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五.警告

 まだ暗い早朝。漁船にのっていた少女は湖面をじっと見つめていた。

 

「由紀。スイッチをオンにしてくれんかのぉ」


「わかった、じいちゃん」


 由紀と呼ばれた少女は漁船の後ろにある大きなボタンを押した。

 

 ウィーン

 

 機械が回転してロープが巻き取られ、水面に沈んでいた大きな網が姿を現した。

 

 「ほぉー今日は大量じゃなぁ。えーかんじじゃ」

  

 老人は網をグイっと持ち上げて中身を(おけ)に放り込んだ。

 

 アユ、オイカワ、ビワマス、モロコ

 

 ぴちぴちとはねる小魚を由紀はじっと見た。今日も〝あれ〟は見つからない。ふうとため息をついて、いつもの通り小さな桶により分ける作業に入った。


      ※


 由紀は部屋に戻って、引き出しからプラスチックでできた小魚の形をしたものを取り出してまじまじと眺めた。不思議なルアー。ただ投げるだけで勝手に魚がくらいついてくる。偶然、じいちゃんの網にかかっていた。ふいにルアーの色が変わった気がした。

 

(なんだろう……)


 ブルブルブル

 

 突然に震え出したルアーを慌てて床に落とした。

 

〝Attention.This is a critical communication from the United States military〟


「アテンション……警告? ユナイテッド、ミリタ……米軍?」


 突然の事に由紀は頭が混乱した。

 

      ※


 翌日の夕方、学校から帰った由紀はじいちゃんの竿をもってすぐに琵琶湖に向かった。あのルアー。投げれば絶対に魚がくらいついてくる。あのどっしりとした感覚。何度体験しても心が躍る。昨晩はおかしな音に驚いたがあれ以降、特に変化はない。今日は部活が休み。久々の自由時間。目いっぱい効果を試してみよう。

 

 ふとどこかで見た事がある車が止まっているのに気づいて足を止めた。ドアが開いた。男が近づいてきた。この間話しかけけて来た男だ。何か悪い予感がして由紀は踵を返した。

 

「まってくれ」


 男の慌てた声。

 

「何か用ですか?」


 由紀は震える声で振り返らずに答えた。もしかしてこのルアーを狙っている? この間は煙草の匂いという言いがかりで何とかその場を切り抜けた。だが、今日は。

 

「すこし話をさせてもらえないか。そのルアーの事で」


「ルアーって何の事ですか」


 やはりこの男は気づいている。由紀は意を決して振り返った。えっと。男は頭をかいて困っている表情を浮かべている。

 

「私、急いでますので」


「命がかかっているかもしれないぞ」


 突然の事に由紀は頭が真っ白になった。命? 何をいっているの?


<ピーピーピー>


 突然ルアーから警報音が鳴り響いた。

 

〝Attention……〟


 由紀は顔色が真っ青になった。

 

「米軍の警告だ。これは軍事機密用に開発された極秘デバイス。発する超音波で脳に影響を与えて自由に動きを制御する。おそらく暗殺用に小動物を利用するのが目的。ペットが突然凶暴化する。犬や猫、蛇やハムスター……そして、魚も」


 魚? まさか。由紀は背筋がぞっと凍った。


「その危険性は計り知れない。GPSが故障して場所が特定できないのかもしれない。証拠隠滅のために、持ち主を消去する可能性がある」


「なにいってるんですか。米軍? 暗殺? そんな事あるわけ……」


「じゃあ、あのブラックバスはどう説明する。お世辞にもお前のテクニックで釣れたとは言えないぞ。早くそれを捨てるんだ。さもないと、取り返しのつかない事になる」


 先輩! 後方から若い男が息を切らせて走ってきた。

 

「見つけたっす。言われた情報。確かにあったす」


 情報? 由紀は突然現れた男に目を丸めた。


「どうだった?」


「言われた通りっす。B.A.S.S.の関係者から情報がもらえました。異常に釣れるルアーを持っていたガイドの不審死事件。米軍の機密デバイス。動物(アニマル)神経(ニューラル)調節器(モジュレーター)が関係しているっていう噂があるようっす」


「そうか。やっぱり」


 山中は哀れみの表情で少女を見た。俺の子供と年齢はそれほど変わらない。何としても、この状態から救い出さないと。

 

「とにかくそれをこっちに渡すんだ」


「……いやです。あなた達が嘘をついているという可能性もあるわ」


「冷静だな。だが、その冷静さが命取りだぞ。時間がない。早くするんだ」


<ピーピーピー>


 再び、ルアーが点滅した。

 

〝It will explode automatically〟


 なに? 山中の顔がさっと青ざめた。由紀は混乱した。


(エクスプロード……爆発。まさか)


 突然の閃光に山中は目を覆った。

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