第4話:カイルの植物愛
王都ハルバータの夜は、星が瞬き、遠くの下町から市場のざわめきが聞こえてくる。
私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
「月影の庭」を発見してから数日、月見草の魔法と精霊ルナに出会い、庭の復興を始めた。
昨日は月見草を一気に咲かせ、夜光蝶が舞い、フクロウの鳴き声が響く幻想的な庭に心を奪われた。
今夜も、疲れた体を引きずって庭へ向かう。
月見草の光とルナの毒舌が、私の癒しの時間だ。
「ふう、今日も貴族のわがままに振り回された……。でも、庭に行けばリセットできるよね」
私は呟きながら、苔むした石の階段を下りる。
錆びた鉄の門をキィッと開けると、月光が庭を柔らかく照らしていた。
月見草がキラキラと輝き、夜光蝶がふわふわと舞っている。
どこからかフクロウの「ホウ、ホウ」という低い鳴き声が響き、庭がまるで夢の世界のように感じられる。
私は花壇のそばにしゃがみ、月見草に触れた。
指先がふわりと光り、花がさらに輝く。
「やっぱり、この光……心が落ち着く。ルナ、どこ? また寝坊?」
私は笑いながら周りを見回した。
すると、月見草の光の中に、ルナがふわっと現れた。
銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスがキラキラ輝く。
夜光蝶が彼女の周りをくるりと舞い、フクロウの鳴き声が背景に響く。
「姉貴、寝坊って何! 私はちゃんと夜に起きてるよ! ほら、夜光蝶も私のキラキラに夢中じゃん!」
ルナはニヤリと笑い、夜光蝶を指さした。
私はクスッと笑った。
「はいはい、ルナのキラキラは最高だよ。でも、庭の復興、もっと進めたいな。月見草、増やしたいけど……どうすればいいかな?」
「ふっふー、姉貴、熱心だね。種を撒くなら、満月の夜がベストって言ったでしょ? あと、土をもうちょっと整えて……って、ん? 誰か来るぞ!」
ルナがハッとして庭の入り口を指さした。
私は振り返り、足音が近づくのに気づいた。
フクロウの鳴き声が一瞬止まり、夜光蝶が月見草の光に隠れるように舞った。
苔むした階段を下りてくる影が見える。
衛兵? それとも……?
「誰!? こんな夜中に庭に来るなんて……ルナ、隠れて!」
「隠れる!? 私が!? 姉貴、この庭の守護者だよ! 怪しい奴なら、私の光で追い払うから!」
ルナはムキになって光を強めたが、私は慌てて彼女を制した。
その時、影が庭に踏み込み、月光に照らされた顔が見えた。
19歳くらいの青年だ。
ぼさっとした茶色の髪に、作業着のエプロン。
手に小さなシャベルを持っている。
「うわっ、なんだこの庭! 月見草!? 王都でこんな本物の月見草、初めて見た!」
青年は目を輝かせ、月見草の花壇に駆け寄った。
私はポカンとしながら彼を見た。
「え、ちょっと! あなた、誰? 勝手に庭に入ってこないで!」
「ご、ごめん! 俺、カイル! 王宮の庭師見習い! 夜の散歩してたら、なんかキラキラ光る庭を見つけて……! いや、これ、月見草だよね!? めっちゃ珍しいんだから!」
カイルは興奮してまくし立て、月見草をじっと見つめた。
夜光蝶が彼の周りをふわりと舞い、フクロウの鳴き声が再び響く。
私は少し警戒しながらも、彼の熱意に圧倒された。
「カイル……庭師見習い? う、うん、これは月見草だよ。私はエリス、雑用係。この庭、私が復活させようとしてるの」
「復活!? マジ!? この庭、めっちゃポテンシャルあるよ! 月見草って、夜に咲くし、魔法の力もあるって噂だろ? こんな場所、王都の名所になるよ!」
カイルは目をキラキラさせ、シャベルを握りしめた。
私は少し笑ってしまった。
この人、めっちゃ植物好きなんだ……。
ルナがふわっとカイルの前に現れ、ジトッとした目で彼を見た。
