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嫉妬

 翌日、同棲に必要な食器や日用品を買いに出かけた。

 買い物する度に同棲が始まる実感が増し、ワクワクと胸が踊る。

 真夜さんも楽しみなようで、ニコニコと笑っていた。

 さらに、繋いている手をブンブンと振り回し、かなり上機嫌のようだ。


「あれ? (はざま)くん?」


 名前を呼ぶ声の方へ視線を送ると、そこには相見さんと若そうな女性。

 隣の女性は妹さんらしい。

 ご機嫌な真夜さんは自分から自己紹介初めた。


「成也さんの彼女の “椿 真夜” です」


 彼女と知った相見さんは嬉しそうに「おめでとう」と祝福してくれる。

 当たり障りのない会話が続く。


「間くんは大人しくて弱気に見えるけど、優しくて良い人だから」


 俺のことを褒める相見さんの言葉を聞いた瞬間、真夜さんの手に力が入って爪が食い込む。

 買い物の途中だからと、慌てて彼女の手を引きその場を離れる。

 真夜さんを見ると相見さんを睨みつけていた。

 相見さんの余計な一言が真夜さんを怒らせたみたいだ。

 せっかく上機嫌だった真夜さんが嫉妬に狂い出す。

 裏路地の人影が無い場所へ彼女を連れて行く。


「相見さんとはただの同級生で、彼女とはもう連絡は取らないから」

「もう!?」


 地雷を踏み抜いてしまった。

 低くドスの効いた声。彼女の逆鱗に触れたみたいだ。

 付き合ってからは連絡してないと言い訳するが無視される。

 謝罪をしても聞き入れてもらえず足早に家に向かう彼女。

 家には入れてもらえたが、ただ、謝り続けることしか出来なかった。




 気が付くと彼女のベッドで目覚める。

 頭と手首が少し痛い。土下座で謝りすぎて痛めたか?

 恐る恐るリビングへ向かう。すると、上機嫌な彼女が迎え入れてくれる。

 よかった。昨日の俺が彼女から許しを得たみたいだ。

 昨日の自分に感謝しつつ、食べる朝食。


「学生時代の成也さんの話が聞きたいから、相見さんを家に呼ばない?」


 ニコニコと笑う彼女。修羅場を迎えそうな展開に躊躇してしまう。

 だが、彼女の提案を断ることも出来ず……。

 相見さんは翌週に真夜さんの家に訪れることになった。


 夜お風呂に入っていると、鏡に映る自分の体に違和感を覚える。

 なんでこんなに痣があるんだろう? どこかでぶつけたっけ?

 ぶつけた記憶もなかったが、酒に酔って転んだのかもしれない。

 真夜さんに心配掛けないようにしなきゃいけないな。




 そして、迎える週末。相見さんが家にやってくる。

 学生時代の話を楽しそうに聞く真夜さん。

 また、彼女が嫉妬に狂ってしまわないか不安になる。

 しかし、思ったより意気投合する二人。

 ほっと胸を撫で下ろす。




 気が付くと、朝を迎えていた。時間が飛んだ感覚に不安が押し寄せる。

 隣には真夜さんがまだ寝ている。

 一緒に寝ているということは、何もなかった……よな?

 俺が体を起こすと、その振動で彼女も目を覚ました。


「おはよう」


 目を擦りながら、笑う彼女を見て安心する。

 問題は起こらなかったようだ。


「今日は俺が朝食を作るよ」


 キッチンに向かうと後ろをついてくる彼女。

 からかうように後ろから抱きつき、無邪気に笑いながら俺の邪魔をする。

 平和な日常。

 真夜さんが相見さんを家に招くと言ってから、気が気ではなかった。


 不格好な目玉焼きを美味しそうに笑顔で食べる彼女。

 この笑顔を毎日見られると思うと、早く同棲を開始したくてしょうがなかった。




 そして、迎える同棲が始まる日。

 毎日のように会っていたのだから、大きな変化は無いと思っていた。

 だが、帰る時間を考える必要もない。電車に乗る彼女の寂しそうな笑顔を見る必要もない。

 二人でずっと過ごせる幸せ。それ以外には何もいらないと感じる。




 それから数日後、仕事帰りに相見さんの妹に遭遇した。

 どうやら、俺を待っていたらしい。

 相見さんの妹はどこか深刻そうな表情をしており、何か問題があるのだろうと容易に想像できた。


「姉が行方不明なんです」

「えっ!?」


 先週に出会ったばかり。この一週間で何があったというのだ!?

