第36話:寝っ転がり事件
満月の光が「月影の庭」を銀色に染め、月見草と夜来香がほのかに輝く。
夜光蝶がふわりと舞い、遠くでフクロウの「ホウ、ホウ」が静かに響く。
私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。
昨夜、フィンの「月見草の騎士」の無邪気な夢で庭が温まり、今夜は満月の茶会で皆を癒したい。
月見草の甘い香りが漂い、穏やかな夜を約束している。
転生前の花屋で、忙しさの中で夜空を見上げる余裕がなかった私にとって、この庭での時間は心のオアシスだ。
ルナが月見草の光の中からふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスが星屑のように輝く。
彼女は両手を広げ、ニヤリと笑う。
「姉貴、ちび王子の騎士っぷり、なかなかキラキラだったな! 今夜は何だ? 私の光で満月を庭にドカンと降らせて、めっちゃ癒すぜ!」
私はティーポットと月見草ポーションの小瓶を手に、くすっと笑った。
「ルナ、いつも派手な夢だね。今日は満月の下で、みんなで月を眺めてのんびりしたい。ポーションと香りで、癒し全開の茶会にしよう」
「ふっふー、姉貴の聖女モード、悪くない! 私のキラキラで、茶会を史上最高の癒し空間に仕上げてやる!」
ルナがくるりと宙を舞い、指をパチンと鳴らす。
月見草と夜来香の光が一気に強まり、甘い香りが庭を包む。
私は庭の中央に大きな毛布を広げ、ティーポットとポーションを並べる。
満月の光を浴びながら、皆でくつろげるようにと、転生前の花屋で客に花を渡す時に感じた穏やかな喜びを思い出しながら準備した。
苔むした階段から軽やかな足音が響き、フィン、リディア、トムが現れ、庭が温かな笑顔で満たされる。
フィンが毛布に飛び乗り、月見草の花冠を頭に載せて目を輝かせる。
「エリス姉貴! 月見草の騎士として、月の下で一番キラキラするぜ! ほら、月、めっちゃでかい!」
私はフィンの無邪気さに心が温まり、毛布に座ってポーションを渡す。
「フィン、騎士らしいね! でも、今日は剣じゃなくて月見草の香りで癒そう。ポーション飲んで、月をじっくり見て」
フィンがカップを手にゴクッと飲み、甘い香りに目を細める。
夜光蝶が彼の花冠の周りをふわりと舞い、月光が花びらをキラキラと照らす。
フィンが弾んだ声で言う。
「姉貴、このポーション、めっちゃ元気出る! 月、キラキラで、まるで俺の騎士の夢みたいだ!」
私はくすっと笑い、転生前の花屋で子供が花束を手に喜ぶ姿を思い出す。
あの頃は、忙しさに追われて自分の心を癒す時間がなかった。
だが、この庭ではフィンの笑顔が私の疲れを溶かしてくれる。
リディアが毛布に優雅に座り、扇子を手に月を見上げる。
彼女の声は、いつもより柔らかい。
「エリス、この月見草の香り……本当に心が落ち着くわ。満月の茶会、貴族のサロンより素敵ね」
私はリディアに微笑み、ポーションを渡す。
「リディアさん、ありがとう。月見草の香りが、みんなの心を軽くしてくれるといいな。月の前では、みんな平等だよ」
トムが毛布に寝そべり、家族と肩を寄せて笑う。
「エリス、月見草のおかげで、市場のゴタゴタ忘れちまった。家族とこんな時間、最高だぜ」
ルナがフィンの頭上をふわっと飛び、ニヤリと笑う。
「姉貴、みんなのんびりしすぎ! 人間、こんなにリラックスして大丈夫か? 私のキラキラで、月を庭に降らせてテンション上げようか?」
「ルナ、降らせる前に落ち着いてよ! 月見草の香りと満月の光で、十分癒されるって」
私は笑いながらツッコむ。
満月が雲間から顔を出し、庭を銀色に染める。
月見草と夜来香の光が月と共鳴し、まるで星空が地面に降りたようだ。
私はポーションを飲み、胸がじんわりと温まる。
転生前の花屋では、締め切りに追われながら花束を包んだ夜が多かった。
この庭では、ゆっくり月を愛でる時間が私の心を満たす。
「みんな、月見草の香りを嗅いで、月を見て。心がふわっと軽くなるよ」
フィンが手を広げ、リディアが扇子を置いて目を閉じる。
トムが家族と静かに月を眺める。
月見草の香りが強まり、夜光蝶が毛布の周りをキラキラと舞う。
私はルナと目を合わせ、静かに微笑む。
だが、香りの癒しが強すぎたのか、フィンが小さな寝息を立て始めた。
リディアの扇子が胸に滑り落ち、トムも穏やかな顔で眠りにつく。
私はくすっと笑い、ルナに囁く。
「ルナ、みんな寝ちゃったよ。月見草、癒しパワー強すぎたかな?」
ルナが毛布の上でくるりと回り、ジトッとした目で言う。
「姉貴、人間、寝すぎ! 私のキラキラで起こす? こんな静かな茶会、つまんねえぞ!」
「やめて、ルナ! この穏やかな寝顔、癒しの証だよ。そっとしといて」
月光が皆の寝顔を照らし、庭が静寂に包まれる。
私は毛布に座り、月を見上げながらポーションをもう一口飲む。
転生前の花屋で、夜遅くまで花束を作りながら感じた疲れが、この庭の光で溶けていく。
月見草の香りが心に染み、夜光蝶が私の肩にそっと止まる。
フクロウの鳴き声が、静かな夜に深みを加える。
だが、朝日が差し込むと、リディアがハッと起きて扇子を握り、叫んだ。
「エリス! 貴族が地面で寝るなんて、なんて茶会なの!? 私のドレス、汚れたじゃない!」
私は笑いながら立ち上がり、リディアに手を差し出す。
「リディアさん、月の前ではみんな平等だよ。ドレスは洗えるから、癒された分、得したよね?」
リディアがムッとして扇子を振るが、すぐにくすっと笑う。
「確かに……この香りと月、癒されたわ。エリス、貴族のプライドは傷ついたけど、悪くない夜だった」
トムが目をこすり、ニヤリと笑う。
「エリス、家族と毛布で寝るなんて、市場の喧騒じゃ味わえないぜ。最高の茶会だ」
フィンが花冠を直し、跳ねるように立ち上がる。
「姉貴、月と一緒に寝た! 騎士の夢、キラキラでめっちゃ強くなったぜ!」
ルナがフィンのそばで光を放ち、笑う。
「ちび王子、寝顔もキラキラだったな! 姉貴、でもさ、人間がこんな寝っ転がりしたら、庭が寝床になっちゃうぜ!」
私は皆を見回し、笑顔で頷く。
「そうだね、ルナ。月の前ではみんな平等だけど、寝っ転がりはやりすぎた。次からはちゃんと起きて月を楽しむルールにしよう!」
庭に笑い声が響き、月見草と夜来香の香りが朝の空気に溶ける。
フィンが花冠を振り、ルナがその周りを舞う。
リディアがドレスの裾を払い、トムが家族と笑い合う。
私は月見草に触れ、指先がふわりと光る。
この庭でのスローライフは、寝っ転がり事件で温かな思い出を刻んだ。
転生前の忙しい夜とは違い、ここでは月と香りが私の心を癒し、皆の笑顔が新たな絆を紡ぐ。




