第40話:セリナの昔話
月の光が「月影の庭」を銀色に染め、月見草と夜来香がキラキラと揺れる。
夜光蝶がふわりと舞い、フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くで響く。
私はエリス、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
庭の復興を進める中で、貴族と平民が月見草の光で繋がり、心が温まる日々が続いている。
今夜はセリナが訪れると聞き、胸が高まる。
彼女の知恵が、月見草のポーションをさらに輝かせてくれるかもしれない。
ルナが庭の中央にふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスが星屑のように輝く。
彼女はニヤリと笑い、軽快な声で言う。
「姉貴、最近の庭、キラキラ全開だな! 婆さんが来るって? 私の光で、昔話もドカンと盛り上げちゃう?」
私は月見草の花びらとポーションの小瓶を手に、くすっと笑う。
「ルナ、いつもノリノリだね。セリナさんの話、楽しみだよ。月見草のポーション、もっと癒せるようにしたいな」
「ふっふー、姉貴の聖女パワー、止まんねえ! 婆さんの知恵と私のキラキラで、ポーションを王都一の癒しアイテムにすんぞ!」
ルナが宙を舞い、月見草の光を強める。
私は庭の隅に小さなテーブルを置き、ティーポット、ポーション、月見草の花びらを並べる。
転生前の花屋で、年配の客から花の育て方を教わった時の温もりを思い出す。
あの頃は忙しくて聞き流していたけど、今はセリナの話にじっくり耳を傾けたい。
苔むした階段から杖をつく穏やかな足音が響き、セリナが現れる。
皺だらけの顔が月光に照らされ、優しい笑みが浮かぶ。
「エリス、噂の庭に来たよ。月見草の香り、昔を思い出すな」
私はセリナをテーブルに案内し、ポーションを渡す。
月光がカップに映り、甘い香りが漂う。
「セリナさん、ようこそ! この香り、どんな昔話を思い出させたの? 教えてください」
セリナが杖をトンと置き、カップを手に目を細める。
彼女の声は、ゆっくりと、記憶の糸をたどるように始まる。
「エリス、この月見草、昔は王妃の心の薬だった。王宮の重圧、貴族の争い、ストレスで押しつぶされそうだった王妃が、夜な夜なこの庭に来て、香りを嗅いで癒されてたよ。私が若い頃、錬金術師として王妃にポーションを献上した。月見草の花びらを蒸留して、癒しの力を濃くしたんだ。飲むと、心がふわっと軽くなる。王妃の笑顔が、私の誇りだったよ」
私は目を輝かせ、転生前の花屋で客の悩みに花を勧めた記憶がよみがえる。
あの頃、忙しさに追われながらも、客の笑顔が私の支えだった。
この庭で、セリナの話は月見草の新たな可能性を教えてくれる。
「セリナさん、王妃の心を癒したなんて、すごい! そのポーション、私も作りたい。王妃の想い、受け継ぎたいな」
セリナがクスクスと笑い、杖を握りしめる。
「あんたのポーション、すでに王妃の心に近いよ。蒸留法は教えたけど、心を込めるのが大事。あんたの優しさ、月見草にちゃんと伝わってる」
ルナがセリナの頭上をふわっと飛び、ニヤリと笑う。
「婆さんの話、長いけど悪くない! 姉貴、ポーションに私のキラキラ足して、王妃超えちゃおうぜ!」
私は笑いながらツッコむ。
「ルナ、王妃を超える前に、ちゃんとセリナさんの知恵を学ぼうよ! セリナさん、試作用に何かコツ教えてください」
セリナがテーブルに古びた錬金術の道具を取り出し、月見草の花びらを手に取る。
「花びらを蒸留する時、火加減を弱くして、ゆっくり香りを引き出すんだ。焦ると癒しの力が薄れる。あんたの心、静かに花に語りかけな」
私はセリナの言葉に頷き、庭の隅に置いた簡素な蒸留器を準備する。
転生前の花屋で、花の香りを調整した時の感覚が蘇る。
セリナが花びらを蒸留器にセットし、火を点ける。
私もそっと手伝い、甘い香りが立ち上る。
夜光蝶が蒸留器の周りを舞い、フクロウの鳴き声が静かに響く。
ルナが目を輝かせ、言う。
「姉貴、婆さんの知恵、ガチでヤバい! このポーション、キラキラすぎるぜ!」
「ルナ、キラキラは大事だけど、癒しが一番だよ。セリナさん、このポーション、どうかな?」
セリナが滴を集めた小瓶を手に、匂いを嗅ぎ、微笑む。
「エリス、よくできた。癒しの力が濃いよ。王妃の時代より、あんたのポーションの方が心に響く。試しに飲んでみな」
私は小瓶からポーションをカップに注ぎ、飲んでみる。
甘く、優しい香りが胸に広がり、転生前の疲れた夜が遠くに感じられる。
セリナの知恵と月見草の力が、私の心を軽くする。
私は感動して、セリナの手を握る。
「セリナさん、ありがとう! 王妃の心を受け継いで、みんなを癒せるポーションにしたい。この庭で、もっと笑顔を増やしたいな」
セリナが穏やかに頷き、杖をトンと置く。
「あんたはもう王妃を超えてるよ。庭とポーション、みんなの心を繋ぐ。あんたのスローライフ、王都の宝だ」
ルナが私の肩に降り、茶化すように言う。
「姉貴、婆さんの話、長いけど悪くない! 私のキラキラとポーションで、王都ぜんぶ癒すぜ!」
「ルナ、癒すのはみんなの心だよ。でも、キラキラはルナのおかげね!」
私はツッコみながら、月見草に触れる。
指先がふわりと光り、庭の光が強まる。
夜光蝶がテーブルを舞い、満月の光がセリナの微笑みを照らす。
そこへ、階段から小さな足音が響き、リナとマイが花冠を持って駆け寄る。
「エリスお姉ちゃん! 感謝祭の花冠、セリナ婆ちゃんにあげる!」
二人がセリナに花冠を渡すと、セリナの皺だらけの顔がくしゃっと笑う。
「こりゃ、いい贈り物だ。エリス、子供たちの心も、あんたの庭で輝いてるよ」
私はリナとマイに笑顔で頷き、転生前の花屋で子供たちに花を渡した記憶が重なる。
この庭では、セリナの知恵と子供たちの笑顔が、癒しの絆を深める。
ルナが空中でくるりと回り、光を庭全体に広げる。
「姉貴、婆さんの知恵とちびっ子たちの花冠、最強じゃん! 私のキラキラで、ポーションも庭もキラキラ全開だ!」
「ルナ、セリナさんと子供たちのおかげだよ。この庭、みんなで輝かせよう」
満月の光が庭を包み、月見草と夜来香の香りが漂う。
この幻想的な庭でのスローライフは、セリナの昔話と子供たちの贈り物で、また一歩輝いた。




