第21話:レモンの木の伝説
下町を襲った流行り病を月見草ポーションで救った昨夜、皆の笑顔が私の心を満たした。
癒しの力は、貴族も平民も関係なく届く。
今夜は月見茶会。
セリナが庭の隅にひっそりと立つレモンの木について教えてくれるらしい。
かつての姫が愛したレモンの香りを再現し、茶会で皆に振る舞いたい。
ルナの魔法と月見草の光で、庭を温かな癒しの場にしよう。
月影の庭は、月の光に浴して穏やかに輝いていた。
月見草の花びらが柔らかい光を放ち、夜光蝶がその周りをゆったりと漂う。
遠くでフクロウの「ホウ、ホウ」 が響き、庭は静かな聖域のようだ。
私は木のテーブルに月見草のハーブティーとポーションの小瓶を並べ、庭の隅に立つ一本のレモンの木を見つめた。
細い枝に小さな実が揺れ、ほのかに酸っぱい香りが漂う。
胸の奥で、癒しの新たな可能性が芽生える。
ルナがふわりと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスが星のようにきらめく。
「姉貴、レモンの木? 地味な木だね。私の月見草の方がキラキラじゃん?」
ルナが少し不満げに目を細め、夜光蝶を指差した。
私はティーポットを手に、微笑んだ。
「ルナ、嫉妬してる? レモンの香りも癒しになるよ。セリナさんが教えてくれるって、楽しみだな」
「ふん、姉貴、癒しなら私の花で十分でしょ? ま、レモンがどんな話か、聞いてやってもいいけど!」
ルナがニヤリと笑い、指を軽く弾いた。
月見草が一瞬強く光り、甘い香りが庭に広がった。
夜光蝶がふわりと舞い、フクロウの鳴き声が静寂に溶ける。
私はレモンの木に近づき、葉に触れてみた。
転生前の花屋で、レモンの香りが疲れた客を癒した記憶がよみがえる。
その時、苔むした階段から穏やかな足音が聞こえてきた。
セリナの杖の音、カイルの軽快な声、マリアの静かな話し声、トムの家族の笑い声。
夜光蝶が月見草の光に溶け、フクロウの鳴き声が一瞬途切れる。
私はテーブルに戻り、入り口を見た。
「エリス、庭、今日もキレイだな! トムの家族、連れてきたぜ!」
カイルがぼさっとした髪を揺らし、笑顔で手を振った。
トムが妻と子供のリナ、マイを連れて微笑む。
マリアが穏やかな目で頷き、セリナが杖をついてゆっくり現れた。
彼女の皺だらけの顔が月光に優しく照らされる。
私は手を振って迎えた。
「セリナさん、カイル、トムさん、みんな、ようこそ! セリナさん、レモンの木の話、楽しみにしてるよ」
セリナがレモンの木に目をやり、静かに微笑んだ。
「エリス、よく気づいたね。あの木は、昔の姫が愛した特別な木だよ。話してあげるから、ゆっくり座りなさい」
私は皆をテーブルに案内し、月見草のハーブティーを注いだ。
リナが目を輝かせ、レモンの木を指さした。
「エリスお姉ちゃん、あの木、なんかキラキラしてる! おいしい実、できる?」
「リナ、ふふ、今日はそのレモンの秘密を聞くよ。ほら、ティー飲んで待ってて」
私はリナにティーを渡し、セリナに目を向けた。
彼女が杖をトンと置き、ゆっくり話し始めた。
「エリス、このレモンの木は、百年前のシルビア姫が植えたものだよ。姫は心を病んで、王宮の重圧に耐えきれなかった。でも、この庭でレモンの香りに癒されて、笑顔を取り戻したんだ。姫が愛したのは、レモンのはちみつ漬け。甘酸っぱい香りが、彼女の心を軽くしたって」
私は胸がドキッとした。
転生前の花屋でも、レモンの香りは癒しの定番だった。
ルナがふわっとセリナの横に浮かび、目を細めた。
「婆さん、いい話じゃん。レモン、癒しパワーあるの? 私の月見草には負けるけど!」
「ルナ、競わないでよ。セリナさん、はちみつ漬け、作れるかな? 姫の癒し、皆で味わいたいな」
セリナがクスクスと笑い、頷いた。
「エリス、いい心がけだ。作り方は簡単。レモンを薄く切って、はちみつに漬けるだけ。月見草の花びらを少し加えれば、もっと癒しになるよ」
「月見草とレモン! いいね、やってみる! カイル、マリア、トムさん、みんなで作ろう!」
私は目を輝かせ、テーブルにレモンとはちみつを並べた。
カイルがレモンを手に、ニヤッと笑った。
「エリス、レモン切るの、俺得意だぜ! 癒しのスィーツ、めっちゃ楽しみ!」
マリアが穏やかに微笑み、リナとマイを連れてレモンを切り始めた。
「エリス、子供たちも手伝うよ。姫の味、どんなかな?」
