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月見草の令嬢は王宮庭園で花開く  作者: 海老川ピコ
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第3話:月見草の魔法の輝き

 王都ハルバータの夜は、星が瞬き、下町の喧騒が遠くに響く。

 私はエリス・ルナリス、18歳、没落貴族の娘で王宮の雑用係。

 数日前、偶然見つけた「月影の庭」で月見草の魔法と精霊ルナに出会い、庭の復興を始めた。

 昨日はルナに月見草の育て方を教わり、雑草を抜いて土を整えた。

 今夜も、疲れた体を引きずってあの庭へ向かう。

 月見草の光とルナの毒舌が、私の心を軽くしてくれる。


「ふう、今日も貴族の書類整理で目がチカチカ……。でも、庭に行けば元気になれるよね」


 私は呟きながら、苔むした石の階段を下りる。

 錆びた鉄の門をキィッと開けると、月光が庭を柔らかく照らしていた。

 月見草がひっそりと咲き、淡い光が揺れている。

 昨日より花の数が少し増えた気がする。

 ルナの教え通り、土をふかふかにしたのが効いたのかな。

 どこからか、フクロウの低い「ホウ、ホウ」という鳴き声が聞こえてくる。

 夜の静けさに溶け込むその音に、庭がどこか幻想的に感じられた。


「このフクロウの声、なんだか落ち着く……。まるで庭が生きてるみたいだ」


 私は花壇のそばにしゃがみ、そっと月見草に触れた。

 指先がふわりと光り、花がキラキラと輝き始める。

 すると、月見草の光に誘われるように、どこからか小さな蝶が舞い込んできた。

 夜光蝶だ。翅が月光を反射してキラキラと輝き、庭をふわふわと飛び回る。

 その光景は、まるで星が地面を漂っているようだった。


「夜光蝶……! なんて綺麗なの……。この庭、ほんとに魔法の場所だね」


 胸がじんわりと温まる。

 転生前のフラワーアレンジャーの記憶がよみがえる。

 あの頃は、花を飾ることで誰かの笑顔を作れたけど、忙しさに追われて自分を癒す余裕はなかった。

 この庭では、月見草と夜光蝶が、ゆっくりと私の心を満たしてくれる。


「姉貴、ぼーっとしてないでさっさと魔法使えよ! 月見草、もっとキラキラさせたいでしょ?」


 ルナのキラキラした声が響き、私はハッと振り返った。

 銀色の髪を揺らし、白いドレスが月光に輝くルナが、ふわっと空中に浮かんでいる。

 いつものニヤリとした笑顔だ。彼女の光に反応してか、夜光蝶がルナの周りをくるりと舞った。


「ルナ! びっくりするんだから! って、ぼーっとしてないよ。ほら、夜光蝶見て! この庭、めっちゃ幻想的!」

「ふーん、夜光蝶ね。こいつら、月見草の光が大好きなんだよ。で、姉貴、今日は一気に月見草を咲かせてみる? この庭、もっとキラキラにできるよ!」


 ルナはくるりと空中で一回転し、月見草の花壇を指さした。

 夜光蝶が彼女の動きに合わせてキラキラと飛び回り、フクロウの鳴き声が遠くで響く。

 私は目を輝かせた。


「一気に咲かせる? え、できるの? どうやるの? 教えて、ルナ!」

「ふっふー、姉貴、気合い入ってるね! いいよ、特別に教えてあげる。月見草の魔法は、君の心の力を借りるんだ。目を閉じて、庭全体をキラキラさせたいって、強く願ってみなよ。そしたら、私の光と夜光蝶の輝きが後押しするから!」


