第10話:月見草の神話
昨夜、フィンの無邪気な「魔法の騎士の冠」作りで、庭が子供らしい笑顔で輝いた。
今夜は少し違う雰囲気。
王宮図書館で庭の歴史を調べようと、カイルを誘って出かけた。
月見草の秘密を知れば、癒しの場をさらに広げられるかもしれない。
「ふう、書類整理の合間に図書館だなんて……。でも、月見草のことがもっと知りたい!」
私は呟きながら、王宮の長い廊下をカイルと歩く。
カイルはいつもの作業着エプロンに、小さなシャベルを手に持っている。
図書館の重い扉をギィッと開けると、埃っぽい本の匂いが鼻をくすぐった。
高い天井に届く本棚、色あせた羊皮紙の山。
月光が窓から差し込み、静かな空間にほのかな輝きを添える。
「エリス、この図書館、めっちゃ古い本ありそう! 月見草の歴史、絶対見つかるよ!」
カイルが目を輝かせ、本棚をガサゴソと漁り始めた。
私はクスッと笑いながら、別の棚に目を向けた。
「カイル、熱心すぎ! でも、ほんと、なんかすごい発見できそうな気がする……」
私は古い本を手に取り、ページをめくった。
すると、革表紙の分厚い本に、「シルビア王国の神話と伝承」というタイトルが目に入った。
心がドキッとする。
月見草について何か書いてあるかも! 私は本をテーブルに広げ、ページを慎重にめくった。
そこには、月見草が「月女神スーラの花」として聖女に与えられた神話が記されていた。
「うわ……これ、月見草の神話だ! カイル、ちょっと見て!」
私は興奮してカイルを呼んだ。
彼がシャベルを握りながら駆け寄り、目を丸くした。
「マジ! ? なになに、月見草が神話に! ? 読んで読んで!」
私は咳払いして、ページを読み上げた。
『古の時代、月女神スーラはシルビア王国に癒しをもたらすため、聖女に月光の花、月見草を授けた。聖女は満月の夜に祈りを捧げ、月見草の光で民の心を癒し、国を平和に導いた』
私は読み終え、胸が熱くなった。
「月見草って、月女神の贈り物だったんだ……! 聖女が癒しのために使ったなんて、すごい!」
「エリス、めっちゃロマンチックじゃん! この庭、ほんとに特別だよ! 月女神の花って……やばい、もっと月見草育てなきゃ!」
カイルが興奮してシャベルを振り回し、私は慌てて止めた。
「カイル、図書館でシャベル振らないで! でも、ほんと、この神話、庭の復興に繋がるかも。私も、聖女みたいに癒しを届けたい……!」
私は本を胸に抱き、目を輝かせた。
その時、ふわっとキラキラした光が本の上に現れ、ルナが現れた。
銀色の髪が揺れ、白いドレスが図書館の月光に輝く。
夜光蝶がどこからか舞い込み、彼女の周りをくるりと舞う。
遠くでフクロウの「ホウ、ホウ」が響いたような気がした。
「ふっふー、姉貴、いい本見つけたね! その神話、ほんとだよ。スーラの花、つまり私の花! どう、ルナ様、めっちゃ神聖でしょ?」
ルナは得意げに胸を張り、空中で一回転した。
私は笑いながらツッコんだ。
「ルナ、女神じゃないでしょ! でも、月見草がそんなすごい花だったなんて……。この庭、もっとキラキラにしなきゃ!」
「だろ? スーラの花は私の光で輝くんだ! 姉貴、聖女の真似して、もっと癒しパワー全開で行こうぜ!」
ルナがニヤリと笑い、夜光蝶が彼女の周りをキラキラと舞った。
私は本を手に、庭のことを考えた。
聖女が民の心を癒したように、私もこの庭で王都の皆を癒したい。
転生前の花屋では、忙しさに追われてそんな夢は持てなかった。
でも、今は違う。
「ルナ、カイル、この神話、庭の使命だよね。月見草で、みんなの心を軽くしたい!」
「エリス、その気合い、最高! 俺、月見草の苗、もっと増やすよ! 土の配合もバッチリにする!」
カイルが拳を握り、目を輝かせた。
ルナがふわっと私の肩に降り立ち、ニヤリと笑った。
「姉貴、聖女って感じ出てきたね! でも、私の光がなきゃ、キラキラ半減だから! 夜光蝶もフル活用で、庭をスーラの花でいっぱいにしよう!」
「ルナ、調子に乗ってる! でも、確かに、夜光蝶とフクロウの声で、庭がもっと幻想的になるよね。よし、やってみよう!」
私は笑顔で頷き、本を閉じた。
図書館の静かな空気に、月見草の香りがふわりと漂った気がした。
夜光蝶が本棚の間を舞い、遠くの窓からフクロウの鳴き声が聞こえる。
私はカイルとルナと顔を見合わせ、胸の奥で決意が膨らんだ。
「カイル、ルナ、明日から庭で種まき、もっと頑張ろう! 聖女の神話みたいに、月見草で王都を癒すんだ!」
「よっしゃ! エリス、俺、肥料と道具、全部用意する! 月見草、めっちゃ増やすぞ!」
「ふっふー、姉貴と草バカ、気合い入ってるね! 私も夜光蝶でキラキラ演出、ガンガンやるよ!」
ルナがくるりと回り、夜光蝶が図書館の天井まで舞い上がった。
フクロウの「ホウ、ホウ」が静かに響き、月光が本棚を照らす。
私は本を手に、庭の未来を想像した。
月見草の光で、王都の皆が笑顔になる。
そんな夢が、この神話で一歩近づいた気がする。