第15話:貴族と平民の確執
昨夜の満月茶会では、貴族のリディアと平民のトムがぎこちなく同席し、月見草の香りで少し打ち解けた。
でも、貴族の参加者が増え、庭に緊張が漂い始めている。
今夜の茶会も、貴族と平民が集まる。
リディアの態度が気になりつつ、月見草の癒しでみんなを笑顔にしたい。
ルナの光とポーションで、なんとか場を和ませたいな。
私は小さな木のテーブルに月見草のハーブティーとポーションの小瓶を並べ、花壇を見た。
月見草がキラキラと輝き、夜光蝶がふわふわと舞う。
フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くから響き、庭は幻想的なオアシスだ。
私は花びらに触れ、指先がふわりと光る。
ルナがふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスがキラキラ輝く。
「姉貴、貴族がまた来るって? めっちゃ面倒くさい雰囲気になりそう。私の月見草、ちゃんと守れよ」
ルナはジトッと目を細め、夜光蝶を指さした。
私は微笑み、ティーポットを整えた。
「ルナ、心配性だね。リディアさんもトムさんも、月見草の香りで癒されるはず。みんなで穏やかな時間にしようよ」
「ふっふー、姉貴、楽観的すぎ。人間って欲深いからさ。ま、貴族だろうが平民だろうが、私の光でまとめて癒してやるよ」
ルナはくるりと空中で一回転し、指をパチンと鳴らした。
月見草の光が強まり、甘い香りが庭に広がる。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が雰囲気を深める。
私はポーションの小瓶を手に、胸をドキドキさせた。
その時、苔むした階段から複数の足音が聞こえてきた。
カイルの元気な声、マリアの静かな話し声、トムの低い声、リディアのヒールの音、そして他の貴族のざわめき。
夜光蝶がふわりと月見草の光に溶け、フクロウの鳴き声が一瞬止まる。
私はテーブルから顔を上げ、入り口を見た。
「エリス、今日も庭キラキラだな。トムと、ほら、仲間連れてきたぜ」
カイルがぼさっとした髪を揺らし、笑顔で手を振った。
トムが後ろで、商人仲間二人と頷く。
マリアが疲れた笑顔で続く。
リディアが豪華なドレスで現れ、扇子を手に二人の貴族令嬢を連れている。
彼女が庭を見回し、鼻を鳴らした。
「ふむ、この庭、悪くないけど……下町の者とまた同席? 月見草の価値、わからない人たちには勿体ないわ」
トムがムッとして、低い声で返した。
「貴族のわがままにはうんざりだ。エリスのポーション、俺たち家族には宝だよ」
空気がピリッとした。
私は慌てて手を振った。
「リディアさん、トムさん、落ち着いて。月見草は誰の心も癒すよ。ほら、座って、ハーブティー飲んでみて」
私はティーを注ぎながら、皆をテーブルに案内した。
マリアがティーを手に、ふっと息をついた。
「エリス、この香り……やっぱり癒される。リディアさん、トムさん、試してみて」
リディアが疑うようにティーを嗅ぎ、一口飲んだ。
彼女の顔が少し緩む。
「ふむ……確かに、悪くないわ。このポーション、美容に効きそうね」
トムもティーを飲み、目を細めた。
「エリス、こりゃいい。家族の疲れ、取れるよ。貴族に独占させねえぞ」
緊張がまだ残る中、カイルが花壇を覗き、呟いた。
「エリス、この月見草、めっちゃ元気。ポーション、もっと作れそうじゃん」
私は頷き、ルナに目をやった。
ルナがふわっとテーブルの上に浮かび、ニヤリと笑った。
「ふん、人間って面倒くさいね。貴族も平民も、私の月見草には関係ないよ。姉貴、キラキラ演出で場を和ませなよ」
「ルナ、いいアイデアだよ。でも、まずはみんなが落ち着けるように……」
私はティーを配りながら、穏やかに話した。
「この庭、みんなのための場所なんだ。貴族も平民も、月見草の前では同じ。癒されて、笑顔になってほしいな」
リディアが扇子をパタパタさせ、トムをチラッと見た。
「同じだなんて……。でも、この香り、否定できないわ。下町の者には、こんな繊細な価値、わからないでしょうけど」
トムがムッとして、声を荒げた。
「繊細? 貴族の高い鼻が邪魔だろ。エリスの庭は、俺たちみたいな平民のためにあるんだ」
空気がさらに重くなった。
マリアが困った顔で私を見た。
カイルがシャベルを握り、呟いた。
「エリス、なんかピリピリしてるな……。月見草、もっと輝かせて、雰囲気変えようぜ」
私は深呼吸し、月見草に手を伸ばした。
胸の奥で、みんなを癒したいと願い、指先が光る。
月見草の香りが強まり、庭全体が甘いヴェールに包まれる。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの「ホウ、ホウ」が響く。
ルナが指をパチンと鳴らし、夜光蝶が光の蝶の幻を作った。
庭が幻想的に輝く!
「みんな、ほら、夜光蝶見て。月見草の光、誰でも癒せるよ。リディアさん、トムさん、ケンカしないで」
リディアが光の蝶に目を奪われ、扇子を止めた。
「これは……美しいわ。エリス、あなた、ただものじゃないわね」
トムが夜光蝶を見つめ、肩の力を抜いた。
「エリス、すまねえ。こんなキレイな庭で、つい熱くなっちまった」
私は胸がじんわりと温かくなった。
転生前の花屋では、忙しさに追われて人と人を繋ぐ余裕がなかった。
でも、この庭なら、貴族も平民も一つになれるかもしれない。
「リディアさん、トムさん、ありがとう。この庭、みんなの癒しの場にしたいんだ。また来て、ゆっくり話そうよ」
リディアが小さく頷き、扇子を開いた。
「エリス、悪くないわ。次は、もっと優雅な雰囲気にしてね」
トムがニヤッと笑い、ティーを飲み干した。
「エリス、家族連れてくるよ。この庭、俺たちの居場所だ」
マリアが穏やかな笑顔で言った。
「エリス、ほんとにすごいよ。この香り、みんなの心を柔らかくしてる」
カイルが目を輝かせ、花壇を指さした。
「エリス、月見草、もっと増やそう。ポーション、みんなに配るぜ」
ルナがふわっと私の肩に降り、ニヤリと笑った。
「人間、めっちゃ面倒くさいね。姉貴の庭、ちゃんとまとめたじゃん。私の光、最高でしょ?」
「ルナ、毒舌すぎだよ。でも、ほんと、みんなの笑顔、嬉しいな」
私は笑顔でツッコんだ。
夜光蝶がテーブルの周りをキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が庭に響く。
月見草の香りが漂い、リディアとトムの表情が少し柔らかくなる。
茶会後、私は月光の下で一人、庭を見つめた。
貴族と平民の溝はまだ深い。
でも、月見草の癒しなら、きっと笑顔で繋げられる。
この幻想的な庭でのスローライフは、確執を乗り越える一歩を踏み出した。