 ルナの声に背中を押され、私は深呼吸して目を閉じた。

 月見草の甘い香りが鼻をくすぐる。

 フクロウの「ホウ、ホウ」が静かに響き、夜光蝶の翅の音がかすかに聞こえる。

 胸の奥で、庭を復活させたい、皆を癒したいという願いが膨らむ。

 指先を花に触れさせ、心の中で呟いた。


「咲いて、月見草。この庭を、キラキラの光でいっぱいにしてください……!」


 その瞬間、指先から温かい光が広がった。

 ルナのキラキラした光と夜光蝶の輝きが重なり、庭全体がまるで星空のように輝き始めた。

 月見草が一斉に花開き、柔らかな白い花びらが月光を反射してキラキラと揺れる。

 夜光蝶が光に誘われて舞い、庭の隅々まで幻想的な輝きが広がる。

 フクロウの鳴き声がその光景に深みを加え、まるでこの庭が別の世界に変わったようだった。

 私は目を奪われ、息をのんだ。


「うわ……すごい、ルナ! 庭が……月が降りてきたみたい! 夜光蝶とフクロウの声、最高の雰囲気だよ!」

「でしょ? 姉貴の魔法、なかなかやるじゃん! この月見草、心を癒す力があるんだよ。ほら、香り嗅いでみなよ。転生前の疲れも吹っ飛ぶから!」


 ルナは得意げに胸を張り、夜光蝶が彼女の周りをキラキラと舞った。

 私は言われた通り、月見草に顔を近づけ、そっと香りを吸い込んだ。

 甘く、優しい香りが胸に広がる。

 すると、突然、転生前の記憶が鮮明によみがえった。

 花屋のカウンターで、花束を包む忙しい日々。

 客の笑顔に癒されながらも、締め切りに追われ、疲れ果てた夜。

 心がギュッと締め付けられる。


「ルナ……この香り、前の人生を思い出させる。忙しくて、でも花に救われてたあの頃……」


 私は目を潤ませ、月見草を見つめた。

 夜光蝶が私の肩にそっと止まり、フクロウの鳴き声が遠くで響く。

 ルナはふわっと私のそばに降り立ち、珍しく優しい声で言った。


「姉貴、前の人生、めっちゃ頑張ってたんだね。けどさ、ここではゆっくりやれるよ。この庭、君のペースでキラキラさせればいいじゃん」

「うん……そうだよね。ルナ、ありがとう。この庭、私の新しいスタートなんだ」


 私は笑顔で頷き、土だらけの手で涙を拭った。

 夜光蝶がふわりと飛び立ち、月見草の光に溶けていく。

 ルナは照れ隠しにフンと鼻を鳴らし、空中に浮かんだ。


「しんみりすんなよ、姉貴! ほら、なんか面白いことやってみたら? 例えば……月見草で花冠とか作ってみなよ! 夜光蝶も飾りに使えるかも!」

「花冠? いいね! 転生前も花冠作ったことあるよ。ルナ、ちょっと見てて!」


 私はワクワクしながら、月見草を丁寧に摘んだ。

 転生前の技術を思い出し、細い茎を編み、花びらを織り交ぜていく。

 夜光蝶が近くを飛び回り、まるで私の作業を応援しているみたいだ。

 フクロウの鳴き声が静かに響き、庭の幻想的な雰囲気を深める。

 やがて、淡く光る花冠が完成した。

 私は近くの小さな池を鏡代わりにして、花冠を頭に載せてみた。

 白い花が私の地味なドレスに映え、ほのかに輝いている。


「どうかな、ルナ? 地味だけど、私らしいよね?」


 私は池に映る自分を見て、クスッと笑った。

 夜光蝶が花冠のそばに舞い、キラキラと光を添える。

 ルナは目を細め、ニヤリと笑った。


「地味!? 姉貴、もっと派手にしろよ! 夜光蝶もいるんだから、キラキラ全開で行こうぜ!」

「これで十分だよ! ルナ、派手好きすぎでしょ!」


 私は笑いながらツッコんだ。

 ルナはケラケラと笑い、夜光蝶を追いかけてくるりと回った。

 フクロウの「ホウ、ホウ」が再び響き、庭全体がキラキラと輝く。

 月見草の光、夜光蝶の舞、フクロウの鳴き声が織りなすこの庭は、まるで夢の世界だ。

 私は花冠を手に持ち、胸の奥で決意を新たにした。


「ルナ、この庭、絶対に皆の癒しの場にするよ。月見草と夜光蝶と……このフクロウの声も、全部私の宝物だ」

「ふっふー、姉貴、いいねその気合い! じゃあ、私も夜光蝶と一緒にこの庭、もっとキラキラさせちゃうよ!」


 ルナの声が夜空に響き、夜光蝶が彼女の光に合わせて舞った。

 フクロウの鳴き声が静かに響き、月見草の香りが漂う。

 王都の喧騒が遠くに消え、この幻想的な庭でのスローライフが、私の心を満たしていく。



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