第2話 突然変異者
狙いを定めて、自動式拳銃の引き金を引く。
人差し指サイズの鉄塊が風を切り、叫ぶ帝国市民の足を打ち貫く。
続く仲間が放った無数の弾丸が、その体をハチの巣にした。血の海に倒れこみ、痙攣した後、事切れてしまう。
場所は、帝国側の領土に少し侵入した場所にある、イムコウ街。
二十数名からなる、少数部隊での奇襲。一斉射撃の号令とともに、蹂躙が始まった。もともと、人口数百名しか存在しないレンガ造りの街だ。街の警備隊もまばらにしか存在しておらず、連携も取れぬまま瞬く間に血の海に沈んでいく。
——近年では珍しい、レンガ造り特有の綺麗な街並みを、弾丸の嵐が真っ赤に染めていく。
やがて、部隊長の号令で三人一組に別れることになった。
僕とクエンサーとローグは、気配を潜ませながら裏道へと足を進めていく。
日の注がない入り組んだ暗い道を進んでいくと、突如視界が開ける。
降り注ぐ陽光に照らされた、ステンドグラスの協会。
その前に、一人の十歳にも満たない少年が待ち受けていた。
厳しい表情でこちらを見据える彼に、俺が怯んでいると——。
ローグが構えた狙撃銃から、何の躊躇もなく弾丸が射出された。
少年の脳天を狙った、一撃必殺の射撃。
少年の首が空を仰ぐ——かと思いきや、勢いよく戻ってきた額から倍のスピードとなった小さな鉄塊が接近してくる。
弾丸を打った本人の脳天へと命中し、鮮血とともに膝から崩れ落ちた。
「ぼさっとすんな、ダルシュ!このガキ…【ミューテスター】だ!」
無事だった方の仲間——クエンサーが発砲せず、アサルトライフルを閃かせて少年に突撃する。
【突然変異者】とは、生まれつき特有の超能力を持った人類のことだ。100人に1人の割合で存在していると言われる彼らは、国家を転覆させかねない凶悪な能力から、日常生活にしか役立たないような能力まで、大小様々な超能力を『一つ』宿している。割合からもわかる通り——日常で見かけるちょっと珍しい程度の才能のようなもの。
少年の皮膚が弾性を持って、弾丸を跳ね返したところを見ると——おそらく能力は【強弾性系統の体】。あるいは念じた物体を【強弾性】に変換できる超能力であると、推測できる。
素早く少年に接近したクエンサーが、アサルトライフルを振り上げる。
アサルトライフルの先端には銃剣があり、鋭刃が得物を持たない少年の首に吸い込まれる。
——金属音が響く。刃は、灰色に変色した首の皮にはじかれていた。