「ふーん、草バカじゃん。姉貴、この奴、庭に入れていいの? なんか騒がしそうだよ」
「草バカ!? ちょっと、俺は庭師だよ! それに、この庭の月見草、めっちゃ大事にしないと! エリス、俺も手伝う! 雑草抜きとか、土作りとか、任せて!」
カイルはムキになってルナに反論し、私にグイッと近づいた。
私は少し後ずさりつつ、ルナをチラッと見た。
「ルナ、ちょっと失礼じゃない? カイル、庭のこと詳しそうだから……手伝ってくれるなら、嬉しいな」
「ふっ、姉貴、優しいね! ま、草バカが役に立つなら、許してやるか。ほら、夜光蝶も歓迎してるみたいじゃん!」
ルナはニヤリと笑い、夜光蝶がカイルの周りをキラキラと舞う。
フクロウの「ホウ、ホウ」が静かに響き、庭の幻想的な雰囲気が一層深まる。
私はカイルに微笑んだ。
「じゃあ、カイル、一緒に雑草抜きから始める? この庭、もっと月見草でいっぱいにしたいの」
「よっしゃ! 任せて! 月見草の苗、植えるなら土の配合が大事だよ。ちょっと粘土質な土に砂混ぜて……あ、種も満月で採取するんだよね?」
カイルは目を輝かせ、地面にしゃがんで土を触り始めた。
私はその熱意にびっくりしつつ、ルナと顔を見合わせた。
「ルナ、この人、ほんとに植物オタクだね……。なんか、頼もしいかも!」
「ふん、草バカの熱意は認めるよ。でも、姉貴、私の月見草の方がキラキラだから! ほら、もっと魔法で咲かせてみ!」
ルナはふわっと浮かび、月見草を指さした。
私は笑顔で頷き、月見草に手を伸ばした。
胸の奥で、庭をキラキラさせたいという願いを込める。
指先が光り、月見草が一斉に花開いた。
夜光蝶が光に誘われて舞い、フクロウの鳴き声が響く。
カイルが目を丸くした。
「うわっ、すげえ! エリス、魔法使えるの!? この月見草、めっちゃ輝いてる!」
「ふっふー、姉貴の魔法と私の光のコラボだよ! 草バカ、驚くの早いね!」
ルナが得意げに笑い、私はカイルに照れ笑いした。
「カイル、びっくりしたでしょ? 私も最初は驚いたんだ。この庭、ルナと一緒に復活させてるの。一緒に手伝ってくれると、ほんと助かるよ」
「もちろんだ! エリス、この庭、王都の名所にしようぜ! 月見草の育て方、俺も勉強したい!」
カイルはシャベルを手に、雑草を抜き始めた。
私はその隣で、同じく雑草を抜きながら、胸が温かくなった。
転生前の花屋では、一人で花と向き合うことが多かった。
でも、この庭では、ルナやカイルみたいな仲間がいる。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が静かに響く中、庭仕事がなんだか楽しい。
「カイル、月見草って、どんな風に育てるともっと輝くと思う? ルナは満月の夜が大事って言ってたけど……」
「うん、満月の夜は種採取に最適だね! あと、月見草は水やり控えめで、根元に軽い肥料入れると花が強くなるよ。俺、明日、肥料持ってくる!」
カイルは目を輝かせ、土を掘りながら熱く語った。
ルナがふわっとカイルの頭上を飛び、ニヤリと笑った。
「草バカ、ほんと熱いね。姉貴、この奴、使えるかもよ? でも、私の月見草が主役だから!」
「ルナも花バカでしょ? カイル、ルナの毒舌には慣れてね。私も最初はビックリしたんだから」
私は笑いながらツッコんだ。
カイルはハハッと笑い、シャベルを手に土を整えた。
「エリス、ルナの毒舌、嫌いじゃないよ! この庭、なんか……心が落ち着く。夜光蝶とか、フクロウの声とか、めっちゃ幻想的だな」
「でしょ? この庭、私の居場所なんだ。カイルも、ここで癒されてほしいな」
私は月見草を見つめながら言った。
夜光蝶が私の肩にふわりと止まり、フクロウの鳴き声が庭に響く。
カイルが頷き、笑顔を見せた。
「癒されるよ、エリス。この庭、絶対名所になる。俺、ガッツリ手伝うから!」
「ふっ、草バカ、いいこと言うじゃん! 姉貴、こいつ、仲間に入れてもいいかもね!」