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パクリマスオンライン、 波乱の打ち合わせ【スキル編】

短編第二弾はスキル編です。

本編が進むにつれ開発現場での出来事などを短編としてこちらに上げていく予定です。

■豊洲、R社オフィス連動型スクール社長室■

 

 六条寺リリはモニターの前で大きくため息をこぼしていた。

 現在は会議用ソフト、ZOO(ズー)で打ち合わせ中。

 白熱し過ぎた打ち合わせにR社のディレクターがダウン。

 社長自ら打ち合わせに参加せざるを得なかった。

 その内容は……「どうしてかしらね。SQ社とE社がそこまで意見を食い違えるなんて。E社の遠藤さんから言い分を聞こうかしら」

「うちはスキルに関してシンプルな作品を心掛けています。スキル使用にスタミナを消費するのも管理が面倒だし、全てMP(エムピー)で管理する方がユーザー目線として楽なんです」

「だからそれじゃ味気ないんだって。そんなんだから海外じゃ全然売れないんだろう? パクリマは全世界向けコンテンツなんだ。日本のライトユーザー向けだけに作る必要なんてない!」

「少し落ち着いて。SQ社のディレクターさんかしら。須藤さんはお休み?」


 声を荒げたのはSQ社の開発担当者だった。

 しかし、リリは冷静に話を詰める。


「今回の話はスキルについてよね。E社の意見はシンプルに。SQ社は大幅なスキルで圧倒しようっていうところで意見違いをしてる。これで合ってるかしら?」

おおむね合っています」

「ありがとう。そうね……E社が誇るブランドゲームは確かに分かりやすいわ。レベルが上がるとスキルを覚える。職業は最初から決める。これは日本人向けだってこともね」

「……あ、あのー」


 疑問に思ったのか、聞き返したのはS社担当の千藤ちふじ

 この中では最年少の女性営業だった彼女は、今回の一件いっけんで専属担当として任命されている。

 勉強熱心で負けん気が強い彼女は、大役を任されていて緊張しているのか、若干声がひきつっている。


「わ、割り込んでしまってすみません! 職業が決まっているのが日本人向けってどういうことですか?」

「日本人ってね。役割を決めたり、役割を演じるのが大好きな民族なの。これは現代に限ったことではないわ。昔からよ。肩書きも大好き。そこを上手く用いると良ゲームとして高く評価されやすいのよ」

「SQ社、E社のゲームはそこを巧みに用いてますからね。まぁ、うちもなんですけど。ははは……」


 苦笑いをする男はK社の加藤。歴史戦略ゲームにおいて右に出るもの無しと自負する企業で、戦国ゲームにおいても役割を決めて行動させる武将システムなどを軽く説明した。


「それじゃやっぱり職業は最初から決めるんですか?」

「それより先にスキルを!」

「ユーザーに選択肢がある方がいいに決まってます。MMOなんですからね」


 みなが口々に声を荒げ、少し頭を抱えるリリ。


「……少しだけ静かにしてもらえるかしら?」


 リリは、この現場を手早くまとめることを思案する。

 自分が行ってきたゲーム。それらは確かに職業システムにしろ、スキルにしろ楽しいものがあった。

 

「パクリマはより進化したものにすべきかな。でもシンプルさも必要。このゲームは文字通り私たちゲームのリマスターなのよ。全部いいところを取ればいいじゃない。職業についてはまた別の機会を設けて話し合いましょう。今回はまずスキルに絞るわよ」

「そうですね。あまりいっぺんに取り決めても大変でしょうし」

「職業があらかじめないとするとどうやってスキルを?」

「そうね。これもいくつかのゲームでは取り入れられてるけど、武器依存にしましょうか」

『武器?』

「そう。武器を使用してスキルを覚えるの。自分が動かしてその行動に一致いっちしていればスキルを獲得する【可能性】がある」

「ランダムスキル獲得ですか。アツイですね。SQ社が好きなシステムです。そっちの開発はこちらで引き受けても?」

「お願いするわ。はっきり言ってそのノウハウについてはSQ社が一番だもの。ここは他の企業も同意が得られるでしょうしね」

「ですが、簡単に武器を使って覚えるだけだと味気ないですね。シンプルが売りとは言いましたが、非レベルでスキルを覚えるとなると、なかなか覚えられずにイライラする人も出るのでは?」

「そうでもないわ。スキル収集に熱意を持つ人は多いはずよ。これは国民性ではなく人間の本能かしらね。それに……スキルをいくつか得ると自動的に得られるスキル、ユニークを設けたいの。そっちは難易度が高いのがあっても不思議じゃないし、そうそう見つからないユニークを設けるのも面白いわ。知りたければSQ社とうちで情報共有して公開するわね」

「それはいい! 収集のご褒美にもなりますね。ぜひ情報共有をお願いします」

「スキル統合などはしないのですか?」

「そちらはゲーム内のオカネを利用して行うようにするわ。他にもゲーム内でオカネをめいいっぱい使わせる仕組みが必要なの。そっちのバランスはR社で行うわよ」

「オカネの増やし方と使い方に関しては一任いちにんした方がよさそうですね。我々はそっちに関しちゃ素人に近い。実際成功されてる人が陣頭指揮を取ってもらえるならありがたいですよ」

「ふふっ。ゲーム内のオカネが全然使えなかったらつまらないじゃない。ゲームの金策だって楽しいコンテンツを用意するわよ。特にRMTについて厳しい設定を設けるつもりだからね。私たちの収益にもつながることだし、期待していてね。長くなったし今日の会議はここまでかしらね」


 最後は和やかな雰囲気でZOOを切ろうとするリリ。

 全員抜けたことを確認してからと待っていたが、S社の千藤だけが残ったままだった。


「どうしたの? S社の千藤さん」

「リリさん。その、折り入ってお願いがありまして。うちの建物とかをゲーム内で使わないかって上からの打診がありまして……背景なんかはうちに任せて欲しいと伝えてくれって。言い出せなくてすみません」

「ディレクターに伝えておくわね。建物の外観は国土交通省が提供している素材をフル活用するのかしら。S社もよく使っていたでしょう?」

「開発者じゃないのにご存知だったんですか。PLATEAU(プラトー)(商用に転嫁することが認められている国土交通省の3D都市モデル。オープンデータ)のこと」

「当然よ。R社の社長なんだもの。ありがたく外観をそのまま使わせてもらいましょう」

「あの! 厚手がましいとは思うんですが、まだリリさんに一度いちどもお会いしたことがなくて……お食事にでも行きませんか?」

「……考えておくわ。話はそれだけかしら?」

「はい。あの、失礼しました!」


 会議を終え、再びリリはため息をこぼした。

 千藤は若いとはいえリリよりは年上。

 そしてリリは人とかかわりを強く持つのを嫌っていた。


「めんどうね……」

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