第14話:貴族の初参加
月見草ポーションの試作に成功した昨夜、カイルの「体が軽い!」という笑顔とマリアの癒された表情に、癒しの夢がまた膨らんだ。
今夜は満月の月見茶会。
庭の噂が広がり、貴族の令嬢リディアが美容効果を聞きつけて参加するらしい。
カイル、マリア、平民の商人トムも来る。
貴族と平民が同じテーブルにつくのは初めて。
月見草の香りで、みんなが笑顔になればいいけど……少しドキドキする。
私は小さな木のテーブルに月見草のハーブティーとポーションを並べ、花壇を見た。
月見草がキラキラと輝き、夜光蝶がふわふわと舞う。
フクロウの「ホウ、ホウ」が遠くから響き、庭は幻想的なオアシスだ。
私は花びらに触れ、指先がふわりと光る。
ルナがふわっと現れ、銀色の髪が月光に揺れ、白いドレスがキラキラ輝く。
「姉貴、貴族が来るって? めっちゃ気取った奴、嫌いじゃん。私の月見草、荒らされないよね?」
ルナはジトッと目を細め、夜光蝶を指さした。
私は微笑み、ティーポットを整えた。
「ルナ、心配性だね。リディアさん、美容に興味あるみたいだから、ポーション喜んでくれるかも。みんなで癒しの時間にしようよ」
「ふっふー、姉貴、楽観的だね。ま、貴族だろうが平民だろうが、私の光でキラキラ癒してやるよ」
ルナはくるりと空中で一回転し、指をパチンと鳴らした。
月見草の光が強まり、甘い香りが庭に広がる。
夜光蝶がキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が雰囲気を深める。
私はポーションの小瓶を手に、胸をドキドキさせた。
その時、苔むした階段から複数の足音が聞こえてきた。
カイルの元気な声、マリアの静かな話し声、トムの低い声、そしてヒールの硬い音。
夜光蝶がふわりと月見草の光に溶け、フクロウの鳴き声が一瞬止まる。
私はテーブルから顔を上げ、入り口を見た。
「エリス! 庭、今日もキラキラだな! トム連れてきたぜ!」
カイルがぼさっとした髪を揺らし、笑顔で手を振った。
トムがその後ろで、商人らしい簡素な服で頷く。
マリアが疲れた笑顔で続く。
そして、豪華なドレスに金髪を巻いたリディアが、扇子を手に現れた。
「ふむ、この庭……噂通りね。月見草のポーション、美容に効くんですって?」
リディアが扇子をパタパタさせ、庭を見回した。
私は笑顔で迎えた。
「リディアさん、ようこそ。カイル、マリア、トムも、ありがとう。ほら、座って、ポーション入りのハーブティー飲んでみて」
私はティーを注ぎながら、皆をテーブルに案内した。
リディアが椅子に座り、トムをチラッと見て鼻を鳴らした。
「下町の者と同席なんて……。まあ、ポーションのためなら我慢するわ」
トムがムッとして、低い声で返した。
「貴族が偉そうに。エリスのお茶、飲むだけなら俺も我慢するよ」
空気がピリッとした。
私は慌てて手を振った。
「二人とも、落ち着いて。月見草は誰の心も癒すよ。ほら、まず香り嗅いでみて」
マリアがティーを手に、ふっと息をついた。
「エリス、この香り……ほんとに癒される。リディアさん、トムさん、飲んでみて」
リディアが疑うようにティーを嗅ぎ、一口飲んだ。
彼女の顔が少し緩む。
「ふむ……悪くないわ。このポーション、肌に良さそうね」
トムもティーを飲み、目を細めた。
「エリス、こりゃいい。家族にも飲ませたいな。疲れが取れるよ」
私は胸が温まり、ルナに目をやった。
ルナがふわっとテーブルの上に浮かび、ニヤリと笑った。
「ふん、貴族も平民も、私の月見草には敵わないね。姉貴、もっとキラキラ演出してやろうか?」
「ルナ、ちょっと待って。まずはみんなが落ち着いて……」
ルナが指をパチンと鳴らすと、夜光蝶が一斉に舞い上がり、月見草の光と絡み合って小さな光の蝶の幻を作った。
フクロウの「ホウ、ホウ」が響き、庭が幻想的に輝く。
リディアが目を丸くし、トムが口笛を吹いた。
「これは……! まるで魔法ね。エリス、あなた、ただの雑用係じゃないわ」
「エリス、すげえよ。この庭、ほんと特別だな」
私は笑いながらルナをチラッと見た。
「ルナ、目立ちすぎだよ。でも、みんな喜んでるから、いいか」
その時、レオンが階段を駆け下りてきた。
金色の髪が月光に輝き、王子の紋章がチラリと見える。
「よお、エリス! 遅れたぜ! うお、庭、キラキラじゃん! って、貴族と平民が一緒に!? 俺、平等の使者として来たぞ!」
レオンが大げさに手を広げ、ニカッと笑った。
私は腰に手を当ててツッコんだ。
「レオン殿下、ただのお客でいいですよ! でも、来てくれてありがとう。ほら、ティー飲んで」
ルナがレオンの頭上を飛び、ジトッとした目で言った。
「昼間の王子、遅刻かよ。姉貴の茶会、ちゃんと癒されなよ。私の光のショー、見逃すなよ」
レオンがハハッと笑い、ティーを手に取った。
「ルナ、最高のショーだな! エリス、このポーション、めっちゃ癒されるぜ。貴族も平民も、月見草の前では同じだろ!」
リディアが扇子をパタッと閉じ、トムを睨んだ。
「王子までそんなこと言うなんて……。でも、この香り、確かに悪くないわ」
トムがニヤッと笑い、ティーを飲み干した。
「殿下、いいこと言うな。エリスのおかげで、貴族も平民も関係ない気がしてきた」
私は胸がじんわりと温かくなった。
転生前の花屋では、忙しさに追われて人と人を繋ぐ余裕がなかった。
でも、この庭なら、貴族も平民も笑顔でいられる。
「みんな、ありがとう。この庭、みんなの癒しの場にしたいんだ。リディアさん、トムさん、また来てね」
「エリス、悪くないわ。次はもっと優雅なティーセットを用意してね」
「エリス、家族連れてくるよ。このポーション、子供たちにも飲ませたい」
「エリス、この月見草、もっと増やそう! ポーション、めっちゃ需要あるよ!」
「エリス、ほんとにすごいよ。この庭、みんなを繋いでる」
リディアが少し微笑み、扇子を開いた。
トムが笑い、肩をすくめた。
カイルが花壇を覗き込み、目を輝かせた。
マリアが穏やかな笑顔で頷いた。
「姉貴、貴族も平民も私の月見草でメロメロじゃん。次はもっとキラキラなショーやっちゃう?」
「ルナ、調子に乗ってるよ。でも、ほんと、みんなの笑顔、最高だね」
ルナがふわっと私の肩に降り、ニヤリと笑った。
私は笑顔でツッコんだ。
夜光蝶がテーブルの周りをキラキラと舞い、フクロウの鳴き声が庭に響く。
月見草の香りが漂い、リディア、トム、レオン、カイル、マリアの笑顔が月光に輝く。
この幻想的な庭でのスローライフは、貴族と平民の初めての交流でまた一歩進んだ。




