第7話:十六夜会の始まり
王都ハルバータの十六夜の夜は、満月より少し欠けた月が柔らかな光を投げかける。
私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
「月影の庭」を発見してから数週間、月見草の魔法と精霊ルナ、庭師見習いのカイル、侍女のマリア、王子のレオンと一緒に庭を復興してきた。
先日、レオンが庭に迷い込み、そのお調子者なボケに笑いながら、癒しの場の可能性を広げた。
今夜は静かな夜。
ルナと二人で「十六夜会」を開き、庭の未来を考えるつもりだ。
「ふう、今日も貴族の書類に振り回された……。でも、この庭に来ると、心が落ち着くんだよね」
私は呟きながら、苔むした石の階段を下りる。
錆びた鉄の門をキィッと開けると、十六夜の月光が庭を優しく照らしていた。
月見草がキラキラと輝き、夜光蝶がふわふわと舞っている。
どこからかフクロウの「ホウ、ホウ」という低い鳴き声が響き、庭がまるで夢のオアシスのように幻想的だ。
私は花壇のそばにしゃがみ、月見草にそっと触れた。
指先がふわりと光り、花がさらに輝く。
「十六夜の月、なんか優しい光……。ルナ、どこ? 十六夜会、始めようよ!」
私は笑いながら周りを見回した。
すると、月見草の光の中に、ルナがふわっと現れた。
銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスがキラキラ輝く。
夜光蝶が彼女の周りをくるりと舞い、フクロウの鳴き声が響く。
「姉貴、十六夜会って何! なんかカッコいい名前つけたね! でも、私、昼は寝る主義だから、夜のイベントは大歓迎!」
ルナはニヤリと笑い、夜光蝶を指さした。
私は小さな木のテーブルに腰掛け、ルナに微笑んだ。
「ふふ、ルナ、ちゃんと起きてて偉い! 十六夜会はね、二人だけで静かに庭を楽しむ時間。月見草の世話しながら、庭の未来を話したいな」
「へえ、静かな時間ね。姉貴、しんみり好きだな! でも、まあ、夜光蝶とフクロウの声があるから、退屈しないか。で、庭の未来って何?」
ルナはふわっと私のそばに降り立ち、月見草を愛おしそうに見つめた。
私は深呼吸し、月見草の甘い香りを吸い込んだ。
胸の奥で、転生前の記憶がよみがえる。
花屋の忙しい日々、締め切りに追われながらも花に癒された時間。
心が少し重くなる。
「ルナ、この庭、昔は王妃の癒しの場だったって言ってたよね。どんなだったのか、もっと教えてよ。私、この庭をそんな場所にしたいんだ」
ルナは目を細め、珍しく静かな声で話し始めた。
夜光蝶が彼女の周りをキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が背景に響く。
「うん、昔ね、この庭は王妃の秘密の場所だった。王妃、貴族のゴタゴタや王宮のストレスで疲れててさ、ここで月見草の香りを嗅いで、泣いたり笑ったりしてたんだ。私の光で、夜光蝶と一緒にキラキラさせて、癒してあげたよ」
「王妃……そんな風に癒されてたんだ。ルナ、ずっと守ってたんだね。この庭、ほんとに特別だ」
私は月見草を見つめ、胸が温かくなった。
ルナは照れ隠しにフンと鼻を鳴らし、空中に浮かんだ。
「ふん、まあ、守護者だからね! でも、王妃が亡くなってから、誰も来なくなって……ちょっと寂しかったかな。姉貴が来て、ようやく賑やかになった!」
「ルナ……ありがとう。この庭、私にとっても癒しの場なんだ。転生前の私は、花屋で忙しすぎて、自分を癒す時間がなかった。ここでは、ゆっくり生きられる気がする」
私は目を潤ませ、月見草の花びらをそっと撫でた。
夜光蝶が私の肩にふわりと止まり、フクロウの「ホウ、ホウ」が静かに響く。
ルナがニヤリと笑い、軽い口調に戻った。
「姉貴、しんみりすんなよ! 転生前の忙しさ、忘れてさ、この庭でキラキラ楽しもうぜ! ほら、夜光蝶も応援してる!」
「ルナ、ほんとサトイモみたいな性格! でも、その毒舌、嫌いじゃないよ」
私は笑いながらツッコんだ。
ルナはケラケラと笑い、夜光蝶を追いかけてくるりと回った。
庭は月見草の光、夜光蝶の舞、フクロウの鳴き声で幻想的に輝く。
私はテーブルに座り、十六夜の月を見上げた。
「ルナ、この庭、もっとたくさんの人に癒しを届けたい。カイルやマリア、レオン殿下みたいに、みんなが笑顔になれる場所にしたい」
「ふっふー、姉貴、でかい夢だね! でも、いいよ、私もその夢、乗ってみる! 夜光蝶とフクロウも、きっと力貸してくれるよ!」
ルナの声が夜空に響き、夜光蝶が月見草の光に溶け込む。
フクロウの鳴き声が庭に深みを加え、私は笑顔で頷いた。
この幻想的な庭での十六夜会は、私のスローライフの新しい一ページだ。
月見草とルナと一緒に、きっと素晴らしい未来が作れる。