 ショックで胸が締め付けられる。


「そして、姉と連絡が取れなくなる前、姉はあなたに会いに行くと言っていました」


 意味がわからない。疑われているのか!?

 たしかに真夜さんの家に招いた。

 時間が飛んだことを思い出して不安になる。


「もちろん。あなたを疑っているわけではありません。ただ、何か知っていないかと……」


 今にも泣き出しそうな相見さんの妹。

 知っていることをありのままを正直に話す。だが、相見さんと会った日の後半の記憶がない。

 何時に帰ったか? 相見さんの様子に異変はなかったか?

 尋問のような質問攻め。汗が吹き出して喉が渇く。

 話せば話すほど疑われていそうで、今すぐ逃げ出したい。


「そろそろ帰らないと……。もう知っていることはすべて話したので……」


 相見さんの妹に別れを告げ、足早に家に向かう。

 家に帰ると普段俺より先に帰っている彼女の姿がない。

 家中を捜索するが、どこにもいない。


 探していない所は、—— “ウォークイン クローゼット” だけ。

 恐る恐る近づく。彼女に怒られるかもしれない。

 まさか、……ここに相見さんが!?


 呼吸が出来なくなりそうなほどの緊張。震える手でクローゼットのドアノブを掴む。

 深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

 そして、意を決してクローゼットをバッと開ける。


 広いクローゼットにはたくさんの洋服が掛けられていた。

 そして、入ってすぐ横の壁に俺の写真が飾られている。もちろん、相見さんはいない。

 安心するとともに、俺の写真を飾る彼女が可愛く思う。

 俺の写真を飾っているのを見られたくなかったんだな。

 こんなに思っていてくれる彼女に嬉しさがこみ上げる。

 そして、疑ってしまった罪悪感に苛まれた。


 初めて食事に行った時の写真。初デートの映画館での写真。

 正社員登用のお祝いのケーキを食べる写真。

 引き出しを開けると、さらに大量の写真が出てくる。

 彼女のオムライスを食べる写真。不格好な目玉焼きの写真。俺が会社から出てくる写真。

 写真を見ていると懐かしい思い出が蘇っていく。

 すると、写真の横にジップロック袋に貼られた写真を見つけた。


「なんだこれ?」


 ジップロックを持ち上げると、写真にはポップコーン片手に俺が写っている。

 そして、ジップロックの中身はポップコーンの箱。


「えっ!?」


 どういうことだ!? 頭が混乱する。

 他にもジップロックの袋がある。

 喫茶店でコーヒーを飲む俺の写真とストロー。

 鉄板料理屋で食事する俺の写真とスプーンやフォーク。

 他にも写真とともにジップロックで、俺に関連した物が保管されていた。


 さらに、“裸で縛られた俺の写真” が目に入る。

 あまりの恐ろしさに写真を落としてしまう。

 写真は掛けられた洋服の下を滑るように落ちていった。


 クローゼットの一番奥の洋服をかき分けると、なぜかそこには冷蔵庫が。

 キッチンのより大きな冷蔵庫。禍々しいオーラを放っている。

 この冷蔵庫だけは見てはいけない気がして。

 急に背筋が凍るような感覚に襲われて体が震えだす。

 恐怖に震えながら、ゆっくりと振り返る。


 そこには——真夜さんと鋭利に光る包丁。


「ここには入っちゃダメって言ったよね?」


 彼女の表情は青筋を立てており、今にも刺してきそうなほど俺を睨みつけている。

 恐怖で尻もちをつき、逃げ場の無いこのクローゼットで、アワアワと後退することしか出来なかった。


11/22~11/24で全話投稿されます。


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