2.メイドと執事の意気投合
何やかんやあって、僕は6歳になった。
ある程度自由に動けるようになった時から、色々とやってみた。
自分で書庫に行き、手当たり次第気になる本を読み漁ったり、屋敷内のいろんな場所を見まわったり。
そのどこにでも、メイドのセリアがついてきてくれた。
言ってみれば俺専属のメイドみたいになっている。
「ライム坊ちゃま。今日から家庭教師が勉学を教えてもらいます。坊ちゃまなら大丈夫だと分かっていますが、失礼のないようにお願いしますね」
「失礼のないようにね〜。分かってるんだけど、どうしても子供らしくないとかって思われて、気味が悪いって言われちゃうんだよなー」
セリアと母のベラ以外は、俺のことを気味悪がっている。
父は自分の株上げに利用できると考えて、悪巧みしている。
本当に救えないよ。
「そーいえば、キノは一緒に授業を受けないのか?」
「キノ坊ちゃまはまだメイド達が教えるレベルの教養の段階です。――ただ、ライム坊ちゃまは違います! 私が教えたことは一瞬で理解して、教養、歴史、算学、全てにおいて………」
セリアは早口で俺を褒めちぎっている。
そう思ってるのは君と母さんくらいだよ。
「それに坊ちゃまはキノ坊ちゃまとは違って、健康的な体型で……」
まだ、言ってるわ。
確かに俺とキノとでは双子なのに見た目が大きく違う。
まず、髪の色。
俺は母と同じ銀髪、キノは父と同じ金髪。
体型は、キノは父に似てぽっちゃりしていて、俺は一応気を使って健康的な体型を維持している
ただ、目だけは母と同じ綺麗な青色を2人ともしている。
「坊ちゃまは私のようなメイドにも優しく……」
まだ続いている。
流石に嬉しいを通り越してキモいよセリア。
俺は家庭教師が来るまで、セリアのおべっかを聞き流し続ける。
トントン。
ノック音が響き渡る。
「どうぞ」
扉が開かれ入ってきたのは初老の執事だった。
なんか見たことある気がする。
「失礼します。お久しぶりですライム坊ちゃん。 元デッセン家執事長を務めておりましたルイフと申します。今日から坊ちゃんの家庭教師を務めさせていただきます」
そういえば、ちょうど1年前に執事長が変わったんだ。だから見たことあるのか。
確か、変わった理由は腰が悪くなったからと聞いていたが……
「久しぶりです。腰の具合は大丈夫ですか?」
「おおー! 私と関わりが少ないのに、腰が悪いことを覚えていらっしゃるとは! これは教え甲斐がありそうですね」
不敵な笑みを浮かべているルイフは、悪の組織の親玉みたいな凄みがある。言葉を濁さずに言うと、普通に怖いよ。
「それと、坊ちゃん。私には敬語はいりません。教師という立場ではありますが、私は執事として復帰する代わりに教師と役をもらいましたから、使用人という立場でございます」
「なら、素直に言うことを聞いておくよ。今日からよろしく頼むよ」
おまかせを、と一礼して笑みを浮かべる。
でも、その笑みを見るたびに怖いんだよ。
「では、今日はお手元の教材の……」
一通り挨拶を終わらせて、授業が始まる。
でも、ここら辺、もう学ぶ必要ないんだよなー。
何度か質問が投げかけられて、それに的確に対応する。
教養も算学も、この国の歴史について、地理も……
「……坊ちゃん」
あっ! これやりすぎたかもしれない。
この子供、理解力高すぎてキモすぎって思われたか?
下を向いて表情が読み取れないが、くっくっという、笑いが聞こえる。
「素晴らしい! 本当に素晴らしいです! これは神童と呼ばれるにふさわしいお方だ! 教え甲斐がありそうじゃない、しかないんです!」
うわー、なんかその怖すぎる笑みが、もっと凄みを増したよ。
ただ、普通の子供より理解力が高いだけだし、子供の頃に勉強しとけばよかったと思いたくないという、一度大人を経験して得た教訓にすぎないんだけど。
まっ! 前世どんな子供だったとか大人だったとかは一つもわかんないけどね!
そして、俺の隣からまた、不敵な笑い声が聞こえる。
「……そーなんですよ。そーなんですよルイフ様! 理解者が増えて頂けて嬉しい限りです! 坊ちゃまはそれ以外にも、これも……」
「おおー!」
俺を除け者にしながら、2人で俺を褒めてるという気持ち悪い空間が出来上がった。
しかも、長くなりそーだし。
ま、とりあえず、そこら辺にある本でも読んでおくか。
手に取った本は、『選定の儀』。
内容は一度読んだからわかる。
10歳を迎えた子供は、選定の儀というものに参加する決まりが、この世界にはある。
それは、どんな身分でもだ。
そこで、ステータスを授かる。
ゲームをやってる人にとっては耳馴染みのある言葉だろう。
……ゲームだてなんだっけ?
おっと危ない危ない。
遠くを見つめてしまっていた。
話しを戻そう。
ステータスを授かると、共にスキルを授かる。
剣術やら、魔法やら、色んなものがある。
ま、ここまで来れば誰でも想像がつく。
――ここで、人生が決まるんだ。
有用なスキルを手に入れなければ、人生は困難になること確定。
一応、レベルが5の倍数ごとに新たなスキルを授かることができるのだが、何を得られるか不確定なものに労力をさかないよね。
だから、選定の儀が全てなのだ。
「「はー、はー」」
ふたりの、興奮しきったのか、息切れが聞こえる。
そろそろ授業が再開するかな。
ま、まだ俺には4年ある。
それまでに、家を出るための知識をつけ、スキルを持って力を得よう。
――俺の4年はあっという間に過ぎていった。
そして、明日は俺、いや2人の誕生日だ。