プロローグ 月下の閃光
月夜の住宅街。
静まり返っている…なんてことはなく、飛び交うのは怒号と銃声、激突する金属音と肉を断つ鋭利な獣爪。
地獄絵図とでもいうべき、紛争地帯。鎧に身を固めた兵士たちの胸に輝くのは、それぞれ青と黒の紀章。
そこへ……。
金色の煌めきが駆け抜ける。
上半身をかすかに揺らし、銃弾が頬をかすめつつ突っ切っていく。
剣戟を打ち鳴らす兵士群を、蹴りの一発で吹き飛ばす。
襲い掛かる夜狼のコンビに、携える螺旋状の槍で薙ぎ払う。
早すぎるが故に目に留まらぬが、一瞬でもその姿を目にできたものは、まばたきをして自身の正気を疑わずにはいられないだろう。
——拳銃を手に持ち、窓から外を警戒していた少年の目に、それは映った。
満月の下を走り抜けるのは、1Mを優に超す金色の長髪だ。
銃弾の間を縫って躱すのは、亡霊と見紛うほどの白い肌。
巨大な螺旋槍をつきだすのは、華奢な両腕。
凄惨な戦場を冷静に見据えるのは、零れんばかりに大きな金色の瞳。
人形と見間違えるほどに美しい——可憐な少女だった。
(すげえ……)
少年が目にしたのは、少女が兵士たちを蹴散らそうと足を振り上げるために立ち止まった、一瞬。
次の瞬間には、兵士たちが吹き飛ぶとともに金色の閃光が駆け抜け、少年の視界と戦場から消え去ってしまっていた。
心臓が脈打つ。鼓動を右手で抑えるも、一向に収まらない。
ぼうっと窓際に立ち尽くしていた。と、一際大きな銃声が鳴り響き、窓が弾け飛ぶ。右目に激痛が走った。
少年はフラリと膝をつき……尚も、胸を押さえ続けていた。襲う強烈な激痛も、銃弾によって右目を失明しただろう事実も、その時の少年の鼓動には敵わない。
(すげえ……すげぇ……すげぇ……‼)
戦場を走り抜けた、その少女——二つ名を【金色の閃光】。またの名を……配達屋レイと言う。