第16話:月の前では平等
昨夜の茶会では、貴族のリディアと平民のトムがピリピリした空気の中で月見草の香りに少し癒された。
確執はまだ残るけど、庭の光が二人を少し近づけた気がする。
今夜は満月の月見茶会。
貴族と平民の参加者が増え、緊張が高まる中、「月の前では平等」のルールを宣言するつもりだ。
ルナの光と月見草の香りで、みんなの心を一つにしたい。
私は小さな木のテーブルに月見草のハーブティーとポーションの小瓶を並べ、花壇を見た。
月見草がキラキラと輝き、夜光蝶がふわふわと舞う。
フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くから響き、庭は幻想的なオアシスだ。
私は花びらに触れ、指先がふわりと光る。
ルナがふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスがキラキラ輝く。
「姉貴、平等ルールって? めっちゃ大胆じゃん。貴族と平民、ちゃんとまとまるかな?」
ルナはジトッと目を細め、夜光蝶を指さした。
私は微笑み、ティーポットを整えた。
「ルナ、心配性だね。月見草の香りなら、みんなの心を柔らかくできるよ。平等な癒しの場にしよう」
「ふっふー、姉貴、でかい夢だね。人間の欲、めんどくさいけど、私の光でキラキラまとめてやるよ」
ルナはくるりと空中で一回転し、指をパチンと鳴らした。
月見草の光が強まり、甘い香りが庭に広がる。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が雰囲気を深める。
私はポーションの小瓶を手に、胸をドキドキさせた。
その時、苔むした階段から複数の足音が聞こえてきた。
カイルの元気な声、マリアの静かな話し声、トムの低い声、リディアのヒールの音、そして他の貴族と平民のざわめき。
夜光蝶がふわりと月見草の光に溶け、フクロウの鳴き声が一瞬止まる。
私はテーブルから顔を上げ、入り口を見た。
「エリス、庭、今日もキラキラだな。トムと仲間、連れてきたぜ」
カイルがぼさっとした髪を揺らし、笑顔で手を振った。
トムが商人仲間二人と頷く。
マリアが疲れた笑顔で続く。
リディアが豪華なドレスで現れ、扇子を手に貴族令嬢二人を連れている。
彼女が庭を見回し、鼻を鳴らした。
「ふむ、この庭、悪くないけど……また下町の者と同席? 少し我慢が必要ね」
トムがムッとして、低い声で返した。
「貴族のわがまま、いい加減にしろよ。エリスの庭は、俺たち平民の癒しの場だ」
空気がピリッとした。
私は深呼吸し、テーブルに立ち、声を張った。
「みんな、ちょっと聞いて。この庭は、月の前では平等なんだ。貴族も平民も、同じテーブルで月見草の香りを楽しんでほしい。癒しは、誰にでも平等だよ」
リディアが扇子をパタパタさせ、渋々席に着いた。
トムも眉をひそめながら座る。
マリアがティーを手に、穏やかに言った。
「エリス、素敵なルールだよ。この香り……ほんと、癒される」
私はティーを注ぎながら、皆に微笑んだ。
「ありがとう、マリア。ほら、みんな、ポーション入りのハーブティー飲んでみて。心が軽くなるよ」
リディアがティーを嗅ぎ、一口飲んだ。
彼女の顔が少し緩む。
「ふむ……このポーション、確かに悪くない。美容にも効きそうね」
トムもティーを飲み、目を細めた。
「エリス、こりゃいい。家族の疲れ、取れるよ。平等って、悪くないな」
カイルが花壇を覗き、呟いた。
「エリス、月見草、めっちゃ元気。ポーション、もっと作れそうじゃん」
私は頷き、ルナに目をやった。
ルナがふわっとテーブルの上に浮かび、ニヤリと笑った。
「ふん、人間、欲深いけど、姉貴のルールでちょっとマシになったね。私の光で、平等の月、作っちゃう?」
「ルナ、いいアイデアだよ。みんなの心、もっと近づけて」
私は月見草に手を伸ばし、みんなを癒したいと願い、指先が光る。
月見草の香りが強まり、庭が甘いヴェールに包まれる。
ルナが指をパチンと鳴らし、夜光蝶が一斉に舞い上がり、光の「平等の月」の幻を作った。
庭が幻想的に輝く! 参加者が一斉に拍手し、歓声が上がる。
「これは……! 美しいわ。エリス、あなた、ほんとすごい」
リディアが扇子を止めて目を輝かせた。
トムが笑顔で頷いた。
「エリス、すげえ。こんな光、初めて見た。家族にも見せたいな」
私は胸がじんわりと温かくなった。
転生前の花屋では、忙しさに追われて人と人を繋ぐ余裕がなかった。
でも、この庭なら、貴族と平民が笑顔で話せる。
「リディアさん、トムさん、ありがとう。この庭、みんなの癒しの場なんだ。月の前では、誰でも平等だよ」
リディアがティーを飲み、トムに目をやった。
「トム、あなたの市場の話、意外と面白いわ。どんな仕事してるの?」
トムが少し驚き、笑顔で答えた。
「リディアさん、市場は活気が命だよ。貴族の服、センスいいな。どうやって選ぶんだ?」
二人が初めて笑顔で言葉を交わし、テーブルが和やかな空気に包まれた。
マリアが微笑み、カイルが目を輝かせた。
「エリス、ほんとすごいよ。この庭、みんなを一つにしてる」
「エリス、月見草、もっと増やそう。平等の庭、めっちゃいいじゃん」
その時、レオンが階段を駆け下りてきた。
金色の髪が月光に輝き、王子の紋章がチラリと見える。
「よお、エリス! 遅れたぜ! うお、貴族と平民が一緒に!? 俺、平等の使者だ!」
レオンが大げさに手を広げ、ニカッと笑った。
私は腰に手を当ててツッコんだ。
「レオン殿下、ただのお客でいいですよ! でも、来てくれてありがとう。ほら、ティー飲んで」
ルナがレオンの頭上を飛び、ジトッとした目で言った。
「昼間の王子、遅刻かよ。私の平等の月、ちゃんと見なよ。姉貴のルール、最高でしょ?」
レオンがハハッと笑い、ティーを手に取った。
「ルナ、すげえショーだ! エリス、この庭、貴族も平民も関係ないな。平等、最高!」




