第1話 戦乱を呼ぶ銃声
(……最も、僕が【金色の閃光】ことレイのその名と二つ名を知ることになったのは、それから約三年後——イグルス共和国とガルスト帝国の戦争が激化し、僕——一五歳の少年に成長したダルシュが、軍に徴集された後だったが…)
「……と、うん。俺が見た夢の光景を小説として記すとすれば、こんな感じかな」
手元を照らす、電気スタンドによるオレンジ色の光。
ウォルデニー社製の真っ新なノートブックに走らせていたボールペンを、そこまで記して止めた。
ここはイグルス共和国とガルスト帝国の国境にほど近い、ウォレスト大平原。共和国側の前線基地であり——天幕を張って簡単なバリケードを築いただけの、簡易的な野営地である。
そう、僕は——15歳の少年へと成長したある日、軍に徴集され、イグルス共和国の兵士となった。
本当は、戦争になど参加したくない。イグルス共和国とガルスト帝国こそ隣国同士でいがみあっているが、この世界に文明の利器があふれている通り、人類は七つもの世界大戦を経て、とっくに「戦争は悲惨なだけだ」という思想にたどり着いている。
世界一の領土を誇る大国——ガルスト帝国によってロベルダー大統領が暗殺された。このことは、『ロベルダー暗殺事件』と呼ばれ、この事件から始まったこの戦争は、異様なほどに長引いている。
前大統領ロベルダー・ホークス。イグルス共和国にて、様々な画期的法制度を築いた、今は亡き偉人である。
もともと領土権や拉致、条約の不平等などさまざまな問題を抱えてきた国同士ではあったが、第7世界大戦以降、50年以上戦争の兆しなど見られなかったそうだ。
しかし、平和はある日突如——終焉を迎える。
———
『——耐え忍ぶ時代は終わりである!我々は今度こそ、ガルスト帝国に報いるのだ!第7世界大戦で積みあがった戦士達の屍と、今もなお家族の帰りを待つ国民たちに誓って‼』
齢70を超える、白髪とシワだらけの老人。獣のように鋭いコバルトブルーの瞳が、生気あふれる声音とともに、大衆の視線をくぎ付けにする。
——その日、国立記念日に首都オーダーで行われたロベルダー大統領のスピーチは、中身が入れ替わったかのように、過激な論舌だった。
当時、十歳だった僕は、呆然とテレビに映る大統領の姿を目にしていた事を覚えている。
『ガルスト帝国に宣戦布告する!…我々はついに見つけた。ガルスト帝国がひそかにイグルス共和国を侵略しようと策略していることを!…これを見てほしい…!』
ロベルダーがスーツの内ポケットから、一枚の計画書を取り出す。大衆に示すように高く掲げ、その内容を読み上げようと口を開いたとたん——銃声は鳴り響いた。
ロベルダー大統領の胸から、鮮血の噴水が吹き出す。細い両目が見開かれ、両足から崩れ落ちた。
比喩的に言えば、時が止まった。沈黙がイグルス共和国中を覆って…十数秒後、遅れて悲鳴と鳴りやまぬ銃声が轟いた。
スピーチを傾聴していた多くの一般市民が、乱射される銃の嵐に殺められた。広場を映すカメラは、怪音とともにヒビ割れる。テレビ画面は真っ黒に暗転し、再びの静寂がお茶の間に満ちた。
もちろん——静寂に返ったのは現場に居合わせていなかった国民たちだけで、無事な彼らでさえ、顔面は蒼白に染まった。
——のちのニュースで、約一三名からなる暗殺者集団リベリオンが広場に潜入していたこと、彼らは警備していた兵士たちによって残らず射殺されたことが報道された。
襲撃による死者は、五十数人止まり。
しかし、これを機に、終わらぬ戦乱の世が幕を開ける——。