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月見草の令嬢は王宮庭園で花開く  作者: 海老川ピコ
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第26話:エリスの過去

 月影の庭は、新月の夜の深い闇に包まれていた。

 月見草の花びらは控えめに光り、夜光蝶がその周りを静かに漂う。

 遠くでフクロウの「ホウ、ホウ」が響き、庭はまるで世界の喧騒から切り離された隠れ家だ。

 私は木のテーブルに月見草のハーブティーと小さなポーションの瓶を置き、フィンの剣の花壇の絵を小屋の壁に眺めた。

 十六夜会の内省から一週間、ルナとの静かな対話で私の夢が明確になった。

 でも、今夜は新月の夜、月光がない暗闇で、転生前の花屋の記憶と没落貴族の過去が胸に重くのしかかる。

 ルナのキラキラが、私の心の奥をそっと照らしてくれるはずだ。

 私は月見草の花壇に近づき、指先で花びらに触れた。

 微かな光がふわりと広がり、胸の奥で癒しの夢がざわめく。

 ルナがふわっと現れ、銀色の髪が星明かりに揺れ、白いドレスが淡く輝く。


「姉貴、新月の夜って、なんか重い顔してるね。悩み? 過去? 私の月見草でサクッと吹っ飛ばす?」


 ルナがニヤリと笑い、夜光蝶を指差した。

 私はティーカップを手に、苦笑した。


「ルナ、顔読むのやめてよ。今日は……ちょっと、昔のことを話したい気分。この庭、私の過去とも繋がってる気がするんだ」

「ふっふー、姉貴の過去、めっちゃ気になるじゃん! ほら、星空の下で語っちゃえよ。私のキラキラで、暗闇も怖くないぜ!」


 ルナがくるりと空中で一回転し、指をパチンと鳴らした。

 月見草の光が一瞬強まり、甘い香りが庭に広がった。

 夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が静寂に溶け込む。

 私は庭のベンチに腰を下ろし、ルナが私の隣にふわっと浮かんだ。

 星空が広がる新月の夜、庭は静かで、私の心の声が響く。


「ルナ、私、転生前のこと、十六夜会で少し話したよね。日本の花屋で、忙しくて笑顔を保つのがやっとだった。でも、この世界の過去も、結構重いんだ」


 ルナが目を細め、珍しく静かに頷いた。


「姉貴、没落貴族の娘って言ってたじゃん。どんな感じだったの? なんか、キラキラとは程遠そう」


 私はティーを一口飲み、目を閉じた。

 没落貴族、ルナリス家の記憶が、鮮やかに蘇る。


「ルナリス家は、昔は名門だったらしい。でも、私が生まれた頃には、財産も地位もほとんどなくなってた。両親は王都の小さな家で質素に暮らしてて、でも『ルナリス家の誇り』って言葉をいつも口にしてた。ボロボロのドレスでも、礼儀正しく、笑顔でいるのが私たちの務めだって」


 ルナがふわっと私の肩に降り、ジトッとした目で言った。


「人間、プライドってめんどくさいね。ボロボロのドレスで笑顔って、姉貴、めっちゃ大変だったんじゃ?」

「うん、結構ね。下町の市場で、食料を節約しながら買い物してた。貴族の体面を保つために、値切りすぎないように気をつけて、いつも笑顔で。でも、心の中では、なんで私ばっかりって思ってた。転生前の花屋も忙しかったけど、この世界の私は、家族のために我慢するのが日常だった」


 ルナが手を顎に当て、考え込むように呟いた。


「ふーん、姉貴、めっちゃ我慢強いじゃん。で、どうやってこの庭に来たの? 雑用係って、なんか地味な仕事っぽいけど」


 私は苦笑し、星空を見上げた。

 記憶の糸をたどるように、ゆっくり話す。


「ある日、王宮で雑用係の募集があったの。16歳のとき。両親は『貴族の娘がそんな仕事?』って反対したけど、私は『家族を支えたい』って決めた。給料は安いけど、食事がついて、家族に少しでもお金を送れる。王宮の仕事はきつかったよ。貴族のわがままな注文、埃っぽい書類整理、銀食器磨き……でも、夜の散歩でこの庭を見つけて、全部変わった」


 ルナが目を輝かせ、ニヤリと笑った。


「ふっふー、そこで私の出番じゃん! 姉貴、月見草に触れて魔法バチッと発動! めっちゃ運命的!」

「ほんと、運命だったよ。ルナと月見草に出会って、初めて心が軽くなった。転生前の花屋でも、花の香りに癒されてたけど、この庭は……私の居場所になった。過去の重さも、ここでは少しずつ溶けていく気がする」


 ルナが私の頭上をふわっと飛び、静かな声で言った。


「姉貴の過去、めっちゃ強いじゃん。ボロボロのドレスで笑顔、家族のために雑用係、んで今、庭で王都の光になってる。人間、ほんと面白いね」


 私は胸が熱くなり、ルナに微笑んだ。


「ルナ、ありがとう。過去は重いけど、この庭があるから、今は前を向ける。両親にも、いつかこの庭を見せて、ルナリス家の誇りをちゃんと伝えたい」


 ルナがムッとして空中で一回転し、指を振った。


「姉貴、しんみりすんなよ! 両親、絶対この庭見て感動するって! 私のキラキラで、過去も未来もぜんぶ輝かせてやる!」

「ルナ、気合い入ってるね! でも、ほんと、この庭とルナが私の光だよ。過去も、転生前の記憶も、全部ここで活きてる」


 私は笑いながらツッコんだ。

 ルナが両手を広げると、月見草の光が庭に広がり、星空の下で「記憶の花」の幻が浮かんだ。

 淡い光の月見草が私の過去を映し、転生前の花屋のカウンター、ルナリス家の質素な家、雑用係の忙しい日々がキラキラと輝く。

 私は目を奪われ、胸がじんわりと温かくなった。


「ルナ、これ……私の全部だ。ありがとう。こんな風に過去を見ると、なんか、強くなれる気がする」

「ふっふー、姉貴、泣くなよ! 私の月見草、過去も癒すんだから! ほら、もっとキラキラ見て元気出しな!」


 ルナが空中でくるりと回り、夜光蝶が幻の花に絡み合って舞った。

 庭が静かな光に満ち、フクロウの鳴き声が遠くに響く。

 私はティーを飲み干し、星空を見上げた。

 転生前の花屋も、没落貴族の過去も、この庭で新しい意味を持つ。

 新月の暗闇が、私の心を優しく包む。


「ルナ、この庭で、過去も未来も全部繋げたい。みんなの笑顔を、ここで守るよ」

「ふん、姉貴、それでこそ! 私のキラキラと月見草で、王都ぜんぶ癒しちゃうぜ! 姉貴の光、めっちゃ強いから!」


 ルナが私の肩にふわっと降り、ニヤリと笑った。

 私は笑顔で頷き、月見草の花びらに触れた。

 指先がふわりと光り、庭が静かな希望で輝く。

 この幻想的な庭でのスローライフは、過去の重さを癒し、新たな決意でまた一歩進んだ。



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