第17話:閑話 新月の夜
半月前の満月茶会で、「月の前では平等」のルールを宣言し、リディアとトムが笑顔で言葉を交わした。
貴族と平民が庭で心を通わせた瞬間、癒しの夢がまた一歩進んだ。
今夜は新月の夜。月影の庭は真っ暗で、月見草の光も控えめだ。
誰も来ない静かな夜、ルナと二人で星空を見ながら、ゆっくり心を整えたい。
王都の皆を癒す夢を、改めて胸に刻もう。
私は小さな木のテーブルに月見草のハーブティーを用意し、花壇のそばに腰を下ろした。
月がない夜、月見草は静かに佇み、ほのかな光を放つ。
夜光蝶は姿を見せず、フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くから響く。
庭は静かなオアシスだ。
私は花びらに触れ、指先がわずかに光る。
ルナがふわっと現れ、銀色の髪が星明かりに揺れ、白いドレスが淡く輝く。
「姉貴、新月の夜だよ。月がないとちょっと寂しいね。私のキラキラも控えめでさ」
ルナは少ししょんぼりした顔で、空中にふわっと浮かんだ。
私は微笑み、星空を見上げた。
「ルナ、寂しがり屋だね。でも、星がこんなに綺麗。月見草の香りも、静かで落ち着くよ」
「ふっふー、姉貴、詩人みたいじゃん。ま、新月は隠れる時間だよ。星は輝くけど、私の月見草も負けないよ」
ルナはニヤリと笑い、指をパチンと鳴らした。
月見草がほのかに光を強め、甘い香りがふわりと漂う。
フクロウの鳴き声が静寂を彩り、庭が穏やかな空気に包まれる。
私はハーブティーを手に、ルナと並んで草の上に座った。
「ルナ、こうやって二人でいるの、なんだか落ち着くね。いつも茶会で賑やかだから、静かな夜もいいな」
「へえ、姉貴、スローライフ全開だね。人間って、いつもバタバタしてるけど、こんな夜も悪くないよね」
ルナは私の隣にふわっと降り、星空を見上げた。
彼女の小さな肩が星明かりに照らされ、どこか優しい雰囲気が漂う。
私はティーを一口飲み、胸の奥で想いを巡らせた。
「ルナ、この庭に来てから、いろんなことが変わったよ。カイルやマリア、リディアさん、トムさん、みんなの笑顔が増えて……。私、王都の皆を癒したいって、もっと強く思うようになった」
私は目を閉じ、転生前の花屋の記憶を思い出した。
忙しさに追われ、客の笑顔を見ても心に余裕がなかった日々。
でも、この庭では、みんなの笑顔が私の力になる。
ルナがジトッと私を見て、口を尖らせた。
「姉貴、めっちゃ真面目な顔! でも、わかるよ。この庭、めっちゃ特別だもん。私の月見草、癒しパワー最強だし!」
「ふふ、ルナ、いつも自慢だね。でも、ほんと、月見草のおかげでみんなが笑顔になってる。カイルの植物愛、マリアの癒された顔、リディアさんとトムさんの和解……。この庭がなかったら、こんな未来、想像できなかった」
私は星空を見上げ、胸がじんわりと温かくなった。
ルナがふわっと私の肩に寄りかかり、珍しく静かな声で呟いた。
「姉貴さ、この庭、昔は王妃の癒しの場だったけど、荒れてからずっと孤独だった。私、キラキラ輝くだけじゃ、誰も癒せなかった。でも、姉貴が来て、庭がまた笑顔でいっぱいになったんだ」
ルナの言葉に、胸が締め付けられる。
彼女の小さな体が、星明かりにほのかに揺れる。
私はそっとルナの手を握った。
「ルナ、ありがとう。この庭、ルナが守っててくれたから、私の居場所になったんだよ。月見草の光、ルナのキラキラがなかったら、私、こんな夢持てなかった」
ルナがムッとして、空中にふわっと浮かんだ。
「姉貴、急にしんみりすんなよ! 夜が台無しじゃん! 私のキラキラは、もっと派手に輝くためにあるんだから!」
「ふふ、ルナ、照れてる? でも、ほんと、ルナとこの庭が私の宝物。転生前の私、忙しくて心がすり減ってたけど、今はスローライフで、みんなを癒す夢が見られる」
私は笑顔でツッコんだ。
ルナがケラケラと笑い、指をパチンと鳴らした。
月見草が一瞬だけ強く光り、夜光蝶がどこからかふわりと現れ、庭をキラキラと舞った。
フクロウの「ホウ、ホウ」が響き、星空の下で庭が幻想的に輝く!
「ルナ、夜光蝶! やっぱり新月でもキラキラできるんだ!」
「ふっふー、姉貴、わかってるじゃん! 新月は隠れる時間だけど、私の月見草はいつだって輝くよ。姉貴の夢、王都を癒すなんて、私も応援するから!」
ルナが空中で一回転し、夜光蝶が彼女の周りをくるりと舞った。
私はティーを飲み干し、星空を見上げた。
転生前の花屋では、夜空を見る余裕すらなかった。
でも、この庭では、ルナとこんな静かな時間を過ごせる。
「ルナ、王都の皆を癒すって、大きな夢だけど……この庭があれば、できるよね?」
「姉貴、できるよ! 私の月見草、夜光蝶、フクロウの声、全部味方だよ。姉貴の癒しパワー、めっちゃ強いんだから!」
ルナが私の頭上を飛び回り、ニヤリと笑った。
私は笑いながら手を振った。
「ルナ、調子に乗ってるよ。でも、ほんと、この庭とルナがいるから、私、頑張れる。月見草の香りで、もっとたくさんの笑顔を作りたい!」
「ふん、姉貴の夢、私がキラキラで後押ししてやるよ。ほら、星空見て、もっとでっかい夢、想像しな!」
ルナが指を振ると、夜光蝶が星空に向かって舞い上がり、まるで星と月見草の光が繋がるようにキラキラと輝いた。
フクロウの鳴き声が静かに響き、庭が穏やかな魔法に包まれる。
私は胸の奥で決意を新たにした。
「ルナ、約束だよ。この庭で、王都の皆を癒す。貴族も平民も、みんなの笑顔のために」
「ふっふー、姉貴、いいね! 月光の約束、だろ? 私も負けないよ。月見草、もっとキラキラさせちゃう!」
ルナがくるりと回り、夜光蝶が庭の隅まで舞った。
私は星空を見上げ、月見草の残り香を深く吸い込んだ。
王都の遠くの明かりが、庭の静けさを引き立てる。
転生前の忙しさも、没落貴族の重圧も、この新月の夜には遠く感じる。
この幻想的な庭でのスローライフは、ルナとの静かな会話で、また一歩深まった。