トムが妻と一緒にレモンを手に、笑顔で言った。
「エリス、家族でこんな楽しいこと、初めてだ。ポーションのおかげで元気になったからな」
私は胸が温かくなった。
転生前の花屋では、花を売るだけで癒しを届けたけど、この庭では皆で何かを作る喜びがある。
ルナがふわっと私の肩に降り、ニヤリと笑った。
「姉貴、レモンに月見草混ぜるなんて、センスいいね! 私のキラキラで、もっと癒しパワーあげちゃう?」
「ルナ、いいよ! でも、やりすぎないでね。姫の癒し、ちゃんと再現したいから」
私は笑いながらツッコんだ。
ルナが指を軽く弾くと、月見草の花びらがテーブルにふわりと落ち、ほのかな光を放つ。
私はレモンを薄く切り、はちみつに漬け、月見草の花びらをそっと加えた。
甘酸っぱい香りが庭に広がり、夜光蝶がゆったりと舞う。
フクロウの「ホウ、ホウ」が響き、庭が穏やかな雰囲気に包まれる。
「できた! レモンのはちみつ漬け、姫の味だよ。みんな、食べてみて!」
私は小さな皿に盛り、皆に配った。
リナが一口食べ、目を丸くした。
「エリスお姉ちゃん、甘酸っぱい! キラキラしてるみたい!」
マイも頬張り、笑顔で叫んだ。
「おいしい! お姫様、こんなの食べてたの? すごい!」
リディアが茶会に遅れて現れ、扇子を手に庭を見回した。
「エリス、また何か新しいこと? この香り……悪くないわね」
「リディアさん、ちょうどいいタイミング! 姫のレモンのはちみつ漬け、食べてみて」
リディアが一口食べ、扇子を止めて目を細めた。
「ふむ……甘酸っぱいわね。心が、なんだか軽くなる。エリス、姫の気持ち、確かに伝わるわ」
トムが家族と一緒に食べ、ニヤッと笑った。
「エリス、こりゃ最高だ。家族みんな、笑顔になっちまう。姫も、こんな気分だったのかな?」
私は胸がじんわりと温かくなった。
セリナが杖を握り、静かに微笑んだ。
「エリス、よくやったよ。姫も、こんな笑顔を願ってたはずだ。月見草とレモン、いい組み合わせだね」
「セリナさん、ありがとう! 姫の癒しを、みんなで感じられたよ」
ルナがふわっとテーブルの上に浮かび、ニヤリと笑った。
「婆さんの話、悪くないね! 姉貴、レモンの癒しもいいけど、私の月見草が主役だよね?」
「ルナ、食べ物に嫉妬してるの? でも、ほんと、みんなの笑顔、最高だよ!」
私は笑いながらツッコんだ。
ルナがムッとして空中で一回転し、指を振った。
夜光蝶が一斉に舞い上がり、レモンの香りと月見草の光が絡み合い、光の「癒しの果実」の幻を作った。
庭が幻想的に輝く! 参加者が一斉に拍手し、リナとマイが歓声を上げた。
「エリスお姉ちゃん、キラキラ! 果物が光ってる!」
「これは……! 美しいわ。エリス、ルナ、驚くべき才能ね」
リディアが扇子を握り、目を輝かせた。
トムが妻と子供たちを抱き寄せ、笑顔で言った。
「エリス、家族でこんな幸せ、初めてだ。レモンの香り、ポーションみたいだな」
カイルがレモンの皮を手に、目を輝かせた。
「エリス、このレモン、庭に増やそうぜ! 月見草と一緒に、めっちゃ癒しパワーだ!」
マリアが穏やかな笑顔で頷いた。
「エリス、姫の癒しを再現するなんて、すごいよ。この庭、ほんとに特別ね」
その時、レオンが階段を駆け下りてきた。
金色の髪が月光に輝き、王子の紋章がチラリと見える。
「よお、エリス! 遅れたぜ! うお、レモンの香り!? 俺、癒しの王子として、このスィーツいただくぜ!」
レオンが大げさに手を広げ、ニカッと笑った。
私は腰に手を当ててツッコんだ。
「レオン殿下、ただのお客でいいですよ! でも、来てくれてありがとう。ほら、レモン食べてみて」
ルナがレオンの頭上を飛び、ジトッとした目で言った。
「昼間の王子、遅刻かよ。私のキラキラとレモンの癒し、ちゃんと味わえよ!」
レオンがはちみつ漬けを一口食べ、ハハッと笑った。
「ルナ、すげえショーだ! エリス、このレモン、甘酸っぱくて心が軽くなるぜ! 姫の癒し、最高!」
夜光蝶がテーブルの周りをキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が庭に響く。
月見草の香りとレモンの甘酸っぱさが混ざり合い、リナとマイの笑顔、リディアの感嘆、トムの感謝が月光に輝く。
この幻想的な庭でのスローライフは、レモンの木の伝説で、また一歩温かくなった。




