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月見草の令嬢は王宮庭園で花開く  作者: 海老川ピコ
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第49話:謎の画家の絵

 月の光が「月影の庭」を銀色に染め、月見草と夜来香がキラキラと揺れる。

 夜光蝶がふわりと舞い、フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くで響く。

 私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。

 セリナの錬金術書と子供たちの花冠が庭の癒しを深めた今夜、噂が王都に広がる。

 一面の月見草の庭を描いた絵が王宮に届けられ、誰もその画家の正体を知らないという。

 心がざわめき、庭に足を運ぶ。

 どんな絵なのか、誰が描いたのか、確かめたい。

 庭の中央に小さな木製のテーブルを置き、月見草の花冠とポーションの小瓶を並べる。

 月の光がテーブルを照らし、甘い花の香りが漂う。

 転生前の花屋で、客が花の絵を贈ってくれた時の感動を思い出す。

 あの頃は忙しさでじっくり見られなかったけど、今夜は謎の絵に込められた想いを感じたい。

 ルナが月見草の花壇からふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスが星屑のように輝く。

 彼女は目を輝かせ、ニヤリと笑う。


「姉貴、婆さんの本でポーションがキラキラになったな! 今夜は謎の絵だって? 私の光で、絵をドカンと輝かせちゃう?」


 私は花冠を手に、くすっと笑う。


「ルナ、いつも派手だね。謎の画家の絵、庭の魂が描かれてるって。静かに、でも心で感じたいな」

「ふっ、姉貴の聖女モード、しんみり全開か! いいよ、私のキラキラで、絵の謎を月まで照らすぜ!」


 ルナが宙を舞い、月見草の光をそっと強める。

 夜光蝶がテーブルを囲み、ふわりと舞う。

 私はティーポットを手に、ポーションをカップに注ぐ。

 今夜は静かに絵の話を聞きたくて、誰も呼ばず庭にいる。

 苔むした階段から重い足音が響き、初老の男性が現れる。

 灰色の髪に深い皺、粗末なローブをまとい、大きなキャンバスを抱えている。

 彼は庭を見回し、低い声で呟く。


「この庭……月見草の光、まるで王妃の夢だ。エリス・ルナリス、絵を届けに来た」


 私は驚き、キャンバスを見つめる。


「あなたが……画家? この庭の絵、描いてくれたんですか?」


 男は無言で頷き、キャンバスを地面に立てる。

 月光が絵を照らし、一面の月見草の庭が現れる。

 白い花びらがキラキラと輝き、夜光蝶が舞い、遠くの木々にフクロウが佇む。

 庭の中央には、私が花冠を手に立つ姿が、柔らかな光に包まれて描かれている。

 絵の隅には、ルナの小さな姿が光を放ち、庭全体が幻想的に輝く。

 私は息をのむ。


「すごい……この絵、庭の魂そのもの。夜光蝶も、フクロウも、全部生きてるみたい」


 転生前の花屋で、客がスケッチした花の絵に心を動かされた記憶がよみがえる。

 この絵は、庭の癒しを永遠に閉じ込めたようだ。

 ルナがキャンバスの周りをふわっと飛び、目を輝かせる。


「姉貴、この絵、めっちゃキラキラ! じいさんの腕、悪くない! でも、私の光の方が派手だろ?」


 私は笑いながらツッコむ。


「ルナ、絵は静かな輝きでいいんだよ! でも、ほんとすごい……。おじいさん、名前を教えてください。誰なんですか?」


 男は目を細め、静かに言う。


「名は……いらん。この庭の光を描きたかっただけだ。王宮に贈る。受け取ってくれ」


 彼の声は低く、どこか遠い記憶をたどるようだ。

 私は胸がざわめく。

 知り合いではないのに、庭を深く理解している気配がある。


「ありがとう……でも、なんでこの庭を? どこかで会ったこと、ありますか?」


 男はかすかに笑い、首を振る。


「月見草の光に呼ばれただけだ。昔、王妃の庭を見たことがある。それだけだ」


 彼はそれ以上語らず、キャンバスを私に渡し、階段を登っていく。

 足音が遠ざかり、夜の静けさが戻る。

 私は絵を抱え、ルナと顔を見合わせる。


「ルナ、この人……誰なんだろう? 王妃の庭を知ってるって、ただのおじいさんじゃないよね?」


 ルナがキャンバスの上を飛び、ニヤリと笑う。


「姉貴、謎のじいさん、怪しいな! でも、絵はガチでキラキラ! 私の光で、もっと輝かせちゃう?」

「ルナ、輝きは十分だよ。この絵、庭の心そのもの。謎のままでも、なんか温かいね」


 私は絵をテーブルに置き、月見草に触れる。

 指先がふわりと光り、絵の月見草がほのかに輝く。

 夜光蝶がキャンバスを舞い、フクロウの鳴き声が響く。

 絵の中の私が花冠を手に微笑む姿は、転生前の花屋で客の笑顔に癒された自分と重なる。

 この庭の光が、知られざる画家に届いたのだ。


「この絵、王宮のホールに飾られるんだよね。庭の名声、もっと広がるよ」


 ルナが私の肩に降り、珍しく静かに言う。


「姉貴、じいさんの絵、庭のキラキラを永遠にするぜ。私の光も、負けないけどな」


 私は微笑み、ポーションを一口飲む。

 甘い香りが胸に広がり、転生前の忙しい夜が遠くに感じられる。


「ルナ、この絵はみんなの心だよ。謎の画家さん、庭を愛してくれてたんだね」


 月の光が絵を照らし、月見草と夜来香の香りが漂う。

 この幻想的な庭でのスローライフは、謎の画家の贈り物で、また一歩輝いた。



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