやらそうではないらしい。
「そんなわけないでしょう?いまさらランクⅡの魔物と戦わせたところで意味ないじゃない。それはついでよついで」
どうやら今回の依頼はエアリスの課す修業とは関係ないらしい。
「だったらここまで何しに来たんだ?」
昨日の影響かエアリスに対して正嗣は敬語がなくなっている。どうやら姉の理不尽さを重ねているようだ。
「昨日でどれぐらい強くなったのかを実感してもらうのよ」
そう言って正嗣と美鈴は早々に依頼を終了させるとさらにエアリスによって森を歩かされる。
「ここら辺がやつらの縄張りだったはずなんだけど……」
「「奴ら?」」
首をかしげる正嗣と美鈴。だがその理由はすぐに理解するところになる。
ザク!ガン!
「シャアアアアアアア!!」
近くから戦闘の音が聞こえてくる。そして次に聞こえたのは人間のものではない雄たけび。
「あら?どうやら探す手間が省けたようね」
雄たけびのほうに向かうエアリス。正嗣と美鈴は言いたいことがあったが先ほどの雄たけびに警戒して黙ってついていく。そして草をかき分けて向かうとそこには剣と盾を持った二足歩行のトカゲのような魔物が存在した。さらに剣の先には正嗣と美鈴が苦戦して結局エアリスが対処したレッドグリズリーの首を突き刺して。
「なっ!?あの死体ってレッドグリズリー!?」
「そんな!?私たちが敵わなかった魔物を!?」
驚愕し警戒度を上げる正嗣と美鈴。するとエアリスが簡単に説明する。
「あの魔物はランクⅢのハイリザード。剣と盾を巧みに扱うその強さは個体によって違うのだけど……どうやら目の前にいる個体はハイリザードの中でも優れた個体のようね」
「ハイリザード……あれでレッドグリズリーと同じランクⅢなのか」
「見たところ傷もなさそう……無傷で倒してる……」
そのハイリザードの強さに唖然としているとそんな2人がさらに驚愕する言葉をエアリスが口にする。
「なにを恐れているのよ?あれを今から正嗣が1人で倒すのよ?」
「はあ!?俺1人で!?」
その驚きによって大声をあげてしまった正嗣。それによってレッドグリズリーを倒して興奮状態のハイリザードにバレてしまった。
「シャア?……シャアアア!!」
ダッ!
次の獲物を見つけたとでも言わんばかりの勢いでハイリザードは正嗣たちに向かって駆け出した。するとエアリスは美鈴の肩に手を置いて一言。
「美鈴の安全は保障するから頑張りなさい」
「正嗣くん!?」
そう言って美鈴ともどもエアリスは上空へと逃走。どうやら魔法にて上空で戦いを見学するようだ。
「くそっ!?火霊術『火炎花火』!!」
ボボボボ!
複数の火の玉がハイリザードに向かって放たれる。
「シャア!」
しかしそれに対してハイリザードは盾で防ぎながら正面から突き進む。その速度はさらに加速する。
「なっ!?」
気が付いた時にはすでに正嗣の目の前にいた。
「シャシャア!!」
ザン!
ハイリザードが正嗣に剣を振り下ろす。
/////
「正嗣くん!?エアリスさん!?正嗣くんが!?」
正嗣が切り付けられそうな瞬間を見て美鈴が慌てるがエアリスは冷静に返す。
「落着きなさい。地面をよく見て。正嗣は本当はどうなってるかしら?」
「どうなってるってそんなの!?」
地面に視線をエアリスから地面に移すと先ほどまで正嗣がいた場所にはハイリザードがいるのみで正嗣はハイリザードから少し離れた位置に移動していた。
「え?なんで……さっきまであそこに……」
「……本来の実力が解放されるのなんて些細なキッカケだったりするものよ……」
そこからは正嗣の独壇場だった。
/////
「そうだった……俺…いつの間にかあれが使えてたんだった……」
正嗣の言うあれとはそれまで身体強化しかなかった強化系の霊術においてそれは難易度の高い霊術。雷の速さで走る短距離高速移動術。
「シャアシャア!!」
危機感を感じ取ったのかハイリザードは焦ったように全力で正嗣に向かって駆け出した。しかしハイリザードの死は正嗣に挑んだ瞬間から決まっていた。
「雷霊術『雷人』」
ギュン!
迸る雷。ハイリザードはまばたきにて瞼が閉じられ次に開いた時には目の前から正嗣が消えていた。
「シャア!?シャア!?」
驚きできょろきょろするハイリザード。しかし正嗣は背後にいた。
「風霊術『鎌鼬』」
ザク!
「シャッ!?」
風を高圧縮し切れ味鋭い斬撃を放つその霊術は雷人同様に難易度の高い霊術。一部の優秀な陰陽師のみしか扱えない霊術だった。
「まさか……俺が……こんな……」
地球では歴代最弱陰陽師と言われ蔑まれてきた正嗣。本人の心もまた自身は弱いのだと受け入れていたが異世界にて正嗣は着実に閉じられていた扉が開きかけていた。
読んでくださりありがとうございます!
もし少しでも面白いと思ったら評価・ブックマーク・感想をしてくれるとそれが作者の描き続ける原動力となります!よろしくお願いします!




