表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

三.トップウォーター

「謎の少女? なんっすか、それ」


 クーラーの効いた部屋で涼みながら煙草をふかす山本を、岸本は訝し気に眺めた。

 

「いたんだよ、守山の湖岸沿いの何の変哲(へんてつ)もない遠浅(とおあさ)の砂浜に。しかも、釣りやがった。真夏の炎天下に、こーんなでっかいバスを三匹。しかもへら竿でだぞ」


「でかいのを三匹。しかもへら竿っすか……」


 大きく手を掲げで天井を見上げる山中に、岸本は眉をひそめてパソコンに打ち込む手を止めた。

 

雄琴(おごと)和邇(わに)ならまだしも、守山? しかも、真夏の炎天下に少女がへら竿っすか? ちょっと信じられないっすねぇ」


 家族で遊びに来た子供を見間違えたんじゃ。にわかに信じられない話だったが、岸本は興味をそそられて山中に尋ねた。

 

「でも、なんで守山にむかったんです? 確かトップウォーターの素人特集の締め切り、今月末っすよ。まだ対象も絞れてません。やばくないっすか?」


「まあ、落ち着け。ちょと噂を耳にしてな。これを見てみろ」


 山中はスマホを取り出し、操作をした後に画面を岸本に見せた。


 9ch バス釣り(琵琶湖)

 

 そう書かれたページには多くの書き込みが書かれていた。

 

>守山で、でかいの釣れるらしい


>守山? あんな遠浅で?


>まじで。50オーバーがガンガン釣れるらしい。しかも、炎天下の午後に。


>うそだろ。何か埋まってんのかな。ワームでじっくりってやつ? 暑さで俺には無理だな。


 岸本は呆気にとられた。日付は二週間前。

 

「こんな情報、鵜呑みにしていいんすかねぇー。しかも、炎天下で50オーバーっすか? ありえないっすよ。それより、締め切がマジやばいですって」


「トップだ」


「何っすか?」


「彼女はトップウォーターで釣り上げたっつってんの」


 岸本は再び呆気にとられた。真夏の炎天下でトップ?

 

「今月の特集、彼女で行くぞ」


「えぇ?」


 山中が時計を見た。そろそろだ。ぼそりとつぶやいた。

 

「ついてこい」


「今から……っすか?」


 トップウォーターの素人特集の下書き。大枠だけでも今日中には決めてしまわないと

 

「一から書き直すことになるかもしれん」


「まじっすか……」


 岸本は肩を落とした。昨日から必死に仕上げていた原稿が。山中が我関せずと煙草に火をつけた。

 

「あの少女。あの子は何かがおかしい。それを見極めてやる」


 険しく眉をひそめる山中に岸本はなぜか、悪い予感がしてひやりと背筋が凍った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