第42話:両親への手紙
王都ハルバータの昼下がり、陽光が「月影の庭」を優しく照らし、月見草と夜来香がそっと揺れる。
いつもは夜に輝く花たちが、昼間は静かに眠るように佇んでいる。
夜光蝶は姿を隠し、フクロウの鳴き声も聞こえない。
私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
今日は珍しい休日、庭で一人、静かな時間を過ごしている。
昨夜のギルドの共同作業で月見草が元気を取り戻し、心が落ち着く。
両親に手紙を書いて、これまでのことを伝えようと思う。
ルナが花壇の隅にふわっと現れ、銀色の髪が陽光にキラリと光る。
白いドレスは昼でも星屑のようだ。
彼女はあくびをしながら、珍しく眠そうな声で言う。
「姉貴、昼間に庭? めっちゃ珍しいじゃん。私のキラキラ、昼じゃ弱いけど……何するの?」
私は木製のテーブルに羊皮紙とインクを広げ、くすっと笑う。
「ルナ、昼間に起きてるなんて珍しいね。今日は休日だから、両親に手紙を書こうと思って。庭のこと、月見茶会のことを伝えたいな」
「ふっふー、姉貴の真面目モード、悪くない! でも、手紙って地味じゃね? 私の光で、キラキラな手紙にすんぞ!」
ルナが小さく宙を舞い、月見草の花びらをテーブルにふわりと落とす。
私は笑いながら、羊皮紙にペンを走らせる。
転生前の花屋で、忙しい合間に母にメールを送った記憶がよみがえる。
あの頃は時間に追われ、ゆっくり想いを伝える余裕がなかった。
この庭では、陽光の下で心を込めて言葉を紡げる。
「ルナ、手紙は私の心だから、キラキラは控えめでいいよ。両親に、庭の物語をちゃんと伝えたい」
ルナがムッとしてテーブルに座り、頬を膨らませる。
「ちっ、姉貴、地味すぎ! ま、いいよ。昼は寝たいけど、姉貴の手紙、ちょっと気になるから見ててやる」
私は微笑み、ペンを握る。
庭の木々がそよ風に揺れ、月見草の葉が陽光にキラキラと反射する。
手紙を書きながら、これまでの日々が胸に浮かぶ。
◇
親愛なる父上、母上へ
王都の雑用係として働きながら、月影の庭を復活させてきた私ですが、ようやく心から伝えたいことがあります。
この庭は、かつて王妃の癒しの場だった場所。
月見草と夜来香が咲き、夜光蝶が舞い、フクロウの声が響く、まるで夢のような場所です。
でも、ここでは月見草の魔法と出会い、ゆっくり自分のペースで生きる喜びを見つけました。
ルナという月見草の精霊と出会い、庭をキラキラさせる約束をしました。
彼女の光と毒舌が、私の毎日に笑いをくれます。
満月の月見茶会では、貴族のリディアさんや下町のトムさん、子供たちのフィンやリナ、マイが集まり、「月の前では平等」を掲げて笑顔を共有しました。
寝っ転がり事件では、皆が月見草の香りに癒されて寝てしまい、朝にリディアさんが「貴族が地面で寝るなんて!」と叫んで笑いました。
セリナさんの昔話で、月見草が王妃の心を癒した歴史を知り、ポーションの作り方を学びました。
ガレンとエドウィンのギルドがケンカしながらも協力して、月見草を元気に戻してくれた昨夜の作業も、庭の絆を深めました。
ルナリス家の誇りを、この庭で守れている気がします。
両親が教えてくれた「笑顔でいること」が、庭の光に繋がっていると信じています。
◇
手紙を書きながら、転生前の花屋で母に送った短いメールを思い出す。
「忙しいけど元気」とだけ書いたあの頃。
今は、庭の物語を丁寧に伝えられる。
陽光が羊皮紙を照らし、月見草の葉がそっと揺れる。
私はペンを置き、ルナに目をやる。
「ルナ、手紙、ちょっと真面目すぎたかな? でも、両親に庭のことをちゃんと知ってほしい」
ルナがテーブルで膝を抱え、ニヤリと笑う。
「姉貴、手紙ってめっちゃ真面目じゃん! でも、悪くないよ。庭のキラキラ、ちゃんと伝わるぜ。私の毒舌も書いとけよ?」
「ルナの毒舌、書いたら両親びっくりするよ! でも、ルナのキラキラは絶対書くね」
私は笑いながらツッコむ。
ルナが空中でくるりと回り、月見草の花びらをさらにテーブルに落とす。
私はその花びらを手に取り、押し花にして手紙に同封する。
転生前の花屋で、客に花束を渡す時の笑顔が、押し花に込めた想いと重なる。
庭の木々がそよぐ音が、静かな昼を温かくする。
「父上、母上、この押し花は月見草です。庭の光を、ぜひ見てほしいです」
と書き加え、手紙を折る。
ルナが私の肩に降り、珍しく静かに言う。
「姉貴、両親、喜ぶぜ。庭のキラキラ、ちゃんと届くよ。私の光も、ちょっと手伝ったしな」
「ルナ、ありがとう。昼間のキラキラも、結構いいね。この庭、両親にも見せたいな」
私は微笑み、封をした手紙を手に持つ。
陽光が月見草を照らし、庭が穏やかな光で満たされる。
転生前の忙しい日々では、家族との時間を後回しにしていた。
この庭でのスローライフは、両親との絆を静かに繋いでくれる。
ルナが月見草に触れ、昼でもほのかに光る。
「姉貴、昼の庭、悪くないな。次は両親を茶会に呼ぶ? 私のキラキラで、めっちゃ歓迎してやる!」
「ルナ、いいアイデア! でも、昼は寝る主義なんでしょ? 夜の茶会でね」
私はツッコみながら、月見草に触れる。
指先がふわりと光り、庭の光が強まる。
この幻想的な庭でのスローライフは、手紙に込めた想いで、また一歩輝いた。




